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封じ込められたもの

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第二章

「警戒心もないしね」
「逃げることもしなかったですから」
「そんな生き物が多くなることはね」
「ありませんね」
「そう、元々個体数は少なかったんだ」
 またこう言うスミドロノフだった。
「だからね」
「今生きているにしても」
「個体数は少ないよ」
 このことが予想されるというのだ。
「探すのは難しいよ」
「海岸添いにいるにしても」
 海岸添いの海藻を食べていた、だから海岸添いにいることは間違いないのだ。
 しかしだ、その海岸添いもだ。
「北極海の海岸は広いからね」
「ロシア方面だけでも」
「アラスカもね」
 そちらもあるのだ、だがこちらは。
「あそこはね」
「アメリカですからね」
「あそこには行けないよ、今回の調査ではね」
「そうですね、残念ですが」
「まあ僕達の任務はカイギュウの捜索だけでないから」
「北極海の生態系の現状ですからね」
 これが本来の目的といっていい、カイギュウの生存も探されているがそれ以上にだ。
 北極海の生態系の現状のレポートがその任務なのだ。それでロシア政府から直接派遣されているのだ。
 だが、だ。その北極海の生態系は。
「見たところ別に」
「うん、前回の調査とね」
「変わらないですね」
 若い学者はスミドロノフの大きな赤い鼻を見つつ言った。
「あまり」
「セイウチやトドの数もね」
「特にですね」
「うん、減っていないよ」
 かといって特に増えてもいなかった。
「あとホッキョクグマやホッキョクギツネもね」
「特にですね」
「変わっていない、それにね」
「鯨も」
「同じだね」
 その数はというのだ。
「イッカクは見えないけれど」
「あれは見付けたらかえって凄いですから」
 珍獣と言ってもいい。ユニコーンを思わせる発達した歯があるこの鯨は北極圏の中でもとりわけ珍しい生物なのだ。
 それでだ、若い学者もこう言うのだった。
「見られたら運がいいですね」
「うん、それとあれは」
 海の方に大きなものが見えた、それは。
「シャチだね」
「ですね、あれは」
「シャチもね」
 このあまりにも有名な鯨類もというのだ。
「特にね」
「減っていないですね」
「うん、今のところは」
 あくまで今のところはだとだ、スミドロノフはこう断ってから若い学者に言った。
「前回の調査と変わらない」
「別に温暖化の影響はないですね」
「むしろね」
 ここでだ、スミドロノフは持論を出した。
「寒冷化していないかな」
「そんな感じですか」
「地球温暖化というよりはね」
 むしろというのだ。
「そんな感じがするよ」
「そうですか、寒冷化ですか」
「北欧は大寒波だし」
 普段から寒いがだ、今年は特にだというのだ。
「だからね」
「そういうことを見てもですか」
「かえってね。地球全体がね」
「寒くなってますか」
「そんな気がするよ」
 こう微妙な顔で若い学者に話すのだった。
「まあとにかくね」
「はい、今はですね」
「うん、明日からね」
「沿岸地域ではなく」
「北極点の方に向かおう」
 そしてそこでというのだ。 
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