品性
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第四章
「下らない」
「観るに値しない」
「寒い」
「何あれ。誹謗中傷?」
「タブー破りやって格好いいって思ってるの?」
「下品だろ、自分がやられたら烈火の如く怒るだろ」
こうした手合いの常だろうか。
「やっていいことと悪いことがあるんだよ」
「そんなことして受けると思ってるのかね」
「馬鹿か、この連中」
「この連中の品性が見えたな」
「最低だよ、最低」
「詰まらない奴等だ」
こう言ってそれこそ化石とも言える連中以外には相手にされなかった。ただし集中的な批判は見事二受けた。
そして子供は批判を受けて自分のコメントを久しぶりに出たテレビで述べる床間を観てだ、両親にこう言った。
「人が悪口を言う顔そのままだよね」
「そうね、どんどんね」
「そんな顔になっていってるな、こいつ」
子供の後ろにいる両親は顔を曇らせて応えた。
「あまりいい顔じゃなかったけれど」
「どんどん悪くなっていってるな」
「もうヤクザ屋さんみたいね」
「ゴロツキかね、本当に」
二人は今も床間の正確な職業を知らない、もっと言えば床間自身に興味がない。しかしその顔は知っていたのでこう言うのだ。
「こんな人相になったらね」
「駄目だな」
そして自分達の子供にも言うのだった。
「いい?悪口ばかり言ってるとあんな顔になるのよ」
「嫌な顔だろ」
「だから人の悪口を言ったら駄目よ」
「出来る限り控えるんだぞ」
「いつも言ってると顔だけじゃなくて心もああなるから」
「悪くなるからな」
「気をつけてね」
「うん、わかったよ」
子供も両親の言葉に強い顔で頷いた。
「僕人の悪口は出来るだけ言わない様にするから」
「そうしたらああなるからな」
「あんな悪い顔になるからね」
両親も子供に強く言う。
「気をつけろよ」
「いいわね」
子供に言う両親もそれぞれ自分達の心に刻み込んでいた、人を罵り中傷していると床間の様になってしまうと。
しかし床間は気付かない、彼は延々と罵倒と誹謗中傷を続ける。
そしてだ、携わっている雑誌の編集者がある時だ、自分の席で文章を書いている彼を見て驚いて同僚に囁いた。
「まるで餓鬼かと思ったよ」
「確かにそっくりだよな」
その書いている床間の姿を見てだ、同僚も驚いた顔で頷いた。痩せこけて血走った小さい目で突き出した歯を歯茎まで露わにさせて机にしがみついている彼の姿を。
「何でああなるんだ」
「普通じゃないぞ」
「餓鬼そっくりに見えるなんてな」
「一体」
彼等は身内なのでわからなかった、しかし彼を知る外の者達なら誰もがわかることだった。
それは彼が今まで書いて言ってきたこと故だ、床間は自分が気付かないうちに餓鬼になっていた。生きながら餓鬼道に堕ちたまま今も書いていた。そしてそのまま堕ちていくのに気付かないのだった。
品性 完
2013・11・22
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