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飛頭蛮

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第一章

                   飛頭蛮 
 中国三国時代のことである。呉の臣に朱桓という者がいた。
 孫権とはお互いに若い頃からの知り合いで彼の側近として知られている。人格は明るく質素で人あたりもいい。
 その彼が南方出身の使用人を雇った。彼はこの際主君である孫権に話した。
「漢人ではありません」
「そうか」
「はい、南越の方の者です」
「ふむ、それで言葉はわかるのだな」
 孫権が朱然に問うのはこのことだった。
「それは」
「はい、そのことは」
 大丈夫だとだ、朱桓は孫権に答えた。
「それがしの言葉がわかります」
「ならよいな」
「はい、その様に」
「そうだな。それでだが」
「それでとは」
「この前に蜀の者と話をしたが」
 呉の隣国で劉備が開いた国だ、益州にある。
「今度蜀から贈りものが来るそうだ」
「左様ですか」
「朕にも来るが」
 孫権だけでなく、というのだ。
「御主にも贈られるそうだ」
「それがしにもですか」
「まあ遠慮なく受け取るか」
「それでしたら」
 受け取りそれを家の者達に施そうと考えた、ここにも朱桓の質素さが出ていた。
 そうした話を孫権とした、そのうえで。
 彼は自身の家に戻った、そうして今度は南方出身のその使用人と会った。使用人は男でその名を張といった。
 その張にだ、朱然桓は微笑んで話した。
「これからも頼むぞ」
「はい」
 一言でだ、張は朱桓に答えてきた。
「宜しく」
「うむ、ではな」
「旦那様はとてもお優しい方だからな」
「安心しろよ」
「誰に対してもとてもお優しいんだ」
「御主もな」
「厳しくされないからな」
 他の使用人達も張に言う、実際に朱桓は使用人達に極めて優しく気前もよかった。それで彼等も張にこう言ったのだ。
 張は言葉は少ないが非常に真面目で素直だった、よく働き仕事ぶりも丁寧だった。その為朱桓は張を笑顔で褒めた。
「いや、御主はいいな」
「私が」
「うむ、よき者だ」
 こう笑顔で言うのだった。
「これからも家にいて欲しいものだ」
「では」
「御主さえ望むのならな」
 その限りと言う。
「これからも頼むぞ」
「わかりました」
 その言葉に従いだ、そしてだった。
 張は朱桓の家で使用人として主からも認められた、彼について悪く言う者は家には誰もいなかった。そこまで評判がよかった。
 だが、だ。朱桓の家でこの頃怪しげな噂が起こっていた。その噂はどういったものかというと。
 夜な夜な人の頭が家の外を飛び回るというのだ、朱桓は使用人達からその話を聞いて首を傾げさせて言った。
「あやかしか」
「はい、どうやら」
「その様です」
 使用人達も彼に口々に言う。
「何処から出て来るかわかりませんが」
「家の周りを飛んでいます」
「昼は飛んでいないのですが」
「夜に」
 首が飛んでいるというのだ。
「私が見ました」
「私もです」
「私も見ました」
「夜に」
 使用人達はに口朱桓々に話していく、だが。
 ここでだ、朱桓はあることに気付いた。その気付いたことはというと。
 張はだ、彼はというと。 
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