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二つの水

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第一章

                  二つの水
 海添いの村は恐怖に支配されていた、何故かというと。
 凶悪な妖精に襲われていたからだ、上半身は人間だが下半身は馬だ。人間の上半身が馬の首のところにあった。
 皮膚はなく筋肉が剥き出しだ、髪の毛も顔の皮もない。高さは家二つ分はありその目は禍々しいものが一つある、その妖精が海から出てだ。
 人々や家畜を襲うのだ、それで村人達は困り果てていた。
「家は壊される」
「家畜は貪り喰われる」
「逃げ遅れた場合は人間も喰われる」
「この前マリー婆さんが喰われたしな」
「あんなのがいるとな」
「もう村に住めないぞ」
「村を移るか」
 こうした話にさえなっていた、村はその妖精によって真剣に村を移すことを考えていた。
 それで海を見てだ、忌々しげに言うのだった。
「海から出て来てな」
「それで何もかもを貪って壊す」
「何であんなのがいるんだ」
「どうすればいいんだ」
「倒すか?」
 ここで村人の一人がこう言った。
「あの妖精を」
「わし等が逆にか」
「倒すのか」
「ああ、そうするか?」
 こう提案するのだった。
「やられるよりはな」
「やれ、か」
「そうするんだな」
「このままだと村はあいつに皆殺しにされるか逃げるしかない」
 この場にいたければというのだ。
「長年住んでいる村だ、だからな」
「ここはか」
「あいつを倒すかわし等がどうなるか」
「二つに一つか」
「どっちかか」
「そうだ、あんな化けものに喰われたくないだろう」
 実に率直な言葉だった。
「村を移すにしても他の場所に行ってもな」
「わし等は漁で暮らしてるからな」
 海添いの村だ、漁で生きるのは当然だ。
「畑は苦手だ」
「かといって海だとあいつがまた出て来るかも知れない」
「正直村を移しても生きられる保障はないな」
「だからな」
「ここはな」
「生きる為には」
 妖精を倒すしかない、彼等は切羽詰っていた。だが。
 妖精は巨大で力も強い、しかも動きが早い。人間が束になってもとても適わなかった。それでなのだった。
 どうしても相手が出来そうになかった、それで倒すにしてもだった。
「どうすればいいんだ」
「ああ、本当にな」
「あんな奴どうして倒す」
「人間の手と馬の足もあるんだ」
 この二つも武器だった、異様なまでに長い手を振り回して掴んで潰し殴る、足で踏み蹴り何もかもを殺して壊してしまう。この二つもどうしようもなかった。
「背丈は家二つ分もある」
「大きいにも程があるしな」
「本当にどうすればいいんだ」
「あんな奴は」
「いざ倒すにしても」
「本当にな」
「どうすればいいんだ」
 その手段はない様に思われた、相手が相手であるだけに。それでだった。
 皆頭を抱えていた、そんな中でだった。
 また妖精が海から出て来た、それで巨大な身体を凄まじい速さで動かして海の傍にいる丘の上で遊んでいる子供達に襲い掛かって来た。子供達は妖精を見てすぐに逃げ出した。
「また出た!」
「逃げろ!」
「とりあえず後ろに!」
「早く!」 
 こう叫び合ってそしてだった。
 彼等は必死に逃げる、その中で。
 前に小川が見えた、そしてそこには橋があった。とりあえずだった。
 子供達は皆橋を渡って川の向こう側に行った、だが子供が歩いても渡れる浅く狭い川だ。まさに小川である。
 そんな小川だからだ、子供達は渡り終えてもだった。 
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