半分だけ
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第三章
第三章
「拙僧の身体のことです」
「それですか」
「それを見せて宜しいでしょうか」
こう言うのである。
「それで」
「はい、それでは」
それに頷いてであった。示現は言葉を返した。
「それで御願いします」
「わかりました」
それを受けてである。彼は頭巾を取った。するとそこから出て来たのは。
「何と」
「驚かれましたか」
「はい」
示現は生真面目な顔で頷いて答えた。
「申し訳ありませんが」
「いや、それは当然のこと」
だが彼はこう返しただけであった。見れば剃った頭のその身体の左半分は青い。右半分は明るい生者なのに対してだ。左半分は死者のものだったのである。
「この身体のことは」
「そう言われるのですか」
「そうです。ですから」
また言う彼だった。
「それはいいです」
「左様ですか。ですが」
ここで示現はさらに問うた。彼のその身体の左半分を見てだ。
「その身体で宜しいのですか」
「どうしてそうなったのかは聞かれないのですか」
「それも確かに気になります」
示現もそれは認めた。
「ですがそれ以上にです」
「それ以上にですか」
「その御身体について。何も思わないのですか?半分死んでいるというのに」
「思わないではありません」
海洸は静かに答えた。
「それにつきましては」
「では何故そのまま」
「私はですね」
海洸はここで己のことを話した。その武家としての生い立ち、そして生き返った時のことをだ。示現に対して包み隠さず話したのである。
そのうえでだ。こうも言った。
「全ては運命です」
「運命ですか」
「はい、ですから」
その言葉を続けていく。
「それを受け入れるしかないのではないでしょうか」
「だからこそその御身体でいいというのですね」
「はい」
示現の問いに対してこくりと頷く。
「その通りです」
「ではそのまま生きられるのですか」
「この生を終えるまでは」
まさにその通りだという。
「そうするつもりです」
「左様ですか」
「それが私の考えです」
穏やかな言葉である。そしてそれには淀みがない。
「それはいけないでしょうか」
「いえ」
その彼の言葉にだ。示現は静かにその言葉を返した。
そうしてだ。言った言葉は。
「それでいいと思います」
「そう言って下さいますか」
「それが貴方の運命ならば」
まずはそこからだった。
「そしてそれを受け入れておられるならです」
「宜しいのですね」
「私はそう思います。それで」
「ではこのまま」
「行かれるといいと思います。私の言うことではありません」
示現の言葉はこれであった。そうして彼の前から去った。彼の身体のことは誰にも言わなかった。そして海洸は静かに世を去ったのである。
だが彼の話は今も残っている。示現は何も言わなかったがそれでも事実は知れ渡るものだからであろう。そのことを伝えた者はいないが彼の話は語り継がれている。己のその運命を受け入れて生きた男についてはだ。今も尚話として残っているのである。
半分だけ 完
2010・4・2
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