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浮舟

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第二章


第二章

「魚の血がだ」
「魚のか」
「そうだ、それを飲めばいい」
 これがクイークェグの言葉だった。
「それでどうだ」
「魚の血か」
「水がないのなら血がある」
 彼はまた言った。
「それを飲めばどうだ」
「そうだな。そうするか」
「そういうことだ。そうしてまずは生きよう」
 クイークェグの言葉は真剣なものだった。生死がかかっているからこれも当然のことだった。そしてそれはイシュメールも同じだった。
「それでいいな」
「よし、それならな」
「わかった」
 こう話してだ。まずは夜を待った。そして星を見る。二人はその夜空を見て苦い顔になってしまった。
「まずいな」
「そうだな」
 二人で言い合う。夜空は眩く美しい。だが二人にとってはその美しさも今は目に入らない。それを見ながらそのうえで言っていた。
「陸地は遠いな」
「海の真ん中か」
「考えてみればな」
 イシュメールはその夜空を見上げながらまた話した。
「それも当然だな」
「そうだな。俺達が嵐に遭ったのは海のど真ん中だった」
 クイークェグも言う。
「だとすれば俺達が今いるのもだ」
「海の真ん中で当然か」
「そういうことになる。今はな」
「陸に向かうにしてもな」
 イシュメールの言葉に今辛いものが宿った。
「それもだ。この小舟だとだ」
「辛いか」
「ああ、辛い」
 また言った。
「今にも沈みそうだしな」
「そうだな。果たしてどうなるか」
「先は暗いかもな」
 夜空を見上げながら二人で話す。そのうえで今は寝た。夜空の星達だけがやけに美しい。しかし今の二人にとってはその美しさは全く無縁のものだった。
 途中雨にも遭い水は確保できた。魚も順調に手に入り捌かれた。そのうえで三日経った。その三日の間にであった。
 小舟はさらに傷んできていた。さらに沈みそうになる。二人はその小舟の上にいてだ。そのうえでこう話をするのであった。
「浮かんでいるのが不思議だな」
「全くだ。そしてだ」
 ここでクイークェグは言った。
「まずいかもな」
「まずい?」
「あれを見ろ」
 右手の先を指差してだ。そのうえでの言葉だった。
「あれをだ」
「あれか」
「そうだ、あれだ」
 見ればだ。そこに大きな三角のものが見えていた。それは。
 
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