とある3人のデート・ア・ライブ
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第一章 精霊
第1話 運命を変える封筒
学園都市。
それは東京西部に位置する完全独立教育研究機関。人口の八割が学生が占める学生の街であり、外部より数十年進んだ最先端科学技術が研究、運用されている街だ。
そして学園都市最大の特徴、超能力開発が学生全員に施されており、スプーンを曲げるといった小さな能力から戦車とまともに戦えるような桁外れな能力まで様々ある。
さが残念なことに超能力は学生にしか芽生えず、学生であっても能力が芽生えないレベル0と言われる人たちが半数を占めているのも悲しいことに現状だ。レベル5の位になると、230万人いる人口の中で僅か7人しかいないという状況だ。
超能力というものに憧れて遠くからやってきた学生達がレベル0という結果を受けて心を折られるという事例も少なくない。もちろんレベル0だからといって将来お先真っ暗というわけではないのだが、やはり学生であり子供である彼らの心にはレベル0というコンプレックスを抱く者がたくさんいる。
そんな弱肉強食の学園都市。一年も経てばどう生きればいいか、どう生活すればよいか人によって違うがある程度固まってくるものである。
だからこそ、これは唐突すぎる出来事だった。
こんな封筒が来たのは。
3月下旬
とある寮にて。
「今日もいい天気だな」
カーテンを開けて、まぶしい光に目を細めながら大きく背伸びをした。
「うーん……」
「おーいインデックス、朝だぞー」
「……あと五分」
恐らくあと五分では起きないだろう。彼は居候の気が抜けた言葉に思わず苦笑いした。
十万三千冊の魔導書とブラックホールのように食べ物を吸い込む胃を持っている禁書目録は彼――上条当麻の家に居候している人物だ。
上条当麻はレベル0。レベルに応じて奨学金が決まるこの世界では、レベル0は毎月生活するための最低限のお金しか貰えない。そんなギリギリの状態で大食いシスターことインデックスが一緒に生活しているとどうなるか。
答えは簡単。財布の中身がオーバーヒートしてしまう。
だから常に節約する生活を送らなければならない。
「ニャー」
「おっとスフィンクス、お前も起きたか」
そういえばインデックスが拾ってきた猫――スフィンクスもこの家で飼っていた。そういえばこいつのエサも生活費に含まれているのだった。
「私もいるぞ」
いつの間にいたのか肩には身長15cmの魔神――オティヌスがちょこんと乗っていた。
数ヶ月前、一度世界を崩壊させて上条当麻の精神を折ろうとさせた魔神。万を超える試行回数を経て倒し、新しい世界ではなく元の世界を選んでくれた。元の世界に戻ってから彼女を殺そうと来る数々の強敵をはねのけて彼女を救い、互いは互いの理解者になった。
そんな彼女も、今ではこの上条家の住人である。
今は春休み。上条は何回も留年の危機に直面しながらも補修を受けて何とか二年生に上がることが出来た。
来週からは学校が始まる。可愛い後輩が出来ると思うと今から楽しみだ。
少し浮かれた気持ちで玄関の方に行く。するとポストに何かが入っていることに気がついた。
「何だ?」
それを見ると一通の封筒だった。茶色の封筒には『大切なお知らせ』と書かれていた。裏には統括理事長と書かれた文字と閉じるために張られたセロハンテープがあるだけだった。
それを見たオティヌスがため息交じりに。
「……上条当麻、お前また何か」
「いやいや上条さんは何もやっていませんからね!?」
オティヌスに少しばかり酷いいいかがりを付けられた。だが『大切なお知らせ』と書かれていれば気になってしまう。今まで上条当麻が関わってきた敵が起こした損害の危害総額の請求書だったらどうしようか。
おそるおそる封筒を開けてみる。入っていたのは綺麗に折られた一枚の白い紙だった。
本当に請求書なのでは、と思うと心臓がバクバクし始めた。一粒の汗が頬をつたって顎まで流れ着くことすら気づかないほど緊張していた。
「何をしているんだ人間。さっさと中身を見ろ」
「見たくない……見たくないよぉ……」
「安心しろ。骨ぐらいは拾ってやる」
「なんで死ぬのが前提なの!?」
オティヌスの無情な一言に思わずツッコミを入れてしまう。
だが覚悟を決めて上条当麻は折りたたまれた紙を開く。
しかし、そこに書かれていたのは上条の思っていた内容とは全く違ったものだった。
とある寮
佐天が朝目覚めて寝ぼけながら時計を見ると短針は既に9のところを刺していた。
「うわぁ、少し寝過ぎた」
今どの学生も春休みを満喫している期間だ。多少の寝坊は今は許されるが、夜更かしはお肌に良くない。早寝早起き、いいこと。
「……まあいいや。今日も暇だし誰かと遊ぼう!」
能力者がビックリしてしまうようなスピードで起き上がり私服に着替えた佐天はさっそく色んな人物に電話を掛けた。
しかし、現実は残酷で。
『あ、佐天さんですか?今風紀委員の方で忙しいので後にしてくれませんか?あ、白井さんそこの路地を右に曲がってください!』
と初春。
『ごめん佐天さん、今日学校の方で用事があって無理なのよ』
と御坂。
うーん、何というか付いていない。前にも似たようなことがあった気がするが……いつだったっけ?忘れた。
少し昔の事を思い出しながら佐天は玄関の方へと向かった。
ポストには、一枚の封筒があった。
「(封筒?)」
それを手にとって表の面を見ると『大切なお知らせ』と書かれていて、裏には統括理事長という文字が書かれていた。
「えっと、統括理事長って学園都市でとても偉い人だよね?」
レベル0であり普通の女子中学生の人生を歩んできた佐天にはとても縁の無い人物からの封筒だった。
いや、普通の人生というのは少し語弊があったか。御坂達の一緒に行動する内に色々な事件に巻き込まれたのは事実だ。
だからといって統括理事長が直々に封筒を渡してくる程でもないだろう。だからこの封筒に少し違和感を覚え始めた。
「……実は送る人を間違えたとか?」
それならいいのだが、佐天涙子という名前のどこに間違える要素があるというのだろうか。
疑問は耐えなかったが、とりあえず佐天は筆箱からハサミを取り出して封筒を綺麗に切る。中に手を突っ込むと、折りたたまれた一枚の白い紙が入っていた。
「ん?」
白い紙を取り出したところで封筒の違和感に気づく。封筒の底が少し膨らんでいたのだ。
「まだ何か入ってる?」
ゴソゴソと手を動かしてそれを手に取る。それは耳当ての部分を切り取ったような機械質なものが入っていた。通信機にも見えるそれは佐天も見たことがなかった。
そこには、佐天の聞いたことのない言葉が書かれていた。
同時刻
本当に人生は何が起こるか分からないものだ、とつくづく思う。
例えば今の自分の状況なんてそうだ。一年前の自分が今の自分を見たら何て言うだろうか。
最強の名を欲しいがままにし、ずっと一人で学園都市の頂点に立ち続けていた自分が、能力がフルに使えない状況に陥って女に囲まれながら適当に過ごす日々を送っているなど。
確かに昔よりは暇ではなくなったと思う。誰かと話すというのも悪くないと思えるようになったし、誰かを守るということもしている自分がいることも確かだ。
そう、今なら思える。こんな生活も……
「だー!!ってミサカはミサカはあなたのお腹に飛び込んでみたり!!」
「……」
「あれ?これでも起きないの?ってミサカはミサカは少し疑問に思ってみる」
「……」
……やはり人には不向きというものが存在するのだ。
それが例え、学園都市レベル5の第一位だとしても。
「……うぜェ」
白髪の青年、一方通行は鬱陶しそうにベッドの上で思わず声を漏らしていた。
今自分の腹の上に乗ってきている打ち止め(ラストオーダー)はあの学園都市レベル5の第三位、御坂美琴のクローンである。妹達の一個体で検体番号は20001号だが、最後に造られた上位個体。製造途中で培養器から出たせいか外見は十歳程度にしか見えないが、これでも妹達の中では一番偉いのである。
「ったく、テメェはよォ……」
「あ、やっと起きた!ってミサカはミサカは喜んでみたり!」
「人の腹の上で遊んでンじゃねェ!!」
「ギャー!!ってミサカはミサカは逃げようと試みt……いたたたた!!」
一方通行が打ち止めの頭を両手でごりごりさせる。彼なりのお仕置きでもあるのだが、まあ如何せんこれが痛いのだ。それでも打ち止めがイタズラを辞めないのだから、打ち止めはそういうタイプの人間ではないのかと勘ぐってしまう。
「朝から元気じゃん」
と自分の部屋に入ってきたのは黄泉川愛穂。警備員のメンバーで高能力者が相手でも拳銃を向けないのがポリシー。でもレベル3程度の相手なら銃器を使わずとも制圧出来る格闘技術を持つ。
ちなみにこの人が一方通行、打ち止め、さらにはまだ寝ているであろう芳川桔梗と番外個体を家に招き入れた張本人でもある。
「……チッ」
「そういやお前あてに封筒が届いていたじゃん」
「封筒だァ?」
黄泉川に言われて手渡された封筒を見る。表には『大切なお知らせ』と、裏には学園都市統括理事長と書かれていた。
「(統括理事長が俺になンのようだ…?)」
疑問に思いながらも封筒を開ける。中に入っていたのは白い紙一枚だけだった。
折りたたまれた白い紙を開けて、その内容を見ていく。
それは、あまりにも簡潔した、でも彼らには聞き覚えのない内容だった。
「「「空間震の調査?」」」
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