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メタトロン

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第一章


第一章

                       メタトロン
 モリアーノア神父は生真面目な人物であった。
 彼は信仰を忠実に守っていた。このことは誰もが認めるところであった。
 それはバチカンでもだ。あまりにも有名になっていた。
 それで彼を司教、果てには枢機卿にまで抜擢しようという声もあがっていた。だが彼はその声に対して自分から毅然として言うのであった。
「その様なものは望んでいません」
「望んでいない」
「地位はですか」
「地位も名誉もです」
 そうしたものは望んでいないと。はっきりと言うのである。
「望んでいるのは信仰のみです」
「神への信仰」
「それだけなのですか」
「はい」
 まさにその通りだというのだ。
「それだけです」
「なら地位も名誉もいらない」
「それはまた凄いな」
「これこそ真の神の僕だな」
「全くだ」
 皆それを聞いて感心して頷く。そうしてであった。
 彼は己のその言葉通りただ神を信じて生きていた。その信仰こそが全てであった。だがその彼の前にだ。何かが来たのだった。
「モリアーノアよ」
「んっ?」
 彼は自分のいる教会の礼拝堂で祈りを捧げていた。一日の終わりにはだ。そこで祈りを捧げることを日課にしているのである。
 それで一日の最後の祈りを捧げているとだ。彼の上から声がしてきたのだ。
「よいか」
「誰だ、私を呼ぶのは」
「私だ」
 こう言ってであった。一人の天使が彼の前に降り立った。
 その姿は白銀に輝き何処か人間とは全く違うものを感じさせる。背中の翼もまた銀色であり身体と同じく硬い。そんな身体であった。
「貴方は一体」
「メタトロンという」 
 その天使はこう名乗ってきた。
「それが私の名前だ」
「メタトロンというのか」
「知っているな」
 メタトロンはまた彼に言ってきた。
「この名前は」
「知っている。天使の長の一人だったな」
「そうだ。今日ここに来たのはだ」
「理由があってか」
「理由がなくて来ない筈がない」
 メタトロンは彼にこうも言ってきた。そしてだ。
「御前の話は聞いている」
「左様か」
「そうだ。神に絶対に仕えているのだったな」
「そのつもりだ」
 このことを隠さない。
「それがどうかしたのか」
「それでここに来た。御前は神の言葉に従うのだな」
「無論だ」
 その白銀の天使を前にしてだ。彼は毅然として答えた。
「それが信仰なのだからな」
「では聞こう」
 天使はここまで聞いてだ。あらためて彼に問うてきた。
「いいか」
「それで何だ」
「御前は神が死ねと言われたら死ぬか」
「死ねと告げられたらか」
「そうだ、その時は死ぬか」
 まずはこう問うのだった。
「そして神がある者を殺せと言えば殺すか」
「殺すとか」
「そして世界を滅ぼすと言えば」
 話はさらに大きくなっていた。
 
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