魔法構築体マテリアル!?
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プロローグ
「ダーク・マテリアルズぅ? なんだそりゃあ?」
「相変わらずの鳥頭ですね。闇の福音と並ぶ最強の魔法使いなんですが」
魔法世界某所にて、ローブをまとった優男――アルビレオ・イマは目の前の少年に対してため息をついた。
それに赤毛の少年、ナギ・スプリングフィールドは『知らねーもんは知らねー』と不貞腐れる。
もともと頭の出来は戦闘能力よりもよろしくないので当然と云えば当然だ。
アルビレオ(以下アル)は目の前の鍋に入っている肉を取り出して口に含み、その味を十分に楽しむと続ける。
「何年前からか活動している五人の傭兵です。下手をしたら私たちでも危ういです」
「マジか!?」
「うむ。それに奴らは情けなどをかけぬからな。狙われたが最後、終わりだと思う者は多い」
寝ない子どもを寝かせる時にダーク・マテリアルズが来るぞー、と言って寝かしつける親は多い。何処のなまはげ扱いだろうか。しかしそれほどの恐怖が知れ渡っているということだろう。
驚きの目を見開くナギにアルは袖口から五枚の写真を取り出して彼に手渡す。それを見て彼の師匠のフィリウス・ゼクトが唸り声を上げる。
「まさか写真を持っておったとは」
「苦労しましたよ。そして見てから驚きました」
「む?」
どういうことだ? と思い彼もナギが持っている写真を覗き込み――ポカンと目を見開く。
「なんと……まだ年端もいかない幼子ではないか」
「本当にこいつらが最強の魔法使いたちなのか? それとお師匠は人のこと言えないと思うぜ」
ガスンとナギの足を踏みつけるゼクト。
痛みに悶える彼を無視してアルは話を進める。
「外見と実年齢が一致しないのはそう珍しいことではありませんよ。特にこの一番小さい女の子が最も強いらしいです」
「どのくらいの力があるんだ?」
メガネをかけた生真面目そうな青年――青山詠春が問いかける。しかし返ってきた答えは『わからない』。情報の漏洩を嫌う集団のようで、名声は轟かせているが詳しいことは知ることができていない。ゼクトがアルが写真を持っていたことに驚いていたのもこのことが理由だったりする。
アルは気を取り直してナギのためにも今分かっている情報をここに提示する。
「この青い髪の子は雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)。スピードとパワーに特化した魔法剣士タイプ。黒龍を一撃で葬ったとか……。
次にこのクール系美少女は星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)。典型的な魔法使いタイプで、雨あられのような炎の矢を降り注がせて高威力な砲撃を放ちます。それに参謀役でもあるそうです。
そしてこの銀髪の我が強そうなショートカットの女の子は闇統べる王(ロード・ディアーチェ)。広範囲殲滅型魔法を操る魔法使いです。彼女の魔法で幾つもの更地が出来たとか……それに超長遠距離魔法も持っています。油断ならない美少女です。
そして先ほど言った最強の子ですが……名をユーリ・エーベルヴァイン。どのような魔法を使うか分かりませんが……何やら禍々しい巨大な手を使うようです。はっきり言って敵対したくないものです」
「よく調べたものじゃな……それとニヤけるでない。キショいは」
「確かに敵対したくないな……このロリコン」
「戦ってみてえな……なんで鼻血垂らしてんだアル?」
このアルビレオ・イマ。少女、幼女愛好家であり……いわゆるロリコンで、ここまで詳しく調べることができたのもその歪んだ愛ゆえにだと思われる。貞操的な意味で彼女は逃げた方が良いだろう……。
だらしなく破顔させていたその顔は、次の瞬間キリッと元に戻る。もはや意味のないことだろうが……。
「最後に最も気をつけなくてはならないのが……彼です」
神妙な顔つきでアルが指差すのは一人の少年だった。黒い髪をポニーテールにし、頭部には髪と同じ色の狐耳。そして臀部からは九つの黒い尻尾が生えていた。詠春はこの姿に見覚えがある。彼の故郷、日本に代々伝わる伝説の妖怪、九尾だ。詠春はアルへと視線を向けるが首を横に振る。関連性があるのかないのか彼には分からないらしい。しかし袴姿から察するに何か関係している可能性は高い。腰には日本刀も帯刀している。
「名を愚者の転生者(フール・ザ・トリッパー)。情報が少ないですから何とも言えませんが武器から察するに魔法剣士だと思います。――それと彼と相対したら全力で叩くように」
「は? なんでだ? 確かに鋭い目してっから強そうに見えるが……」
ナギは写真を見る。鋭い目がこちらを見ており、今にも斬りかかってきそうな迫力がある。体がブルリと震えた。しかしそれにしてはアルのように過剰な態度を取るかと思えばそうでない。せいぜい一回ぐらい戦ってみたいと思うぐらいだ。
「彼は相対した者の魔法、技、固有技といったあらゆる物を一度見ただけでコピーすることができるのです」
「なんと……」
「あっ? それって凄いのか?」
「……もしアルが言うことが正しいのならな。もしや、私の神鳴流も……?」
「おそらくは……」
つまり今まで自分を助けてきた技が己に牙を向くということ。それに加えこの場にいる者たちは世界でも最強クラスに匹敵する猛者ばかり。そんな彼らの技がコピーされるとなると、たまった物ではない。
「それに私たちとは異なった魔法を使います。情報が少ないですから敵対したらマズいですね」
「しかし、そんな機会はある……なるほど、帝国側についたのか」
「そういうことです。おそらく近いうちに合間見えるでしょうから、覚悟をしておいてください」
「へっ! つえー奴と戦えるなら何だって良いぜ! オレがぶっ飛ばしてやらぁ!」
そう言って息巻くナギを見て、彼らは呆れと頼もしさを感じていた。このように純粋な彼だからこそ紅き翼は結成することができたのだろう。これもナギのカリスマの為せる技だろうか……。
話はこれで終わりと言わんばかりに彼らは鍋パーティーを再開する。この後某筋肉ダルマが突っ込んでくるのを知らずに……。
「しかし妬ましいですねぇ……こんなにたくさんの美少女を侍らすとは……!」
「見苦しいな」
「キショいな」
「あぐあぐ」
男の嫉妬は見苦しくキショく犬も食わない。
◆
「紅き翼……アラルブラだと?」
「はい。今最も警戒すべき相手が彼らです。詳しい情報は必要ですか?」
「いらん。我は王ぞ? そのような物に頼らずとも我が闇の力で蹴散らしてくれる」
「フールに言いつけますね」
「王となる者、常に臣下の弁を聞くのも必要。後で聞くとしよう」
「英断、感謝します」
これだけを聞くと主と臣下の楽しい会話に聞こえるだろう。しかし彼女たちの現在の格好がそれを崩していた。
衣服を身につけていない。つまり裸体を晒しているということ。最も、シーツで隠しているので遠見の魔法で見られても隠すことはできるだろう。
シュテルとディアーチェの他にも、ユーリとレヴィがこれまた彼女たちと同じ格好でスヤスヤと仲良く眠っている。キングサイズのベットの上で何が行われたのかは当事者たちと部屋の前を通った不届き者たちしか知らない。
「して、そのフールは何処に行ったのだ?」
「外の空気を吸ってくると言って出て行きましたが……実際は敵の諜報員を消しに行ったと思われます」
「そうか――相変わらず、我らはアイツに頼りっぱなしだな」
「……ええ」
彼女たちを鎖から解き放ち自由にさせたのはフールだ。この世界に飛ばされる前の世界で消されそうなところを助けて修復し、砕け得ぬ闇を復活させ王の制御下に置くようにプログラミングしたのも『技』のマテリアルである彼。そしてこの世界でも彼女らがこうして生きていけるのも、最も早く適応した彼の迅速な行動による物が大きい。
「礼を述べても彼奴は受け取らぬだろうな……」
「おそらく己を攻めているのでしょう――彼はそういう性格です」
彼女たちには元となった存在、オリジナルがいる。その中でもフールのオリジナルは畜生にも劣る愚者で、シュテルたちを舐めるような目つきで見て、フールをゴミ以下を見るような目で見ていた。理由はフールが男で、シュテルたちが女だからだ。しかしフールは気にした様子もなく、シュテルたちの身の安全を申し出た。
「今でも思います。あの畜生を滅しておけば良かったと」
「そんなこと我とて同じだ。単純なレヴィが怒り狂ったほどだ」
しかしそこでフールのオリジナルが出した条件は、彼の傘下に入るのはシュテルたちのみで、フールはオリジナルの身代わりになることだった。何でも彼は色々とやらかしていて魔導師としての力を封印されそうになったのだとか。それの身代わりをフールにさせようとしたのだ。
しかしそれをシュテルたちが拒否をした。あの時は自分たちでもどうしてこうしたのか分からなかったが、しかし時が経つにつれて理解したのであった。
「今でも思う。彼奴のあの顔は滑稽だった」
「しかし可愛かったですよね。今思い出すだけでも、お腹の奥が……」
「それ以上言うな痴れ者」
しかしディアーチェの今の姿は痴れ者の部類に入ったりする。
話を戻すが、フールのオリジナルは逆上し、己の身に余る魔力を全て使った収束砲を打とうとして制御に失敗して自爆。その際起こった次元断層で彼女たちは吸い込まれて――この世界に来た。
「最初は戸惑いましたが……今にして思えば良かったと思います」
「まぁ、な。この生活も存外悪くない」
「性活になっていますが」
「黙れ」
そっち方面は苦手なのか、ディアーチェは顔を赤くさせる。そんな彼女に満足したのかシュテルはシーツから身を出す。
「む? 何処へ行く?」
「身を清めに。彼が帰って来た時に綺麗な姿で出迎えたいですから」
「……それもそうだ。こやつらも起こすか」
ディアーチェはそう言ってユーリとレヴィを起こすと部屋に設けてあるシャワールームへと向かった。今はこの場にいない彼の体液を洗い流すために。
◇
腰痛すぎワロタ。ショタボデーだから負担がテラヤバス。
先ほどまでの情事を思い出して俺はため息を一つ吐く。まさか『魔法先生ネギま!? NEO』の世界に似た世界に来るとは……ここは麻帆良学園じゃないのか? 空に浮かぶ月を見ながらそう思った。
俺は転生者だ。それもかなり特殊な部類の。
転生先は魔法少女リリカルなのはの世界だった。……いや、似た世界か? なんかなのはやフェイトの2Pカラー+aが居て、俺も彼女たちと同じ存在に生まれ落ちたらしかった。マテリアルFだっけ……? 電波さんによるとそうらしい。
彼女たちも良く分かっていなかったようなので、俺は彼女たちと行動を共にして……アイツと出会った。俺のオリジナルの転生者。しかも話を聞く限り彼はあの世界の主人公らしかった。自分でオリ主だ! って言ってたし。
ちょっと性格があれだけど。んで、彼の2Pカラーである俺にも彼と同じ能力があるらしく……これを聞いてピンと来たね。
俺、ラスボスだ、と。
そうと決まれば後はズクダンズンズンだった。彼女たちを解放したければ俺を倒せっ! とテンプレ魔王みたいなことをすればオリ主君はそれに乗ってくれた。素晴らしい。俺って悪役に憧れてたんだよね。この体の表情筋と口がガチガチだったと知った時はどうしようかと思ったけど、このためだったわけだ。
そしていざ勝負――となるところに思わぬ事態が。ラスボス最終形態になる前の力の解放をする時のキメ顔をしていると突如空間が揺れて穴ができ、王さまたちと一緒にこの世界にイン。
どないなってんねん……。
幸いこの世界も魔法があったから、ドラクエみたいに賞金稼ぎとかできるんじゃね? と思って悪い奴らをギッタバッタ倒していると――なんかでっかい国のVIPになってた。VIPPERもビックリだ。多分こき使われるんだろうなぁ……。いや、金を稼げるから良いけど。
というか今戦争中だったっけ? タイトルとチラッと見たぐらいだから良く分からんけど。うーん……もうちょい捻れば出てきそうなんだけど……。
「……」
集中すればと思ったけど、そんなことはなかった。ウサミちゃんもビックリな変顔だったと思う。
「――驚いた。まさかバレていたとは」
しかし代わりに白い人が出てきた。……どういうことなの。
「結構自信があったんだけどね……流石はダーク・マテリアルズってところか」
イケメソは滅びよ。そう思って睨みつけると俺の負の感情が届いたのか、やれやれと肩を竦める。なんというレベルの高い。自分が惨めに思えてきた。
「……分かったよ。今日のところは引き上げるとする」
…………ん? どういうことでせう。そう問いかけるも足元から水が吹き出して立ち去るご様子。
「でも僕たちは諦めないよ。いつか必ず君を手に入れてみせる」
そう言って白イケメソは転移で何処かへと消え去った。
重大な爆弾を置き去りにして。
(……ホモォ?)
そうとしか捉えられない言葉だったんですが。いや、でも……ええ……。
勘違いだったら良いんだけど、あれは獲物を狙う野獣の眼光だった。やはりイケメソは俺の敵だ……! というかこの世界にはホモしかいないのか? 四足歩行の怪物しか居ないのか……!? 流石は魔法世界。狂ってるぜ。
「(フール。フール)」
む、この声は――トキ!?
嘘です。シュテルんです。なのなのさん、またの名をエース・オブ・エースあ……の2Pカラー。魔王と言ってはいけない(戒め)。
それはそうとどうしましたシュテルんさん。
「(さきほど魔力を感知しましたが……)」
おー……流石はシュテルんや。この世界で生きていけたのも君のおかげだよぉ……俺がしたのってモンスターハントぐらいだったし。
それと魔力の件は特に問題ないです。もう奴さん、帰りましたし。
「(そうですか、それは何よりです。しかし万が一の事がありますから一度戻って来てください)」
アイアイサー、と返事をしてみる。そしてブツリと切られる。多分シュテルんは特に悪気は無いんだろうけど、あれだ。電話で話が終わったらすぐ切られてモヤッとする感じと一緒だ。
でも確かにここに居て奴さんがスーパー阿部ブラザーズを連れて来られたら、俺のKPが掘り削られるからさっさと帰るか。
尻尾でケツをガードしながら俺はスタコラサッサと部屋へと戻ったのであった。
アッー♀
◇
造られた人形――プリームムは仮拠点にて笑みを深めた。
噂のダーク・マテリアルズの実力を測ろうと潜入したその矢先にバれてしまい、あろうことか隠し持っていたマジックアイテムすら見抜かれてしまった。手を伸ばそうと1センチほど動かしただけで殺気が強くなったのだ。これでは交渉などできまい。
「それに……保険の方もバレていたとは」
火のアートゥル、水、風のアダドー、デュナミスの四人も念のために隠れて貰っていたが……彼の視線がそれぞれ居た場所を捉え、耳がピクリと動いたことから察知していたことは明白だ、とプリームムは考察する。その彼らは己の主の元に向かい報告をしている。
「しかし僕は……僕たちは諦めない。我らが主の悲願のためにね……」
やり甲斐がある。プリームムはそんな人形らしくない感情を抱きながら自分も主の元へと向かったのであった。
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