軍需産業
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第二章
第二章
「芸能プロダクションはグループ全体の看板にもなりますし」
「しかも自社で広告のモデルを育てることも可能です」
「芸能プロはいい分野です」
「球団とのコラボレーションもできます」
「その通りだな。では軍需産業から撤退しよう」
あっさりとだ。このことが決まったのだった。
川口はそのことについて清々しい気持ちになった。軍需産業は彼にとっても頭を抱える赤字分野だったのだ。それでだった。
本当にあっさりと撤退を決めた。しかしだ。
その話を聞いた当時の日本の国防長官である八条義統はだ。難しい顔をしてだ。
スタッフ達にだ。こう話したのだった。
国防省の執務室で執務を執りながらだ。彼は述べた。
「困ったことですね」
「はい、川口重工は優れた兵器を提供してくれますし」
「それに我が国で兵器を開発している数少ない企業です」
スタッフ達も話す。
「ですから彼等の撤退はです」
「国防省としては何とかしたいです」
「思い留まって欲しいです」
「その通りです」
まさにそうだとだ。八条も言った。
それでだ。スタッフ達にあらためて述べた。
「彼等を説得しましょう」
「はい、そうですね」
「そうしましょう」
スタッフ達も彼と考えは同じだった。こうしてだ。八条は彼の上司である総理大臣と電話での話をしたうえで正式に決めてだ。
国防省としては慰留ということで話は決まった。しかしだ。
川口重工側はだ。それを聞いてだ。
また役員会を開きだ。そうして話すのだった。その話すことは。
「ですから採算が取れないですから」
「採算の取れない、しかも税金を使う為評判の悪い分野を持っているのはです」
「企業にとって好ましいことではありません」
「そうだというのに」
しかしだ。それでもだとだ。国防省は言ってきたのだ。
「それでどうして国防省は慰留するのか」
「企業としてはそうした分野は不要です」
「他の有望な分野に進出したいというのに」
それが芸能プロだった。
「若しくは既に収益を挙げている分野へのさらなる投資」
「それが普通ですが」
「しかし国からストップがかかるとは」
「困ったことです」
「それを言ったのは八条グループの御曹司だったな」
川口がここで言った。
「あの方だったな」
「はい、八条義統さんです」
「あの方が長官です」
「政治家としてもかなり優秀な様ですね」
「既に実績を挙げておられます」
「何度か御会いしたこともある」
川口もだ。彼のことは個人的に知っていた。経営に携わる者同士としてだ。交流があるのだ。
これが家ぐるみの付き合いでだ。だからそれなりに年季のある交流である。川口は今はこのことを思い出してだ。そうして役員達に話すのだった。
「私が会おうか」
「国防相とですか」
「会われますか」
「そうしようか」
こう話すのだった。
「それで事情を話してだ」
「納得してもらいますか」
「国防相に」
「我々にも我々の事情がある」
企業側のだ。
「何時までも採算の取れない分野にいても仕方がない」
「はい、技術者を他の分野に配置転換すれば大きいですし」
「工場の労働者達も車や飛行機の製造に行ってもらいたいですしね」
「ただでさえあちらは人手が足りませんし」
「ですから」
「納得してもらう」
何としてもだというのだ。
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