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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百七十五話 ようこそイゼルローン要塞へ

 
前書き
お待たせしました。

前半は前回のシュワルツ・ランツェンレイター訪問です。
後半はイゼルローン要塞での出来事です。
そして、オマケで今回の金髪さんです。 

 
帝国暦485年11月30日

■銀河帝国 ヴィレンシュタイン星系 シュワルツ・ランツェンレイター艦隊旗艦ケーニヒス・ティーゲル
『卿の艦隊の視察に殿下が向かうので粗相無きように』
行きなり来た、ケスラー提督からの連絡にケーニヒス・ティーゲルの艦橋は驚きに包まれた。
「なっ、ケスラー提督、なんと?」

『殿下が、シュワルツ・ランツェンレイターを視察に向かうと仰られて、今向かう所だ』
「殿下が……」
ケスラーの言葉に一瞬思考が止まるビッテンフェルトであったが、数秒後に正気に戻り再度確認する。

「ケスラー提督、殿下とはテレーゼ様の事か?」
『無論、テレーゼ殿下以外に殿下はおらぬで有ろう』
素っ頓狂な会話の後、やっと自体を把握したオイゲン副参謀長が話を整理する。

「ケスラー閣下、テレーゼ殿下がシュワルツ・ランツェンレイターを視察するために此方へ向かっていらっしゃる最中と言う訳ですね」
『そうだ、後30分程でケーニヒス・ティーゲルに接舷する予定だ』

「30分ですか?」
ビッテンフェルトが彼に相応しくない素っ頓狂な声を上げる。
『そうだ、頼んだぞ』

そう言いながらケスラーからの通信が切れる。
ケーニヒス・ティーゲルでは、ケスラー提督の話が終わるやいなやてんわわんやの騒ぎとなった。

「殿下が御来艦為されるぞ、全艦にその旨伝えろ!」
「直ぐに、艦内清掃を!」
「赤絨毯どっかに無いか!」

「食事はどうするんだ!」
「テレーゼ殿下だぞ、なにを出せば良いんだ!」
「むしろ、我々の食事なんか出せないだろう!」

「静まれ!オタオタしてもしたかがない、殿下にはありのままを見せるだけだ!」
ビッテンフェルトの一斉放送で落ち着く艦内であった。

そんなこんなで、ラプンツェルが接舷してきた。
「閣下、ラプンツェルより接舷許可を求めて来ています」
「直ぐさま、接舷を許可して差しあげよ」

「はっ」
「ラプンツェル接舷を許可します。左舷側へ接舷して下さい」
『諒解』

ラプンツェルがケーニヒス・ティーゲルへ接舷し、その間にラプンツェルから艦外通路がケーニヒス・ティーゲルへ接続され、ビッテンフェルト以下幹部全員が整列する、接続ルームの減圧ハッチが開く。
「帝国万歳、テレーゼ皇女万歳」
ビッテンフェルト以下が万歳三唱を行う中、ハッチから、ランズベルク伯以下護衛の装甲擲弾兵が先に降り立ち、その後クルムバッハ、ズザンナと共にテレーゼがにこやかに手を振りながら現れる。

「シュワルツ・ランツェンレイターの皆、忙しき所をいきなりの訪問許せよ」
テレーゼの言葉に皆が恐縮する。

「殿下、恐れ多きことにございます」
ビッテンフェルトが借りてきた猫の様に大人しくなる。
「何の、あの件(クロプシュトック事件)での卿等の働きで妾も父上も無事だったのじゃ、卿等に感謝こそしても、何の落ち度があろうか」

テレーゼの言葉に事件解決に参加したビッテンフェルト以下の将兵は益々感動する。
「殿下、ありがたき幸せでございます」
「これ、ビッテンフェルトらしくないぞよ。卿は豪放磊落な性格であろうに」

テレーゼがニヤリと笑いながら、ビッテンフェルトを見る。
「殿下、それではビッテンフェルト提督が可哀想ですよ」
ズザンナが助け船をだす。

「そうじゃな、ビッテンフェルト、シュワルツ・ランツェンレイターの皆よ、妾は卿等のような者達を旗下に迎えられた事を望外の幸せと思っておるぞ、ビッテンフェルト艦隊、ミッターマイヤー艦隊、メックリンガー艦隊は妾の誇りじゃ」

「殿下、勿体のうございます」
ビッテンフェルトを含めてその場にいた全員が頭を垂れる。
「良い良い、早速だが艦内を案内して貰うぞよ」

「御意」
テレーゼの話を聞きビッテンフェルトが先頭に立ちケーニヒス・ティーゲル艦内を案内する。
テレーゼは自分が設計から建造まで顔を出した艦で有るので、殆どのことを判っていたが、素知らぬ振りをして案内を受ける。

案内を受ける中で、会う兵会う兵に気さくに言葉をかけ将兵を労う。言葉をかけられた兵はテレーゼの気さくさと心の籠もった労いに感動し感謝する。

3時間ほど視察を行ったテレーゼは最後に、自ら彫った印章を押して作った太陽神御札(天照大神)とそれを納めるお社を各艦に飾るようにビッテンフェルトに渡し、同行した各艦隊乗員全員にテレーゼのデザインした絹のハンカチを下賜することも同時に伝えられた。

この後、翌日までの間にミッターマイヤー艦隊、メックリンガー艦隊にもアリバイ作りで視察を行い、ビッテンフェルト艦隊と同じ様に気さくに言葉をかけ将兵を労う事で、3個艦隊総数450万人がテレーゼに忠誠を尽くすことになる。

そして、3艦隊共に、テレーゼ謹製の御札が飾られた艦内神社が帝国軍のテレーゼ派の艦艇に安置されることになり、現状で帝国が信じているとされているオーディン信仰と共に、テレーゼ派の信仰の中心になっていく。これも地球教対策の為であるが、テレーゼ自身が元日本人と言う辺りで天照大神崇拝を図ることになっていた。






帝国暦485年12月20日

■銀河帝国 イゼルローン要塞

この日イゼルローン要塞は嘗て無いほどの緊張感に包まれていた。何故なら要塞竣工以来初と成る皇族のお成りが行われる為である。

既に先導艦がイゼルローン要塞へ到着した1時間前から将兵が集合した宇宙艦ドックでは、要塞司令官トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将、要塞駐留艦隊艦隊司令官ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークト大将以下の面々が緊張した表情で整列していた。

「ラプンツェル、流体金属層に着水します」
通信兵がラプンツェルの動きを逐一報告してくる。

その報告の暫く後、イゼルローン要塞の流体金属層を抜けた、ラプンツェルがその巨体をドックへと入港させてくる。ドゥンケル艦長の見事な操艦で寸分ずれずにドックの減圧ハッチへピタリと接舷する。

軍楽隊が奏でる帝国国歌の流れる中、ハッチが開くとテレーゼが此処でも手を振りながらにこやかに姿を現すと“帝国万歳、皇女殿下万歳”の声が上がる。

早速、シュトックハウゼン大将とゼークト大将がお互いに競う様にテレーゼの前に跪き頭を垂れ挨拶を行う。
「「皇女殿下にあらしゃりましてはご機嫌麗しく」」

相も変わらずの要塞司令部と駐留艦隊司令部の仲の悪さを象徴するが如き行動に、テレーゼは内心では苦虫を噛み潰したような感覚で有ったが、それをおくびにも出さずににこやかに2人に話しかける。

「シュトックハウゼン、ゼークト出迎え御苦労、卿等のお陰で帝国は安泰と言えるのじゃ、陛下も嘸や御喜びであろう。妾が確とお伝え致すぞ。ささ皆、顔を上げよ」
テレーゼの話で、皇帝陛下のお耳にも自分達の事が入ると判り、シュトックハウゼンもゼークトも喜びに顔が赤くなる。

「「皇女殿下の御尊顔を御照覧できる事は、子々孫々までの譽となりまする」」
またも二人で競う様に話した語句が全て一緒で、テレーゼは“実は仲が良いんじゃない?”と思った。
「両人とも、その様に畏まることは無いぞよ。暫く過ごす妾はいわば居候じゃ、家主がその様に畏まっては、返って困惑してしまうぞよ」

「「御意」」
またも同時に返事をする2人に思わずニコリとするテレーゼで有った。

「殿下、そろそろ時間でござます」
臨時の侍従武官として参加しているケスラー大将がテレーゼに小声で伝える。
「そうで有ったな。両名とも、まずは要塞司令部へ案内致せ」

「「御意」」
テレーゼに言われた両名は、直ぐにテレーゼのエスコートをし、要塞司令部へと案内する。
その途中で、“此処は何でございます。どの様な部署でございます”と説明をし続ける。それを聞いたテレーゼは一々納得しながらエレベーターや動く歩道で移動を行う。

「殿下、此方が要塞司令部でございます」
シュトックハウゼンが恭しく扉を開けると、テレーゼの前にはOVAで散々見た、イゼルローン要塞司令部の姿があった。扉の中では司令部要員が全員敬礼して勢揃いしていた。此処でも“帝国万歳、皇女殿下万歳”の声が上がる。

「皆、御苦労である。卿等のお陰で帝国は安泰と言えるのじゃ」
その言葉に、皆が皆、喜色を見せる。

その上で、ケスラーが殿下からの贈り物があると告げ、要塞、駐留艦隊、同行のエッシェンバッハ、ケスラー、ロイエンタール、ルッツ、ワーレン、アイゼナッハ、ミュラー、ケンプ、ファーレンハイト、シェーンバルト各艦隊に中継を繋げた。

「イゼルローン要塞、駐留艦隊、同行の各艦隊の総員とイゼルローンに居住する臣民に殿下より殿下のデザインなさった絹のハンカチが下賜される事と成った」

この放送を聞いた皆は、感動する者、嬉々と喜ぶ者、冷静な者、馬鹿馬鹿しいと蔑む者、十人十色の反応を示したが、殆どの者は、皇女殿下からの下賜という、望外の喜びに感動していた。かく言うシュトックハウゼン、ゼークトも感動していたが、その場で殿下御自ら手渡しでハンカチセットと“家族に手紙でもお書きなさい”と殿下に言われ、金のペン先の万年筆付きレターセットも下賜された事で、感動の余り男泣きしていたのが印象的であった。

20日は皇族初のイゼルローン要塞行幸と言う事で、イゼルローン要塞に住む軍人250万人と民間人300万人全てに、豪勢な食事が出され宴と成った。その間の要塞周辺の警備は、テレーゼと共に来た、各艦隊に任せられたが、彼等も先日アムリッツア星系で豪勢な宴を行って貰っていたために、文句など言いようが無く、黙々と哨戒を行っていた。


翌日からテレーゼはイゼルローン要塞の各所を巡りはじめた。

(イゼルローン要塞の内部は数千の階層構造になっており、そこには居住施設、学校、病院、公園、娯楽施設、給水システムなどの都市機能が備わっており、常時550万人が要塞内で生活できる様になっており。エネルギーは中枢の核融合炉から供給され、植物園や水耕農場もあるので酸素や植物性栄養素も自給自足できる。

更に、イゼルローン要塞は出撃拠点として更に500万人ほどのキャパシティーがあり、今回もその施設が役に立つことになっている。要塞には軍人250万人と民間人300万人が生活していた。民間人のうち多くは軍人の家族だが、各施設の経営を軍部から委託されたものもいる。また気候を制御し、四季はオーディン北半球と合わせていた。)

その地でテレーゼは同盟側の捕虜輸送艦隊が来るまで、皆々に気さくに話しかけ、GIO48のコンサートを開かせる事で、イゼルローン要塞や共に来ている艦隊員の心を掴んでいった。




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今日の金髪さん

テレーゼのハンカチ下賜について。ジークフリード・フォン・キルヒアイス


ハンカチ下賜をすると聞いた時のラインハルト様が皇女を蔑んだ目で見ていました。その後部屋で話をしたのですが……

「あの馬鹿は何を考えているのかだな」
「ラインハルト様、馬鹿は余りにも言い過ぎでは?」
「あんな見え透いた人気取りなど、馬鹿しか出来無い事だ!」

「はぁ」
「大体、ハンカチ如きで、将兵の歓心を買うなど馬鹿げている!将兵とは勝てる指揮官を求める物だ。それなのに何だ、艦橋要員まで浮かれまくっている!」
「ラインハルト様、彼等にしてみれば、殿下からの下賜は望外の喜びなのでしょう」

「フン、だから平民共はルドルフの幻影に怯えているのだ。奴等のような無知蒙昧な連中は“公正な裁判と、公平な税制”を行うと言えば幾らでも味方する様な連中だからな」
「ラインハルト様」
「キルヒアイス、冗談だ冗談」

あの時のラインハルト様の言い様は本気で有られた、やはり何処かで民を利用する相手としか考えていないのではないだろうか?
 
 

 
後書き
テレーゼの悪辣な所は、些細なことで民衆の心を掴むこと。
しかも見捨てるようなことをしない訳ですから、悪魔より悪辣です。

ラインハルトの飢餓作戦とかヴェスターランドとかので行動から考えるに平民は自分の権力奪取のために利用する相手と考えているぽいので、今回はそう書かせて頂きました。
 
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