少年と女神の物語
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第七十二話
現在、俺たち対策チームは国道一二〇号線付近の建物の陰に隠れていた。
どうにも、護堂が戦士の権能を使うために孫悟空に関わることを祐理に霊視させるつもりのようだ。
そして・・・俺とリズ姉は、そのあたりの知識が既にあることを話すに話せず、黙ってしまっていた。
まあ、いいか。リズ姉から護堂に伝えるわけにはいかないし。しろって言ってきたら、俺の手で護堂を殺す。雄羊の権能を使ったところに止めを刺す。
「で、最後に確認させてもらうけど・・・武双は今回、協力してくれるのか?」
「ピンチになったら助けてやるが、本当にどうしようもなくなるまではここにいる。孫悟空が鋼の神である以上、カンピオーネが二人も行ったらどうなるか分かったもんじゃない」
鋼の神は、カンピオーネと相対したときに予想もつかない力を発揮することがある。
後付によって鋼を得たスクナビコナはそんなことは無かったが・・・孫悟空なら、ほぼ間違いなく起こる。
それ以前に、俺が行ったせいで敵が増えたりでもしたらそれこそ面倒だ。
「分かった。それなら、万里谷に何かあったら助けてやってくれるか?」
「やれる範囲でなら。まあ、誰も死なないようにお前以外には気を配ってやるよ」
そしてその後、祐理が倒れたのを見て酒を渡して車に乗り・・・
「おー、孫悟空でっかいなー」
「武双君。お願いだから前を見て運転してくれない?」
「大丈夫だ。今の俺は、後ろすら見える」
「もしそうだとしても、こっちからしたらヒヤッとするんだよねー」
車を運転しながら後ろを見たら、恵那に怒られた。
ということで、俺は前を向きながら後ろも見て、孫悟空のでかい手から逃げ続ける。
せっかく権能で気配を隠せる限り隠しているのに、権能を使うわけにも行かないからこうして避けてるんだけど・・・そろそろ避け続けるのも難しいかな。
「あ、マズ!」
「武双、何とかしろ」
「無茶な注文してくるな!」
孫悟空の指先がほんの少しテールランプにぶつかり、バランスを崩す。
このままだと間違いなく追いつかれる・・・仕方ないか。
「この世の全ては我が玩具。現世の全ては我が意の中にある。その姿、その存在を我が意に従い、変幻せよ!」
とっさに権能を唱えつつ、車に対して俺の意思どおりの動きをするよう、一度限りで命じる。
そのままスリップすらせず、普通に走り出すが・・・
『ほう、そこにもう一人神殺しがいるのか!』
チクショウ・・・やっぱりばれたか。
そのまま孫悟空は先ほどまでよりも勢いよく手を伸ばしてきて・・・途中で、その手を止める。
「何で孫悟空が手を・・・」
「・・・ああ、そう言うことか。やっとあいつが動き出したんだな」
俺は手が止まった理由を察して、そうつぶやく。
まったく・・・どうせなら、もう少し早く来いよ。それなら俺も、ここまでやる気には成らずに済んだのに。
「で、どうするんだ武双?逃げようと思えば逃げれそうだが」
「確かに、そうだな」
俺とリズ姉はエリカたちがスミスの登場に驚いている間に、会話を交わす。
「そうなんだけど、さっき権能を使ったせいかな。どうにも・・・戦いたくて仕方ない」
さっきから、体が高ぶって仕方ない。
早くまつろわぬ神と戦いたい。最源流に近いところに位置する鋼の神と戦いたい!
「そう言うわけだから、エリカ。後の運転は任せた」
「どういうことかしら?」
スミスとの挨拶を終えたエリカにそう聞かれて、俺は。
「ちょっと戦いたいからのこる。俺は俺で戻るから、気にするな」
「・・・あなたって、普段はまともそうなのにこういう時はカンピオーネらしくなるのかしら?」
「ああ、護堂みたいに隠すつもりはない。・・・戦うときは、最初ッから楽しむ」
そう言いながら降りて、スミスの隣に並ぶ。
「ここは久しぶりだな、と言っておこうか。神代武双よ」
「まあ、それでいいだろ。たまに中身と被るけどな、お前」
そう言いながら二人で孫悟空に向き直る。
「くくく、神殺し二人が相手か。よかろう、ならば孫様の神通力をしっかと見せてくれよう。これより従神顕現の大法を成就させん!」
そう孫悟空がほくそ笑んだ瞬間に、掌に二つの像が現れる。
猪と鬼神、か・・・やっぱり、出てくるんだな。
「宝照は天地を含み、神剣は陰陽に合う!我、孫大聖は義兄弟の契りを以って、賢弟たちを顕さん。出でよ、二弟・猪剛鬣!」
その瞬間に、猪の像が膨れ上がり、黒い甲冑をまとう巨大な神になった。
「出でよ、三弟・深沙神!」
鬼神の像もまた投げられ、神になる。
まさに鬼神、という出で立ちだ。
「やれやれ。ようやくもとに戻れたでござるよ」
「おひさしぶりです、大兄、二兄。察するに、身共の仕事はそやつらの始末でございますな」
おおう、恐れていたことがあっさりと起こったよ。
三蔵法師のお供、三柱大集合。
「さて、どうするスミス?向こうはなんか、でかくなったり竜を作ったりしてるけど」
「そうだな。とりあえず、あの竜の気でも引いてくれないか。後は、こちらに策がある」
「了解!」
俺はスミスに向かっていた竜に向けて雷を放ち、植物を操って邪魔をする。
「で、こっからどうするんだ?」
気付いたら豹の姿になっていたスミスに問いかけると、
「逃げる」
「・・・は?」
信じられない回答が返ってきた。
「何故彼がこのタイミングで残りの二柱を出してきたのか、その理由にはもう回答が分かっている。ならば、わざわざ人数的不利の中戦うこともあるまい」
「いやいやいや、そこは俺たちカンピオーネなんだからさ。ほら、つい最近俺も神五柱と戦ったところだし」
「なら、一人でのこって戦うかね?」
「・・・はぁ、分かったよ」
俺がそう返した瞬間にスミスがアルテミスの矢を放ったので、俺は舞台袖の大役者を使って強烈な光にも耐えられる目を作り出す。
そのまま空中で魔弾がはじけた瞬間にスミスの背に乗り、その場を逃げ出した。
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