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クズノハ提督録

作者:KUJO
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クズノハ提督帰還



「なぁ電。今更だが、二つ質問してもいいか?」
「なんでしょうか?司令官さん?」
「ドックって飯もあるのか?」
「えと、あるのだと思います…見たことはありませんが…」
「そうか…じゃあもう一つ」
「はい?」

「……何故、雷の服がボロボロになってたんだ?」
「それは…仕様なのです」

電曰く、艦娘は中破及び大破すると爆風で身に纏っている服も破れてしまうのだという。ただ、この際不思議な力が働いており、生身の体の方は無事なのだそう。

「…轟沈以外は、か」
「…なのです」

轟沈、別名Lost(ロスト)。艦娘の憔悴や過労により、不思議な力が働かなくなった際に敵から攻撃を受けて文字通り沈むこと…即ち死。

「轟沈したあの船…誰も乗ってなかったな」
「深海棲艦さんは、私達艦娘と同じく船単体で行動することが出来ますので…」

深海棲艦(しんかいせいかん)』…それは葛葉や雷電、だけでなく日本中の全ての提督と艦娘の敵の名である。日本国が提督になる者を募り資材を分け与える最大の理由。一部の国民以外には極秘事項とされているが、突如として世界中の海に現れ軍民間問わず幾多もの艦船を襲い、海の底へ沈めてきた危険な存在である。深海棲艦は、海へ沈んだ数多の船達の怨霊であるという説が最も有力だが、事実は未だ定かではない。

その深海棲艦の登場と共に『艦娘』という存在も発見された。人間に何故か好意的な艦娘達は、深海棲艦の不思議な加護を破ることが出来る為、深海棲艦に対抗できる唯一の存在として重宝されている。しかし、彼女達は第二次世界大戦時の艦船の化身として現れた為、現代の兵器を扱うことが出来ない。その為、当時使われた武器を再び作る技術が必要になった。

そこで、どこからか『妖精さん』と呼ばれる存在を艦娘達が連れてきたのである。妖精さん達は艦娘の命令に従順で、艦娘と同じく人間にも何故か好意的である。個々のスキルは非常に高く、武器の扱いや手入れは勿論、武器の開発や艦の建造の知識も持ち合わせている辺り、その姿はまるで日本の匠の技術の化身である。


「お待たせ司令官!」
「お腹いっぱいっぽい!」
「お、帰って来たか。」
ものの数分で二人が入渠ドックより出てきた。駆逐艦は全艦の中でも比較的小さい方なので、入渠にかかる時間も少ない。
「そういえば自己紹介がまだっぽい?白露型駆逐艦四番艦、夕立よ。よろしくね!」
「この鎮守府にて提督を務めている葛葉だ。しかし、どうしてあんな所に?」
「実は、遠征で資材を運んでる途中で敵襲に会って…皆とはぐれちゃったっぽい〜」
「そこを狙われた、と」
「ぽい」
夕立(ゆうだち)』と名乗った駆逐艦は決まり悪そうに頬をかきながら答えた。
「成る程…夕立、提督の名前は?」
「えーと、実は…配属されたばかりであんまり憶えてないっぽい」
「…これからはちゃんと覚えるんだぞ」
「ごめんなさい」
「まぁ仕方ないわよ!私だってまだ覚えてないんだし!」
雷は悪びれた様子もなく言ってのけた。
「雷ェ…」
「ちゃ、ちゃんと覚えるわよ明日までに…だから元気出して!」
一度とはいえ死線を共に潜り抜けた仲間に名前を覚えられていないとう事実に、少なからず葛葉はショックを受けた様だ。


それから雷に名前を覚えさせ、夕立に名前を覚えることの大切さを説き、日も沈み切った頃。
「…じゃあ明日知り合いの提督にでも聞いてみるわ」
「ありがと。メガネかけてるっぽいくらいしか憶えてないけど…お願いね」
「司令官!明日もまた来るのよ!絶対よ!」
「なのです!」
こうして葛葉提督の初勤務は無事に終わった。






翌日。葛葉は大学の教室で頭を抱えていた。
「探すとは言ったがどうやって…芝田にでも聞いてみようかな…でももし知らなかったら…うーん…」
独り言の多い提督である。
「何をブツブツと喋ってんのさ。怪しいぞ」
見かねた安藤が独り言でやたらと騒がしい葛葉に声をかけた。
「実はな…かくかくしかじか」
「ふむふむ…迷子の夕立か…私は知らんな。そんなこと言ってるやつもいなかったし…」
「言ってる?」
「専用スレが立ってる」
「あ、そうなんだ…」
安藤は生粋のインドア派である。
「芝田にも聞いてみたら?」
「ん、僕がどうした?」
「噂をすれば!?」
意図した様子では無さそうだが、あまりにもベストタイミングの出現である。
「聞きたいことが…ってか芝田お前顔色悪いな。どうかしたのか?」
「あー…実は、昨日鼠輸送に失敗しちゃってね…」
「お前も大変だな」
「不幸としか言えんわ…」
「旗艦曰く、敵に待ち伏せされてたみたいで…ルート練り直さなきゃ…」
「ん?敵と交戦したのか?」
「うん。すぐに撤退したらしいんだけど、一隻だけ迷子になったみたいで…昨日は一睡もできなかったよ」
「それは…辛いな…」

鼠輸送任務…それは激戦地である南西諸島に物資を輸送するという任務なのだが、そんな場所に一隻だけ取り残される…それはどれだけ絶望的なことかは自明であった。

「その艦ってもしかして…夕立だったりしないか?」
「それはないでしょ…」
「え、どうして知ってるの?」
「「え…は?」」
葛葉もまさか当たるとは思わなかったのだろう。暫く安藤と二人して唖然としていた。
「え、嘘でしょ?」
「嘘なんかついてどうするのよ。で、何で知ってるの?」
「実はな」
葛葉は先程安藤に話した経緯を再び説明した。
「そうか…名前覚えられて無かったのか」
「そっちかよ」
「冗談冗談。本当に、無事で良かった…」
「明日丁度休みだし、お前の着任してる所も見てみたいから連れて行くぜ。」
「本当かい?それは助かるが」
「その代わり、二人ばかり一緒に連れて行ってもいいか?」
「構わないよ。むしろ大歓迎だ」
「お、じゃあ私も特に用は無いが」
「来たいなら来ればいいじゃない。安藤は近いんだし」
こうして第一回提督交流会という名の、ただ知り合い同士で駄弁るだけの会が開催されることになった。







「おやつは一人500円までな」
「バナナはおやつに含むっぽい?」
「無論だ」
「へ?含むの?ひどーい!」
その日の午後、鎮守府付近のコンビニエンスストアにて四人はお菓子を買いに来ていた。



鎮守府にて交流会の旨を伝えた際、雷と電は大喜びで
「遠足よー!」
「遠足なのですー!」
とはしゃぎ回り、電が何もないところで転んだ後、葛葉の
「夕立の司令官が見つかったから、そいつに送り届けるために行くんだ。失礼の無いようにな」
という注意で今度は夕立までもが大喜びではしゃぎ回り、また電が何もないところで転ぶという事件が起こった。



「全員選んだなー、って雷。それは明らかに多いだろ」
葛葉の言う通り雷は両手だけでは持てないほどのお菓子を腕に抱えていた。
「これは…今日食べる分なんだから!本当よ?」
「そうか。それなら帰ったら皆で食べような」
「う…はーい」
雷は観念した様に山盛りのお菓子を差し出した。



その日は集まる集合場所の関係で葛葉も鎮守府に泊まることとなったのだが、その夜彼は艦娘達の仕組みについて教わることとなった。
「あ、船どうしよ…」
「船がどうかしたの?」
「いや、確かお前達艦娘は軍艦の化身…なんだよな?だったら、あまり本体の船から遠くには行けない、とかあったりするんじゃないか?」
「あー、無くはないわね」
「でもよっぽど遠くじゃない限りは大丈夫っぽい?」
「いや、200km以上はあるんだが…」
「それなら、船を一時的に片付ければ済むのです」
「片付ける?え、どういうこと?」
「そのままなのです。陸を移動する為に一旦船を片付けて、移動した先でまた船を海に戻すのです。……戻した時に水や深さが足りないと事故に繋がりますが」
「あの大きな船をか?一体どこに?」
「それは…」
「正直私達にも分からないことは多いの。ただ片付けたいと思った時に片付けることが出来るってだけなのよ…」
雷と電は困った様子でお互いの顔を見合わせた。
「すまん、変なことを聞いたな…」
「いいのよ!それだけ司令官が私達に興味を持ってくれてるってことなんだから、むしろ嬉しいわ」
「葛葉提督さんは私達に興味津々っぽい?」
「それ、他人の前では絶対に言わないでくれよ?」
そうして夜は更けていき、四人は翌日の交流会という名の遠足の為に、早めに寝ることにした。

 
 

 
後書き

どうも。KUJOです。

気がついたら一週間超えてしまいました…。
少々途方に暮れた後、とても申し訳ないという気持ちでいっぱいになりました…。

次からは一週間以内を厳守していけるように頑張ります。

 
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