Element Magic Trinity
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忠告
全身傷だらけで意識を失うのは、災厄の道化の“死の人形使い”、マミー・マン。
それを見下ろすように立つルーは、目眩がしたようにふらついた。
「ルー!」
気づいたルーシィが慌ててルーを抱える。
少し顔色の悪いルーは息を切らしながら、無理に微笑んだ。
「はぁっ・・・ごめん、ルーシィ・・・少し、魔力が・・・」
「いいから少し休んで、ね?」
「うん・・・」
床に寝転がったルーは大きく息を吐いた。
元素魔法・第二開放、大空の支配者を発動させたルーの魔力は少ししか残っていない。
最低限の魔力以外の魔力を空気内に放ち、風を操るのに魔力を使い・・・元々ルーの魔力は多い方ではない為、体力的な意味でも魔力的な意味でも疲労が半端ないのだ。
「あー・・・勝ったんだよね、僕・・・」
「そう、ルーは勝ったのよ!てか、ホントに大丈夫?苦しそうだけど・・・」
「大丈夫だよう・・・多分」
「多分って・・・」
高熱に魘されるように苦しそうなルーをルーシィは心配する。
すると、ルーが小さく口を開いた。
「ねぇ、ルーシィ」
「ん?どうしたの?」
「・・・サヤは、大丈夫かな」
「!」
サヤ。
自分に似ている、ルーの友達。
そして――――――既に、故人。
それしかルーシィは知らない。そもそも知ろうとさえ思った事が無かった。
だから大丈夫か、と聞かれても答えに困る。
「あ・・・そっか、まずはサヤについて話さないといけないよね」
「え、でも・・・話して大丈夫なの?」
「問題ないよ」
ルーシィとしては、死んだ友達の話をするというのは辛い事だろうから自分から聞き出す事はしなかったのだが、ルーは微笑んで首を横に振る。
えい、と小さく呟きながら上半身を起こしたルーはポツリポツリと語り始めた。
「サヤはね・・・僕の家の隣に住んでる子だったんだ。僕より2つ年下なんだけど、いつも僕を引っ張っていくような子だった」
懐かしむように語るルーを、静かにルーシィは見つめる。
「僕はサヤが好きだったし、サヤ以外を好きになる事なんてないだろうなーって思ってた。アマリリスには歳の近い女の子があんまりいなくてね・・・。ずっと一緒にいよう、って約束したっけ」
自分の右手の立てた小指に目を向け、ルーは目を細める。
絡めて上下に揺らして、指切りの歌を口遊んで。
あの日の光景が鮮明に脳裏に流れた。
「でも・・・死んじゃった。あの日に、殺されちゃったんだ」
その声は、いつもと変わらない。
辛そうな訳でも、悲しそうな訳でもなく。
感情が篭っていながら淡々とした声だった。
「凄く悲しかった・・・悲しかったはずなのにね?泣けなかったんだ。村が滅びて父さんと母さんが死んだって事を知った時は大声で泣いたのに、サヤを見ても涙なんて出てこなかった。おかしいよね・・・大好きだったはずなのに」
悲しかった。
どうしようもない辛さや悲しさ、何で自分だけが生き残ったんだという、どこにぶつけていいか解らない怒り。
その全てをあの日、ルーは抱えた。
人が死ぬ事で抱える感情の全てを抱えて、泣いたはずだった。
―――――なのに、サヤの死に涙が出てこないのは、何故?
「泣いてないって事に気づいた時・・・一瞬、僕って人間じゃないのかなって思ったんだ。人間だったら大好きな人の死に泣けるはずなのに、泣けなかったから。その時、怖かった。もし人間じゃなかったらどうしようって、みんなが死んだ事に対する恐怖よりも、怖かった」
カタカタと、ルーの体が震える。
その顔には笑みがあるが、明らかに無理しているような笑みだった。
「だからね・・・僕はずっと、大好きな人を作らなかったんだ。その人が死んだ時に、サヤの時みたいに泣けなくて同じように人間じゃないって怖い思いをしたくなかったから。ティアとアルカは好きだけど・・・大好きってほどではなかったし、大好きにしたくなかった」
自分勝手だね、とルーは呟いた。
9歳の誕生日に抱いた恐怖は、9歳の少年が抱えるには大きく、重すぎた。
そして、その時のルーの周りに、その恐怖を薄れさせてくれる人はいなかった。
「だからさ、実はルーシィを好きになった時、不安だったんだよね。また同じ思いするのかなって。今考えるとバカっぽかったよ・・・自分の気持ちにワザと気づかないフリして、ルーシィの事“キャバ嬢”って呼んでさ・・・名前で呼ぶのが、怖かったんだと思う。想いに気づきそうで」
いつも笑顔で、いつも呑気で、いつだってツッコみどころ満載で。
それでもルーは悩み続けていたのだ。
悩みとは無縁そうな性格だから悩まない訳じゃない。
誰にも打ち明けられず―――――ティアさえにも、打ち明けられずに悩んできたのだ。
「けどさー・・・隠すのめんどくなっちゃったんだよね。てか、そもそもルーシィは強いからそんな簡単に死んだりしないって気づいたんだ。だから―――――宣戦布告、させてもらった」
宣戦布告、という名の告白。
父親と決別した際の光景を思い出し、ルーシィは赤くなる。
「え、えと、その・・・」
「ん、いいんだよルーシィ。気にしなくて」
「へ?」
戸惑うように視線を泳がせたルーシィに、ルーはふわりと微笑む。
「無理に返事を出さなくていい。ただ、僕が言いたかっただけだから。頭の片隅にでも置いてくれれば、それでいいんだよ」
ほわほわとした雰囲気を纏うルー。
先ほどまでの大空の支配者発動時の年相応感はすっかり消え失せている。
ここまで消え失せていると拍手を送りたくなるほどだ。
「・・・うん」
こくり、とルーシィは頷きながら、何かが自分の中でふわふわと曖昧になっている気がしていた。
それが何かは解らない。
今まで抱えた事のないそれに違和感を覚えながら、ルーシィは頷き―――――
「・・・ハハッ、青春ってヤツだねぇ」
突如響いた、マミーの声に意識を持っていかれた。
慌ててマミーに目を向けると、彼女は大の字に倒れ込んでこっちを見ている。
きっと彼女の目には2人や世界が逆さまに見えているだろう。
ボロボロの傷だらけだが、その顔には笑みが浮かんでいる。
「ルーシィ、下がって。コイツ・・・」
「待ちなよ風使い。アタシにもう戦意なんてないんだからさ」
「は?」
思わずルーは眉を顰める。
それに構わず、マミーは続けた。
「こんだけボロボロでこの状況に1番使える人形もないんだ。アタシにとっちゃ絶体絶命ってワケよ。なのにわざわざ自分から死ぬような事しないっての」
確かにその通りである。
ルーは左手に纏わせた風を消し去りながら、それでも警戒を完全に解く事はせずにマミーを睨んだ。
「・・・ねぇ、アンタ達さ」
「何?」
「本気でティア嬢、助けようと思ってるワケ?」
マミーの問いに、2人は顔を見合わせた。
2人の顔には「一体コイツは何を聞いているんだ?」と言いたげな、キョトンとしたような不思議そうな表情が浮かんでいる。
「当然でしょ!ティアは仲間なんだから助けて当然じゃない」
「そうだそうだー!」
ルーシィの言葉にルーは大きく頷く。
それを聞いたマミーは一瞬驚いたように目を見開き、すぐに溜息をついた。
「バカだなぁ・・・アンタ達、何で自分から地獄に向かって行くかねぇ」
「はへ?」
「地獄?」
ゴロリとうつ伏せになったマミーは痛そうに表情を歪めながら起き上がり、近くの壁に背を預けた。
左膝を立て、ボサボサの髪の間から瞳を覗かせる。
「アンタ達と戦うのはなかなか楽しかったからね・・・これで潰せりゃもっと楽しかったんだけどさ。勝者に1つ、忠告してあげようじゃないか」
「忠告?」
そっ、とマミーは頷いた。
戦っている間は残酷な奴にしか見えなかったが、優しい面もあるようだ。
目にかかる髪を鬱陶しそうに右に避け、マミーは口を開く。
「シャロン様とシオ、パラゴーネには気をつけな」
重い声だった。
その声に嘘は見られない。見られないというより、微塵もない。
正真正銘、本当に彼女はそう忠告してるのだ。
「まず、シャロン様の強さは桁違いってモンなのさ。アンタ達のトコの妖精女王だろうと勝てないだろうね。マスターマカロフ辺りが妥当なトコって感じだ」
シャロン=T=カトレーン。
ティア達にとっては祖母に当たる、カトレーンの現当主。
ルーシィ達にとっては、敵のボスという認識だが。
「次にシオ。アイツは・・・このアタシでさえ戦いたくない奴だ。いや・・・アイツの前に立ち塞がる事もしたくないね。死んだ奴に取り憑くのはいいけど、自分が灰になるのはお断りってモンだよ」
シオ・クリーパー。
ルーシィ達は彼女を知らない。
が、マミーの顔色が若干青い所を見ると、相当強いのだろう。
「で・・・パラゴーネ。コイツはアンタ達も知ってるだろ?天秤宮を司る、重力造形の使い手だ」
2人は素直に頷く。
桃色の髪の少女の姿が浮かんだ。
燃える炎をそのまま宿したような紅蓮の瞳とは裏腹に冷たい口調だったのをよく覚えている。
「アイツはね・・・この世で2人にしか興味がないのさ」
「え?」
左手の人差し指と中指を立て、マミーが呟く。
思わずルーは聞き返した。
「1人はアンタ達とは所属が違うからともかく、もう1人はヤバいね。アンタ達のギルドの人間だし、塔の中にいる」
「ええっ!?」
「誰よそれっ!」
2人は声を大きくした。
自分のギルドの人間が狙われていると知ったのだから当然だろう。
突然大きくなった声に耳を塞いだマミーは両耳を塞ぐ手を離し、こめかみ辺りに人差し指を当てる。
「んー・・・何て言ったかな。色みたいな名前だったのは覚えてるんだよ。えーっと・・・」
ここまで敵に情報を与えていいのかとツッコみたくなるが、マミーは別に構わないようだ。
真剣な表情で頭を捻らせ、「ああ!」と思い出したように指を立てた。
「確かグレイだ。グレイ・フルバスターって名前だったよ」
「がっ!」
ルーシィとルー、マミーがそんな会話をしているのと同時刻、グレイは吹き飛ばされていた。
壁に直撃したグレイはすぐさま体勢を立て直し、前を睨みつける。
「ヤロウ・・・」
「この程度か・・・ウルの弟子でありながら。想像以下過ぎて退屈」
「アァ?」
目の前に立つ少女は無傷で、この状況でありながら欠伸さえ吐き出した。
ふわりと揺れる桃色の髪、燃えるような紅蓮の瞳。
自分と同じ造形魔導士の少女の登場に、グレイは敵を睨んだ。
睨まれた少女はその視線を消し去るように片手を振り、無表情のまま告げる。
「私は天秤宮のパラゴーネ・・・ウルの弟子よ、それ相応の力を見せなさい」
「グレイ!?」
2人は顔を見合わせた。
ルーシィは同じ最強チームだし、ルーは同期。
それなりにグレイを知っているつもりだが、パラゴーネという少女の事はもちろん、狙われるような事をしたとも聞いていないし、知らない。
「どうして・・・」
「そんなの知らないね。ただアイツがここ最近呪文みたく、潰してやるとか殺してやるとか言ってたから知ってただけだし」
ひょいっと肩を竦めたマミーはガシガシと頭を掻きむしった。
その様子を見たルーシィは、ずっと気になっていた事を尋ねる。
「ねぇ・・・何でアンタ達はティアを連れ帰ろうとしたのよ?」
そう。
一族の人間のクロスでさえ知らない事を、ルーシィ達が知る訳もない。
フルールでそれなりの聞き込みはしたが、カトレーンについては『名家』とか『優秀な人だけで構成されている絵に描いたように完璧な一族』とかしか情報が得られなかった。
何故、出来損ないとまで罵ったティアを連れ帰ろうとしたのか。
ルーシィの問いに、マミーは数回瞬きをし―――――――
「・・・さあ?」
首を傾げた。
それには思わずルーシィもルーも、目を見開いて口をあんぐり。
「はああああああああっ!?」
「えええええええええっ!?」
声を揃え、叫んだ。
突然の大音量再びにマミーは両手で耳を塞ぐ。
2人の叫びが消えると、耳がおかしくなりそうだ、と呟きながらマミーは両手を下げた。
「ちょ、ちょっと!さあってどういう事よっ!」
「さあはさあって事だよ」
「答えになってないしっ!」
ケロッとした様子で答えるマミーにルーシィはツッコみを入れる。
その横で「ナイスツッコミだよ、ルーシィ!」と拍手していたのは余談だ。
「言っとくけど、今回の計画をアタシ達全員が知ってると思ったら大間違い、見当外れもいいトコだよ。災厄の道化じゃ知ってんのはマスターと作戦参謀だけさ」
「参謀?」
マミーが言った言葉にルーが首を傾げる。
頷き、マミーは続けた。
「そっ、ウチの作戦参謀チャン。超優秀!作戦練りならティア嬢に並ぶと思うよ」
ニッと笑うマミー。
「実力だって折り紙つきさ。ま、遊撃部隊のアタシには敵わないけどね」
そう言うと、マミーはパタッと横に倒れた。
突然の事にルーシィもルーも驚き戸惑う。
「え、何!?」
「大丈夫!?」
「ただ眠いから寝るだけで心配されるとは、随分と落ちぶれたモンだね。アタシも・・・」
笑い、目を閉じる。
そしてそのまま、気を失った。
どうやら力尽きたようだ。
そんなマミーに目を向け、2人は顔を見合わせ、首を傾げる。
「で、結局コイツ等の目的は・・・?」
「ってか、作戦参謀が誰か解んないから聞きようがないし・・・」
「困ったね・・・」
「困ったどころじゃないわね」
肝心な事を言わずに気を失ったマミーを見て、2人は同時に溜息をついた。
「チッ・・・」
ザイールは自分でも無意識のうちに舌打ちをしていた。
目の前で怒るジュビアの怒りは未だに収まらず、それどころか怒りが増幅されている気もする。
今までで1番面倒な奴を相手している、とザイールは何の根拠もなく、そう思った。
「っ・・・」
一方、ジュビアはジュビアで違和感のようなモノを抱えていた。
爆発系の魔法―――――――爆魔術と呼ばれる魔法を操るグレイ似の青年(そう思う度にジュビアの脳裏に本物より5倍はイケメンのグレイが現れる)を、どこかで見た事がある気がしてならないのだ。
(でも、ジュビアの知り合いにこんなにグレイ様に似ている人っていたかしら・・・?)
記憶を片っ端から引っ張り出していくが、どう漁ってもザイールという青年に関する記憶はない。
だが、ジュビアは記憶喪失になった事など当然ないし、特定の記憶を抜かれるような実験の実験台にされた事も当然ない。
という事は面識がないという事なのだろうが、それにしては違和感が大きすぎる。
「あなたは一体、誰なんですか?」
どう考えても思い出せないジュビアは思わず訊ねた。
その問いにザイールは動きを止め、目線を下へと下げる。
そして―――――ゆっくりと、口を開いた。
「かつて幽鬼の支配者に所属していたとは思えない発言だな」
「は・・・?」
ジュビアは首を傾げる。
何故今ここで幽鬼の支配者の名前が出てくるのかが解らない。
その姿を見たザイールは「滑稽な」と小さく呟いた。
(何を・・・?)
ザイールの行動と言動の意味が解らず、ジュビアは戸惑う。
するとザイールは――――
「!」
刹那、小規模の爆発が起こる。
ザイールが先ほどいた場所から煙が立っている事を見ると、足元を爆発させて飛び出す威力を高めたのだろう。
ジュビアがそれに気付いた時には、ザイールは既にジュビアのすぐ前にいた。
黒いつり目が、残酷に輝く。
「一撃必殺――――――――」
「っしま・・・」
一撃必殺。
その言葉が意味する事に気づいたジュビアは慌てて距離を取ろうとする。
だが、ジュビアの行動より、ザイールの魔法の方が早かった。
「魔轟爆陣!」
藍色の魔法陣が展開する。
ザイールの鋭い声に反応したように魔法陣が輝き―――――爆発した。
「あああああああああっ!」
ジュビアの絶叫が響く。
タン、と距離を取るザイールの様子は変わらない。
ドサッと落ちたジュビアは、一瞬にして傷だらけとなった。
「う・・・くっ・・・」
「ほう、俺の魔轟爆陣を喰らって生きているとは・・・無駄にしぶとい女だ」
ボロボロ状態だが起き上がろうとするジュビアに目を向け、ザイールは呟く。
魔轟爆陣―――――それは、ザイールが敵だと見なした者にだけ使う、高威力の爆発魔法。
バンバン使うような魔法ではない。
ザイールが相手を敵だと見なす事など、滅多にないのだから。
「何でっ・・・何で、幽鬼の支配者の名前を・・・」
そんな状態でありながら、ジュビアの問いに変化はない。
何故ザイールが何者かを聞く事が幽鬼の支配者の名前が出る事になるのか・・・それがジュビアには解らないのだ。
「何で、だと?」
その問いに、ザイールはピクッと眉を上げる。
そして―――――変わらない声色で、告げた。
「かつて所属したギルドの名を出すのは禁忌では無いはずだが?」
ジュビアは目を見開いた。
かつて所属したギルドの名―――――その言葉が意味するのは、ただ1つ。
それと同時に、ジュビアの脳裏にとある記憶が流れた。
「ここが幽鬼の支配者・・・」
「そうですよ、今日からあなたの所属するギルドとなる場所です。ここは支部ですので、あとで本部も案内しましょう」
物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回すのは、幽鬼の支配者に加入する前のジュビアだ。
暗い色のコートに外に巻いた青い髪、胸元にはてるてる坊主で手にはピンクの傘を持つ。
そんなジュビアを案内するのはマスタージョゼだ。
「マスター、と・・・新入りか?」
「ああ、丁度いい所にいましたね」
「今仕事から帰って来たところだ・・・で、その女は?」
ジョゼに声を掛ける青年に、ジュビアは目を向けた。
黒髪に黒装束という、暗闇に隠れてしまえば絶対に見つけられないような姿。髪の下から覗くつり気味の黒い目。
その右手の甲には、幽鬼の支配者の紋章が刻まれていた。
「紹介します。彼女はジュビア・ロクサー。今日からこのギルドに入る、水の魔導士です」
「ジュ、ジュビアですっ!これからよろしくお願いしますっ」
突然の事に思わずジュビアは戸惑いながらもペコリと頭を下げる。
青年は友好的な笑みを浮かべたまま手を差し出した。
「俺はザイール・フォルガだ。よろしく頼む」
「嘘・・・そんな・・・っ」
「思い出したようだな。俺が誰かを」
信じられなかった。
信じたくなかった。
見開かれた目に、友好的に微笑むザイールは映っていない。
ジュビアを冷酷に見下ろす、ザイールが映るだけだ。
「ザイールさん・・・なんですね・・・?」
ジュビアの言葉に、ザイールは首を横に振った。
予想外の返事に更に目を見開くジュビアを見て、ザイールは続ける。
「生憎だが、俺はお前の知る俺ではない」
ここに、ジュビアの知る“幽鬼の支配者のザイール”はいない。
いるのは―――――ザイールという名の、敵。
「俺は災厄の道化の“氷爆”ザイール・フォルガだ」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
この1話を書くのに3日費やしてる私って一体・・・。
ニルヴァーナ編とかは1日1話更新出来てたんですけどね・・・オリジナルって難しい。
さーて、ジュビアとザイールの戦いの決着を考えなければ。
感想・批評、お待ちしてます。
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