雑炊
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第三章
第三章
「色々食べるよ」
「雑炊ね。私もね」
「好きなんだ、雑炊」
「お米のお料理好きなの」
日本人に相応しい言葉だった。
「お粥も好きだし丼ものもカレーも炒飯も」
「何でも好きなんだね」
「だって。御飯は主食よ」
だからだと言うかな恵だった。
「それでなの」
「そうだね。御飯がないとね」
「パンは主食じゃないから」
これまた実に日本人的な言葉だった。
「やっぱり御飯がいいから」
「それで雑炊も好きなんだ」
「そうなの。最近食べたのは」
「どんなのなの?」
「お粥ってなってるけれど」
こう前置きしてからだ。かな恵は雄策に話すのだった。
「あれは実質的には雑炊かしら」
「そうしたのっていったら」
こうした話だけでだ。雄策は察した。そうしてそれが何かを彼女に言ってみせた。
「あれだよね。中国のお粥だよね」
「ええ、それなの」
「中国のお粥ってただお米を炊くだけじゃない場合があるから」
「そうそう。具が入ってて」
「そういう感じだから雑炊に近いよね」
「それでね。そのお粥ってね」
笑顔のままでだ。かな恵はその中国のお粥について話した。
「あれだったのよ。豚の内臓が入ってて」
「ああ、及第粥だね」
「そういう名前なの、そのお粥って」
「何だったかな。試験に合格する為に体力をつけるようにって考えられたお粥で」
科挙のことである。中国の歴代王朝が行ってきた高級官吏登用試験だ。最後の試験まで合格するのは相当困難なことだったことでも有名だ。
それに合格する体力をつける為にだ。その粥が考え出されたのである。
「それで豚の内臓が入ってるんだ」
「豚の内臓は身体にいいからよね」
「そうだよ。それでだよ」
まさにそれでだというのだ。
「そうした料理なんだ」
「成程。そうなのね」
「それでかな恵ちゃんそれをまた食べたいの?」
「ううん、あれはお粥だったけれど」
それでだ。どうかという話にするかな恵だった。
「私はね。そういうのじゃなくて」
「お粥じゃなくて?」
「雑炊を食べたいかなって」
いささか曖昧な表現で話す彼女だった。
「そう思ってるんだけれど」
「雑炊なんだ」
「そう、雑炊ね」
それだとだ。かな恵は笑顔で話す。
「雄策君雑炊好きだし。作れるかしら」
「そうだね。豚の内臓を使った雑炊ね」
「それ作られる?だった材料は買って来るから」
「それを僕が作って」
「一緒に食べない?」
明るい笑顔でだ。雄策に言うのだった。
「そうしない?」
「そうだね。いいね」
雄策も笑顔でかな恵の言葉に頷くのだった。
「それじゃあね」
「じゃあ決まりね。それなら」
「レシピだけれど」
「お粥と雑炊じゃ違ってくるわよね」
「似てるけれど違うから」
お粥と雑炊は似ているが違う料理だ。その差は近いが確かに大きなものだ。雄策はそれを踏まえてかな恵に対して話すのである。
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