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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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やっぱりハッピーエンドはアレだよねby???

†††Sideなのは†††

(まさかプロポーズの場面に立ち会うなんて思いもしなかったなぁ)

ルシル君のあまりに突然なプロポーズって言うサプライズ。テレビの中でしか見たことのないよ、実際にプロポーズする場面って。にしても本当にいきなりだった。カルナージでの私たちの会話を聞いていたからかな。

――私ってここまで独占欲強かったかなぁ?――

――そこまで気になるんだったら、さっさと結婚しちまえよ、おまえら――

――結婚したとして、ファミリーネームなどはどうするんだ?――

――フェイト・テスタロッサ・セインテスト・ハラオウン・フォン・シュゼルヴァロード、とか?――

――どこの芸術家の名前だそれは?――

――結婚ってまだ早いよ――

――早いつってももう二十六だぜ? 早くしねぇと行き遅れるんじゃねぇか?――

ってやつ(最後のヴィータちゃんの言葉には素で傷ついた)。たぶんそれだけじゃないんだろうけど。二ヵ月前のスンベルでの一件。シェフィリスさんと何かしらの話をしたんじゃないかな、って思ってる。だからルシル君は決意したんだ。今のフェイトちゃんとの関係を変えるって言う大きな事を。
フェイトちゃんとルシル君は恋人の関係だけど、私たちにはさらに仲良くなった友達っていう関係にしか見えなかった。フェイトちゃんは気付いていないかもだけど、恥ずかしいとか早いとかで一歩引いてたんだよね。それを変えることの出来る、一歩進む事の出来る言葉が、プロポーズなんだ。

(ルシル君は望んだんだね。形だけの恋人じゃなくて、その先を)

フェイトちゃんも応えたし(まぁ断るわけないよね)、フェイトちゃんも望んだんだ。ルシル君と本当の意味で先へと進む事を。やっとだよ、ホント。

「ビックリしたね、なのはママ。ルシルパパがフェイトママに、その、プ、プロポーズするなんて」

自室に荷物を置いて戻ってきたヴィヴィオがそう言って頬をうっすら染める。ルシル君のプロポーズを思い出して照れちゃってる。可愛い♪
でもいつかヴィヴィオにもプロポーズをしてくれる男性が現れるんだろうな。ちょっぴり寂しいな。だけどそれ以上に嬉しい。ヴィヴィオを大切に想ってくれているって事だから。

「そうだね~。ビックリしちゃったね♪」

と同意して、フェイトちゃんとルシル君から連絡が来るのを待つ。今頃、リンディさんやクロノ君、エイミィさんとアルフに話しているかな?
あーでも絶対に一発で婚約OK貰えるはずだよね。リンディさんとエイミィさんとアルフは、フェイトちゃんとルシル君の結婚を望んでたし。クロノ君は・・・たぶん祝福してくれるはず。親バカだけど、シスコンじゃないはずだから。

「なのはママ」

「ん? どうしたのヴィヴィオ」

何か不安があるのか、ヴィヴィオが暗い表情で私を呼んだ。娘のそんな似合わない表情に、私は目線を合わせて微笑んでみる。

「フェイトママとルシルパパが結婚したら、わたし、もうフェイトママとルシルパパって呼ぶの、止めた方が良いんだよね・・・?」

「あ・・・!」

そうか。確かに二人が結婚しちゃったら、二人をママとパパって呼ぶのはおかしいよね。周囲に妙な勘違いをされそうだし(特にルシル君が)。でも今さら変更させるのも・・ううん、フェイトちゃんとルシル君は先に進もうとしてる。だったら私たちも先に進まないと・・・ダメ、だよね・・・?

「ヴィヴィオ。えっと・・・」

「うん、解ってる。これは・・・大事なことなんだよね。フェイト、さん。ルシル、さん。・・・・うん、ちょっと胸が痛いけど、大丈夫」

ヴィヴィオは両手を胸に添えて、寂しそうな微笑みを返してくれた。私はヴィヴィオを抱きしめて、「ごめんね」と謝る。フェイトちゃんとルシル君の仲を祝福するには必要なんだ。ヴィヴィオのフェイトママとルシルパパ離れ。私がフェイトちゃんより早くルシル君と逢っていれば、ヴィヴィオに悲しい思いをさせずに済んだのかな・・・。

(でも、ルシル君は私よりフェイトちゃんの方が良いはずだよね・・・)

っと妙な思考を始めちゃった。だけど、そう思うと少し胸がチクってした。もし“ジュエルシード事件”の時、フェイトちゃんのところにシャルちゃんが来て、私のところにルシル君が来ていたら。そうだったら私とルシル君の関係はどうなっていたんだろう。
シャルちゃんがそうだったように、フェイトちゃんにしてあげたように、私を守ってくれたのかな。楽しい事を一緒に分かち合って、辛い事も一緒に分かち合って、そうやって一緒に笑い合えていたのかな。そう思ったら、胸にストンと入りこむ想い。そうか。私、知らない間にルシル君のことを好きになっていたんだ。

(だからこんなにも胸が痛いんだ)

弱い痛みが少しずつ大きくなっていってる。だけどそれはIFの話。この世界ではもうあり得ないことなんだ。

「なのはママ? どうしたの・・・?」

「え? ううん、ちょっと子供の頃のことを思い出してた。もし私のところにシャルちゃんじゃなくてルシル君が来ていたら・・・って」

心配そうな表情を見せたヴィヴィオに正直に答える。するとヴィヴィオは、「ルシルパパがわたしの本当のパパになってたって事?」と小首を傾げる。口に出して答えられない。答えは、判らない、からだ。
ここまで自分が鈍感だったなんて信じられない。フェイトちゃんとルシル君の婚約ってところまで行かないと自分の想いに気付かなかったなんて。だからたとえルシル君が私のパートナーだったとしても、ただの友達のままでズルズル来てたかもしれない。ダメだなぁ。男の子との関係云々って、子供の頃から全然・・・・

(・・・・あ、ユーノ君・・・)

そこまで考えたところで、ふと浮かんだユーノ君の顔。私に魔法をくれた大切な友達。現在(いま)の私があるのは、ユーノ君のおかげだ。ユーノ君と出逢えたから、ユーノ君が魔法を教えてくれたから、今こうしてヴィヴィオのママで居られる。
それだけじゃない。シャルちゃんと出逢えた。フェイトちゃん、アルフと出逢えた。ルシル君と出逢えた。クロノ君にリンディさん、エイミィさんと出逢えた。はやてちゃん、ヴィータちゃんとシグナムさん、シャマル先生とザフィーラ、リイン、リエイスさんと出逢えた。スバルとティアナ、エリオとキャロと出逢えた。多くの人と知り合えて、友達が出来て、夢の無かった私に夢が生まれて、私の世界が広がった。

「ユーノ君・・・・」

「?? ユーノ司書長がどうしたの?」

「なのはママ、本当に鈍いんだなぁって思ったの」

「??」

シャルちゃんより早く、フェイトちゃんより早く、ルシル君より早く、クロノ君たちより早く出逢っていた人。どうして今まで・・・・気付かなかったの。胸の痛みが綺麗さっぱり無くなった。ルシル君への想いはもう思い出として小さくなったんだ。

――私は今度こそフェイトちゃんとルシル君に幸せになってほしい。そう思うんだ――

――なのはも幸せになんないとダメだよ? 相手も身近に居るんだし、そろそろ将来を考えないと――

――相手? 私にそんな人、身近に居ないんだけど・・・――

シャルちゃんが戻って来たときに私に言ってくれた言葉。その時はああ言っていたけど。身近に居る相手。シャルちゃんはきっと・・・。

(ユーノ君のことを言ってたんだ)

出逢ってからずっと大切な友達だった。あまりにユーノ君が身近過ぎて思えなかった事。うん、言い訳だけど、ユーノ君との出逢い方にも問題があった。ユーノ君と初めて逢った時、ユーノ君ってフェレット形態だったんだもんっ。
あとで人間の男の子だって判っても、どうしても異性とは思えないほどにフェレットが馴染んでいて・・・。でもそうだよね。ユーノ君だって男の子なんだ。今になってそうゆう風に捉えるなんて。

「え? なのはママどうしたの本当にっ? 顔がいきなり赤くなったよ!」

「うあぅ、ごめんヴィヴィオ。今はスルーして・・・」

ヴィヴィオを抱きしめていた腕を戻して、両手で顔を覆い隠す。一度そういう対象として考えてしまうと、あとはどうしようもなくノンストップだ。

†††Sideなのは⇒はやて†††

「にしてもビックリしましたねぇ~」

「だなぁ~。つうか初めて見た、プロポーズっていうの」

「わたしもですよっ。フィクションでなら見たことありますけど。実際に見ると・・・はわぁ、今でもドキドキしますぅ」

リインとアギトは次元港での超絶なサプライズを思い出して、また顔を赤くしとる。ルシル君のフェイトちゃんへのプロポーズ。テレビとか映画、本とかで色々見知ってたんやけど、実際に立ち会うと全然違う。しかも親友がするんやから、こっちの方がドキドキやった。

「セインテスト君って結婚とかに拘らないと思っていたから、私も驚いちゃったわ♪」

「そうか? セインテストとて人の子だ。そういう願望があってもおかしくはないだろう」

「てかあたしらの会話を聞かれたからこそ踏み切ったのかもな」

シャマルもちょお頬を赤くして、両手を頬に添えてニコニコ。カルナージでのオフトレツアー、その二日目――つまり一昨日の話や。
フェイトちゃんがやきもち焼いて、レヴィに協力してもらってルシル君にムーンライト・ブレイカーをぶっ放した後のこと。私とシグナムとヴィータとリエイス、それになのはちゃんとフェイトちゃん(ノーヴェは見てただけやな)で結婚の話をしてたんやけど、行き遅れとか(これには傷ついた)色々と。
それをルシル君に聞かれてたんは知っとった。でもそやからと言って、ルシル君が焦ってプロポーズするとは思えへん。

「たぶんやけど、シェフィリスさんに何か言われたんちゃうかなぁ」

二ヵ月前のスンベル事件(私ら限定のやけど)で、フェイトちゃんとルシル君とシェフィリスさんの三人だけで戦ってたし、その時になんかあったんかも。それかルシル君はずっと前から考えてたんかもな。うん、ありそうやな・・・。まぁどっちにしろフェイトちゃんとの関係を、恋人って言う名ばかりの友人(カタチ)から一歩先へ進ませたかったんちゃうかな。

「ルシル君は幸せを求めとった。人としての幸せを。そやけど守護神として多くの悲劇を生みだして、見せられて。でも逆らえんくって。そやから余計に幸せを恐れて遠ざけてた。自分が好きな人を不幸にするって。でも、ルシル君は勇気を持って前へ進む決意をした。フェイトちゃんと一緒になるって。ルシル君は、ルシル君の幸せをフェイトちゃんの中に見つけたんやな」

ルシル君はこの世界でフェイトちゃんと出逢って、そして見つけたんや。恐れる事なんて何もない、ずっと望んでた幸せの在り処を、フェイトちゃんの中に。シグナムが「喜ばしいことです」と微笑んだ。シグナムはフェイトちゃんに特に思い入れがあるしな。

「はやて。あたしらは、はやての中に幸せを見つけたんだよ」

ヴィータがすっごい嬉しいことを言ってくれた。言ってから恥ずかしくなったんか、ヴィータの顔が真っ赤になった。
私はそんなヴィータを抱きしめる。するとヴィータは「はやて」って抱きしめ返してくれた。

「おおきになヴィータ。私も、ヴィータやみんなに幸せを見つけたんよ」

「あーっ、ヴィータちゃんだけズルイですぅっ!」

「マイスター! あたしもマイスター達に幸せを見つけたよっ」

「リインもアギトも甘えんぼやな~♪ ほら、おいでー」

「ちょっ、お前ら・・・!」

ヴィータを中央にして右にリイン、左にアギトとして三人まとめて抱きしめる。シャマルは「あらあら♪」って嬉しそうに笑って、シグナムとザフィーラは無言やけど、嬉しそうな笑顔や。リエイスは・・・自室に荷物を置いて戻って来たところや。でも話は聞いてたんか「我らは、主はやてに出逢えたことがすでに幸福なのです」と綺麗な笑みを見せてくれた。

「なんや、今日はみんなで私を泣かせる日なんか?」

嬉し涙で視界が滲む。頬を伝う涙を、歩み寄ってきたリエイスが自分の袖口で拭ってくれた。

「主はやて。涙は涙でも嬉し涙は良いものです。それは何せ嬉しい時に流す涙ですから」

「そうですよはやてちゃん。悲しい涙なんかよりずっと良いんですよ♪」

リエイスとシャマルの言う通りなんは判るけんやけどなぁ、でもやっぱ家長としてはあんま簡単に泣くんはどうかと。あーでもやっぱり嬉し涙なんやからええんやろか。と悩んでるところに、シャマルが「結婚式はどこでやるでしょうね♪」なんてちょお気の早い事を言い出す。
それに続くんが、

「気が早いぞ、シャマル。まずは式はいつにやるか、だ」

「グリフィスとルキノの結婚式で着た正装を用意しておかないとダメですね」

「いや待て。使い回しは止めた方が良くないか? 新しいのを買うのが良いと思うが」

ザフィーラとリインとシグナムや。アカン、ストッパー役のシグナムとザフィーラまで話に乗ったらもう止まらへん。私は腕を解いて、ヴィータとリインとアギトを解放。

「テスタロッサちゃんとセインテスト君の大事な日だし、新しいのを用意するべきですよね、はやてちゃん?」

シャマルを始めとした全員が期待の眼差しを向けてきた。そうやなぁ。二人を祝福するんやったら、こっちも気合入れていかなアカンやろうな。「よっしゃ。正装は新しく買い直そか」と言うと、みんなの顔がパァっと晴れやかになる。そんな中で、リエイスに目が行く。リエイスも喜んではいるみたいやけど、でもやっぱり・・・。

「結婚式ですか。私は初めての経験ですね。知識では知っていますが、やはり素晴らしいものなんでしょうね」

「リエイス・・・」

リインがリエイスを心配そうに見上げる。リエイスがルシル君に恋心を抱いてたんはずっと前、“テスタメント事件”の頃から何となく気付いとった。ルシル君の全てを知って、想いを募らせたリエイス。リエイスは話してくれた。

――彼には幸せになってもらいたいのです――

――この感情はもしかすれば同情かもしれません――

――ですが、それでも彼を想ってしまうんです――

――幸せになってほしい、出来れば私の手で――

――私は人間ではないですから、ルシリオンを幸せには出来ません――

そやけど最後は自らの想いを断ち切った。というよりはフェイトちゃんに、自分のルシル君を想う心を託したって感じや。その結論を示したんも一昨日。リエイスの心を思い出して、私はリエイスを見詰める。リエイスは「なんて顔をしている」ってリインの頭を撫でた。

「私の最後の望みが叶おうとしているのだ。嬉しいことだ」

「リエ姉、最後の望みってなんだ?」

アギトがリエイスの左腕に抱きついて、リエイスを見上げる。

「もちろんルシリオンが私たちと同じくらいの幸福を手にすること、だ。テスタロッサと家庭を持つなんて、最上位の幸福じゃないか。だから嬉しい」

少しだけ頬を染めたリエイスが微笑みを浮かべる。もう大丈夫なんやな。うん、結婚後にリエイスが暴走せんように注意しようかと思うてたけど、スッキリしたあの綺麗な顔を見ればもう安心や。

(親友夫婦の、(ルシル)君とリエイスの不倫云々はさすがに問題が大き過ぎやしな)

もしそうなったらルシル君を殺して私も死ぬ。

「ま、そんな問題なんて起きるわけないか」

「「「「「「「???」」」」」」」

†††Sideはやて⇒クロノ†††

母さん――リンディ統括官の執務室に今、俺と妻エイミィと母さん、そしてフェイトとルシルが揃っている。フェイトとルシルの二人から大事な話があるということで、俺たちは休憩時間に邪魔の入らない執務室(ここ)に集まった。テーブルを挟んで二つのソファに座っているんだが・・・。

「それで、フェイト、ルシリオン君。私たちに話って・・・? あ、二人きりでの長期休暇的なものかしら?」

母さん。そんな話でわざわざ俺たちを呼ぶわけがないだろ? フェイトとルシルの真剣な表情。とても大切な話だと言うのが雰囲気で判る。ああ、この感じ。知っている。右隣りに座るエイミィを横目で見ると、エイミィが小さく頷いた。色褪せることのない記憶。そう、俺がエイミィと結婚させてほしいと、エイミィのご両親に挨拶しに行ったあの緊張感。

(もし俺の予想通りなら・・・・・やっとか、ルシル。そしてフェイト)

随分と待たされたものだ。俺とエイミィの付き合いの時間よりずっと掛けたな。いや、仕方ないか。ルシルにはルシルのどうしようも出来ない現実があったんだ。だが、それももう終わっている。だから、さぁルシル。男のお前から言いだしてみせろ。

「いえ。・・・・リンディさん、クロノ、エイミィ。私は今日、フェイトにプロポーズをしました」

ほら来た。俺とエイミィは予想通りの話に驚きはしなかった。驚きなんかより、心の底から込み上げて来る安堵と歓喜がずっと上で。
だが、

「えええええええええええええっ!?」

母さんがとてつもなく驚いた。一番望んでいたのに何故気付かないんだ、この空気に。母さんはソファから立ち上がって、顔を真っ赤にして俯いているフェイトを見、次いでルシルを見る。

「そんなのダメよっ!」

「「「「え?・・・ええええええええええええっ!?」」」」

今度はこっちが驚く番だった。今、ダメって言ったか、うちの母親は。わけも解らずに一斉に立ち上がり、母さんに疑問の視線の集中砲火を浴びせる。フェイトとルシルが何かを言おうとするが、未だに思考が追いつかないのか口を震わせている。

「母さん! フェイトとルシルの結婚に反対ってどういうことだっ!?」

俺はすかさず問い質す。事の真意を確かめなければ。今この場で正常に事を進めることの出来るのはきっと俺だけだ。大事な妹フェイトと義弟になるルシル(俺の中で確定。ていうかもう逃がさん)のために、ここは一肌脱ぐ。

「えっ? なんで私が反対なんかするの? もちろん祝福するわよっ!」

「「「「「「・・・・・・・へ?」」」」」」

もうわけが解らない。我が母親ながらその思考が読めない・・・。そこでエイミィが「じゃあお義母さん、どうしてダメって・・・?」と訊く。

「あ、ああ、ごめんなさいね。変な言い方しちゃったわね。違うのよ。フェイトとルシリオン君の結婚は、私がずっと願い望んでいた事だもの。祝福こそすれ反対なんて絶対にしないわ。そもそも反対するような連中が居たらクビにするわよ」

ここで落ち着きを取り戻したルシルが「で、ではダメというのは?」と心底安堵した息を吐く。あと母さん。そこまで好き勝手に局員をクビにしないでくれ。ただでさえ人員不足なんだから。フェイトもルシルの言葉にコクコクと頷き、母さんの答えを待つ。

「そうそう。そんな大切なイベントを私の居ないところで済ませちゃってダメよ、って事♪」

「か、母さん。えっと、そういうのは親の前でするようなものじゃ・・・恥ずかしいですし」

「他は他。私は私よ、フェイト♪ ということでルシリオン君。もう一度、私の前でフェイトにプロポーズしてね♪ クロノ、エイミィ。写真と動画撮影、スタンバイ」

「え?」「は?」

なんてことを言い出すんだこの母親(ひと)は。もうついて行けない。俺はルシルに「もう無視してくれていい、母さんのことは」と肩を叩いてやる。母さんは「えぇーーー」とブー垂れるが、そんな理由でプロポーズをもう一度をするなど、同じ男として許せん。

「えっと、結局私とフェイトの結婚は認めてもらえると言う事でいいのだろうか・・・?」

「すまん、グダグダで。答えとしてはもちろんOKだよルシル。その話をしてくれるのが遅いと思っていたほどだ。母さんもエイミィも良いよな?」

「もちろんっ♪ あのルシル君が義弟かぁ~。すごい楽しい事になりそう♪」

エイミィは即答だ。エイミィもすでにルシルとリエイスの魔術で“テルミナス”戦以前の記憶を取り戻している。まぁ記憶を取り戻す前にもルシルと仲が良かったから、たとえ取り戻さなくてもフェイトとの結婚を認めただろうが。

「むぅ~。・・・はぁ、プロポーズを見られないなんて残念。ルシリオン君のプロポーズ・・・・どういうのだったのかしら♪」

「「母さん・・・」」

フェイトと二人して母さんに呆れる。もうその話はいいだろう。ようやく母さんも諦めて、ニッコリとフェイトとルシルに微笑みかける。

「ルシリオン君。私はあなたのことを信じられるから、私の大切な娘を託します。フェイトのこと、お願いします」

母さんが頭を下げた。ルシルも「こちらこそお願いします。リンディさん」と頭を下げる。

「クロノもエイミィにも。これからもよろしくお願いします」

「ああ。そして妹のことをよろしく頼む」

「うん、こちらこそお願いね、ルシル君♪」

ルシルは俺とエイミィに頭を下げ、俺とエイミィも頭を下げる。そこに「ルシリオン君。ちょっと違うわ」と母さんが首を横に振る。
ルシルが「何がでしょう?」と返すと、

「今日から・・ううん、たった今この瞬間からリンディさんじゃなくて、お義母さん、よ♪」

有無を言わせない笑顔でそう言った。目が、さあさあ言ってちょうだい、と急かしている。ルシルは少し戸惑った後「えっと・・・はい、義母さん」と照れくさいからか微苦笑を浮かべた。

「~~~~っ! 聞いたクロノっ、エイミィっ! ルシリオン君が私を義母さんだってっ♪」

「聞きましたから、もう少し落ち着いてください母さん」

黄色い声を上げながら小躍りする母さんには溜息しか出ない。歳を考えてください。フェイトはフェイトでルシルとの結婚を認めてもらえたからか嬉し涙を流している。ルシルは胸元のポケットからハンカチを取り出してフェイトが涙を拭う。

「あ、ありがとうルシル」

そんな二人のやり取りにニヤけてしまう。ここまで来るの本当に長かったな。

「それでフェイト、ルシル君。式場とか決めてあるの?」

「いえ、さすがにプロポーズしたのが数時間前で、結婚を認めてもらったのがたった今となると何とも」

「いやだわルシリオン君。私たちが反対するわけないのだから、ここに来るまでに色々と決めてから、いつのどこで結婚式を挙げるのでよろしく♪くらいでいいのに」

「さすがにそれは。やはり人ひとりの人生を左右することですから、きちんと話をしないと」

「さすがルシル君。律義だね~」

「当たり前だよエイミィ。いくら親しくても筋は通さないと」

「ルシリオン君なら本当に安心だわぁ~」

「ねぇルシル君。婚約指輪とかってあるの?」

「え、ああ、銀の指輪を贈った」

とまぁ俺とフェイトを置いて、ルシルは母さんとエイミィと話している。

(ん、なんだ? フェイトが何かを言いたそうな顔をし出した・・?)

とそこに、フェイトに通信コールが入る。フェイトは一応断りを入れてから、コールに応じる。

『こんにちは、フェイトさん、ルシリオンさん。カリム・グラシアです』

†††Sideクロノ⇒スバル†††

『こんにちは、フェイトさん、ルシリオンさん。カリム・グラシアです』

聖王教会の応接室に、騎士カリムとシスターシャッハ、そしてあたしとティアとイクスは居る。あたしとティアは聖王教会へイクスを送り届けたんだけど、その時バッタリ会ったシスターシャッハとセインにイクスが、

――シャッハ、セイン、聞いてください。わたし、初めてプロポーズを見ましたっ♪――

って言っちゃった。もちろんシスターシャッハとセインは、誰が誰にプロポーズをしたのかが気になるわけで。イクスもルシルさんがフェイトさんに、と答えるわけで。さぁこっからがすごい。瞬く間に広がるルシルさんのプロポーズ事件。
シスターシャッハから騎士カリムへ。セインからオットーやディード、ギン姉にチンク達へ。セインなら当たり前だけど、あのオットーとディードが嬉々としてチンク達に報告する様には苦笑しか出なかった。
応接室に通されるまで、ギン姉たちからの質問攻めにも参った。
なんとか「ルシルさんがフェイトさんにプロポーズして、フェイトさん受けた」と言うしかなく。

『すいませんスバル、ティアナ。わたしが余計なことを言ったばっかりに』

イクスが念話で謝る。ギン姉たちの怒涛の質問攻めと黄色い歓声に驚いたんだね。あたしは『仕方ないよ』と微笑みかけてイクスを抱き寄せる。ティアも『こればっかりは遅いか早いかの違いだし』ってフォローしてくれた。
そうだよね~。あたし達に質問攻めになってたとは限らないけど、でも騒ぎは絶対に起こってたはず。というか『あたしもギン姉たちに喋っちゃいそうだったし』って苦笑が出る。ルシルさんとフェイトさんからは口止めとかされてないし。イクスを送り届けた後にきっと・・・。

『あたしは、うん、まぁシャーリーさんとかに喋っちゃいそうだったかな』

『もしそうなったら次元航行部隊(うみ)の方がフェスティバルでカーニバルになっちゃうよね』

『シャーリーさん、顔が広いから。技術部のマリーさんにも行くはずだから技術部もそうね』

『アルトにも行っちゃうよねきっと。地上部隊(おか)も大騒ぎだ』

“機動六課”時代の部隊員には回るはず。そこからさらに他の局員にも伝播していく。ルシルさんとフェイトさんって局の中でも有名人の部類に入るし、瞬く間に二人の結婚が広がっていくに違いない。

『フェイトさん、ルシリオンさん。イクスからお話は伺いました。御結婚、おめでとうございます』

『えっ? あっ、ありがとうございますっ』

『ありがとうございます、騎士カリム』

モニターに映るルシルさんとフェイトさんがお辞儀する。騎士カリムはリンディ統括官たちとも挨拶を交わして、そして本題に入った。

「それでですね。今回御連絡を差し上げたのは、式場の御案内をと思いまして。ここベルカ自治区には――」

ということだ。あの騎士カリムが聖王教会系列の式場をルシルさんとフェイトさんに勧めてる。シスターシャッハもうんうん頷いて「たとえばですね」とか。なんともおかしな光景だなぁ。ルシルさん達にウェディングプランをいろいろ紹介して、何とそのまま本格的な話し合いに突入。
これは聞いちゃダメだと思って、ティアと頷き合ってイクスを連れて退室させてもらう。だってもしここでルシルさんとフェイトさんの結婚式の流れを知ったら、参加した時に面白さ半減だし。視線で、失礼します、と騎士カリムとシスターシャッハに向け、首肯を確認してから退室。

「「はぁーーーー」」

「スバル、ティアナ・・・」

「あはは、ちょっと歩こっか」

「そうね。少しぶらつこうか」

「あ・・・はい」

微笑みを浮かべて右手を差し出してきたイクスの手を取って、あたしとティアとイクスは聖王教会の庭園散策に出た。

†††Sideスバル⇒ユーノ†††

無限書庫で仕事中、通信端末にメールが入った事に気付く。不謹慎かもしれないけど、何か急ぎの用だとまずいと思って、メールのタイトルだけでも確認する。
タイトルは、エマージェンシー、だ。明らかに緊急事態だ。一体何があったっていうんだ? ほんのちょっと前にスンベルとかいう問題があったばっかなのにっ。差出人はエイミィ。これはまた随分と珍しい。じゃなくて、すぐさま本題を見る。

――ビッグニュース♪フェイトとルシル君が結❤婚することになったよマジで――

「・・・・・・・・マ、マジでぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」

叫んだ。目がポーンと飛び出しそうだった。無限書庫に居る局員や司書たちが驚きの視線を向けて来るけれど、そんなものが気になるような事態じゃない。フェイトとルシルはいつか結婚するとは思ってたけど、あまりにも突然でビックリだ。職員や局員たちに謝り、メールを返信。

――本気と書いてのマジではなく、本当と書いてのマジですか?――

・・・・送信してから思う。僕は何を書いて送っているんだ? もう少しマシな内容があるだろうに。僕は馬鹿か? 自己嫌悪に陥る。すぐさまエイミィから返信が来た。タイトルは、マジで、だ。

――マジだよマジ。本当と書いてのマジだよ。ついさっき決まったんだよね。騎士カリム達と相談してね。式場も日取りも決まったよぉ~♪――

「おお、もうそこまで決まってるんだ・・・」

何から何まで早いなぁ。まぁいいけど。うん、嬉しいことだし。

――結婚式の招待状、楽しみにしています――

最後にそう返信して端末を閉じる。はぁ、あの二人もやっとか。フェイトとルシルもようやく一歩先へ進む決意をしたんだなぁ。あの二人ならきっと上手くやっていく。ようやく願い叶ったことだから。

(僕はどうしようかな~・・・)

僕も気が付けば二十六歳だ。学会からや局からの縁談が来ることもしばしば。でも踏ん切りが付かない。どうしても断ってしまう。だって忘れられないんだ。

「・・・なのは・・・」

†††Sideユーノ⇒アリサ†††

ケータイの着信音で目が覚める。せっかくの休日なのに・・・って思う前に、着信のメロディーからして誰からのメールかは判るから、即機嫌急降下ということにはならない。

「フェイト・・・? あー・・・地球とミッドじゃ時差があるんだっけ・・・?」

詳しい時差は憶えてないけど、あっちは夕方あたりだっけ?ていうかいつもはその辺(時間帯とか)に気遣ってんのに、今日に限ってなんだろ?
ベッドから腕を伸ばして、ベッド脇のナイトテーブルに置いてあるケータイを手探りで探す。えーと、どこだっけっと・・・お、あったあった。ケータイを操作してメール画面を出す。新着が一件。気遣いが出来ないほどのメールの内容って事よね~・・・なんだろ?

「えっとなになに・・・・・このたび私フェイトとルシルは・・・・結婚することにな、り、ま、し・・・・たぁぁぁーーーーーーーーーっっ!?」

はあっ!? マジですかっ!? いつかはって思ってたけど、いきなり過ぎじゃないっ? あっ、今日ってエイプリルフールだっけ!なわけあるかっ。フェイトに電話で確認しようかと思ったところに、すずかからの着信。コールを受けて繋がったと同時に『アリサちゃんッ、メール見たッ!?』って大声で言うもんだから、耳がキィーンだ。

「すずか、いきなりの絶叫は受け手にダメージが来るからやめて」

『ご、ごめんアリサちゃん。で、でもメール! フェイトちゃんからのメール! 結婚って、フェイトちゃんがお婿さんで、だからルシル君が花嫁さんっ?』

すずかがもう暴走して、超が付くほどに混乱してる。ルシルが花嫁って気持ち悪・・・・・くないじゃない、こんちくしょー。想像してみたら、ウェディングドレスが似合うじゃないのアイツぅ~。男のクセにっ。

「落ち着きなさいよ、すずか。逆よ逆。ルシルが・・・・・あれ?」

『すぅ~~はぁ~~。よしっ、落ち着いたよ。ってアリサちゃん、どうしたの?』

フェイトとルシルの結婚についてある疑問が浮かんだ。だから訊き返したすずかに疑問をぶつけてみる。

「えっとさ、ルシルって、その、この世界に家族が居ないじゃん。そもそも生きた世界も時間も何もかもが違うっていうか何と言うか。つまりさ、フェイトがお嫁さんになるんじゃなくて、ルシルが婿養子になるのかなぁ~って」

『あ・・・、そうだね・・・。ルシル君は・・・』

「ま、ルシルにとっては、フェイトを嫁に貰おうが婿になろうがどっちでも良さそうだけどね」

ルシルはきっとフェイトと一緒になることに意味を見出しているんだろうから。すずかもその考えに達したみたいで『確かにルシル君ならそこに意味を見出さないよね』ってケータイの向こうで微笑んでいるみたい。あー、すずかと話をしたらあたしも冷静になれたわ。

「そんじゃすずか。フェイトとルシルにメールの返信しないと」

『うんっ♪ もちろん』

「『結婚おめでとうっ♪って』」

電話を切った後、あたしは二人に結婚を祝福するメールを送った。もちろんあたし達も結婚式に参加出来るようにも書いておいた。もし参加できずに、ビデオメール形式で二人の結婚式が送られてきたら、絶対にキレてやるんだからねっ。

†††Sideアリサ⇒レヴィ†††

昨日までは大勢で入っていたアルピーノ家自慢の温泉。今はわたしとルーテシアの二人っきりで入ってる。随分と寂しくなっちゃったなぁ~。

「でもよかったぁ~♪」

「なにがルーテシア?」

「だってレヴィもインターミドルに出場してくれるって言ってくれたから」

「あーそのこと・・・」

今年のインターミドルにわたしも出場することになった。合宿でヴィヴィオ達と試合をやったんだけど、それでも公式の場で、全力でわたしと戦いたいって。そんなにわたしを衆人環視の中で負かしたいかなぁ、あの子たちは。

「一対一で誰にも邪魔されない正々堂々な戦いを望んでるんだよヴィヴィオ達は。嬉しい事じゃん♪ それだけレヴィの事を慕ってくれてるってことだから」

「つまりあの子たちは、人の目のあるところでわたしをボコって恥を晒させたいと?」

「んなわけないでしょうが。その冗談は好きじゃないなぁ、わたしは」

ルーテシアはぷくぅと頬を膨らませた。あはっ、可愛い。わたしは両手をルーテシアの頬に伸ばして、人差し指で膨らんだ頬をプスッと押す。「ぶふっ」って息が漏れる。「ごめんごめん。さっきの取り消し」って謝ると、

「ん。判ればよろしい」

ニコッと笑ってくれた。でもそっか。合宿の試合の中じゃ、どうしても一対一で誰にも干渉されない戦いって出来ないから。それにわたしって誰かのサポートが主だし、戦うにしても基本はエリオ担当だしね。
ヴィヴィオ達とは一対一で、どっちがが倒れるまでの全力戦は・・・したことないか・・・?・・・・だったらいっか。いっちょレヴィお姉さんの全力全開をその身に直接叩き込んであげようかなぁっと。

「「お?」」

そう決めた直後に、キャロから通信が入った。なんだろ? ルーテシアと顔を合わせる。入浴中だけど、同じ女同士、別に気兼ねすることなく繋げても良いよね。だからコールに応えて通信を繋げた。わたしとルーテシア、モニター越しに居るキャロと・・・

「「エリオ・・・!?」」

エリオが硬直。わたしとルーテシアとキャロももちろん硬直。永遠とも思える思考停止だったけど、エリオの顔が一気に真っ赤になって、キャロもそれはもう真っ赤になって、二人して口をわなわな震わせ始める。ここでようやくわたしとルーテシアも思考回復。顔がボッと熱くなる。

『あ・・・あわわわわっ、ごめんっ! 本当にごめんっ!』

「「きゃぁぁぁあああああああああああッ!!」」

これ以上裸を見られないために頭まで一気に湯に浸かる。

『エリオ君は見ちゃダメぇぇーーーーーーーッ!!』

『ごめぇぇーーーーーーーんっ!』

お湯の中にまで聞こえてくるエリオとキャロの絶叫。わたしとルーテシアは鼻下までお湯から出て、モニターを見る。エリオがキャロにポカポカ叩かれていた。あとフリードがガジガジ頭を噛んでるね。エリオは両手で必死に顔を隠してるから、キャロとフリードの猛攻を止められずに一方的に受け続けてる。それを一分くらい眺める。うん、だってまさか一分も攻撃し続けるなんて思いもしなかったから。

「あのさ、キャロ、フリード。もういいから、そろそろエリオを叩くのは止めてあげたら?」

『レヴィちゃん・・・でも・・・』

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

エリオが哀れになってきた。だからそろそろ止めに入った。

「あーキャロ。元はと言えば、入浴中に通信に応じたこっちが悪いんだし。もう気にしてないから。レヴィもエリオをもう許してあげてもいいよね?」

「うん。エリオが責任を取ってくれるんだったら即許す」

ちょこっとイジワルをしてみる。エリオは硬直して、キャロはさらに真っ赤になった。ルーテシアがニヤリって笑って、目を妖しく光らせた。おお、小悪魔モードだね。

「そうだね。わたしはともかく、わたしの可愛い大事な妹の裸を見たんだから、それくらいはしてもらわないと」

『『え? ええええええーーーーーーーーーっ!!?』』

「ねぇエリオ。責任取ってくれる、よね❤?」

『ぅあ・・・そ、それは・・・ちょっと・・・困るっていうか』

お、エリオがたじろぎ始める。もちろん目を隠したままで。そんでキャロはやきもちを焼いて頬を膨らませ始める。やっばい、超楽しいっ♪
もうちょっと後押ししてあげよっかな。エリオとキャロって、ルシリオンやフェイトさんみたいに全然進展しないんだもん。親子揃ってもうまどろっこしいんだから。お互いが奥手って・・・あーもうっ、イラつく。

「さぁどうするエリオ。レヴィと一緒になってくれる?」

「それともわたしじゃエリオのお眼鏡に適わないかな・・・?」

ちょっともじもじして見せて、チラリと横目でエリオを見詰めてみる。とここで思う。やり過ぎて、もし本当にエリオがその気になってしまったらどうしよう、って。そうなったら、ごめんだけど振るしかないよね、やっぱり。うわぁ、最悪な女だ。

『ねぇレヴィ。ちょっとやり過ぎ感があるような・・・』

『だよね。絶賛後悔中だよ』

ルーテシアの念話に冷や汗ダラダラで応じる。ていうかさ、こんなんでキャロとの今までの時間を失うような思考に行きつく様なザマを見せたら承知しないぞ、エリオ。

『僕は・・・・僕はレヴィと――』

『そんなのダメぇぇーーーーーーっ!!』

『――キャロ・・・?』

ルーテシアと顔を見合わせて頷き合う。もう十分かな。だってエリオがなんて言ったのか聞こえはしなかったけど、口の動きで判っちゃった。

――レヴィとは一緒になれない――

『やだよ、エリオ君。わたしは・・・』

『キャロ・・・えっと・・・』

はいはい。ごちそうさま~♪ はい、あとはゆっくりお話でもしてなさい。通信が切れた。よかった、わたしを選ばなくてホント。下手したらキャロに刺されたり、ルシリオンとフェイトさんにピーされたりしたかも。

「「はぁ~~~・・・のぼせた・・・」」

ルーテシアと二人して茹ってしまってフラフラだ。これ以上温泉に浸かっていたら茹でダコになって、最悪水死体が二つ完成だ。ということで湯船から立ち上がったところで、

『って本題を話してないよっ、ルーちゃん、レヴィちゃん!』

『わっ!? ちょっ、キャロっ、まだ僕が居るのに!!』

『あ・・・!』

また繋がった通信モニターには、大ポカしてハッとしてるキャロと、背中を向けて走り去っていくエリオの後ろ姿。わたしとルーテシアは、

「「キャロの馬鹿ぁぁぁーーーーーーーーーーッ!」

全力で叫んだ。キャロも『ごめんなさぁぁ~~~~~~~~いっ!』と泣きながら謝った。もう一度通信を切ってもらって、着替えてからわたしの部屋に場所を移した再通信。で、ベッドの上で腕を脚を組んで座るわたしとルーテシアは、モニター越しに居る正座して項垂れてるキャロとエリオをぶすっと睨む。一回目はこっちの非だったからまだ許せた。けど二回目は完全に向こうの非だ。

『『ごめんなさい』』

土下座した二人に、わたし達は小さく溜息を吐いて、

「もう。もういいよ、二人とも。別に知らない仲じゃないし、許してあげる」

「そうだね。でもさすがに無罪放免っていうのはどうかと思うから・・・。うーん、そうだなぁ・・・何か奢ってもらおうかなぁ。ね? ルーテシア」

許しはしたけど、やっぱり裸をタダ見されたらね。何かしらの罰がないと。最終的にはお互いがミッドに訪れた際、そこでの買い物のお題を払ってもらうということで決着。

「それで本題って何? 何かしら忘れ物でもした?」

『そうそう。フェイトさんとルシルさんが結婚することになったってことを報こ――』

「ルシリオンと――」

「フェイトさんが――」

「「結婚!?」」

まさかの爆弾報告に、ルーテシアと二人してモニターに突撃。エリオが『近いから近いから』って苦笑してるけど、そんなことどうでもいいっ。

「ちょっといきなり過ぎだよっ、ルシリオンさんとフェイトさんの結婚って! どういった経緯で!? やっぱりプロポーズとか指輪渡したりとかしたのっ!?」

あ~あ。ルーテシアに何か火が点いちゃった。目がキラキラさせて、モニターにかじりついてる。

『えっと、カルナージから帰って来て、次元港でね、ルシルさんが指輪をフェイトさんに差し出しながらプロポーズの言葉を――』

「きゃぁぁあああああああああっ!!」

ルーテシアが黄色い歓声を上げて、ベッドの上で悶え始めた。ひどい、シーツとかぐちゃぐちゃだよ(涙)。あとで直してよねルーテシア。でもそっか。あのルシリオンが結婚かぁ。なんか嬉しいな。

「それでキャロ、エリオ。場所や日取りとかはもう決まったの?」

『あ、うん。えっと、それはフェイトさんとルシルさんから招待状が届くから、その時にってことで』

「ん、了解。招待状が来るのを楽しみにしてるよ」

『うん、じゃあまたね。ルーちゃん、レヴィちゃん』

『うん、また、ルー、レヴィ。あ、出来ればペナルティーはお手柔らかにお願いするよ』

「あんまーい。覚悟してなさい♪」

エリオに笑ってみせると、エリオは『あはは』と苦笑。わたし達は揃って手を振り続けたまま通信を切った。

「はぁ、結婚かぁ。憧れるよねぇ~」

「む、ルーテシアが誰かのものになるって許せない」

ルーテシアがお嫁さんになったら、わたしはどうすればいいのか判らない。ルーテシアはいつまでもわたしと一緒じゃなきゃヤダもん。

「レヴィ。もし私にどうしても好きな人が出来て、その人と一緒になりたいって言ったら?」

ニヤニヤして、わたしを試すようなことを言ってきた。もし本気の本気でルーテシアに好きな人が出来て、その人もルーテシアのことが好きで、一緒になりたいとか言い出したら。もしそうなったらわたしも決断しないといけない。わたしだって解ってるんだ。ずっと一緒に居たいっていうのは我がままで、甘えているんだって。でも・・・

「だったらわたしもその人を好きになって、ルーテシアと一緒に嫁ぐ」

「わぁお。そーゆう選択肢を選んじゃうんだレヴィ♪」

冗談だって捉えたみたいで、ルーテシアは大笑いしながらわたしの頭を撫でてくる。わたしは「本気だもん」って頬を膨らませてそっぽを向く。すると「私より先にレヴィに恋人が出来るかもしれないよ?」なんて言ってきた。そんなわけない。異性に恋する自分が想像できないもん。うん、そもそもルーテシアも誰かに恋するって姿が想像できない・・・。姉妹揃って誰かに恋する姿が想像できない。

「それ以前に出会いの場が無い」

「言えてる」

わたしとルーテシアの春はまだまだ先。というか来なくて良しッ!

†††Sideレヴィ⇒ルシル†††

友人たちに私とフェイトが結婚するとメールで報告を終えてからミッドへと降り、なのは宅を訪問。フェイトは休日、このなのは宅で寝食をなのはとヴィヴィオと共にする。私も何度か世話になっている。で、今回もなのはとヴィヴィオにお呼ばれした。フェイトと一緒に高町宅に到着して、フェイトの「ただいま~♪」に続き、私も「ただいま」と言って玄関を開けると、なのはとヴィヴィオが出迎えてくれた。

「おかえりっ、フェイトちゃん、ルシル君♪」

「おかえりなさい♪ えっと・・フェイト、さん・・・ルシル、さん・・・」

「「っ!!?」」

耳を疑ったよ、いや本当に。そうか、これは聞き間違いだな。フェイトと二人して「あはは。いやだなぁ」と後頭部を掻く。なのはも「あはは」と苦笑しているし、聞き間違いではなくとも冗談か何かだな。そう、今のはヴィヴィオなりのジョークだったんだ、そうに違いない。けどヴィヴィオ。さすがに笑えないぞ、そのジョークは。あはは。

「あの、フェイトさん、ルシルさん」

「「やっぱり聞き間違いじゃないぃーーーーーーーーっ!!」」

文字通り頭を抱える。今・・・今ヴィヴィオが、私とフェイトをさん付けして呼んだ。フェイトが涙をポロポロ流しながら「何でヴィヴィオ!?」ってヴィヴィオの両肩を掴んで問い質す。私は何も言えない。これが結構ショックが大きくて、未だに再起動できない。なのはと目が合う。なのはの微苦笑するだけ。ヴィヴィオに話させるようだ。ようやくまともな思考が出来るようになった。

「ヴィヴィオ。どうして私とフェイトのことを、さん付けで・・・?」

ヴィヴィオと目線を合わせ、声を振り絞って訊いてみる。フェイトも「うんうん」と何度も頷く。ヴィヴィオはおずおずと答えてくれた。

「えっと、フェイトさんとルシルさんが結婚したら、本当の家族になるから。だったらわたしが二人をママとパパって呼ぶのっておかしいかなって」

「「あ」」

そうか。ヴィヴィオなりに気遣ってくれたのか。結婚した私たちを変わらずにフェイトママとルシルパパと呼んでしまうと、周囲に何かしらの問題が起きて迷惑がかかるんじゃないかって。気遣ってくれたのは純粋に嬉しい。それはヴィヴィオの優しさだ。

「優しいなヴィヴィオ。ありがとう。でもな、その気遣いは却って辛いんだ」

ヴィヴィオの頭を撫でる。フェイトも「そうだよ、悲しいよ」とヴィヴィオを抱きしめた。

「確かに私とルシルは結婚して、これからホントの家族になる。でもこれまでに私とルシルがヴィヴィオと、それになのはと築いてきた時間も絆も無くなっちゃうわけじゃない」

「じゃあ・・・いいの? これからもフェイトママとルシルパパって呼んでも・・・? 迷惑になったりしない?」

「「当然っ♪」」

笑顔で即答すると、ヴィヴィオも安堵したのかニコッと笑ってくれた。逆にそう言ってもらえないと傷つく。だって今さらだ。それに、もし何か問題が起こったとしても別に良い。ヴィヴィオがさっきのように悲しい表情を浮かべるよりかはな。

「フェイトママ。ルシルパパ」

「「はい、ヴィヴィオ♪」」

フェイトはもう一度ヴィヴィオを抱きしめ、私ももう一度頭を撫でる。なのはも「良かったねヴィヴィオ」とフェイトの上からヴィヴィオを抱きしめる。ヴィヴィオのさん付け事件も一件落着し、私たちは中に案内される。ヴィヴィオに淹れてもらったお茶を呑みつつ雑談し、「フェイト」と呼びかける。フェイトはコクと頷き、バッグの中から二通の手紙を取り出した。その手紙をテーブルに置き、向かい側に座るなのはとヴィヴィオにスッと差し出す。

「これって・・・あ、招待状!」

そう、なのは達に渡すのは私たちの結婚式の招待状。私は「招待状の第一号なんだソレは」となのはとヴィヴィオに告げる。なのはとヴィヴィオに送るための招待状だけを完成させて、なんとか持って来られた。私は招待状の作成は手慣れているし、クロノとエイミィの協力のおかげでミッド式の結婚式の招待状の仕様も知れたから、二通を作成するのに時間はかからなかった。

「え、そうなの? 嬉しいのは嬉しいんだけど、でもどうして?」

フェイトは「当たり前だよ」と笑う。私も「その通りだ」と続く。

「なのはが居たから、私は今こうして居られる。ヴィヴィオが居るからこうして居られる。二人が居るから、今の私とルシルが居る。もちろんはやて達みんなもそうだよ。みんなが居てくれたから現在(いま)がある。でも、その中でも二人はもっと特別だから」

「だからこそなのはとヴィヴィオに第一号を渡したかった」

「たとえ私たちの出逢いがテルミナスの意思、計画だったとしても。私は、私たちにはとても尊いもので・・・。みんなと逢えて、ルシルとも出逢えた。だからこう言ったらなんだけど、私はテルミナスに感謝してる」

憶えていたのか。そうだ、私たちの出逢いは全て先代の終極テルミナスが仕組んだことだ。私を亡失アーミッティムスに堕とすために。まったく、わざわざ御苦労なことだ。それにしてもフェイトの言葉。つい「ふふ」と笑ってしまった。ヴィヴィオが「どうしたの?」と小首を傾げて訊いてきた。

「いやなに。シャルもテルミナスに向けて言っていたよ。なのは達と出逢わせてくれた事には感謝しているって。私もそうだよ」

私だって感謝している。テルミナスの理由はどうであろうとな。

「そっか。シャルちゃんが。そうだね。それについては私も感謝してるよ」

「テルミナスのことはあんまり憶えてないけど、でもルシルパパとシャルさん、なのはママとフェイトママ達と逢えたのがテルミナスのおかげだとしたら、わたしも感謝するよ」

なのはとヴィヴィオもそう言って笑みを浮かべた。なぁテルミナス。人間も良いものだろ? お前もまた私やシャルのようにフェイト達のような子と出逢っていれば、人間に絶望しなかったのかもな。そう思うと、お前が可哀想になるよ。お前にも優しい契約と、世界に喚ばれていれば。テルミナス。お前もまたシャルのようにどこかの世界に転生しているんだよなきっと。

「あ、挙式の日にち、インターミドルのあとなんだね」

テルミナスのことで思考がいっぱいになっていると、なのはのその声に意識を取り戻させた。

「まあね。インターミドルの途中で式を挙げて、ヴィヴィオ達のトレーニングとかの邪魔をしたくないし」

ということだ。式の日にちに関してはすぐに決まった。フェイトも私も同じ考えだったからだ。インターミドル期間中には式を挙げない。それはヴィヴィオ達のモチベーションに水を差しかねないからな。ヴィヴィオは「邪魔になるわけないよっ!」ってプンプン頬を膨らませる。なのはも「邪魔になるどころかきっと力になるよ」と言ってくる。

「えっと、もう決まっちゃったし」

「その日時で手配してもらったしな」

すでに決定済みの日時と場所。今さら変更は出来ない。それでなのはとヴィヴィオは「しょうがないなぁ」と呆れの息を吐く。

「まぁそれはもういいとして。式場は・・・あ、ベルカ自治区のあの教会だね」

「ホントだ。ネルケ教会だね」

「うん。結婚式を挙げるならそこが良いって騎士カリムとシスターシャッハが」

「ネルケ教会って毎年結婚式を挙げたい式場ベスト3に入るもんね」

シスターシャッハの熱烈な売り文句には参った。まぁ機動六課時代の慰安旅行で実際に見たことがあるから悩む時間も少なく、すぐにネルケ教会に決めた。

「楽しみだね結婚式。あ、フェイトちゃん、ルシル君。出席者のことなんだけど、地球のみんなも参加出来たりする?」

「それなら心配ないよ。ちゃんと許可は取るから、アリサもすずかも来れるし。なのは。なのはの御家族はどうする? 招待状を送っても迷惑じゃないかな?」

「全然♪ フェイトちゃんの結婚式って聞いたら喜んで出席するよ」

「じゃあコロナとリオ、アインハルトさんも呼んでいい?」

「ああ、もちろんだとも。あの子達への招待状も用意するつもりだよ」

それから私たちは誰を招待するかを話し合うことになった。当然はやて達とも通信で一緒にだ。

†††Sideルシル⇒アルフ†††

あたしは今まで生きてきた中でも最高の気分を味わってる。普段は絶対に着ないオレンジ色のアフタヌーンドレスを着て、あたしはここネルケ教会の花嫁の控室に向かってる。そう、今日は私のマスターであるフェイトとルシルの結婚式だ。

「あたしもこれで一安心だ」

この結末を一体どれだけ思い描いてきたか判らない。始まりはそう、たぶん“ジュエルシード事件”半ば辺りくらいかな。フェイトがルシルに心を開いて、自分の想いに気付かなくとも惹かれ始めていた頃。まぁあたしもそうゆうのは鈍いから、フェイトの気持ちに気付いたのはもっと後だけどさ。

「にしても連絡を貰った時はビックリしたねぇホント」

フェイトとルシルから連絡を貰った時のことを思い出す。

◦―◦―◦回想だよ◦―◦―◦

エイミィが今日遅くなるって話だから、夕飯の食材を買いに行かないとね。とそこに通信が入ったことを報せる電子音が。「ほいほい、どちらさま~っと」って応じる。モニターに映ったのはフェイトとルシルの二人だ。一気にあたしの機嫌が良くなる。

『アルフ、今時間とか大丈夫?』

「構わないよ。というかフェイトとルシルからの通信だったらあたしゃ何が何でも時間を作るよ」

あたしの大好きなご主人様だからね。どうしても外せない用事以外なら、二人との通信のために用事をキャンセルさ。二人はあたしの返答に小さく笑った。今日も仲良くて嬉しいねぇ~。

「で、今日はどうしたんだい? そっちはもう夜だろ?」

『あー、うん。えっと、アルフに報告したい事があって』

フェイトが恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。あ、なんだろ。なんかこれから聞く話はきっとすごく良い内容だっていうのが判ってしまう。あたしは無言で頷いて、フェイトの話をちゃんと聴く姿勢を取る。

『アルフ。今日ね、私、ルシルにプロポーズされたんだ』

『フェイトにプロポーズしました』

「・・・・そうかい。そいつは良かったじゃないかフェイト。ルシルもやっと決断したのかい。結婚するのを決めるの遅過ぎだよ」

あたしの素っ気ない反応が気になったのか、フェイトが『あれ?』と呆然となる。ルシルは苦笑。あたしを解ってくれてるじゃないかい。さすがあたしが認めた男だよ。

「驚くことじゃないってことさ。いつか二人が結婚するってことは判ってたしさ。まぁ確かに急な報告だったけど、あたしにとっちゃそう大げさに驚くことじゃないんだよ」

『そ、そっか』

『待たせてすまなかったなアルフ。私たちは先に進むよ』

「本当だよ。ここまで待たせてさ」

『ごめんね』『すまん』

ここであたしは一つの疑問をぶつけてみる。

「結婚した後さ、二人は仕事どうするんだい? 執務官なんて海を巡る役職だしさ。ゆっくりなんか出来ないだろ? 部署移動とかするのかい?」

せっかく結婚したのに、ゆっくり出来ずに仕事三昧っていうのはあまりにも酷じゃないか。まぁフェイトは執務官でルシルが執務官補佐だから、ずっと同じ艦で同じ任務に就くから離れ離れになるってわけじゃないんだけどさ。でも執務官って忙しいし。のんびりできる時間もそう多くないはずだよ。

『それは・・・うん、今のところは執務官を続けるつもり。だけど・・・きっといつかは部署移動を願うつもりだよ。執務官は私の生甲斐だけど。でもそれよりもルシルとこれからをゆっくりと過ごしていきたいから』

良い顔で笑うなぁフェイト。今まで以上にキラキラしててさ、幸せそうで何よりだよ。フェイトが選んだ道だ。だったら使い魔のあたしはそれを応援するよ。

「なら良いや。そんじゃ遅れたけど、フェイト、ルシル。結婚おめでとう」

『『ありがとう、アルフ』』

◦―◦―◦回想終わりだよ◦―◦―◦

到着っと。コンコンと扉をノックしながら「あたしだよぉ~」と声をかける。中から「はぁ~い、どうぞぉ~♪」ってエイミィの元気な返事が来た。扉を開けて、あたしの視界に一番最初に入ったのは白。

「あ、アルフ。わぁ、ドレス似合ってるよアルフ♪」

フェイトがあたしのドレス姿を褒めてニッコリ笑う。けどあたしは今のフェイトの姿に目を奪われて何も返せない。

「すごい綺麗でしょ♪ ウェディングドレス姿のフェイト。プリンセスタイプだから、フェイトちゃんの可愛さがさらに倍増するんだよね~♪」

「自分の娘が結婚する日を迎えられるなんて、私、感動して泣きそうよぉ」

「母さん。もう泣いてる泣いてる」

「お義母さん、泣くの早過ぎですって。まだ式も始まっていないのに」

リンディがポロポロ泣き始めて、化粧が崩れないようにハンカチで目を拭う。ここであたしは褒めてくれたお礼の「ありがとうフェイト」って言って、

「フェイトだってすごく綺麗だよ」

「ありがとアルフ♪」

見ているかい、リニス、そしてシャル。フェイト、今から結婚式をするんだよ。二人にも見せたかったよ。フェイトのこの晴れ姿をさ。すっごい綺麗なんだよ。

「「「アルフ?」」」

名前を呼ばれた。何で三人とも心配そうな顔をしてるんだ? 頬になにか当たった? ううん、流れた・・・。手で触ってみると、涙だった。あたし、泣いてるのかい? フェイトが「どうしたのアルフ?」って顔を曇らせた。ダメだ。この人生で一番大事な日に、使い魔のあたしがご主人様の顔を曇らせるなんて。涙を拭って「なんでもないさ」って笑う。リニス、シャル。あんた達の分まで祝福するよ。コンコンとノック。リンディが「どうぞ」と応える。入ってきたのは、

「バッチリ決まっているじゃないかフェイト」

スーツを着たクロノだ。続いてカレルとリエラも入って来て、フェイトの花嫁姿に顔を輝かせている。

「なのは達が来たぞ。それで挨拶はしないでおくって伝言を承った。フェイトのウェディングドレス姿を本番で見たいのだそうだ」

「そっか。ん、了解」

さ、本番まであと少しだ。最高の結婚式にしようか。

†††Sideアルフ⇒フェイト†††

ウェディングブーケを手に持ち、バージンロードを母さんと歩く。歩いている最中、私はこれまでのことを振り返った。ルシルと出逢ってからのことを。多くの人と出逢い、絆をつくり、ここまで来ることが出来た。

(ルシル、みんな、ありがとう)

両サイドにズラリと並んでる長椅子に座っているなのは達。もう感謝しか無い。祭壇の前にはルシルが私を待っている。すごくドキドキする。祭壇前に着いて、母さんとルシルがお辞儀。そして私は母さんから離れてルシルと腕を組んで、神父さんの前まで歩く。それから聖歌隊が祝福の詩を歌い、神父さんが祈りを捧げてくれる。そして宣誓。

「汝ルシリオンは、この女フェイトを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「誓います」

「汝フェイトは、この男ルシリオンを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「誓います」

この誓いは永遠だ。決して終わらない契約。ずっとずっと続く想い。次は指環の交換。介添の女性にブーケと手袋を預けて素手になる。まずはルシルからで、神父さんから指環を受け取って、私が伸ばした左手を取って、薬指に指環をはめてくれた。次は私。ルシルの左手の薬指に指輪をはめる。ヴェールの向こうに見えるルシルが微笑んだのが判った。私も微笑み返す。

「それでは新婦のヴェールを上げてください」

私のヴェールをそっと上げたルシルとしっかりと目を合わせる。ルシルは両手を私の両頬に添えて、私との身長差を埋めるために少し屈んだ。私は目を閉じて待つ。そういえば、ルシルとキスするのってこれでまだ二度目なんだ。心臓が張り裂けそうなほどにドキドキしだして、顔が熱くなる。
私の唇に触れるルシルの唇。心臓がさらに早鐘を打つ。やっぱり慣れてないから。恋人って言っていても、それらしい事なんて全然やって来なかったな。拍手が起こる。なんか照れてしまう。離れたルシルの表情はちょっと余裕。あ、なんか悔しい。えっと、次は、結婚証明書にサインだ。まずはルシルで、次は私。サインをした後、介添の女性に預けていたブーケを受け取った。

「宣言します。ルシリオンさんとフェイトさんは、ヴァールの御名の下、神聖なる夫婦の誓約をいたしました。ゆえにわたくしは、契約の主ヴァールによって、お二人が夫婦となったことをここに宣言いたします」

ヴァール。ルシルの出身世界アースガルドにおいて、誓約の女王として語り継がれていた名前らしい。男女の恋のとりきめに耳を傾け、その証人となるけど、愛の誓いに背いた者には復讐をしちゃうってことなんだけど。それが今日のベルカにも伝わっていた。誓約の女神様として。

「みなさん、ご起立下さい。聖歌を皆さんと斉唱いたします」

神父さんから一枚の紙をルシルが受け取った。背後にいるみんなが一斉に立ち上がって、聖歌隊に続いて歌い始めて、大合唱。歌い終わり、神父さんの「どうぞ御着席ください」で参式者みんなが座る。

「祝祷いたします。許可の女神(ロヴン)誓約の女神(ヴァール)情愛の女神(フリッグ)があなた方二人を守り、導いてくださいますように」

神父さんの祝祷が終わった。静まり返る式場。えっと次は、私とルシルの退場だよね。神父さんが「それでは皆さんご起立を。新郎・新婦の御退場です。盛大な拍手を御送りください」と促す。ルシルの右腕に自分の左腕を絡める。みんなの拍手の中、私たちは式場を後にして控室に一旦戻る。

「「ふぅ」」

花嫁である私の控室にルシルと一緒に戻って一息。でもすぐに二人して笑みを浮かべる。私とルシル、本当に結婚したんだ。ルシルは私の手に持つブーケを見て「この後はブーケ・トスだな」と今後の予定を確認。私は頷いて「ルシルのブートニア・トスもね」とルシルの胸ポケットに刺さってる花を指差す。まぁ実際は今持っているやつじゃなくて、専用のブーケが用意されてる。とそこにコンコンとノック。

「新郎様、新婦様。御用意が出来ましたので、よろしくお願いします」

介添の方が迎えに来てくれた。ルシルと二人「はい」と返事して、退室。トス用のブーケを受け取って、教会の出口へ向かう。出口に到着して、外へ続く大階段の最上段から外を眺める。扉の両サイドには母さんとアルフとクロノとエイミィ、カレルとリエラ。その六人以外は階段下に居て、「おめでとうっ!」って祝福してくれている。

「それではこれより新婦によるブーケ・トス。続いて新郎によるブートニア・トスを行います」

まずは私から。クルリと反転してみんなに背を向ける。そして思いっきり後ろへ向かって放り投げる。誰かがキャッチしたのか歓声が響き渡る。前へ向くと、私が投げたブーケを手にしているのが誰かが判った。

「おお、なのはちゃんやっ!」

なのはだ。ブーケを手に、照れ笑いを浮かべてる。ルシルがそれを見て「なら私は誰の手に渡るのかな」って微笑みながら、ある人物を僅かに目を動かして捜した。なるほど。ルシルはみんなに背を向けて、ターゲットの近くに落ちるようにして放り投げた。ブーケは真っ直ぐターゲットに向かって行って・・・・あっ。

「おらぁっ、貰ったぁぁーーーッ!」

ヴァイス准尉が必死にブーケを取ろうとしていた。ルシルがターゲットにしていたユーノがビックリしてる。でもあとちょっとで手に出来たんだけど、ルシルの意図を察していたみたいなヴィータが「おおっと手が滑ったぁっ」って棒読みでそんな事を言いつつ、ヴァイス准尉を“グラーフアイゼン”で殴打、排除しちゃった。
妹のラグナと恋人のアルトが突然の事態に唖然となってる。そしてブーケは作戦通りユーノの手に渡った。みんなのテンションがさらに高くなる。でもヴァイス准尉は納得いかないようだ。当たり前だけど。

「痛いじゃないっすかヴィータ教導官!」

「悪いヴァイス。わざとじゃねぇんだ」

「どう考えてもデバイス起動してる時点で故意じゃないっすかっ!」

「うっせぇな。空気読めよヴァイス」

とまぁそんなやり取りが始まっちゃったり。ヴァイス准尉とアルトには悪いんだけど、今日だけはなのはとユーノに花を持たせてあげたいんだよ。ほら、なのはとユーノがちょっと良い雰囲気になってる。周りに居るはやて達もニコニコだし。今度はなのはとユーノの結婚式になるのかな?だったらいいな。
ブーケ・トスも終わって、参式者と一緒に写真撮影ってことになってる。神父さんに代わって司会を務めることになってる女性が、「それでは皆様、大階段での写真撮影となりますので、お集まりください」って言った直後、

「わっぷ、花吹雪・・・?」

突風が起こった思ったら、ヒラヒラといろんな色や柄の花弁が舞い降ってきた。
みんなが空を見上げる。こんな演出は考えてなかったけど・・・。ルシルを見ると首を横に振った。ルシルも知らないってことだ。母さん達や騎士カリムたち聖王教会関係者も??だし。司会者も「こんな演出頼んだかしら?」って唸ってる。

「あ・・・コレ・・・!」

ヴィヴィオが花弁に混じったある物を手にとって高く掲げてみせた。ここからでも良く判る紅いソレ。キャロが「真紅の羽根!!」って驚きを見せる。なおも舞い振る花弁に混じって降ってくる真紅に光る羽根。

「これってシャルロッテのルビーン・フリューゲルじゃねぇのかっ?」

「ホンマやっ! え、でもどうして!?」

シャルはもう守護神じゃないから存在してるはずないのに。するとルシルが「まったく。私にも困ったものだな」って微苦笑。それで理解した。唯一もう存在していないシャルを存在させる方法。ルシルのエインヘリヤルだ。でも私の隣に居るルシルはもう創世結界を使えない。だからこの演出が出来るのは、守護神のルシルだけだ。

「ガルデーニエ。花言葉はこの上なく幸福。マイグレックヒェン。花言葉は幸福が訪れる。ゲラーニエ。花言葉は君在りて幸福。ヴィッケ。花言葉は永遠の喜び。ネルケ。花言葉は純粋な愛。レーヴェンツァーン。花言葉は真実の愛。アドーニスレースヒェン。花言葉は祝福。ヴァイナハツシュテルン。花言葉は聖なる願い。私があなた達二人に贈るプレゼントよ。喜んでくれるかな・・・?」

懐かしい声が空から聞こえてきた。広い青空の中、水色のドレス姿のシャルがすぅっと、紅の翼を小さく羽ばたかせながら虚空から現れた。みんなが嬉しそうにシャルの名前を呼ぶ。シャルは「やっほー♪」と手を振りながら、なのは達の居る階段下に降りてきた。

「「「シャルちゃんっ!」」」

「シャル、あんたどうして!?」

「おおっ、なのは、はやて! すずかもアリサも・・・って、私が判るの?」

「ルシル君とリエイスさんに記憶を取り戻させてもらったんだよ」

「マジでっ!?」

「マジよ。・・・ごめん、シャル。界律ってやつの影響とはいえ、あんたを忘れちゃって」

「ごめんねシャルちゃん。私も忘れちゃってた」

「でも思い出してくれたんでしょ。だったらすっごく嬉しい♪ ありがとねリエイス」

「いや。お前には返しきれない恩があるから、この程度お礼を言われるほどのものではないさ」

「それでも受け取っておいてよ、私のありがとう」

「判った。どういたしましてだ、シャルロッテ」

「ん。そんじゃ楽しいおしゃべりはまたあとでね」

なのは達とハイタッチしたり抱きしめあったり色々と再会を喜びながら、私とルシルのもとに来た。

「「シャル」」

「うん、フェイト、ルシル。結婚おめでとうね。ていうかやっとかよ。ルシルさ、もうちょっと早くプロポーズとか出来なかったの?」

シャルは腕を組んで微苦笑。ルシルは「色々とあったんだよ」って反論。私も「その、私が結婚とかを避けてたっていうのもあって」と続く。

「避けてたぁ? コイツぅ、テスタメント事件ときに、幸せになるから~、みたいな事言ってたくせに」

「う゛っ。べ、べつにすぐにでもなんて言ってないし」

「ほう、そういう逃げ道を用意するんだフェイト」

シャルがニヤニヤする。あ、なんか企んでそうな顔だ。でもシャルは「まぁいいや。おめでたい事に変わらないんだし♪」って両手を腰に当てて見惚れるほどの笑顔。とそこで司会者が「あのぉ・・・」って戸惑ってしまって、シャルが「中断させてごめんなさい」って頭を下げた。

「写真撮影だっけ。よっしゃっ。みんなっ、階段に整列だぁぁーーーーッ!」

シャルが号令すると、みんな「はーいっ♪」って元気良く返事。みんなが階段に整列をし始める中、ルシルがシャルをジッと見て、「シャル。君の顕現時間はどれくらいだ?」って訊いた。

「ん? 詳しくは聞いてない。その代わり、テス・ルシからコレ渡されたんだよね」

シャルの右手にスッと現れる一冊の分厚い本。綺麗な装飾で施された美術品の様な本。ルシルがそれを見て「聖門開書(ヴァルグリンド)じゃないか。ていうか私の名前を略すな」って少し驚き呆れた。ヴォルグリンド・・・? 聞いたことない単語だ。

「随分な手段を取ったものだな私。だが今回だからこそ出来ることか」

「どういうこと?」

「聖門開書ヴォルグリンドの所有者が、そのヴォルグリンドに魔力を補充することによって顕現されたエインヘリヤルの顕現時間を伸ばすことが出来る」

「そんなことが・・・!?」

「うっそっ!? マジで!?」

その話はビックリだ。シャルですら驚いてるし。

(あれ? でもじゃあどうしてテルミナスの時やテスタメント事件の時に、そのヴォルグリンドを使わなかったんだろ?)

シャルも同じ疑問を持ったみたいで、「ちょっとルシル」って半眼でルシルを見詰める。

「ちょっと待った。私だってその手は考えたさ。しかし余裕が無かった。テルミナス相手にヴォルグリンドを使う余裕は無い。テスタメント事件の時は判るだろ」

余力が無い戦いだったテルミナスとの決戦。テスタメント事件は、ルシルは魔術師としての能力とかすごい制限されていたから。セレスの延命のために。

「そりゃそうだ。まぁ今回は・・・そっか。余裕云々はともかくとして、余力くらいはあるか」

「シャル。守護神のルシルって今どんな契約を・・・? それともまさかあれからずっと?」

「ずっと? えっと、召喚されたのは昨日。契約内容は、ウーニウェルスム、レースノワエ、スキエンティア、リーベルターテム、ペッカートゥムの五体の殲滅」

「なんとまぁ。ってまさか、またフェイト達にちょっかいを?」

「ううん。違うから安心して。詳しくは知らないけど、私の後継を狙ってるみたい」

「グロリアか。パッと見だったが、彼女は私より強い概念だな。最強の黒き第四の座も返上だな」

守護神のルシルより強い? だから狙われている・・・恐れられているんだねきっと。でもこう言ったらなんだけど、よかった。また大変な事に巻き込まれちゃうのかと思った。それじゃあ安心して言えるね。「それじゃあ魔力供給を続ければずっと一緒に居られるんだね」って微笑みかける。

「そういうことかな。とは言っても新婚さんなルシルとフェイトの邪魔はしないんで安心してね。まぁこの世界に居られる間はなのはの家かはやての家に御厄介になるわ。というわけでしばらくの間よろしくっ、なのは、ヴィヴィオ。はやて、シグナム達も♪」

「うんっ、こちらこそっ♪ 魔力供給の事だったらみんな協力するから」

「やったっ♪ シャルさん、お手合わせお願いしますっ」

「了解や。いつでも大歓迎やっ♪」

「ああ。よし、フライハイト、私とも剣を交えてもらおう」

「たくよぉ。シグナムはそればっかだな」

「フライハイトちゃん。私ね、料理の腕がぐっと上がったのよ。だから御馳走してあげるわ♪」

「シャマ姉。張り切り過ぎて大失敗っていうのは勘弁な」

「アギト。わたし達も参加しますよ。大切なシャルさんに炭化料理なんか出せません」

「どれ。私も参加しようか。シャマルの失敗阻止もあるが、なによりシャルロッテに恩を返す良い機会だ」

「リエイスまで・・・。くすん、失敗なんかしないもん(涙)」

「あははははっ。うん、その時は御馳走してねシャマル♪」

シャルが居てくれるだけでその場の空気は柔らかく、優しく、温かなものになる。

「ちょーっと待ったっ! シャルロッテ、約束憶えてないの!? ホテル・アルピーノに招待するって話! どうせなら来てよ家にも!というか来いっ」

「そうですよっ。精一杯のお持て成しを心がけるホテル・アルピーノにぜひぜひっ♪」

レヴィとルーテシアがシャルをカルナージに誘う。メガーヌさんも「ぜひいらしてください♪」って笑みを浮かべる。そこにアインハルトが「あ、あの、私と試合もお願いします」ってお願いし始めた。さすがシャル。人気者だから引っ張りだこだ。

「なぁシャル。一応フェイトとルシルの結婚式だ。主役より目立ってどうする」

「ohごめんクロノ。ていうか謝らないとダメなのはクロノじゃなくて、フェイトとルシルだよね。ごめんね」

「ううん、大丈夫。私としてもこうしてシャルと再会できたのは嬉しいし」

シャルの両手を握って、微笑みかける。今のは紛れもない本音。主役が霞んでいるとか関係ない。シャルと一緒に居られることが嬉しいんだから。

「そういうわけだ。ほら、君も並べ。一緒に写真を撮るぞ」

「・・・うんっ、ありがとう」

私たちも大階段の段差に並んで、集合写真を一枚撮影。それからルシルとのツーショットやなのはたち友人と一緒にっていうのも何枚か撮った。その中で、「そういや名前とかどうなってんの? ルシルが婿入りなんだよね?」ってシャルが訊いてきた。

「ルシリオン・セインテスト・ハラオウン。それが私の新しい名前だよ」

「私は変わらないよ。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」

散々悩んだんだけど、結局はこれに落ち着いた。以前ヴィータが言っていたテスタロッサ・セインテスト・ハラオウン・フォン・シュゼルヴァロードとかって奴も候補に挙がったけど、ルシルが却下。
セインテストも外して、ルシリオン・テスタロッサ・ハラオウンでも良いって言ってたけど、それは私が却下。セインテストはルシルの大切なファミリーネームだから。

「なるほど。まぁフォン・シュゼルヴァロードなんて、この世界じゃ要らないもんね。イイじゃん。ルシリオン・セインテスト・ハラオウン。ホントに結婚したんだねぇ~。おっと遅れた。フェイト、ウェディングドレスすっごい似合ってるよ♪」

「ありがとう、シャル」

今日この日、大切な日にシャルと、みんなで笑い合えるなんて幸せだよ。

「フェイト」

「うん、ルシル」

差し出されたルシルの右手の上に、左手をそっと乗せた。左手を引かれルシルの隣に並び立つ。二人の間で両手を重ね合い、向けられたカメラに視線を向ける。シャッターが切られる瞬間を狙って、ルシルの頬にキス。プレシア母さん。アリシア。リニス。私、今すごく幸せです。友達も出来た。大切な人も見つけた。その人とこうして結婚も出来ました。
だからね、

「ヒューヒュー、フェイトってばいつの間にそんな大胆になったの?♪」

「シャルちゃん、茶化しちゃダメ」

良かったらずっと見守っていてほしいなって思う。

「シャル。人は変われるんだよ♪」

「言うようになったじゃん。だから面白いんだよ、人って言うのはさ♪ こうなったらさっさと子供を作っちゃえ♪」

「ぶふっ!?」咽た。いきなり何を言い出すのシャルは! シャルは「人は変わるんでしょぉ? 幸せになるんでしょぉ?」ってニヤニヤ。ぅく。顔が真っ赤になってる自覚がある。そこにルシルが「ストップだ、シャル」ってシャルのおでこをペシッと叩いた。「へーい」ってお手上げしたシャル。もう、変なこと言うからルシルをまともに見れなくなったよ(泣)

「ま、ゆっくり進みたまえよ」

シャルはそう言って、なのは達の所へ駆けて行った。ホント、シャルってば嵐のような感じ。シャルを見送った私とルシルは、

「なのはとユーノにブーケが渡ったのっ? やばい、面白くなってきたぁぁーーーっ! もう結婚しちゃえよYOU達っ♪」

「「ええぇーーーーっ!?」」

二人で微苦笑。シャルの矛先がなのはとユーノに向いちゃった。助けた方が良いのかな?そう思ってルシルに振り向いたら、「っ!」いきなりキスされた。ビックリ。でもすぐに嬉しさが込み上げてくる。

「アイツも仕方が無いなぁ」

頬を少し朱に染めたルシルに手を引かれる。

「・・・・うんっ、本当だね」

私はそう笑って、ルシルに引かれたままじゃなくて横に並び立って歩く。そう、これからも横に並んで進む。後ろでも前でもなくて、あなたの隣で、あなたとずっと一緒に。

「披露宴って御馳走あるよね! お金無いけど食べていいっ? ていうか食べる! あとお酒も!」

「「「「「「「「「酒は飲むなっ!」」」」」」」」」

笑顔と笑い声に包まれたこれからの未来を、私は、私たちは生きていく。



――ANSUR第三章・界律の守護神編
『魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~』
All Episode fin.――

――Next Stage
ANSUR最終章・堕天使戦争完結編
『魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~』――




 
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