魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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ようこそ☆ロキのロキによるお客様のための遊戯城へ~ⅩⅡ~
前書き
VS蒼雪姫シェフィリス・C・ニヴルヘイム戦イメージBGM
イースvs.空の軌跡 「Overdosing Heavenly Bliss」
http://youtu.be/fVj5dWdLZlI
†††Sideフェイト†††
なのは達と別れて、私とルシルは二人でゴールだという転移門を目指して飛ぶ。前を飛ぶルシルに「みんな大丈夫かな・・・?」って尋ねる。答えは判ってる。ルシルとシャルの記憶の中で見た、ルシル以上の魔力と威力を有する魔術を扱うフノスさんを相手にして勝てるわけがない。
「どの程度制限されているかは判らないが、フノスに勝つのだけは不可能だ。カーネルの話だと固有能力だけは使わないらしいから、さすがに瞬殺されることだけはないだろうが・・・」
ルシルがスピードを落として私の横に並び、苦々しい表情を浮かべてそう答えた。やっぱりダメなんだ。ちょっと期待したんだけど、ルシルがハッキリそう言ったから、なのは達は今頃・・・。
「・・・気にはなるだろうが、気に病む事じゃない。はやてが言っていただろ? どこまで自分たちの魔導が通用するかを試してみたい、と。だから友として今は・・・・」
「そう・・だね。うん。私たちは私たちの仕事をしないとダメなんだよね・・・!」
ルシルも「そうだな」って微笑みを浮かべた。みんなは私とルシルのために頑張ってくれてる。それを無駄にしないためには、私たちが為すべきことを為す、それだけだ。気持ちを切り替えて、真っ直ぐと前を見る。視界に入るどこまでも青い空と二つの月。どこかミッドの空を思わせてくれる。そして下は平原が続いていて、大小の湖や池が点在。こんな綺麗な世界が戦場になったなんて悲しく思える。
「・・・見えて来たぞ、フェイト。アレがアースガルドへ繋がる唯一の転移門、ヘイムダル門だ」
そこには白亜の壁(高さは200mくらい)が円形状(直径3kmくらい)に建てられていて、その壁の中央にソレはある。扉。うん、大きな扉だ。幅は大体80mくらいで、高さは壁と同じくらいだから200mちょっと足りないくらい。ルシルが「降りよう」と言って降下していく。そんなルシルに私は声を掛ける。
「ねぇルシル。えっと、上空から進入できるんじゃないかな、これ・・?」
ガラ空きだし、わざわざ降りなくてもいい感じがするんだけど・・・。ルシルは降下するのを一度停止して「まぁ見ていてくれ」と言って、左手の平をヘイムダル門に翳す。手の平の前に展開されるサファイアブルーのアースガルド魔法陣。
「そうだった。フェイト。私から少し距離を置いてくれ」
「あ、うん。判った」
ルシルに言われた通り、ルシルから数mくらい離れる。私が離れたのを確認したルシルが頷く。
「燃え焼け、汝の火拳」
魔法陣が一際輝いて、そして放たれる蒼い炎の砲撃。真っ直ぐヘイムダル門へと向かって行って・・、目に見えない何かに遮られて防がれる。それだけじゃなくて、炎熱砲撃はこれまた真っ直ぐルシルに跳ね返ってきた。迫ってきた炎熱砲を避けたルシルが「というわけだ」って肩を竦めた。なるほど。上空からの侵入は出来ないってわけか・・・。
「・・・でもルシル。それなら説明してくれればよかったのに」
あんな危ないマネしないでほしかったよ。まぁ元はと言えば私が発端だから、そんなことを言うのもちょっと悪い気がする。
「確かめたかったからな。もしかして障壁が無いんじゃないかと。結局、障壁は健在だったな・・・。やっぱりフノスの言う通り正攻法で行くしかないだろう」
ルシルが降下再開。私も続いて高度を落としていく。降りている最中、転移門ヘイムダルを囲う白亜の壁を見ることになったけど、びっしりとルーン文字が刻まれていて、少し不気味に思えた。そんなことを思いながら地面に降り立って、唯一の入り口だと思う扉を眺める。
「さて。コイツはどう考えてもシェフィの仕業だな」
「うん・・・ルシルが言うならそうなんだろうね」
これまた大きい両開き扉がこれもかっていうくらいに氷結されていて開けられない。ルシルの言う通りこんな事が出来る“アンスール”は、氷雪のシェフィリスさんだけ。キョロキョロと辺りを見回すけど、姿はどこにも見えない。氷結させてそのまま撤退? さすがにそんなわけないよね・・・?
「ルシル。炎熱系で融かすことは出来ない?」
そう提案してみる。ルシルは考える素振りすらせずに「ムリだ」って即答。う~ん、やっぱりか。記憶の中で見たシェフィリスさんは、炎熱系の魔術すら難なく氷結させていたから。
「私の炎熱系術式の火力じゃシェフィの氷結は融かせない。たとえシェフィの魔力が制限されていたとしてもおそらく・・・」
ルシルがそこまで言ったところで、
「氷を融かすズルはダメだよ、ルシル」
ドキッとしてしまうほどに綺麗な声が耳に届く。声のした方へ振り返ろうとした時、視界が閉ざされてしまうほどの吹雪が起きる。“バルディッシュ”を持っていない左腕で顔面を庇って、ただ耐える。数十秒くらいの吹雪も止んで、目を開けて・・・絶句。景色がガラリと変わっていて。
「冷た・・・。ふぅ。随分な挨拶だな、シェフィ。初っ端から氷結女帝の城を発動か」
ルシルが自分の身体に積もった雪を払いながら呆れ果てる。ルシルと私の視線の先に、装飾の施された足元まで覆う蒼いロングワンピースに、胸元に赤い大きなリボンをあしらった白のクロークを着こんだシェフィリスさんが佇んでいた。
私がシェフィリスさんよりソレから視線を逸らさずにぼけーっとしているから、ルシルが「ほら、フェイト。雪を払え」って、私に積もった雪を払いだした。ここで再起動。「ごめん。ありがと」って雪を払うのを引き継ぐ(というか自分に積もってるんだからルシル任せはおかし過ぎ)。
「氷結女帝の城を発動させたという事は、やはり戦うつもりか?」
ルシルが私の前に躍り出て、シェフィリスさんとその後ろに在るソレを真っ直ぐ見詰める。私ももう一度見る。シェフィリスさんの背後にそびえる青い氷で出来た城を。中央と左右に一棟ずつ塔があって、その間に居館がある簡単なデザインの城なんだけど。ただ建ってるだけじゃないのは確かだから、何かしらの補助術式か増幅術式の可能性がある。ルシルとシャルの記憶の中には出なかったから効果が判らない。
「うん。敵対者とは魔道を交えて語る。フェイトさんともぶつかっておきたかったし」
「ゼフィ姉様の持論だな」
「えっと、なのはも似たような考えを持ってるよね。あと、私って敵意持たれてる?」
「そう言えばそうだな。いや、敵意は持ってないだろ・・・」
「ルシルの言う通りだよ。敵意じゃないし、もちろん嫌ってもない。むしろ私はルシルと貴女の仲を祝福しているし。感謝でいっぱいだよ。ぶつかり合いたいっていうのはね、貴女への興味からなんだよ、フェイトさん」
シェフィリスさんがニコッと微笑みかけてきてくれた。よ、よかったぁ。今までのが演技で、実際は私を嫌ってました、なんてオチじゃなくて。ホッと安堵の息を吐く。
「それじゃあ確認するね。早い話が私をノックアウトすればOK。そうすれば入り口を閉ざしてる氷結が解除されるから。解り易くて良いでしょ?」
頭に被った毛皮の無いパパーハを取って、上に放り投げた。私は釣られてパパーハの行方を目で追う。パパーハは空で凍りついて砕けた。一体何だったんだろ? 雪となって降ってくるパパーハの破片からシェフィリスさんへと視線を戻す。と、シェフィリスさんの着ている衣服が変わっていた。
蒼い燕尾シャツにフレアロングスカート、腰に巻いているオーバースカートは前開きのフレアスカートで色は白。スカートの裾から覗く黒いブーツ。肩に羽織っている白の袖なしインバネスコート。髪型はツーサイドアップじゃなくて耳下で髪を束ねたツインテール。それが、シェフィリスさんの魔術戦のための戦闘甲冑。記憶で見た通りの格好だ。
「それじゃあ始めよう。スンベル最後のお題、最後の戦いを・・・!」
VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦✛
其はアンスールが蒼雪姫シェフィリス
✛◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS
シェフィリスさんの右手にアイスグリーンの光が溢れて集束。光は杖を形作っていって・・・その姿を露わにした。一言で言えばまさに杖。1m半くらいの長さの棒状クリスタル(蒼だからサファイア?)が捻じれていて、縄のような杖になってる。クリスタルは先端で分かれて、球体状のアメジスト?(紫色だから、たぶん)を三方からがっちりキャッチしてる。
「コレ、神造兵装第10位・神杖ガンバンテインって言ってね。私のために在る神器と言っても過言じゃないの」
“ガンバンテイン”の先端を私たちに向けて、ニコニコ笑みを浮かべた。するとルシルが「しまったっ! フェイト散開だっ!」って私の肩を叩いた。ルシルの切迫した声に、私は考えずに空へ上がる。ルシルも私と逆方向に向かって飛んだ。
――雪槍乱穿――
空に上がった直後、“ガンバンテイン”の先端にあるアメジストから、吹雪の砲撃が放たれた。吹雪の中には、氷の槍か杭のようなものが幾つも巻き込まれてるのが見えた。吹雪だけだと思って防御に回ったら、氷の槍で防御を削られて終わるかも。それにしても、あんな笑顔であんな冗談じゃ済まされない攻撃を使うなんて。シェフィリスさんが空に居る私とルシルを見上げて「あ、外した」って漏らした。
「不意打ちとは・・・いい度胸じゃないか、シェフィ」
ルシルが“ラインゴルト・フロースヒルデ(双銃剣)”を起動させる。私も“バルディッシュ”を大鎌ハーケンフォームにして、両手で構える。シェフィさんがルシルの“フロースヒルデ”を見て、左手を顎に当てて考える仕草をする。えっと、この間に攻撃とかしていいのかなぁ・・・?
「エリアマスターの権限において。ルシルの神器・神槍グングニル使用を許可します」
「・・・いいのか?」
「グングニルくらいないと苦戦するよ、きっとね」
ルシルは“フロースヒルデ”を指輪に戻して「グングニル」と告げると、ルシルの左手に“グングニル”が現れた。これで本当の戦闘開始になるみたい。それを示すかのように、シェフィリスさんの背後に建つ氷の城に動きが。三棟の塔と居館の至る所に開いている窓らしき穴から光が漏れだす。光がパタリと止んで・・・・
「氷帝城塞の砲撃・・・・撃てぇぇーーーーッッ!!」
穴という穴から巨大な雪玉が数十と飛び出してきた。よく見ると、雪玉の表面には雪だるまの様な顔が。あ、可愛い。
「じゃなくてっ・・・・!」
――ソニックムーブ――
避ける。避けるけど数がハンパじゃない。視界いっぱいが真っ白な雪玉だ。それなら回避だけじゃなくて迎撃を。雪玉の軌道に注意しながら一瞬だけ停止。
「ハーケン・・・セイバーッ!」
“バルディッシュ”を振るって雷撃の魔力刃を放つ。ハーケンは雪玉を切断していきながらエーリューズニルへ向かい・・・・当たる直前で氷結されて粉砕された。ハーケンくらいじゃビクともしないということか。切断力は抜群なんだけどな・・・。回避を再開したところに、『フェイト、止まってくれ』ってルシルからの念話。もう雪玉が幾つか迫って来ていたけど。うん、ルシルを信じよう。
――弓神の狩猟――
止まった直後、無数の蒼い光線が私を追い抜いて行って雪玉を粉砕。ルシルの上級術式だ。ウルだったらエーリューズニルを壊せそう。と思ったんだけど、ウルが全弾氷結されて粉砕。雪玉と氷結されたウルの破片が宙を舞って、陽光を反射してキラキラ光る。凄く神秘的な光景で思わず見惚れてしまいそうになる。こんな状況じゃなかったら、ルシルとゆっくり眺めていたいなぁ~。
「やはりウルの様な拡散攻撃じゃ突破しきれないか」
「あ、でも雪玉攻撃は何とかなったね」
「あは、そうだね。雪玉攻撃だけは、ね」
「なっ・・いつの間――っ!」
すぐ目の前にシェフィリスさんが居た。全然接近に気付かなかった。いくら意識が散漫(ちょっと。本当にちょっと)になっていたと言っても、全然気付かないなんて有り得ない。すでに振りかぶっていた“ガンバンテイン”を勢いよく振るってきた。“バルディッシュ”を前面に掲げて防御態勢。その瞬間に衝突。シェフィリスさんは“ガンバンテイン”を握っていた右手を離して振りかぶった。
「凍破・・・!」
冷気を纏った拳打による攻撃と判断。現に振りかぶられた右拳の周囲の大気が凍っていってる。シェフィリスさんが私の目を見てる。これは・・・誘われてる・・・? だったら私も付き合わないと。そして、勝つッ。
「プラズマ・・・アームッ!」
私も右手を“バルディッシュ”から離して振りかぶり、雷撃を纏わせての拳打を放つ。シェフィリスさんが笑みを浮かべる。真っ向からの同種の魔法の打ち合いが嬉しいのかな?とか思ったり。
「誅拳!!」
鍔迫り合いしてた“バルディッシュ”と“ガンバンテイン”が離れてすぐに雷撃と冷気の拳打が私たちの間で衝突。拳の接着面から冷気が周囲に飛び散って氷の結晶と化し、雷撃の閃光を乱反射する。だから視界が眩しさで潰されて目を閉じざるを得なくなった。
――氷零世界の箱舟――
何かすごい音(何かが砕けたような)がしたけど、目を開けていられないから何が起きているかは判らない。それに、シェフィリスさんも同じはずなのに攻撃を続行しているから、もうそっちに意識を割けない。こっちも負けじと右拳に、さらに力と魔力を込めて押し返す。
「おお、結構粘るんだ。いいね、いいよ。じゃあちょっと付き合って。私と貴女の一対一で。ルシルには邪魔されないようにしたから」
――天上隔離結界――
まぶたを閉じても意味のない真っ白に染まる視界の中、シェフィリスさんがそう言った。最後の、一対一の後がちょっと聞こえなかったけど。でも、うん、望むところ。シェフィリスさんには負けない、負けられない、負けたくない。光の乱反射にも慣れてきて、少しだけ目を開ける。
「私は貴女にすっごく感謝してる。私は、魂だけの存在としてルシルの内側から外界を覗いてきた。だから知ってる、解ってる。ルシルがどれだけ苦しんだのか、傷ついてきたかを」
「魂・・・?(っと、気を抜いたら負ける!)」
「はい、隙あり♪」
「ぅわっ・・・!?」
気を取り直した時に妙な力みを入れてしまったせいで体勢を僅かだけど崩した。その隙を突いたシェフィリスさんの“ガンバンテイン”による殴打。でもなんとか“バルディッシュ”で防御することに成功。で、私は衝突の衝撃に弾かれてシェフィリスさんとの距離が開く。
――月花氷塵――
シェフィリスさんの周囲に、無数の氷の礫を巻き込んでいる小型の竜巻が七つ発生。試しにプラズマランサー五基を撃ち込んでみるけど、全弾弾かれた。というより削岩機に掛けられたように先端から粉砕されて消滅。
「そう。私とシエルとカノン、三人の身体と魂は、今なおルシルの創世結界の一つ、英雄の居館内にあるんだ」
シェフィリスさんの言葉に、私はルシルの記憶の中での出来事を思い出す。ヴィーグリーズで起きた“アンスール”の終焉という悪夢。“堕天使エグリゴリ”に殺害されるシェフィリスさんとシエルさんとカノンさん。ルシルは確か・・・シェフィリスさん達の身体を転送していたような・・・。
そう思い出していると、竜巻が少しずつだけど迫っている事に気付く。なら距離を取って中距離魔法で弾幕を張り、隙があれば最接近して反撃の隙を与えないように連撃。これで行こう。
――ソニックムーブ――
シェフィリスさんから大きく距離をとる。するとシェフィリスさんが「爆破」と告げ、竜巻が一斉に爆発、氷の礫を周囲に撒き散らす。礫は回避。その間にシェフィリスさん本体へと、
「プラズマバレット・・・、ファイアッ!」
魔力弾十五基を射出。シェフィリスさんは回避を選択。だけどバレットを誘導操作が可能な魔法。操作してシェフィリスさんを追撃させる。さらに自動追尾のハーケンを飛ばす。飛ばした後で“バルディッシュ”を大剣ザンバーフォームへ。
「おっとと。えっと、だから私たちはまだ輪廻転生を終えずにいる。ルシルも含めて、私たちはあの悪夢の時から解放されていないってわけ」
――天花護盾――
シェフィリスさんの前面に巨大な雪の結晶の様な盾が展開。盾に触れたバレットが全弾氷結されて粉砕。切断力高いハーケンですら無力化された。さすが炎熱すら氷結する事が出来る魔術師。雷撃系の私に、シェフィリスさんの護りは突破できない。・・・とは思わない。何か手段があるはずだ。防御をかいくぐってダメージを通す方法が。
「その事をルシルは知っているんですよね?」
「たぶん知らない。私とシエルとカノンの魂が、今もなお自分の内に閉じ込められているなんて。知ったらきっとさらに自分を責める。だからこれは私と貴女の二人だけの秘密ね」
シェフィリスさんが人差し指を唇に当てて、微苦笑を浮かべる。それは私も賛成だ。今まで、ううん、これからもまだまだ自分を責めるだろうルシル。たとえルシルが“神意の玉座”に在る本体と繋がっていないのだとしても、この情報を知ったらきっと、さらに自分を責めるはずだ。
「まぁその辺りはいいか。究極的に何が言いたいのかって言うと。・・・フェイトさん。ルシルを好きになってくれて、ありがとう」
「っ!・・・シェフィリスさん・・・・」
見惚れてしまうほどの笑顔。だけどどこか寂しそう。そう、だよね。ルシルは、シェフィリスさんにとっても恋人だった。だからルシルの幸せを願いながらも、やっぱり辛いんだよね。好きな人が自分じゃない女性を愛するとなると。私もセレスに抱いた感情だ。
†††Sideフェイト⇒ルシル†††
私に用意された敵――氷結女帝の城エーリューズニルの氷を再利用して創られた氷雪製の戦艦・氷零世界の箱舟リーヴスラシル。リーヴスラシルは、シェフィが得意とする氷雪造形魔術の中でも図抜けて強大な作品だ。コレで、“天光騎士団”の第八騎士アハト・リッター・サー=グラシオンとその騎士団を全滅させたのだから。おっと。思い出に浸っているような状況じゃなかったな。
――天罰氷覇――
――断罪凍波――
氷結効果が付加されている魔力砲と魔力弾による弾幕。それらが下に向かないようにするのに苦労する。迎撃も防御も意味をなさない程に強力な攻撃で、下手に防御に回ると防御の上から氷結される。“神々の宝庫ブレイザブリク”が扱えれば力押しでどうとでもなるが、現状、色々と制限されてしまっている身としては荷が重すぎる。
(それにしても。シェフィはフェイトに一体何の用があるんだ?)
私とリーヴスラシルを、わざわざ結界を張って空に隔離する理由が判らない。まぁいい。どういう考えであろうと、まずはリーヴスラシルを沈めなければ話が進まない。リーヴスラシルの攻略法は、まず動力である左右20本のオールを破壊しなければならない。ということで、
「では早速一本目の破壊と行こうか・・・!」
――力神の化身――
筋力・魔力と言った全ての“力”を強化するマグニを発動。中級ゼルエルの強化版だ。利き手である左手に携える“グングニル”を振りかぶり、「いけっ!」と投擲。投げれば必ず当たる、という“グングニル”の能力・必中必殺に頼った一撃は、右サイドの一番前のオールを貫き破壊。一仕事を終えた“グングニル”は閃光の尾を引いて私の手元に戻ってくる。
――天罰氷覇――
甲板に浮遊している球体状の砲撃照射システムからの砲火が一層激しくなる。だが空戦形態ヘルモーズである以上、そう簡単に撃墜されたりはしない。
――浄化せよ、汝の聖炎――
――燃え焼け、汝の火拳――
――輝き燃えろ、汝の威容――
――無慈悲たれ、汝の聖火――
――咲き乱れし、汝の散火――
――女神の陽光――
――邪神の狂炎――
――大炎帝の劫火――
「・・・運命の三女神・其は編む者・・・!」
回避中に炎熱系術式を複数発動。どれも形にはせずに炎だけだが。まぁそれはともかく、神造兵装第一位たる“神槍グングニル”に、人間の技術である魔術を纏わせるには特別な術式ウルドが必要となる。まったく。扱う人間を選ぶわ、魔術を付加させるにも専用の術が必要だわと面倒な槍だ。だがその分の働きをしてくれるので文句は・・・まぁ、無い。
「さぁ二発目だ! 今度は一気に消し飛ばしてやる!」
蒼炎を“グングニル”の上下にある二つの穂に纏わせて投擲。蒼炎を引いて右サイド全てのオールに向かって行く“グングニル”を見送りつつ、
「復讐神の必滅・・・!」
私に対して攻撃を仕掛けてきた相手を自動追尾する砲撃ヴァーリを六条発射。迎撃されない限り、そして砲撃を構成する魔力が切れない限りは、一度ロックオンした相手を永続追尾する。標的は砲撃を放ち続ける球体状砲台。ヴァーリは迎撃のために放たれる砲撃を回避しながら、確実に砲台へと向かい・・・破壊。さらに破壊。もっと破壊。最終的に六条のヴァーリは甲板上で暴れ回り、十八の砲台を破壊。
――断罪凍波――
まだ健在である十二の砲台の内、二つの砲台から氷の結晶が集まった、まるでモーニングスターの先端部のような砲弾が撃ち出される。だが狙いは甘く、二つの砲弾は私の両サイドを通り過ぎて行った。二つの砲弾が衝突したのか、背後でガシャァァン!とガラスが割れたような音が轟く。
――天罰氷覇――
間髪入れずに放たれる一条の砲撃。これは直撃コースだったために回避。何気なく砲撃の行く先を見、そこで自分の大きな過ちに気付いた。さっきの照準のズレた二つの砲弾。あれはミスじゃなかったんだ。
(もっと怪しんでおけっ私!)
自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。砲弾を構成していた氷が砕けて無数の破片となり、砲撃を拡散するための反射板と化していた。砲撃は反射板へ進む。こうなってはもう覚悟するしかない。
「避けて避けて避け続けるっ!」
乱反射による無差別軌道砲撃。ちょっとした油断が命取りだ。
†††Sideルシル⇒フェイト†††
「「っ!?」」
私とシェフィリスさんの間に振ってきた極太の砲撃。その数4。地面に着弾した砲撃が爆発を起こす。でも巻き起こすのは爆炎じゃなくて氷雪と冷気。地面が露わになった時、そこは一面銀世界。全てが氷結されていた。問題は空。どこから砲撃が?だった。ここで私は思いだす。ルシルは一体どこ?って。その答えが、さっきの上空からの砲撃だった。
『ちょっとルシル! しっかりリーヴスラシルの攻撃を受け持って! 危うく私とフェイトさんに当たりそうだったでしょっ!』
シェフィリスさんが空を見上げて念話での怒声を飛ばした。ルシルはここよりずっと高い空に居た。しかも戦ってる。今まで気付かなかった自分の間抜けさを痛感してしまうほどに巨大な氷雪製の船と。
長さ200m・幅20mくらいの船体。その両側から巨大なオールが左右それぞれ・・・ん?
左右で数が合わない。あぁそうか。ルシルが破壊したんだきっと。確認出来る八本のオールが飛び出していて、空を漕ぐように動いてる。それに、たぶん船上からさっき降ってきた砲撃と同じような攻撃がルシルに狙いを定めて放たれ続けてる。
『仕方ないだろ! 避けなければ墜とされていたんだ! はぁ。・・・・それはそうとフェイト! ケガはないか!?』
『私は大丈夫!』
『そうか。すまん、次は気を付ける!シェフィもすまなかった。というか、今回のリーヴスラシルの攻撃、性質が悪くないか!?』
『ルシルの腕が鈍ったんじゃないの!?』
『・・・・そんなまさか』
ルシルが蒼い閃光の尾を引きながら、空を縦横無尽に翔けながら砲撃や魔力弾を避ける。でもちゃんと回避の最中でも、
――女神の陽光――
特大炎熱砲撃ソールを連発。リーヴスラシルに直撃。爆炎が噴き上がるのが見える。でも爆発音が聞こえない。そもそも魔力反応も察知できないし。だから気付かなかったんだ。ルシルとリーヴスラシルって言うあの巨大船との戦いに。
ルシルを掠める砲撃。堪らず「ルシル!」って叫ぶ。一瞬だけ私を見て頷いた。大丈夫だ、って意味を込めた視線付きで。なら私もと思って、頷き返した。ルシルを安心させるように。ルシルはそのままリーヴスラシルとの戦闘に意識を向けて、光となって空をまた翔けだす。
「ねぇフェイトさん。私ね。死んだ今でもルシルが好き。永遠に変わらない想い。堕天使たちを救って、テスタメントから解放されて、アースガルドに戻って、私たちの魂を解放して・・・。それでね。もし生まれ変われて、そしてルシルと再会出来たら――」
――雪槍乱穿――
「私はまたルシルを好きになる。そして、もし貴女もその場に居たとしたら。・・・・私は貴女に勝つ」
氷の槍を複数含んだ吹雪の砲撃。そして、シェフィリスさんからの宣戦布告。生まれ変わった後の世界での話だけど。でもだからと言って世迷言だなんて流すわけにはいかない。
だって・・・・
――ソニックムーブ――
砲撃を回避して、すぐさまプラズマスフィアを周囲に六基展開。プラズマスフィアは本来プラズマランサーの発射体だけど、ランサーとして使わずに別目的のための利用も出来る。スフィアの電気を全てザンバーの刀身に蓄積させて、さらにカートリッジもロード。
「雷光一閃・・・!」
雷光を放つ“バルディッシュ”を掲げて、
「私だって・・・負けないッ!!」
――プラズマザンバーブレイカー――
縦一線に振るい、限界にまで威力を高めた雷撃砲を、強い想いと一緒に撃ち放つ。放った瞬間、チラッと見えたシェフィリスさんの表情は・・・・・笑みだった。
――氷零冥塔――
シェフィリスさんの前に氷の柱が四棟、並列して突き出してきた。その直後にブレイカーが氷柱に着弾。雷光を周囲に迸らせながら大爆発を起こす。氷結されなかった事に僅かな期待を持つ。でも反撃に備えて警戒。
――氷領結界――
徐々に私とシェフィリスさんを隔てる粉塵が治まっていく。完全に晴れると、氷柱のど真ん中に大穴が開いていた。その奥に片膝をつき、“ガンバンテイン”を杖代わりにして立ち上がろうとしていたシェフィリスさんの姿が確認出来た。大穴と片膝をつくシェフィリスさん。ブレイカーが通った証拠だ。
「あ痛たた。冥塔じゃなくて護盾にするべきだったかな。あはは」
それでも笑みを崩さない。それに思ったよりダメージが入ってない事にショック。「結構すごいんだね」と立ち上がったシェフィリスさんが私を真っ直ぐ見詰めてきた。こちらも見詰め返す。どんな言葉も、想いも、心も。全部受け止めたいから。
「貴女の言葉には確かな意思がある。あはは。ルシルは本当に幸せ者だよ♪ ルシルね。貴女と出逢う前にも行く先々の契約執行世界で何度か告白を受けているんだけど。聞いた?」
――雹翔連弾――
四棟の氷柱が一斉に崩れて、無数の氷の弾丸となって強襲してきた。
――ソニックムーブ――
高速移動魔法で回避。防御力が弱い私には“アンスール”の魔術を防御する、なんて選択肢はないから。回避中、シェフィリスさんへと「詳しくは聞いてないですけど」と答える。ルシルからそういった話は聞かないし、聞きたくない。だからそういう事柄の話をするのは主にシャルだ。そんなシャルも詳しくは喋らなかったから、別世界での契約での事はあんまり知らない。
「そっか。・・・私は見てきた。相手の女の子たちを。良い子ばかりだったよ。でも、ルシルは断ってきた。私の事はもちろんガブリエラって娘の事があったから」
――氷装零剣――
“ガンバンテイン”全体が氷に包まれて、杖から剣へと変化した。剣と化した“ガンバンテイン”を脇に構えて、微苦笑を浮かべながらシェフィリスさんが突進してきた。記憶の中でのシェフィリスさんが近接戦闘をした場面は確か無かったような・・・?
でもルシルが私たちに見せたのはほんの一部(本当にグロテスクな場面などは飛ばしたって話だ)だけだから、その飛ばされた場面の中にあったかもしれない。
「あ、それは知ってます。ルシルが自分の幸福を捨てた最大要因、ですよね・・・っ!」
「そう・・・っ!」
お互いが全力で振るったザンバーと“氷剣”が衝突。ザンバーの刀身は氷結されずにちゃんと鍔迫り合いが出来てる。シェフィリスさんがそうならないようにしているからかもしれないけど。
「そうそう。でね。私・・・ルシルが断るたびに、やった、って思ったの」
「・・・・何となくですけど・・・解る気がします・・・!」
さらに力を込めて、シェフィリスさんごと“ガンバンテイン”を弾き飛ばす。たたらを踏んでいるシェフィリスさんへザンバーを一閃する。だけど・・・
(外した!?)
確かに間合いに入っていたのに、シェフィリスさんに当てることが出来なかった。大振りだったことで大きく体を開いてしまった。その隙をつくシェフィリスさん。体勢を低くして突進してきた。振るわれる“ガンバンテイン”。あ、でも・・・間合いがおかしい。シェフィリスさんの位置からの一撃だったら半歩下がるだけで避けられる。だったら紙一重で避けて、すぐさまカウンターを打ち込む。それで行ける、って思った。
「が・・・っ!?」
直撃だった。左腕にしっかり決まる“ガンバンテイン”の一撃。切断力が無いことが幸いだった。剣で斬られたというよりは鈍器で殴られた感じ。下手に足に力を込めてその場に留まろうとせず、殴られた衝撃に任せて吹き飛ばされる。そうすることで衝撃を出来る限り減らせるから。3mくらい飛ばされて、でも何とか体勢を整えることに成功。よかった。体勢を整えるまでに追撃されてたら終わってた。
(今・・・剣が伸びたような・・・?)
そう。“ガンバンテイン”の剣先が突然伸びたように見えた。でも見ると“ガンバンテイン”の刀身の長さは始めと同じ。変わってない。間合いを計り損ねた? ううん、さすがにそれはない。シャルやシグナムといった高位の剣士と何度も何度も試合ったんだ。だからこの目で見て、すでに何度か交えた以上、刀身の長さを計り損ねるなんてまずない。
「左腕、大丈夫? 折れないように気を付けたんだけど」
「お、折れてはいないですけど・・・すごく痛いです」
左腕が痺れて動かせない。動かすにはちょっと時間が要るかも。
「それは良かった。あと謝罪はしないから。・・・えっと、話の続きなんだけど。それって、やっぱり嫉妬、だよね。ルシルを取られたくないって」
解ってる。今は戦闘中。攻撃を入れたその相手に謝ることはない。そして嫉妬。そう、私も抱いたことがある感情。だから解る。シェフィリスさんの気持ちが。
――凍波裂閃――
“ガンバンテイン” が横一線に振るわれた。放たれるのは、扇状に広がる十二の冷気の剣状砲撃。回避のために急降下。シェフィリスさんが追翔してきた。振り向きざまにザンバーを一閃。今度も直撃出来る間合い。それは確かだった。確かなのに・・・
(また外した!?)
ザンバーはシェフィリスさんを掠める事も出来ずに空を切る。そのまま突っ込んできたシェフィリスさんのショルダータックルを、
――ソニックムーブ――
ギリギリで回避することに成功。それにしても判らない。どうしてか間合いを計り損ねる。だから攻撃が当たらない、避けれない。
「ルシルの事を思えば・・・そんな感情を抱くのは良くないって判ってる」
――氷装零鞭――
氷剣が砕けて、代わりに“ガンバンテイン”の先端にあるアメジストから氷で出来た鞭が伸びてきた。
「だから・・・。だから貴女がルシルに告白した時、私はルシルの背中を押した。幸せになったっていいんだよ、って。貴女がした告白の台詞を聞いた時、あぁこの娘にならルシルを任せられるな、って思ったから。ゼフィ様も認めているようだし。うん、嫉妬しちゃうけど、でも、嬉しいんだ」
「シェフィリスさん・・・」
全長50m程の氷の鞭がしなる。剣以上に軌道が読みづらい。それに、もしまた間合いを計り損ねたりしたら・・・ううん、弱気になるな。きっと何かしらの魔術を使っているんだ。それを見破ることが出来れば・・・。
(一応アレをやってみようかな・・・)
シグナムのシュランゲバイセンに似ていることが良かった。また若干の間合いのズレを感じるけど、何とか避けることが出来る。
――プラズマランサー――
試しにランサー八基を射出。だけど変幻自在の動きを見せる氷の鞭に全弾弾かれた。やっぱり。目視しているのと実際の鞭の軌道が微妙に違う。
「じゃあ・・・・これなら・・・疾風迅雷!」
ザンバーの刀身が帯電する。この魔法なら、きっとこの違和感の正体を潰すことが出来る。
「スプライト・・・ザンバァァーーーーーッッ!!」
術者周辺の空間に発動されている結界や補助魔法の効果を破壊できるスプライトザンバー。効果は期待通りあった。私たちの周囲を覆っていたキラキラ光る何かが吹き飛んだ。目に見えないほどに小さな小さな氷の欠片だ。そうか。乱反射が原因だ、間合いを計り損ねたのは。
「お、おおっ。結界がこんなにも簡単に壊された・・・! それに、零鞭まで・・・」
やっぱり結界が張ってあったんだ。間合いのズレはその結界の効果だったんだ。結界破壊だけじゃなくて、氷の鞭も破壊出来た。氷で何か創るのは補助術式のようだ。
「・・・・シェフィリスさん」
「ん?」
「私・・・、私は・・・。ありがとうございます。ルシルとの仲を認めていただいて」
構えていたザンバーを降ろして頭を下げる。シェフィリスさんは虚を突かれたようにポカンとしたまま無言。あれ? あれれ? もしかしていう言葉を間違った? ありがとう、より、ごめんなさい、の方が良かったのかな?戸惑っていると、シェフィリスさんが大笑いし始めた。
「いやいや。ううん。こちらこそありがとう。何かスッキリした。そうそう。ルシルと十年以上一緒に過ごしたんだからもう判ってると思うけど、ルシルって時折、自分を二の次にして行動するから」
「あはは。もう嫌と言うほどに判ってます♪」
「ふふ。彼の手綱を握るのは結構しんどいかもだけど、愛があればラクショーだよね」
「あ、あああああ愛ぃぃいいいい、愛ですかっ!?」
いきなり愛だとか言われると困る。いやいや、もう二十六歳なんだから、これくらいでパニックを起こす方がおかしいんだろうけど。ほら、シェフィリスさんも、急にどうしたの?みたいな顔してるし。
「愛だね~」
「愛ですかぁ~」
「貴女とルシルの愛ですよ~」
「・・・・・・・・あぅ」
二人してルシルの居る空を見上げながら、しみじみとそう呟き合う。空は、ルシルがリーヴスラシルを轟沈させた直後。だから砕けていく船体が雪となって消えていっていた。するとシェフィリスさんが「さて。この勝負は私の負けと言うことで良いかな?」って同意を求めてきた。
「え、でも・・・。シェフィリスさんは全てを出し切っていないですよね? 真技だとか、水流系術式だとか、色々と・・・」
「なに? 真技を使ってほしかった? そんなこと言うなんて勇者ね、貴女。私の真技は結構すごいよ? いくら制限が掛けられているからと言っても、防御はもちろん余程の運が無いと回避も出来ない」
「知っています。プスィフロス・エヴィエニス・ヒョノスィエラ・カタストロフィ・・でしたよね?」
シェフィリスさんの真技だけは良く憶えてる。というか忘れられない。でも名前の方はうろ覚えだから、間違ってたら恥ずかしいなぁ。けどそんな心配は無用だったようで「よくご存じで」って笑ってくれた。
「超広域絶対氷結殲滅真技――氷葬大結界・真百花繚乱。アンスールの中で、この真技に真っ向から受けに行けるのは、フノスとルシル、ステアくらい。だから使わない。使いたくない。というわけで、この戦いは、貴女とルシルの勝ち」
シェフィリスさんは“ガンバンテイン”を魔力に戻して霧散させた。武装解除。本当の本当にこれで決着みたいだ。
「話が終わったならこの結界を早く解除してくれ、シェフィ!」
そう声がして、また空へと視線を戻す――と、ルシルが何も無い宙に四つん這いになって、宙をドンドン叩いていた。何をやっているんだろう? 結界だとか言っているけど。シェフィリスさんをもう一度見る。すると「忘れてた」って舌をペロッと出した。
「術式解除っと」
指をパチンと鳴らすと、空がひび割れて、パキィィーーンと割れた。本当に結界があった。あーそうか。ルシルとリーヴスラシルの戦闘に気付かなかった理由が、今の結界なんだ。
「今のはね、天上隔離結界と言うんだけど。術式名の通り、空を隔離する結界。大戦時、空からの奇襲にも備えないといけなかったからね。だからこの結界で、野営地と空を隔絶したってわけ。
結界を通り抜けられる魔術は、術者である私と、私が許可した魔術師だけ。だから空からの奇襲は成功しない。で、結界があると知らずに攻撃したら、私に報せが入る。味方を動員して地上から一斉砲火してカウンターすることが出来たりするんだ」
ということらしい。それだけじゃなくて、その都度その都度で別の効果を付加できるみたい。
「はぁ、早く気付いてほしかったな」
「ごめんね、ルシル。フェイトさんとお喋りしてたらすっかり忘れちゃった。ね、フェイトさん? 女同士の話と戦い、かなり楽しかったよね」
「え、あ、はい」
いきなり話を振られたからビックリした。この反応で変に思われないかな・・?
シェフィリスさんにそう言われたルシルは「まぁ男がいなければ気兼ねなく話せることもあるか」って納得済み。あはは、やっぱりシェフィリスさんの話なら真っ正直に信じちゃうんだ。いやいや。実際に楽しかったから(ドキドキした)嘘じゃないけど、シェフィリスさんの言ってることは。
「それじゃ氷結を解いて、二人にはゴールをしてもらおっか」
†††Sideフェイト⇒ルシル†††
三人で地上へと降り、ヘイムダル門を囲う壁に設けられた扉へ向かう。凍りついた扉の前へ着き、シェフィ一人が扉へ近づいて行く。扉へと両手の平を翳し、「術式解除」と告げる。それに呼応して解凍されていく扉。シェフィはそのまま扉へ両手をつき、ゆっくりと扉を開けていく。
「さぁどうぞ。ルシル。フェイトさん。この先に在る転移門ヘイムダルを潜れば、お題クリアよ」
ホテルマンのような仕草で私とフェイトを招き入れるシェフィ。
「行こうか、フェイト」
「うん。ルシル」
最後にシェフィに別れを告げようとしたところでそれは起きた。
「「「っ!?」」」
地震だ。しかもかなり激しい。カーネルの真技ほどではないが、だが強い。倒れ込みそうになったフェイトとシェフィの肩を抱いて支えてやる。というか私ももう立っていられない。だからゆっくりと二人を座らせることに専念。しばらく地震は続き、収まったところでさらに異変。
「空が割れる!?」
フェイトが空を見上げて叫ぶ。フェイトの言う通り空が割れ始めていた。結界が砕けたような生易しいものじゃない。このスンベルと言う世界自体が割れているような感じだ。そこにシェフィが「そんな、嘘っ!?」といきなり声を張り上げた。驚く私とフェイトに、シェフィは小さく「ごめん」と謝った。何かしらのアクシデントが起きたのは間違いない。そしてそのアクシデントを私は目の当たりにした。
「そうか・・・。お前が次元世界に現れたからこそ私とグロリアと言う守護神が召喚されたのか・・・!」
割れた空より顔を覗かせるソレ。見間違うはずもないソイツに、私は悪態をつく。私の言葉を聞いたフェイトが「アレって、やっぱりアポリュオンなの?」と訊いてきた。答えはもちろんイエス。“アポリュオン”はナンバーⅩⅠ:永遠アエテルニタス。
「おいおい。テスタメント・ルシリオンとグロリアは何をやっているんだ・・・?」
◦―◦―◦―◦―◦―◦
――ミッドチルダ軌道上
第一世界ミッドチルダと二つの月の間、無限に広がる宇宙空間。その宇宙空間に展開されている現実と隔絶する結界内、そこには三つの人影があった。
フード付きの外套と神父服、目や鼻や口の穴が開いていない仮面は全て漆黒。左手に2m近い漆黒のケルト十字型の錫杖を持っている。黒き第四の座に座する、天秤の狭間で揺れし者4th・テスタメント・ルシリオンだ。
「グロリア。アエテルニタスのスンベル侵入を許してしまった」
「もうっ、何やってるのルシリオン! アタシの可愛いヴィヴィオちゃん達がいるんだからしっかりしてよっ」
「いつヴィヴィオ達がお前のものなった?」
テスタメント・ルシリオンに怒鳴る女性、グロリア・ホド・アーレンヴォール。
フード付きのマントとキャソックや目や鼻や口の穴が開いていない仮面は全て純白。右手に2m近い純白のバートシス十字型の錫杖を持っている。彼女、グロリアこそが剣戟の極致に至りし者3rd・テスタメント・シャルロッテの後継、星狩りの覇道を歩む者3rd・テスタメント・グロリアだ。
「歓談中に悪いんだけどさ、アエテルニタスが戻ってくるまでは大人しくしてよねっ」
そして最後の一人。身長が140cmあるかないかの少女がニッと口端を歪め、テスタメント・ルシリオンとグロリアに指をさす。テールアップにしている赤い髪を揺らし、黄金に輝くツリ目の双眸を妖しく光らせる。
格好は蒼いロングエプロンドレスで、白のエプロンの腰紐を留めるのは大きなリボン。目立つ真っ赤なロリータシューズを履き、足の甲で留めるストラップには薔薇を模った装飾が付いている。
「クフフ。アポリュオン風情が。いきなり出てきてさ、すっ込んでてよ。そもそもアタシのヴィヴィオちゃん達には指一本触れさせないっつうの」
「いやだから、ヴィヴィオ達はいつお前のものになったんだ?」
「うっさい喋んな! ふんっ。その余裕もすぐに消してやるんだから。あんたたち天秤と星狩りはこのあたし、霊長の審判者がナンバーⅠ始原プリンキピウムが粛清するんだから!!」
「「上等!」」
テスタメント・ルシリオンとグロリアは顔を覆う仮面を取り放り捨て、各々が持つ錫杖を構え直した。
†◦―◦―◦↓レヴィルーのコーナー↓◦―◦―◦†
レヴィ
「オー、今回も始まったレヴィルーのコーナー」
ルーテシア
「残すところあと一話みたい」
レヴィ
「うげ、もう!? わたし、あんまり活躍できなかったのにぃっ!」
ルーテシア
「まぁまぁ落ち着いて」
レヴィ
「落ち着いていられないよ! ANSUR最終章って、わたし出ないんだよ!?
次のバトルは、たぶん出番ないと思う、うん。じゃあ、最終話で出番がある・・・?
くぁ~。もし無かったらどうすればいいの!? もし出たとしてもわたしという存在が読者のみんなにどれだけ印象を残せるか・・・!」
ルーテシア
「あ、そう言えばそうか。わたしはまぁ出る予定があるらしいから別に気にしないかな」
レヴィ
「う、ううう、うううう、裏切り者ぉぉぉーーーーーーーッッ!!」
ルーテシア
「ちょっ、レヴィ!? うわっ、速い!・・・・・・・・・え~っと、では次回最終話でお会いしましょー」
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