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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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まだいるよ♪みんな大好き☆リリカルアクターズ

†††Sideヴィヴィオ†††

聖王教会本部の大講堂の舞台裏。
わたしとアインハルトさんとコロナとリオとイクス、そしてルールーとレヴィは、私服とは違う衣装を着て佇んでいた。ついでにセインも、同じように“舞台衣装”を着て「何でこんな事に」って呟いてる。

「き、緊張しますね」

「インターミドルの時と同じくらいドキドキする」

アインハルトさんとコロナが緊張からか身震いしてる。そんなわたし達に、騎士カリムが「本当にごめんなさい、みなさん」って申し訳なさそうに、でもどこか楽しんでいるような表情を浮かべながら小さく頭を下げた。
頭を下げられたわたし達はただ「気にしないでください」と返す。こうなったのは、始めは勘違いからだったけど、けど今は自分の意志でこの場所に立ってる。

「ありがとうございます、みなさん。それでは、聖王教会本部主催。著者グローイ、“スヴィーウルの詩”。公演開始まで残り1分。大丈夫です、必ずみなさんの劇は成功します」

わたし達は「オーッ!」と右拳を頭上に掲げた。練習も短かったけどたくさんした。みんな、すごく頑張った。プロの人たちに比べれば拙いけど、それは大目に見てほしい。あと1分でわたし達は、大講堂に立って演劇をする。わたし達はそれぞれ頭の中でセリフや動きを何度も反復し直す。
あ、そうそう。どうしてこうなったのかと言うと、それは今朝にまで遡らないとダメ。

◦―◦―◦回想ですっ☆◦―◦―◦

Pi Pi Pi 朝だよ~Pi Pi Pi朝だよ~♪

目覚ましコールが朝の訪れを知らせてくる。暖かな春(もう夏に差し掛かるかな)の朝陽が窓から入ってきて、カーテン越しで部屋を明るく照らす。もそもそとベッドで身じろぎする。わたしの隣、すぐに横にはルールーの寝顔が。
反対側にはレヴィが・・・あれ? いない。三人一緒に、わたしのベッドで眠ったのに。まずは目覚ましコールを止めて、ルールーを起こさないように上半身を起こして、レヴィの姿を捜す。

「あ」

すぐに見つけた。きちんと捜すこともなく簡単に。レヴィはベッドから落ちていて、バックドロップを食らったような姿勢で眠ってた。なんて器用な。落ちたら普通起きるんじゃないのかな・・・?
小さく苦笑しながらベッドから降りて、レヴィを横にしてあげる。レヴィはちょこっと身じろぎしたけど、起きる事はなくそのまま眠り続けた。わたしはパジャマからトレーニングウェアに着替えて、早朝ランニングに出かけようとすると、

「はにゃぅ・・・? ヴィヴィオ?」

レヴィが寝惚け眼でわたしを見ていた。わたしが「ごめんね、起こした?」って謝ると、レヴィは「いつもは大体この時間に起きてる」って上半身を起こした。

「ランニングに行くの? だったら一緒に行っていい?」

「え、いいけど・・・。大丈夫? すごく眠そうだけど・・・」

「だいじょ~~ぶ。待ってて、すぐに着替えるから」

レヴィはもそもそと立ち上がって、フラつきながらもトレーニングウェアに着替えた。ルールーには、ランニングに行ってきます、ってメッセージを残しておいて、わたしとレヴィは早朝ランニングに出かけた。
ランニング中、レヴィが「なんかすごい首が痛い。なにかしたかな?」って首を捻ってた。やっぱりバックドロップの事は気付いてなかったみたい。

トレーニングを終えて家に帰ってくると、玄関にまで良い香りが漂ってきてた。二人で「ただいまーっ」って言うと、奥からルールーの「おかえりーっ」が返ってくる。ダイニングキッチンに向かうと、ルールーがエプロン姿で朝ごはんを作ってくれてた。手を洗ってテーブルに着く。三人一緒に「いただきますっ♪」って手を合わせた。

「わたし一人置いて、二人だけで出掛けるなんてズルい」

「あはは、ごめんごめん。ルーテシアはグッスリ眠ってたし、起こすのはどうかなぁって」

ルールーはちょっと不機嫌。フォークをお口に銜えて、レヴィを下から覗きこむように上目遣いで見詰める。レヴィはトーストを齧りながら、ルールーの視線から逃げるように明後日の方を見る。
ルールーは「ま、起こさないでくれたのは優しさだからいっか」って笑みを浮かべて、不機嫌オーラを消して朝食再開。レヴィと二人して安堵の溜息「ほっ」と吐いて、今日のこれからの予定を確認する。

「昨日、ディードが送ってくれた時に言ってた、聖王教会でやる演劇を観に行くんだよね?」

「半年に一回催されるイベントなんだっけ?」

「うん。小さな子どもやお年寄りの人が楽しめる、難しい内容じゃないから面白いって」

昨日、ディードに送ってもらってる時にわたし達が今日の予定はどうしようかって話し合ってたら、

――明日、聖王教会の大講堂で演劇が催されますので、よろしければ観覧なさってはいかがでしょう? 内容としてはそう難しいのではなく、広い年代のみなさまにも楽しめる喜劇だと聞いてます――

ディードがそう提案してきてくれた。お昼過ぎからの公演だし、午前中には準備してるところとか見学しようかって話をした。この事はもちろん昨日の内にコロナやリオ、アインハルトさんとイクスにも伝えてある。みんなもオットーから劇の話を聞いてたみたいで、二つ返事で一緒に演劇を観る事に賛成してくれた。

「それじゃあ朝ごはんを食べたら、聖王教会へゴー♪」

「「オー♪」」

それから、立てた予定通りにわたし達は聖王教会へ向かった。途中でコロナ達とも合流して、辿り着いた聖王教会なんだけど・・・なんだろう。

「どうかしたのかなぁ? 劇団の人達も居ないし、シスター達も忙しそう」

リオの言う通り、それらしい人たちを見かけない。みんなでウロウロしていると、「あ、みなさん!」と声を掛けられた。イクスだ。オットーとセインを連れて、わたし達のところにまで駆け寄ってきた。軽く挨拶を交わして、今聖王教会で起こってる問題を聞いた。

「え? じゃあ今日のイベントは中止になっちゃうんですか?」

「いえ、まだ中止とは決まってはいないのですが・・・」

イクス達の話によると、劇団の人たちが事故によって来るのが難しいって。すでに今回のイベントの告知も回ってるし、そう簡単に中止に出来ないみたい。それを聞いたレヴィが「上はどうするって言ってるの?」って訊ねた。

「んー、あたしらシスターやブラザーで何か催し物――大聖堂で詩を歌う~とか、大講堂で神父(ファーザー)達の有りがたいお話ぃ~とか、教会騎士の指南講義ぃ~とか」

そう教えてくれたセインが最後に「勘弁してよ」って項垂れた。するとオットーに「それも修道騎士やシスターとしての務め」って諌められる。

「歌うのが嫌ならさ、本来の劇でもやればいいじゃん」

「レヴィお嬢様、どっちにしろ舞台に立たないとダメじゃん」

「じゃあ一生懸命に詩を歌うしかないよね」

「ルーお嬢様まで。なんだかアルピーノ姉妹が最近冷たい・・・」

セインはどうしても舞台に立ちたくないみたい。目立ちたがり屋だし、こういうイベントなら真っ先に首を突っ込みそうなのに。

「でもわたしは、セインが歌ったり劇してるとこ観たいなぁ~。それに、劇に参加するってなんだか楽しそうだし、きっとハマるよ」

「だったらヴィヴィオも出てよ。とゆうかこの場に居る全員が出ればいいじゃん!」

◦―◦―◦回想終わりですっ☆◦―◦―◦

セインのあの発言が、周囲に居た関係者や参拝に来ていた人たちに聞かれて、聖王陛下(わたし)が劇に出るの?だったら観ないといけない、みたいな騒ぎになっていって、受けてもいないのにそれは瞬く間に広がっていった。
騎士カリムを始めとしたみなさんが、それは間違いです、って教えようとしたけど、わたしが出るって知った人たちの楽しそうな顔を見て、わたしは出る決意をした。だったらと、アインハルトさん達も一緒に出てくれるって言ってくれた。
騎士カリムとシスターシャッハには今からでも遅くないって止めてくれたけど、わたし達は首を横に振った。で、数分もしたら劇の登場人物を演じる役者の中にわたし達の名前が挙がっていた。後戻りは出来ない状態。騎士カリムやシスターシャッハに散々お説教をくらったセインも、そもそもの原因として強制参加。
公演開始の13時半。それまでにわたし達は演技やセリフ回しをひたすら練習した。

「きっと上手くいきます♪」

「そうですね。私たちが上手くいかせます」

まず最初に登場するわたしとアインハルトさんが舞台に挙がってスタンバイ。

「アインハルトさん。頑張りましょうね♪」

「はい。精一杯演じさせていただきます」

アインハルトさんと拳を突き合わせる。

『みなさま、お待たせいたしました。著者グローイ。“スヴィーウルの詩”。開演です』

シスターシャッハの開演を告げる声。目の前に降り下がった幕が開いていく。500人は入る大講堂は満員で、奥の方には立って観てる人もいる。

『それは、とある王国に住まう幼き英傑たちが巻き起こした珍騒動でした』

語り部を担当することになったイクスの語りが始まると同時に、わたしとアインハルトさんをスポットライトが照らし出す。

†††Sideヴィヴィオ⇒なのは†††

「ヴィヴィオが劇に出るっ!?」

本局のレストラン街に、ルシル君の驚愕の声が響き渡る。フェイトちゃんが「声が大き過ぎるよ!」ってルシル君の袖を引っ張った。ヴィータちゃんが「夫婦漫才を始めるなら余所でやれよ~」ってからかうと、当然フェイトちゃんは顔を真っ赤にして「ヴィータ!」って怒鳴る。

「はーい、休憩時間とは言っても静かにね~」

私がニッコリしながら忠告すると、三人は静かになった。私とヴィータちゃん、そしてフェイトちゃんとルシル君は、偶然バッタリと会って一緒に昼食をとろうしていた。その時、聖王教会のシスターシャッハから連絡。ヴィヴィオ、それにお友達が、来れなくなった劇団の代わりに劇をするということ。

「こうしてはいれない。今すぐ聖王教会に行かなければっ!」

「とりあえず落ち着けセインテスト。お前はまだ仕事終わってねぇだろうが」

「そうだよルシル! まさか私とシャーリーに押し付けたりしないよね!?」

ヴィータちゃんとフェイトちゃんが半ば暴走しだしたルシル君を止めに入る。で、ルシル君は「そうだな。忘れそうになっていた。だが、すまん」って、フェイトちゃんとシャーリーに仕事押し付ける気満々で踵を返そうとした。さすがにこれにはフェイトちゃんも「ライトニングバインド」と魔法を発動。ルシル君は見事捕獲されてしまいました。

『ご安心を。劇はしっかりと記録しますので』

するとルシル君は「永久保存しますから高画質でお願いします」ってお願いした。『お任せを』と返すシスターシャッハとルシル君は親指をグッと立てた。

「あ、そう言えば演目はなんですか?」

私がシスターシャッハと話している横で、

「ヴィヴィオ達が出るなら、どんな演目でも素晴らしい出来になると思うぞ」

「セインテスト。少しは親バカを自重しとかねぇと愛想尽かされんぞ?」

「あぅ・・・別にそれくらいじゃ私のルシルに対するゴニョゴニョ・・・」

ごちそうさまって言いたくなるようなやり取りをしてる。シスターシャッハの返事は『著者グローイの“スヴィーウルの詩”というものですが』という、聞いた事のない作品だった。聞いていたフェイトちゃんとヴィータちゃんも首を傾げているけど、ただルシル君だけが顔を青くしていた。
静かになったルシル君の事が気になったヴィータちゃんが「どした?」って訊くと、ルシル君は「もう一度言っていただけますか?」と再度訊ねた。シスターシャッハがもう一度答えると、

「記録しないでください。というか違う演目になりませんかね・・・?」

話しかけたヴィータちゃんじゃなく、モニター越しに居るシスターシャッハへ弱々しく話しかけた。シスターシャッハは『さすがにそれは。もう練習も佳境ですし、他の演目にするには時間が』ってルシル君の様子に困惑の表情を浮かべながら返した。するとルシル君は「私の黒歴史が・・・何でこの時代に残ってるんだ?」って呻きだす。

「ねぇルシル。ルシルはもしかして知ってるの? “スヴィーウルの詩”」

フェイトちゃんが呻くルシル君に訊ねた。ルシル君はしばらく黙ってたけど、意を決したかのように口を開いた。

「知ってるも何も私が人間だった時に書いた、いわゆる日記のようなものなんだが・・・」

ルシル君の答えに、シスターシャッハを除く私たちは「え?」って訊き返してた。シスターシャッハは「やっぱりルシリオンさんに関係したモノでしたか」って納得している様子。
そもそもルシル君が人間だった時に書いた日記? だって、そんなバカな事が・・・。“ディオサの魔道書”のように神秘に保護された代物なら残っていてもおかしくないけど、単なる日記が数千年と存在してるわけが・・・。

「ど、どういう話か、訊いてもいい?」

「私が11歳の時、だったか。両親から久しぶりに許された休日だ。姉さま・・ゼフィランサスとイヴ姉様の三人で、アースガルドの四大陸を支える塔ユグドラシルへ向かった時の話だ。・・・シスターシャッハ。ソレを一体どこかで手に入れたモノか判りますか?」

『えっと、ひと月くらい前にですね、八神家(はやて)達が訪れまして・・・』

ルシル君が「あー、何かもうオチが見えてしまっている」と呆れながら、どこかに通信を繋げようと展開したモニターに触れる。あ、そうか。現在、ルシル君の過去について一番詳しい人が八神家に一人いる。フェイトちゃんもヴィータちゃんも、その誰かの事が判って溜息を吐いた。

『はい、はやてです。って、ルシル君か、どうしたん?』

「突然すまないな、はやて。リエイスを出してくれ」

『リエイス? なんやルシル。リエイスになんか用か?』

はやてちゃんがジト目でルシル君を見詰める。きっと妙な方向に思考が行ってるなぁ。ルシル君が嘆息交じりに事情をかくかくしかじかと説明すると、

『あーそう言えば、リエイスがそんな本を持っとったなぁ。リエイスが自分で書いた本や。それやのに著者をグローイにするし、本の名前を決めへんし。おかしいと思っとったら。そっか、リエイスはルシル君の日記を書き写したんやな』

はやてちゃんは『リエイスにも困ったもんやなぁ』って苦笑。ルシル君は「まったくだよ。リエイスはシャル以上に厄介だ」って肩を落とした。
シャルちゃんはルシル君の過去で遊ばない。けどリエイスさんには悪気はないんだろうけど、誰も深く知らないルシル君の過去を、自分だけは知っているんだぞ、って示したいんだろう。だってリエイスさんはルシル君の事を・・・・自覚してるのか判んないけど。

『あの、ルシリオンさん。よろしければ、どうして著者の名前がグローイなのか、教えていただいても?』

「あ、あー・・・グローイというのは、私たちセインテストが統治していたグラズヘイムの臣民が私に付けた敬称だ。グローイ。輝く者、という意味を持っている。幼少から王位に即位するまでの間、臣民にグローイと呼ばれていた」

シスターシャッハの問いに答えたルシル君は、昔を思い出しているのか遠い目をして天井を眺めた。しんみりしていると、モニターにリエイスさんが現れた。はやてちゃんからすでに事情を聞いているのかリエイスさんは、

『お前の子供の頃の活躍を、いつでも目に通す事が出来るようにするために書いた。確かに無許可だったのはすまないと思っているが、これも・・・フフフ』

リエイスさんが意味深な笑みを浮かべると、フェイトちゃんが「ず、ずるい! リエイスだけずるい! 私も読みたい!」ってリエイスさんを・・・その、僻んだ。フェイトちゃんは可愛いなぁ。ルシル君の事を全部知ってしまってるリエイスさんにやきもち。だけどルシル君は「勘弁してくれ」って頭を抱えた。ホント大変だねぇ~。

「リエイス。書き写したのは一冊だけだよな?」

『・・・・ああ・・・・』

リエイスさんは判り易く視線を逸らしたうえで、妙な間も開けて答えた。一冊だけじゃないんだ、書き写したの。妙な沈黙が流れる。ルシル君が「今処分しろ、すぐ処分しろ、さっさと処分しろ」と問答無用に言う。でもリエイスさんは「却下」と一言。ルシル君の眉が寄った。
はぁ。これは長くなりそうかな? 私はヴィータちゃんとシスターシャッハとアイコンタクトをとる。意志疎通完了。コクリと頷き合って、ルシル君とフェイトちゃんとリエイスさんのトライアングル会議が始まったのを横目に、私たちは三人に気付かれないように離脱を計る。
チラッとリエイスさんの背後に居るはやてちゃんを見ると、口パクでゴメンなと手を合わせてた。

(こっちもゴメンね~)

私たちも手を合わせて謝罪を示し、そそくさとその場を後にした。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

~~“旅人(スヴィーウル)の詩” 
著者輝く者(グローイ)ルシリオン(リエイス)~~


語り部イクス
『それは、神々の住まう世界のとある王国グラズヘイムの王女たちが巻き起こした珍騒動です』

全幅40m、奥行10mの大舞台をスポットライトが照らし出す。舞台には、立体映像を作り出す機器よって作り出された、宮殿の外壁が映し出されていた。そして、そのヴァルハラ宮殿と謳われる宮殿の庭には二人の美しい少女、ヴィヴィオとアインハルトが佇んでいた。
ヴィヴィオが登場した事で、客席が歓喜にどよめく。

語り部イクス
『王国グラズヘイムには、それは美しい王女がふたり居ました。
姉の名はソリン。ソリンは、とても明るく活発で、すぐにどこかへ飛びだしていく王女様です』

ソリン(ゼフィランサス)=アインハルト
「私はソリン。今日も私の大好きな妹と一緒に遊びに行きましょう♪」

ソリン(無鉄砲者という意)役を演じる、真っ白なドレスを身に纏ったアインハルトが、普段の彼女があまり見せない満面の笑顔でセリフを言う。

語り部イクス
『妹の名はグローイ。姉ソリンと同じく、それは美しい王女様でした。活発なソリンより元気いっぱいな女の子でした』

グローイ(ルシリオン)=ヴィヴィオ
「私はグローイ♪ 今日も大好きなお姉様と一緒に遊びに行きたいな~❤」

グローイ(←(ルシル)だが、配役上女に変更された)役を演じる、黒いドレスを身に纏ったヴィヴィオ。アインハルトがヴィヴィオに手を差し出し、ヴィヴィオも差し出されたアインハルトの手を取った。

ソリン・アインハルト
「ねぇグローイ。今日は、ミュルクヴィズに遊びに行こうか」

グローイ・ヴィヴィオ
「ミュルクヴィスにですか? いいですよ。いつもの腕試しですね」

語り部イクス
『暗い森という意味のミュルクヴィズ。
そこには屈強な、それでいて人畜有害な怪物ベムブルが棲んでいます。
ソリンとグローイは、幼いながらも腕っ節の強い魔法使いでした。
ですから、よく二人は腕試しとして、自分を鍛えるためにベムブルを相手に戯れていました。
二人は早速そのミュルクヴィズへ行くための準備をし、向かいました』

スポットライトが消え、舞台上が闇に包まれる。
機器によって作り出された宮殿の外壁が消え、仄暗い森の中の映像に切り替わる。
スポットライトが暗さを演出するために薄く灯り、ドレスから防護服(子供サイズ)に着替えたヴィヴィオとアインハルトを照らす。

語り部イクス
『ミュルクヴィズに赴いたソリンとグローイの前に、猪のような怪物ベムブルが現れました。二人は早速戦い始めます』

立体映像相手にヴィヴィオとアインハルトは「やぁっ!」「はぁっ!」と殴り蹴ったり。小さな観客(こども)たちがわーわー声援を投げかける。
次々と現れるベムブルの幻が、ヴィヴィオとアインハルトの攻撃を受けて、完璧なタイミングで消えていく。しかし数がどんどん増えてくるベムブルに、二人が次第に押され始める(演技をする)。
イクスが『さぁみんなっ。王女様たちが負けないように、応援しよう!』と客席に向かって告げる。すると、子供たちやその親たちが「頑張れー!」とさらに応援。その甲斐あって、最後のベムブルに二人のダブルパンチがヒット、消滅した。

ソリン・アインハルト
「ふぅ。よしっ、今回のベムブル退治も無事終了っと」

グローイ・ヴィヴィオ
「これでしばらくはミュルクヴィズの怪物たちも大人しくなるね」

語り部イクス
『怪物たちのリーダー格であるベムブルの群れを退治した事で、ミュルクヴィズ周辺の街の平和がまたしばらく約束されました』

スポットライトが消え、また舞台上のセットが変わる。
次のセットはどこかに林道。ヴィヴィオとアインハルトはその場で足踏みしているが、背景が流れる事で歩いているように見えていた。

ソリン・アインハルト
「水筒の水が切れちゃった。こうゆうときに、無限に湧き出す小瓶とか魔法があったらいいのに」

グローイ・ヴィヴィオ
「そんな便利なモノ、このグラズヘイムにはないよ? そもそもどこにもないし。
水は・・・私のも切れちゃった・・・。そうだ、ヴィンダールヴのところに行こう?
ここからなら、ヴァルハラ宮殿に戻るよりヴィーズブラーインに続くゲートの方が近いから」

空になった水筒を掲げて中身を覗き込むアインハルト。
その上で妙なことを口走る。ヴィヴィオがそれに対し呆れ、水を手に入れるためにヴィーズブラーイン(レアーナ王族の治める大陸)へ行こうと持ちかける。

語り部イクス
『ソリンとグローイは、街へ向かうより早く辿り着けるゲートと呼ばれる転移するための門へ向かう事にしました。
行き先は、彼女たちの親友ヴィンダールヴ王女の居る国ヴィーズブラーイン。
そこは、清廉なる聖水とまで謳われる湧水が多く、グラズヘイムや他の国にも有名です。
二人はその水を求め、ヴィーズブラーインに行く事を決めました』

景色が再度変わり、大きな門、そしてヴィーズブラーインの城ヒミンビョルグの庭へと変わる。

語り部イクス
『ゲートを通り、グラズヘイムの隣国ヴィーズブラーインの城ヒミンビョルグに辿り着いたソリンとグローイを迎えたのは、王女ヴィンダールヴでした』

風の妖精(ヴィンダールヴ)(イヴィリシリア)=レヴィ
「いらっしゃい、ソリン、グローイ。ゆっくりしていってね」

若草色のドレスを身に纏ったレヴィが、ヴィヴィオとアインハルトを出迎える。
装飾テーブルに着き、ティーカップに口を付ける三人。

ソリン・アインハルト
「ん~~おいしい❤ ね、ヴィンダールヴ。このおいしい湧水が、無限に湧き出す小瓶とか、そうゆう魔法を教えて♪」

ヴィンダールヴ・レヴィ
「有り得ないし在りません。そんな便利な魔法や道具があれば、こっちが教えてほしいわぁ」

グローイ・ヴィヴィオ
「やっぱりそうだよね。そういうのは自分で開発しないと」

ソリン・アインハルト
「だったら、ヴィンダールヴ作ってよ」

ヴィンダールヴ・レヴィ
「何で私がそんなメンドクサイ事を。あなたが作りなさいなソリン」

語り部イクス
『新しい魔法や道具を作れ作れと言い合うソリンとヴィンダールヴ。
さほど重要でもない事なのに、なかなかどうして白熱してしまうのか。
そんな二人のやり取りを見かねたグローイが、ある提案を二人に告げました』

グローイ・ヴィヴィオ
「もう。それだったらみんなで作ればいいよ。それならお姉様もヴィンダールヴ姉様もバカな言い合いしなくていいし」

ソリン&ヴィンダールヴ
「バカって。お姉ちゃん達に向かって・・・くすん」

語り部イクス
『ですが結局はグローイの提案通り、三人で湧水が無限に湧き出す魔法、もしくは道具を作る事にしました。
そのために、三人は必要な知識を手に入れるためにどこへ行けばいいか考えます』

グローイ・ヴィヴィオ
「やっぱり神なる叡智ミーミルの安置された、ユグドラシル最上階に行った方が・・・」

ソリン・アインハルト
「そうね~。魔法を作るにしても道具を作るにしても、どっち道知識が必要だし」

ヴィンダールヴ・レヴィ
「そう。それじゃ行ってらっしゃい、ソリン。気を付けてね、グローイ」

ソリン・アインハルト
「あなたも来るのよ、ヴィンダールヴ」

語り部イクス
『こうして、ノリノリのソリンと仕方なしのグローイ、そして強制的に同行する事になったヴィンダールヴは、ユグドラシルという大きな大きな塔へ向かう事になりました』

スポットライトが消え、また立体映像が切り替わる。
大きな塔ユグドラシルの入り口、その門の前だ。門の前に、一人の少女が佇んでいる。その少女の正体は・・・

ペテン師(ギンナル)・ルーテシア
「おっと待ちなお嬢さん達ぃ。ここは行き止まりぃ。ユグドラシルは神さましか入れないしぃ?」

語り部イクス
『門の前に立ちはだかるのはギンナルという少女。
ソリンとグローイとヴィンダールヴもまた、神さまの親を持つ子たちです。
その事を話す三人でしたが、まだ幼いという事で神さまの一員として認められませんでした。
三人もそんなのは認めないと反論しますが、聞き入れてもらえません』

ヴィンダールヴ・レヴィ
「だったら勝負しましょ。私たちが勝ったら、大人しくユグドラシルの門を開けなさい」

レヴィが真っ黒なクロークを纏うルーテシアにビシッと人差し指を差す。

ギンナル・ルーテシア
「キヒヒ、いいよ。そんならお前達の得意な事で良いしぃ。負けないしぃ」

ルーテシアは挑発的に髪を描き上げる。

語り部イクス
『最初の勝負は、グローイとギンナルの大食い対決となりました』

ヴィヴィオとルーテシアの前に、大皿に乗ったオムライスが用意された。

ヴィンダールヴ・レヴィ
「レディ・・・ゴー!」

ヴィヴィオがスプーンを片手に食べ始める。しかしその直後に、

ソリン・アインハルト
「そこまでっ!」

アインハルトが止めに入った。

ギンナル・ルーテシア
「大食いが得意だっけ? 遅いし遅いしぃ♪」

語り部イクス
『グローイが10分の1を食べ終えたところで、すでにギンナルはなんと皿まで食べ終えていました』

ヴィヴィオの方は本物で、ルーテシアの方は立体映像。
始めから勝負になるわけのない戦いだった。

ヴィンダールヴ・レヴィ
「今度は私よ。私は風神の娘ヴィンダールヴ。もちろんかけっこが得意なの」

ギンナル・ルーテシア
「ほうほう。じゃあ今度はかけっこだね。今度も勝つしぃ」

語り部イクス
『ヴィンダールヴとギンナルがスタート位置に着きます。用意・・・ドン!
走ります走ります。ヴィンダールヴは一生懸命、全力で走ります。
ですが、対するギンナルは涼しい顔で軽々追い抜い抜いて、先にゴールしてしまいました。
ヴィンダールヴもギンナルの前に完敗してしまいました』

背景だけが流れ、レヴィは足踏み、ルーテシアは本当に走っていた。

ギンナル・ルーテシア
「よっわ。それで風神の娘なんて笑わせるしぃ。さぁお次はどんな勝負にするしぃ?」

ソリン・アインハルト
「なら今度は私と勝負です。私はこう見えて力持ち。次は私と力勝負です」

アインハルトがズビシッとルーテシアを指差す。

語り部イクス
『ソリンは腕まくりをして、力コブを見せつけます。
するとギンナルは、その力勝負を快諾しました。勝負方法は仔犬を持ち上げるというもの。
ソリンは馬鹿にするなと言いますが、その仔犬を持ち上げる事は出来ませんでした』

アインハルトが犬のぬいぐるみを持ち上げられない演技をする。

ギンナル・ルーテシア
「は~い、しゅーりょー♪ 何が力自慢だしぃ。はい、次だしぃ」

ソリン・アインハルト
「そ、そんな・・・」がくっ

語り部イクス
『ギンナルは、ソリンが落ち込んでいるのを横目に次の勝負を持ちかけます。
ここでふと、グローイとヴィンダールヴが首を傾げました』

グローイ・ヴィヴィオ
「ちょっと待って。あなたはどうして持ち上げないの?」

ヴィンダールヴ・レヴィ
「ちゃんとゲームしないと。ほらほら」

語り部イクス
『グローイとヴィンダールヴがギンナルに、さあさあ、と詰め寄ります。
ギンナルは何かと理由を付けて次の勝負に進もうとします。
ここで、三人はギンナルが自分たちと視線を合わせようとしないのに気付きました』

ソリン・アインハルト
「あ、思い出したっ。あなた、ペテン師ギンナルねっ!」

ギンナル・ルーテシア
「おおう。バレちゃったしぃ」

語り部イクス
『ギンナルは、幻影魔法を使ってよくイタズラをする少女でした。
その事を思い出した彼女たちは、今までの勝負の結果を疑い始めます。
幻影を使われて、ズルをしたんじゃないかと詰め寄りました』

ギンナル・ルーテシア
「あっはー、そうだしぃ。ちなみに私も幻影で本体は別のところ。
じゃあ君たちの疑問を教えてから去るしぃ。まず最初は、大食いで私が勝った事について。
その時、私は“炎”だったしぃ。だから、皿まで一緒に炭にしちゃったしぃ。
そして、かけっこ。あの時の私は“思考”だったしぃ。どれだけ速くても思考の速さには勝てないしぃ。
最後に、力勝負。実はあの仔犬はぁ・・・」

語り部イクス
『ギンナルは、側で寝転がっていた仔犬を見て、指をパチンと鳴らしました。すると・・・』

それは巨大な犬、いや、真黒な狼の立体映像が作り出された。

ギンナル・ルーテシア
「驚いた? 実はフェンリルを幻影で仔犬に見せていたんだしぃ♪」

語り部イクス
『三人はその大きな狼フェンリルに驚きました。
フェンリルは、その大きな口で以って世界を丸ごと飲み込むとまで言われる大きな大きな狼。
いくら力自慢のソリンでも、巨大なフェンリルを持ち上げられるわけがありませんでした』

ギンナル・ルーテシア
「さっ、答えは解ったかなだしぃ? それじゃ私はこれにて失礼ってことでぇ♪」

語り部イクス
『ギンナルは逃げるようにどこかへ走り去って行きました。
フェンリルも本来の姿を震わせながら、どこかへとすっ飛んで行きます。
彼女たちは嘆息しながらギンナルとフェンリルを見送り、当初の目的ユグドラシルの中へと入っていきました』

舞台が暗くなり、景色がまた変わる。白亜の巨石が積み重ねられて構成された塔内へと。

語り部イクス
『ソリンとグローイとヴィンダールヴは、黙々とユグドラシルの頂上を目指して歩きます。
その途中に、またもや何者かが佇んでいました。ユグドラシルの下層部一帯の管理人ラタトスクという名の大きなリスです』

ラタトスク・コロナ
「や、やあやあユグドラシルにいらっしゃい♪
ボクはラタトスク。さて、ここで君たちに訊ねたいんだ。
どうしてユグドラシルに来たんだい? 管理人の一人として黙って通すわけにはいかないんだ」

リスの着ぐるみを着たコロナ(首のところに顔が出てる)が、大きなドングリのぬいぐるみを抱きかかえながら問うてきた。

ソリン・アインハルト
「私たちは、ユグドラシルの頂上にある神なる叡智ミーミルのとこまで行きたいの」

ラタトスク・コロナ
「ミーミル? ミーミルの叡智を借りてどうするの?」

グローイ・ヴィヴィオ
「清廉なる聖水を無限に湧き出させる魔法を作ろうかと」

ラタトスク・コロナ
「なんておバカな事を。そんな魔法を作るためにミーミルの叡智を頼るなんて」

ヴィンダールヴ・レヴィ
「第三者に言われると確かにバカな事をしようとしてるって判るわ」

ラタトスク・コロナ
「でも、なるほど。悪意を持ってミーミルを利用しようというなら止めるけど、それくらいのお遊びなら許そうかな。あ、でも魔法じゃなくて道具にするならもっと簡単だけど」

語り部イクス
『ラタトスクが、魔法を作るより道具を作った方が簡単だと告げました。
どうやらラタトスクは、彼女たちの望み事を解決させる手段を知っているようです』

ソリン・アインハルト
「ラタトスク。それは一体どういう事なの?」

ラタトスク・コロナ
「ユグドラシルの頂上に、フレースヴェルグという大きな鷲がいるの。
そのフレースヴェルグの宝に、どんなものでも生み出せる魔法の石臼グロッティがあるの。
それを使えば、きっと君たちの望むモノが手に入るよ」

語り部イクス
「それを聞いた彼女たちは、ミーミルではなく、どんなものでも生み出せる魔法の石臼グロッティへと目的を変えました。
魔法を新しく作るのは面倒で、だったらもっと楽な方法にしようと思うのは当然でした』

ヴィンダールヴ・レヴィ
「じゃあグロッティを貰いに行くという事で」

ラタトスク・コロナ
「そうそう。君たちにお願いがあるんだ。ボクも一緒に連れて行ってくれないか? 久しぶりにフレースヴェルグに会いに行きたいんだ」

語り部イクス
『ラタトスクとフレースヴェルグはそれなりの仲良しでした。
時折、ラタトスクは頂上にいるフレースヴェルグに会いに行きますが、最近行っていない事でこの機会に会いに行こうというのです』

グローイ・ヴィヴィオ
「もちろんだよ。ラタトスクも一緒に行こう♪」

語り部イクス
『こうして冒険仲間が四人となり、ユグドラシル頂上に居るフレースヴェルグに会いに行く事になりました。
一体どれだけ階段を上ったでしょうか。そろそろ頂上へ辿り着くというところで、上の階に続く階段のある部屋にまたもや何者かが居ました』

ラタトスク・コロナ
「厄介な人が出てきたね。君たち、気を付けて。アルヴィーズだよ」

全てを識る者(アルヴィーズ)・セイン
「待て、そこの女子たち。あた――わ、我はアルヴィーズ。
ここより上は、えっと・・我の願いを聞き届けてからじゃないと行けないぞ」

語り部イクス
『立派なおヒゲを生やしたおじさんアルヴィーズがそう言って通せんぼしました。
アルヴィーズはとても物知りで、ですが物知りだからこそ我がままなおじさんでした』

マントを羽織ったセインの鼻と口の間には見事にカールしているピョンと伸びたヒゲが二本。あごにもヒゲがあり、リボンで可愛らしく結われている。

ソリン・アインハルト
「大人しく道を開けてよ。こっちにはユグドラシルの管理人のラタトスクが居るんだから」

ラタトスク・コロナ
「いきなりユグドラシルに住み着いて、早く出て行きなさい」

アルヴィーズ・セイン
「嫌じゃ。ん? そこの娘は可愛いの。よし、その娘を嫁に貰おう。そうすれば通してやる」

語り部イクス
『アルヴィーズはソリンを指差して、ソリンを嫁に寄こせば、道を開けると言いました。
これにはソリン以上に、妹であるグローイがすごく怒りました』

グローイ・ヴィヴィオ
「そんなの絶対ダメっ! 姉様を渡すくらいなら力づくで・・・!」

ヴィンダールヴ・レヴィ
「ちょっと待って、グローイ。ソリンも来て。ラタトスクも。アルヴィーズ。少し話し合ってくるから待ってなさい」

語り部イクス
『ヴィンダールヴは力づくで通ると怒るグローイを引っ張って、ソリンとラタトスクも一緒に連れて一つ下の階へと戻りました。
どうして邪魔をするのかとグローイはヴィンダールヴにも怒ります。
ソリンもグローイと同じ考えだったのか、みんなで戦えば勝てると言います』

ラタトスク・コロナ
「ボクは戦うのは反対。アルヴィーズは強い。そのたくさん蓄えた知識で、色んな魔法を使えるから。単純な腕力より全てに通用する知識の方が強い時だってある」

ヴィンダールヴ・レヴィ
「そうゆうこと。力押しで勝てる相手じゃない。だからなんかの策が要る。それを今から考える」

語り部イクス
『そうして四人は必死に知恵を絞ります。相手は全てを識る者アルヴィーズ。そのアルヴィーズに対抗できる術を考えました。ですがなかなか浮かびません。そこに・・・』

ギンナル・ルーテシア
「お困りって感じぃ?」

ソリン&グローイ&ヴィンダールヴ
「ギンナル! どうしてここに!?」

ギンナル・ルーテシア
「面白そうだからずっと覗いていたんだしぃ。
それで困ってるようだから、さっきのイタズラの償いとして手伝ってあげようと思ったんだしぃ」

語り部イクス
『最初はまた騙されるんじゃないかと心配していた彼女たちでしたが、ギンナルの幻影はとても役に立つ、魅力的な能力でした。
ギンナルの幻影を使う事を第一と考えて、再び作戦を練ります。そして結論が出ました。早速準備に取り掛かる五人。
準備を終え、ギンナルを階下に残して、ソリン達は再びアルヴィーズの居る階に戻ってきました。
もちろん幻で創った花嫁衣装を身に纏った、幻影によってソリンの姿となった“炎”を連れて。
本物のソリンにも幻影が掛けられ、猫の姿となっています』

猫役はもちろんアインハルトのパートナー(デバイス)であるアスティオン。

アルヴィーズ・セイン
「おお、花嫁衣装を用意していたのか。素晴らしい! これならすぐに婚礼の儀を行えそうだな。少し待っておれ」

語り部イクス
『ウェディングドレスを着た偽ソリンを見たアルヴィーズは拍手。
そして指を鳴らすと、部屋に白い光が満ちました。光が切れ、次の瞬間には部屋の中には豪華な料理が幾つも並べられていました』

アルヴィーズ・セイン
「さあ食べてくれ飲んでくれ。めでたいめでたい、わっはっはっは」

語り部イクス
『アルヴィーズは突っ立っていた偽ソリン達をテーブルに着かせます。
階下では、偽ソリンを操作しているギンナルによって偽ソリンは料理に手を付けます。
それはものすごい勢いで料理が消えて行きました。先程のイタズラと同じ、料理も皿も灰すら残さず燃えてしまっているからです』

ヴィンダールヴ・レヴィ
「作戦その一。ソリンを幻滅させよう。女の子らしい仕草を何一つさせずに、アルヴィーズがソリンを嫌うように仕向ける」

アルヴィーズ・セイン
「どれどれ。花嫁は食べてくれているか・・って、何だこのすごい食欲は!」

語り部イクス
『アルヴィーズは驚きました。たくさん用意した料理がすでに半分以上無くなっていたからです。
偽ソリンは黙々と食べ続け、もとい燃やし続けます。アルヴィーズの驚きようを見て、本物のソリン達は、これで決まった、と心の中で喜びます』

アルヴィーズ・セイン
「わっはっはっは。たくさん食べる娘は愛おしい。一生懸命、メシを頬張るその姿、我は気に入ったぞ!」

語り部イクス
『ですが、アルヴィーズはそんな事を気にしませんでした。残念!』

アルヴィーズ・セイン
「どれどれ。そのヴェールの下に隠れた可愛らしい顔を見せてくれ。
ん? おお!? なんだこの凄まじい眼差しは!? 血走って火が噴出しているようではないか!」

語り部イクス
『炎たる偽ソリン。その両目は火が漏れ出そうなほど鋭く細められていて、アルヴィーズをギロリと睨んでいました。
その様子を見たグローイが、姉様はあんな怖い目はしないもん、と小さく溜息を吐いていました』

アルヴィーズ・セイン
「ハッ。そうか、その熱い眼差しは、我へ送る熱愛の表れなのだな。睨んでいるように見えたのは、我をよく見ようとして細めたからだな」

ラタトスク・コロナ
「とんでもないバカですね」

語り部イクス
『ラタトスクの呟きに全員が頷いて同意しました。ソリンを幻滅させよう作戦の失敗ということも同じように決めました。そしてすぐさま次の作戦を開始します』

グローイ・ヴィヴィオ
「あの、アルヴィーズ? 姉様は、とても頭がいい人が好きなんです。
だから、ここであなたの知識を披露して下さいませんか?」

アルヴィーズ・セイン
「おお、いいともいいとも。ならばどんな事でも構わん。
どんどん我に問いかけるがよい。我は全てに答えてみせよう」

語り部イクス
『アルヴィーズは胸を張って、訊ねられる問いに全部答えてみせると言います』

ヴィンダールヴ・レヴィ
「教えてアルヴィーズ。人の子の前に在る大地、それぞれの国では何て呼ばれてるの?」

アルヴィーズ・セイン
「答えてみせよう。人の間では大地(イェルズ)。アースの間では(フォルド)
ヴァンの間では(ヴェグ)。ヨツンの間では緑なるもの(イーグレーン)、と呼ばれている」

グローイ・ヴィヴィオ
「教えてアルヴィーズ。遥か空に広がる天は、それぞれの国でなんて呼ばれてるの?」

アルヴィーズ・セイン
「人の間では(ヒミン)。アースの間では星の撒き散らされたるもの(フリュールニル)
ヴァンの間では風を織るもの(ヴィンドオヴニル)。ヨツンの間では上の国(ウップヘイム)と呼ばれている」

ラタトスク・コロナ
「教えてアルヴィーズ。人々に見えるあの月は、それぞれの国でなんて呼ばれてるの?」

アルヴィーズ・セイン
「人の間では(マーニ)。アースとヴァンの間では欠けるもの(ミュリン)、ヨツンの間では韋駄天(スキュンディ)、と呼ばれている」

グローイ・ヴィヴィオ
「教えてアルヴィーズ。人の子らが見るあの太陽は、それぞれの国でなんて呼ばれてるの?」

アルヴィーズ・セイン
「人の間では太陽(ソール)。アースとヴァンの間では南の輝き(スンナ)。ヨツンの間では永遠に輝くもの(エイグロー)、と呼ばれている」

ヴィンダールヴ・レヴィ
「教えてアルヴィーズ。人の子らの前で燃える火は、それぞれの国でなんて呼ばれてるの?」

アルヴィーズ・セイン
「人の間では(エルド)。アースの間では(フニ)。ヴァンの間では揺らめくもの(ヴァグ)。ヨツンの間では貪欲なるもの(フレキ)と呼ばれている」

語り部イクス
『次々と問いに答えて行くアルヴィーズ。
終わりが見えそうにない質問大会と思われましたが、その終わりは突然やってきました。
今まで黙々とご飯を食べていた偽ソリン。その偽ソリンの様子が変わったのです。
偽ソリンの正体は“炎”。それが大きく膨れ上がり、ソリンの姿が崩れてそれは小さな太陽になってしまいました』

アルヴィーズ・セイン
「なんだと!? 貴様ら、我を騙したのかぁぁーーーっ!」

語り部イクス
『アルヴィーズは、その小さな太陽から逃げるように消えてしましました。
アルヴィーズは太陽が苦手なのです。陽に当たると、最悪石になってしまうからです。
それをギンナルから聞いた四人は、最初の幻滅作戦で上手くいかなかったら、可哀想だけど太陽を使おうと決めました。
最後の質問作戦は、偽ソリンが太陽となるまでの時間稼ぎでした。作戦は見事成功。アルヴィーズは運良く石にならずに逃げる事ができました』

ギンナル・ルーテシア
「上手く行って良かったしぃ。じゃ、幻影を解くしぃ」

語り部イクス
『ギンナルが指を鳴らすと先程と同じように光が生まれ、幻影も解かれました。
そしてギンナルも追加され、冒険仲間が五人となり、その五人はユグドラシルの頂上を再び目指して歩き出します』

景色が変更される。塔内から屋上へと。石畳の床に、五人は立つ。
ユグドラシルの頂上。そこには一人の少女が、デフォルメされた鷲にきぐるみを着て立っていた。

フレースヴェルグ・リオ
「あれー? ラタトスクじゃん、久しぶりー♪」

語り部イクス
『ソリン達一行の前に、ユグドラシルの頂上に棲まう大鷲フレースヴェルグが現れました。
早速フレースヴェルグに、ここまで来た理由を言います』

フレースヴェルグ・リオ
「あー、それでグロッティが必要っていうわけか。でもグロッティは私の大切な宝。あげるわけにはいかないな」

ラタトスク・コロナ
「だったら、借りるだけ。しかもここで使うから」

ソリン・アインハルト
「お願いフレースヴェルグ。ここまでの苦労を無駄にしたくないです」

グローイ・ヴィヴィオ
「お願いします。ここで何もしないで帰るって事になったら、しばらく立ち直れそうにないです」

ヴィンダールヴ・レヴィ
「今の私たちに出来る事であれば何でもしますから。グロッティを使って、魔法の道具を作らせてください」

ギンナル・ルーテシア
「まぁ私はどうでもいいんだけど。でもこの子たちも苦労していたのは観てきたしぃ、どうか使わせてあげてほしいって思うかもだしぃ」

語り部イクス
『フレースヴェルグの大切なモノを使わせてもらうため、彼女たちは心からお願いをしました。その誠意に溢れたお辞儀に、フレースヴェルグは答えを出します』

フレースヴェルグ・リオ
「出来る事なら何でもするって言ったね。それは嘘じゃないね?」

語り部イクス
『その確認に彼女たちは、仕方ない、とコクリと頷きました。
フレースヴェルグは満足そうに笑って、彼女たちにひとつ条件を出しました』

フレースヴェルグ・リオ
「私はあまりユグドラシルから降りちゃダメなんだ。
私の羽ばたきで生まれる風は鋭くて、何でも斬っちゃうの。
その所為で、友達が出来なくて。ラタトスクはたまに遊びに来てくれるけど毎日じゃない。
私だって毎日来て、なんて言えない。でもそれじゃ寂しいんだ。だから、グロッティを使う条件。それは、私と友達になること」

語り部イクス
『涙ながらに言うフレースヴェルグに、彼女たちも涙をうっすら浮かべて、その条件に対して答えを言います』

ソリン・アインハルト
「いいよ、友達になろう! 自慢が出来るよ、フレースヴェルグと友達になったなんて♪」

グローイ・ヴィヴィオ
「私ももちろんいいよっ! 毎日じゃないけど、きっと遊びに来るから♪」

ヴィンダールヴ・レヴィ
「そうね。そうだ、フレースヴェルグ。来るなら私の国ヴィーズブラーインにおいで。
あそこは風の国だから、あなたの羽ばたきで起こる風もきっと抑えられるよ」

ギンナル・ルーテシア
「こっちからお願いしたいかもだしぃ。フレースヴェルグと友達・・・クス、イタズラの範囲が広げられるしぃ」

フレースヴェルグ・リオ
「本当か!? やったぁっ! 約束だよっ、友達だからねっ!」

語り部イクス
『こうして、フレースヴェルグと友達になったソリン達一行は、魔法の石臼グロッティを使う事が出来ました。
生み出されたのはもちろん清廉なる聖水が無限に湧き出す小瓶、それを六本。
それぞれ一本ずつを持ち、友達の証となりました。
それからは、ソリン達は何度もフレースヴェルグの居る頂上まで登り、フレースヴェルグに乗ってヴィーズブラーインへ遊びに行くという、とても楽しい時間を過ごしましたとさ』

ヴィヴィオとアインハルトとコロナとリオ、そしてルーテシアとレヴィとセインが、舞台に整列して、

「「「「「「「ありがとうございましたぁーーーっ!!」」」」」」」

観客に綺麗なお辞儀をした。
すると割れんばかりの拍手喝采が、ヴィヴィオ達を称える。
劇は見事成功。それは観客の反応を見る限り間違いなかった。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

劇が行われた聖王教会の大講堂。
外にまで聞こえてくる拍手喝采を聞きながら、一人の女が講堂より出てきた。

「クフフ。可愛い可愛い可愛過ぎる❤ サイコーのプレゼントを貰っちゃったわ」

グロリア・ホド・アーレンヴォールだ。
昨日と同じく古めかしいカメラを手に、夕暮れに染まる空を見上げて笑っている。それから何度も「可愛い」と口にしながら、その場を後にした。





†◦―◦―◦↓????↓◦―◦―◦†


ルシル
「はぁ、懐かしいなぁ。
ゼフィランサス姉様とイヴィリシリア姉様の三人で、冒険した話だ。
ANSURの第一章・大戦編完結を祝して投稿した、ゼフィ姉様が初登場したエピソードだ」

レヴィ
「それにしてもすごい連中が居るんだね~。
イタズラ好きのギンナルにリスのラタトスク、頭いいけど太陽が苦手なオヤジに大鷲フレースヴェルグ」

ルシル
「ANSURの時はもっとカオスだったぞ。
今回は、神秘やら何やら色々と足りない世界での再現でしかも劇だからな。
当時のエピソード通りに再現したら世界バランスが吹っ飛ぶ。
今回だって立体映像やらで無茶をしているというのに」

ルーテシア
「そんなにすごいお話だったの?」

ルシル
「ああ。最後のフレースヴェルグとのやり取り。
アレは今回だけのオリジナル。ANSURの時は、もっと無理難題を押し付けられた。
本来の姿のフェンリルやヨルムンガンドと戯れたりな。中級術式(天使の名を冠する)の誕生秘話を明かすのがこのエピソードだったりと、まぁ色々だ」

レヴィ
「ルシリオンは11歳の時から苦労してるんだね。
しかも大食いキャラだったし、すごく明るい子だったし。
苦労ばかり味わって、今のルシリオンになったって言うなら判るかも。
それとも、やっぱりヴィヴィオが演じたから、明るいキャラになったの?」

ルシル
「いや、子供の頃の私は大体あんなんだったな。ゼフィ姉様と過ごせる時間を楽しみにして、子供らしさを残したいって頑張っていた」

ルーテシア
「やっぱりルシリオンさんは苦労人」



 
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