魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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ここは海鳴、始まりの街 ~親友再会編~
†††Sideルシル†††
私は少し前までは“界律の守護神テスタメント”だった。その役目として、いろんな世界で多くの命を救っては、それ以上に奪い去ってきた。だからこそ、私自身が“殺害される”ことを前提とした契約にも文句を言わずに執行してきた。
そう、何故ならその時には既に、死ぬこと、に対して恐怖などなかったのだから。当然だ。守護神として存在している事は死んでいると同義と言っても過言じゃない。契約先の世界で死んでも所詮それは分身体。“神意の玉座”に在る本体は傷一つ付かない。
だから自分の命など大して苦もなく捨てられるようになる。それに、命を奪い去っておきながら殺されたくない、などというのも都合のいい話だ。
――生きて、ルシル――
シェフィ。今、私は君の言葉を思い出している。守護神時代では霞に消えていたその当たり前の言葉を。何でだろうな。今になってハッキリと思い出せるんだ。生きていたい。死にたくない。理由は判ってる。今の私は・・・生きているんだから。
「この変質者がぁぁぁーーーっ!」
でもすまない。私はまだ生きていたいが、もう逝ってしまいそうだ。
――私と生きましょう――
どこかの契約先で聞いた銀髪戦乙女の言葉と共にお迎えが・・・。あれって「行きましょう」と「逝きましょう」と「生きましょう」を掛けてるって噂だったなぁ・・。あーダメだ。意識が朦朧としてきたせいで、妙な事を考え始めてしまった・・・。
「あたしの親友になんてことしてんのよぉーーーっ!」
私の首に掛けられた細く綺麗な指。その十本の指が私の首を的確に締め上げる。頭がクラクラする。脳へ酸素が運ばれなくなってきたから、というのもあるが、それ以前に鈍器で殴打されたからだ。それが無ければ、私の首を絞めている女性に抵抗する事も容易く出来た。
しかし当たり所があまりによくなかったのか、ついさっき起こした軽度の脳震頭が彼女の一撃で重度にレベルアップ。威力も申し分なかった。やれやれ、君は“昔から”私に唯一暴力を揮っていたな。
(あぁどうしてこんなことになったんだっけ・・・?)
意識が遠ざかりそうになる中、ふとこうなった原因を思い出す。ようやく手に入れたフェイト達と共に同じ時間を過ごすという幸せ、それを終わらせるラスボスがまさか・・・
「ア、アリサ! 誤解! 誤解だからっ!」
君だとは思わなかったよ、アリサ・・・がくっ。
「きゃぁぁぁっ!? ルシルっ!?」
ああもう本当にどうしてこうなったんだろうな・・・?
†††Sideルシル⇒フェイト†††
お昼も過ぎて午後2時、私たちはここで別行動になる。なのはとヴィヴィオはこのまま翠屋に残って、はやて達ははやてのご両親のお墓参りと石田先生に挨拶しに行く予定だ。そして私とルシルは、アルフとエイミィ、そしてクロノとエイミィの子供であるカレルとリエラの待つハラオウン家に向かうことになってる。
「それじゃ明日、すずかちゃんとアリサちゃんを交えてショッピングってことで」
「了解や。待ち合わせはここ翠屋やな」
「約束の時間は、朝の9時でよかったよね」
翠屋の前でなのは達と分かれて、ルシルと二人並んでハラオウン家に向かっていると、
「痛たた・・・。まさかはやての一撃で落ちるとはなぁ・・・」
ルシルがはやてに殴られたお腹を擦る。あのルシルをたった一発で気絶させるなんて、はやても随分と強くなったなぁ。しかも結構な時間が経っているのに、ルシルはまだ痛そうにしてる。
「しかもすごい恥ずかしい事をベラベラと・・・・」
ルシルが私を視界に入れないようにそっぽを向いた。だから私まで恥ずかしくなってきた。ヴィータが変な事を言うからだ。
――仮にお前とテスタロッサの間に仮にだが娘が出来て、その娘が成長して彼氏が出来たら?――
思い出すとまた顔が熱くなってきた。私はルシルが大切だ。ルシルと対人契約した際に会った、ルシルのお姉さんであるゼフィランサスさんにも、その・・ね、あの、だから、うん、そう、義姉さん、みたいなことを言っちゃって。それはつまりは、ルシルとけ、けけけけ欠陥! じゃなくて欠点! でもなくて欠損!・・・違う違う、その、結こ・・・
「おっと」
「え・・・っ?」
って、いきなり腕を掴まれてルシルの胸に引き寄せられた。さっきまでの思考が一瞬で吹っ飛んだ。ほとんどフリーズした頭でどうしてこんな事になってるのかとルシルを見上げる。
「ほら、前をしっかり見てないとぶつかるだろ?」
ボケーとしたままルシルの視線の先へ首を動かしてみると、私の進行方向には電柱があった。ルシルは私が気付かずに突っ込もうとしていたのを助けてくれたみたい。とりあえず「ありがとう」ってお礼を言って、ルシルから離れる。ルシルは「行こうか」とだけ言って歩きだす。私も遅れないように続く。
「随分と深く考えごとをしていたようだけど、何か悩みとかあるのか?」
い、言えない。恥ずかしすぎるから、何か、何か別の話題を・・・。ふと、“海鳴臨海公園”と書かれた案内板が目に留まる。
「な、何でもないよっ。あ、そうだルシル。臨海公園だって。行ってみない?」
く、苦しい・・・。自分でもあからさまに不自然だと思う話逸らしだ。ルシルだってそう思っているはずなのに、「ならいいんだ」って深く追求してこなかった。そして私の苦し紛れに言った、海鳴臨海公園へ行こうっていうことも受け入れてくれた。海鳴臨海公園の中を並んで歩いて、私とルシルは思い出に浸る。
「ルシル。ここ、憶えてる?」
私たちが今居るのは小高い丘の上。私とルシルにとって思い出深い場所なんだけど、ルシルは憶えているかな? もし忘れられていたら結構ショックかも。でも、それは杞憂だった。
「もちろんだ。ここで、私はフェイトとアルフと出逢ったんだ」
ルシルは即答してくれた。そう、ここで私たちは初めて出逢った。出逢い方は最悪だったけど。ルシルも「いきなりケンカを売られて驚いたけどな」と苦笑。
「あの時は本当にご迷惑をお掛けしました」
謝って、少し沈黙。何となくそれが面白くて二人で笑った。それから公園内をぶらりと歩いた。見るのはどこも思い出のある場所だ。初めてクロノと会った場所、なのはと最後に戦った場所、なのはと一度お別れした場所。
「あれから十五年以上経ってるのに、今でもハッキリと思いだせる」
「私からすれば三千年以上前だが、色あせることなく憶えているよ」
私たち普通人とルシルとじゃ脳の記憶容量が違い過ぎるよ。それから少しの間、私たちは海を眺めながら思い出話をした。“エヘモニアの天柱”での決闘時、ルシルを動揺させようとしていた時とは違って、ただ純粋に。
「・・・少し冷えてきたな、そろそろ行こう」
海から吹く風は冷たくて、一瞬だけど私が体を震わしたのを見て、ルシルは私に右手を差し出してきた。いつもは私から差し伸べる手。けど今はルシルから・・・。
「うんっ」
ルシルの右手を掴む。優しい温かみを持つその右手を。私たちは海鳴臨海公園を後にして、ハラオウン家を目指す。道中はほとんど会話が無かったけど、それでも居心地のいい時間だった。そして9歳の頃からの実家であるマンションに到着。
「・・・あれ? 鍵がかかってる・・・」
玄関のノブに手を掛けてみると、鍵が掛かっているようで動かなかった。確か今日、エイミィは休みのはずだから家に居るって思ってたんだけど、買い物かな? もしかしてアルフも付いて行ったのかも。カレルとリエラは遊びに行ってるのかな?とりあえず鍵を開けて、
「どうぞー」
ルシルを迎え入れる。ルシルは「お邪魔します」って言って入っていく。私も続いて玄関を潜って、久しぶりの実家の空気を肌で感じた。
「懐かしいなぁ。最後に訪れた時と比べてあまり変わってない」
「最後って・・・あぁそっか。ルシルとシャルの誕生日の時・・・」
ルシルとシャルの誕生日パーティを準備するために、はやては二人に休暇を出した。そして二人は海鳴に戻って、ミッドに帰って来たときに“テルミナス”が来たんだ。
「・・・湿っぽい話だったな。やめよう」
「だね。そうだ、何か温かいモノでも飲む?」
少し冷えた体を温めるために、何か用意しよう。キッチンに入って・・・、よしっ、久しぶりに作ってみますかホットミルクティー。ちょっと手間がかかるけど、折角だからルシルに御馳走したい。
「ティーカップはっと・・・あったあった」
「フェイト、私も手伝おうか・・・?」
「大丈夫。ルシルは見てるだけでいいよ、簡単なモノにするつもりだし」
「そうか・・・なら、お手並み拝見ということで」
私が色々と用意しているのをジッと見てくるルシル。うん、確かに見てるだけでいいよって言ったけど、「あの、そこまで見られるとちょっとやり辛いかなって・・・」一つ一つの挙動を見てくるから妙なプレッシャーが。
「あつ・・・っ!」
「フェイ――っが!?」
だから、ミスった。熱湯を入れて温めていたティーカップに左手をぶつけて、入ってた熱湯が跳ねて左手に掛かった。私は驚いて左手を大きく引いてしまったから、左手がちょうどいい位置に在ってしまったルシルの下あごを強打。ルシルの体がグラリと揺れるのを視界の端で捉えた。
でもルシルは懸命に倒れないようにと、体を支るために手を伸ばしたんだけど、運悪くティーカップに手を突っ込んだ。こうなったらもうダメだ。熱さのせいで手を引っ込めた勢いでティーカップが床に落ちてパリン。
ついでに熱湯も床に広がる。ルシルが私にもたれかかってきて、そのまま二人して倒れ込んだ。運よくカップの破片とか広がった熱湯が無い場所に倒れ込んだから、ルシルに覆いかぶされたような体勢になってる私にケガはなかった。
「いつつ・・・ちょっ、ルシル!? ごめん、大丈夫!?」
頭を打った所為かちょっと涙が出た。それ以上に抱きつかれているようなこの状況にビックリして泣きそうだ。
「こっちこそ、すまん、少し、待って、くれないか・・・」
私の上に乗ってるルシルを退かそうにも、下手に退かせばカップの破片の上にってことになるかもしれないから断念。くぅ、すごく恥ずかしい。これだとまるでルシルに襲われてる感じだ。よかった。今、この家に誰も居なくて・・・。一応、エイミィやカレルとリエラにもルシルが大切な人ってことは教えてるけど、やっぱり誤解されかねない。
「フェイト!?」
そんな時、聞こえるはずもない声が耳に届いた。ドタドタと足音を鳴らしてこの家に入ってきたのは、ここに居るはずのない親友が二人。ルシルの肩越しから見えたのは、切羽詰まった表情で私と未だに倒れ込んでいるルシルを見降ろしているアリサとすずかだ。
「あ、ああああ、な、なななな何してんのよ、あんたぁぁぁーーーーッ!」
アリサが近くにあった鍋を引っ掴んで、ルシルの後頭部目掛けて思いっきり振り下ろして殴打。私の顔の横にあるルシルの顔から、「う゛っ」ってうめき声が。そしてアリサは鍋を放り投げて、両手で私からルシルを引き剥がした。すずかは私のところに駆け寄ってきて、「フェイトちゃん、大丈夫!?」って本当に心配してくれているんだって判るほどの声色と表情を見せてきた。だけど、あまりに突然の事態だから思考が追い付かない。
「この変質者がぁぁぁーーーっ!」
アリサは動けないルシルの首を絞めた。ここで私は再起動。私の裏拳を下あごに受けて軽い脳震頭を起こしたルシル。そこにアリサの鍋による後頭部殴打。脳震頭はさらに重度のモノになった可能性が。だからそんなルシルが今のアリサに抵抗できるわけもなく、されるがままに首を絞められている。うん、状況確認。
アリサを止めないと死人が出る。しかもルシルが。そして、なのはの事を責められないなぁと思った。アリサとすずかにルシルの事を教えるのすっかり忘れてたからだ。どうして一番肝心な事を連絡しないのかなぁ、私は・・・?
「あたしの親友になんてことしてんのよぉーーーっ!」
アリサがルシルの首を絞めたまま吼える。まずい。ルシルの顔色が土色になってきた。
「ア、アリサ! 誤解! 誤解だからっ!」
†††Sideフェイト⇒アリサ†††
まったく。今日は親友たちが久しぶりに帰郷するっていうのに、休日出勤だなんて堪ったもんじゃないわ。一応、明日の日曜日はみんなでショッピングでもして遊ぼうって約束はしていた。でも今日の休日出勤が無ければ、こうして不貞腐れている今でもきっと遊んでいられたはずだ。
「もう夕方だからなのはちゃん達もきっと戻ってきてるよね・・・?」
助手席に座るすずかが残念そうにぼやいた。すずかも休日出勤。エンジニアとして働くすずかは、昔語っていた機械工学の仕事に就いてる。サクッと仕事をカタして、家に帰ろうかというところで見かけたから送っていくことになった。
「なのは達は10時くらいに到着ってメール来てたから、今頃それぞれの家に居る――って、フェイト?」
「フェイトちゃん?」
車を走らせていると、反対側の歩道を歩く見憶えのある金髪を発見。まぁあたしも金髪だけど、フェイトのはすごく長いから良く判る。判るんだけど、フェイトは一人じゃなかった。隣に背の高い銀髪の男が居た。
見た限り背の高い女性とも見て取れるけど、体格は男で間違いないから、確実に男だ。だから正直迷った。もしかして人違いなんじゃないかって。でもこのあたしが親友を見間違うはずもない。
「今のフェイトちゃん、だよね・・・?」
「あの隣の男は何なんのよ・・・?」
あたし達はフェイトと銀髪男を追うことにした。ここでなのは達、もしくはフェイトに直接連絡を入れておけばよかったと後で後悔することになるんだけど、この時のあたし達は本当に動揺しててそこまで気が回らなかった。
そもそもなのは達が銀髪男の事に関して何も言ってないのが悪いっ!
二人はあろうことかハラオウン家のマンションに入っていった。
「アリサちゃん。あの男の人ってフェイトちゃんの何なのかな・・・?」
「やっぱり仕事関係で上司か部下? それとも・・・考えたくないけど恋人?」
「え? ええええええええっ! フェイトちゃんに恋人ぉ!?」
「しぃーっ! 気付かれるでしょ。それを確かめるんでしょうが」
コソコソと後を付けて、ハラオウン家に入っていくのを視認。たぶんこの時間ならアルフが居るはず。玄関前まで気配を消して近寄る。扉の前で聞き耳を立てる。会話は聞こえない。だけど何かがパリンと割れる音とドサって重い音がした。
嫌な予感がする。ドアノブに手を掛けて、すぐに中に入る。勘違いとかなら後で謝ればいいんだし。で、あたしは見た。フェイトを押し倒して覆いかぶさっている銀髪男を。割れたティーカップ。争った跡? ううん、そんなのどうでもいい。
フェイトの目の端に涙が見えた。プッツン。頭の中の何かが切れたのが自覚できる。そっからはよく憶えてない。我に帰ったとき、フェイトが「やめてっ」ってあたしを止めようとしてた。
「アリサちゃんっ、まずは話を聞かないと!」
そこにすずかも参加。あたしはいつの間にか銀髪男に馬乗りになって、その綺麗だけど男らしい太い首に手を掛けていた。あたしは急いで手を離して銀髪男の上から跳び退く。
「大丈夫!? ルシル!」
「ケホッケホ・・ああ、大丈夫だ」
フェイトの様子からして、ルシルって呼ばれた銀髪男はフェイトにとって余程大切な人みたいだ。そのルシルがフェイトに支えられながら立ち上がって、あたしを見てきた。怒鳴られる? 当たり前か。事情も聞かずに鍋で殴って(冷静になったら思い出した)、その上首を絞めたんだ。恨み言で済めばラッキー。下手したら警察沙汰になるかも。
「勘違いさせてしまったようですまなかった」
なのに、ソイツは怒るどころか自分に非があるって頭を下げて謝った。言葉に詰まる。なんて言えばいいのか判らない。判らないから、とりあえず「あたしもごめんなさい」謝ろう。それが一番いいに決まってる。それから四人で割れたカップの破片やら濡れた床を掃除しながら、さっきの事情説明(事故だった)をして、次に自己紹介をすることになった。
「私はルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード。執務官としてのフェイトを補佐している。まぁ執務官補佐、というものだ。あと、みんなからはルシルと呼ばれているから、二人もそう呼んでくれていい」
長い名前ね。“フォン”とか、どっかの貴族みたい。うっすらと見え隠れする物腰もなんかも上流階級の感じだし、そういうパーティに参加していてもきっと違和感がない。それにしても、よく見たら男っぽくないっていうか・・・女装とかしたらすごく似合いそう。
(この人、生まれてくる性別を間違ってるんじゃないの)
あれ? そんな事を思ったら、以前にもそんな事を思ったような気がした。どうせ気のせいだろうけど。だって、あたしとルシルは初対面なんだし。でも何でかなぁ? ルシルの事を妙に懐かしく思うんだ。
「それじゃあルシル君。わたしは月村すずかです。すずかって呼んでください。でもそっかぁ、フェイトちゃんの補佐さんだったんだねぇ」
「判ったわ、ルシル。あたしはアリサ・バニングスよ。アリサでいいわ。すずかにフェイトやなのは、はやてとは小学校からの親友よ」
「ああ。よろしく、すずか、アリサ」
何でだろう。フェイトがすごく悲しそうに顔を伏せる。それにルシルも。フェイトほどハッキリと顔に出ないけど、何処か寂しそう。すごく引っかかる。何かこう胸が苦しいっていうか。そう思うから、あたしは・・・。
「あのさ、フェイト。今すぐになのはやはやてと連絡取ってくれない? 出来れば、空間モニターってヤツ有りで。顔を見て話したいから」
「アリサちゃん・・・?」
「え? うん、いいけど・・・」
フェイトがなのはとはやてに空間モニター越しで通信したいってことをお願いしてる短い間に、あたしはルシルに、耳を貸して、っていう手振りをする。ルシルはすぐにあたしのところに来て、あたしの口が届くようにしゃがんでくれた。
「あたしさ、あんたのこと見て何か懐かしいなぁって思ったんだけど、どっかで会った事とかない?」
そう耳打ちすると、明らかにルシルの顔に動揺が浮かんだのが判った。でもすぐに「さぁ?」って誤魔化した。さぁ?だって。誤魔化しにその選択はダメよ。確定。あたしはルシルとどっかで会ったことがある。でも思い出せない。一度見たら忘れないような外見なのに。
「アリサ、繋がったよ」
『あ、アリサちゃん、すずかちゃん。こんばんは~♪ そして久しぶり~♪』
『すずかちゃん、アリサちゃん、久しぶりやな~♪』
「うん、久しぶり。なのはちゃん、はやてちゃん。今日はごめんね」
なんて、すずか達は能天気に挨拶してる。だけどあたしが挨拶を返さないで、しかもジト目だからか、なのはとはやては困ったように『あはは』と苦笑い。あたしは二人に返事しないで、早速本題を切りだすことにした。
「ねぇ? どうしてあたしとすずかに、ルシルの事を教えてくんなかったの?」
『え?・・・・ええっ? アリサちゃん、ルシル君の事、もしかして思い出したのっ!?』
『そうなんか!?』
「ち、違うぞ、なのは! アリサはそう言う意味で言ったんじゃない!」
もしかして思い出したの、か。やっぱり会ったことがあるんだ。ここでなのはとはやてが、しまった、みたいな表情になった。もう遅い。だったら教えてもらおうか。あたしがルシルと会っておきながら、どうして綺麗さっぱり忘れているのか。
†††Sideアリサ⇒ルシル†††
「ち、違うぞ、なのは! アリサはそう言う意味で言ったんじゃない!」
なのはとはやてがアリサの言葉を勘違いして自滅した。いや、私にも非があったな。今の発言は口頭じゃなく念話にするべきだった。まったく。この問題は未然に防げるモノだというのに、どうしてこうなったのか。彼女たちは午前中、翠屋で同じ問題を起こしているのに、また同じ轍を踏んだ。
海鳴に来るまでに私の事をちゃんと連絡しておけば、こうはならなかった。フェイトとなのはとはやて。今回の三人のうっかりレベルは、随分昔の契約で会ったことのある“遠坂凛”クラスだ。そう、超ド級の破滅的うっかり。
「あの、ルシル君。もしかして私とも会ったことあるの?」
すずかが私へと振り返って、信じられないと言った風に訊いてきた。どう答えるべきか。もう隠し通せるほどのレベルじゃない失言だったしな。でも実際、すずかやアリサに私の真実を話そうという話は以前から挙がっていた。
だが私はそれを止めた。“界律”の影響というどうする事も出来ないレベルとは言え、かつての友人の事を忘れてしまっていた。それがすずかとアリサの心にどういったダメージを与えるか判らないからだ。だったら教えることなく、忘れてしまっているままでいい、ということにしたのだ。だと言うのに・・・・
「このうっかり屋め」
翠屋の一件の後で確認しておけばよかったと後悔。
「『『ごめんなさい』』」
呆れつつ半眼でフェイト達を見回すと、フェイト達は申し訳なさそうに頭を下げた。そこに、「ただいま~!」と元気な声が聞こえてきた。ここリビングと玄関から続く廊下を隔てる扉が開き、入ってきたのは、
「あれ? おかえりフェイトちゃん。いらっしゃい、すずかちゃん、アリサちゃん。そして、ルシル君。んで、なのはちゃんとはやてちゃんにはこんばんはぁ♪」
エイミィだった。エイミィとは本局で何度か会っているから、まぁ問題ないだろうが、現れたタイミングがちょっと悪い。そして、
「お、フェイト、おかえり~♪ おおっ、ルシルもおかえり~♪」
アルフが両手にエコバッグを持って、リビングに入ってきた。以前までは10歳にも満たない子供形態だったが、今は昔のように10代後半の少女姿だ。ここ数ヵ月の間に判明した、私の魔力をフェイトに供給できるという恩恵が、魔導師となった今でも可能ということで、アルフの維持に必要な魔力はフェイトと私で折半している形だ。
――ルシルは無駄に魔力持ってるんだしさ、どうせなら有効活用しよう。あんたの魔力なら大歓迎だしさ、フェイトの負担も今よりもっと軽くなって、良いこと尽くめじゃん――
アルフからそう言われ、フェイト経由で魔力を送った。今ではフェイト2割で私が8割。うん、ほとんど私がフェイト経由でアルフに魔力を供給している。言ってみれば、ある意味アルフも私の“使い魔”ということだ。
『おいおい、アルフ。ここは、おかえり、じゃなくて、いらっしゃい、だよ・・・』
アルフにも、すずか達には私の真実は教えないと言い含めておいたんだが・・・。念話でアルフにそう告げると、『しまった。ごめんルシル。嬉しくってつい・・・』としょんぼりした。そこまで落ち込まれると、こっちが申し訳なくなるよ。
エイミィはアルフの発言を大して気にも留めず、「夕飯すぐに作るから待ってて~」とキッチンへ入り、アルフも「手伝うよ」と続いた。さぁどうしようかこの状況。クロノとエイミィの子供たちが帰ってくる前に決着しないとダメだろうなぁやっぱり。
「話してくれる、よね? あたしたち親友なんだし」
「なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん、そしてルシル君。私とアリサちゃんにも関係してる事で何か隠してるなら、やっぱり私たちにも話してほしいなぁ」
あぁもうダメだ。二人は笑顔なのに放たれるプレッシャーが凄まじい。なのは達が私に、どうしようか、という視線を向けてきた。
『なぁルシル。アリサとすずか、この際にエイミィにも教えてもいいんじゃないか?』
アルフからの“もう諦めらめて話しちゃえよ宣告”。腕組みして溜息。魔術があればこの数時間程の記憶を隠蔽するくらい出来るんだが。私は「・・・・はぁ。仕方ない」と嘆息し、フェイトに“地球・日本・海鳴市”に有ったアルバムの類と、“ミッドガルド・フェイト達が持っていた”アルバムの類を用意させる。
「持ってきたよ、ルシル」
「ああ。テーブルの上に置いてくれ」
エイミィとアルフが夕飯の用意をしている音をBGMに、ソファに四人で腰かけ、二つのモニターになのはとはやてを交えて話を切りだした。
「まずは・・・そうだな。すずか、アリサ。私とフェイト達との付き合いはどれくらいになると思う?」
私の問いに、二人は数日の間から一年ちょいって答えが返ってきた。。その基準はおそらく“テスタメント事件”前から今日までの間の期間だろう。その前の海鳴への帰郷の際に私がいなかった事、今日まで私という存在の連絡を受けていない事から導き出したに違いない。しかしその答えは・・・。
「ハズレだ。私とフェイト達との付き合いは、彼女たちが9歳の頃から続いている」
「はぁ? そんな昔からなの!?」
「え? うそ、だよね? そんな小さな頃からの付き合いだったら、私やアリサちゃんにもちゃんと紹介してくれるはずだよ?」
信じられないと言った風に反応を示す二人。そこで出て来るのがフェイトが用意したアルバム類だ。まずはこの海鳴市のハラオウン家に置いて有ったアルバムを開く。
(やはり映っていないな・・・)
どの写真にも私やシャルの姿が映っていない。“界律”からの修正が働いた所為だ。存在していなかった事にされた。すずかとアリサが私が開いたアルバムを覗き込んでくる。そこで私はフェイトに、ミッドに在ったアルバムデータを開くように指示。
フェイトは頷いて、魔導端末を操作。テーブルの上に写真データが表示されたモニターを幾つも展開する。二人はそちらにも目を向け、そして「え?」と漏らした。二つの写真には相違点がある。私とシャルが映っているか否か、という相違点が。
「どういうことよコレ・・・? この銀髪の美少女っぽいのってまさかあんたなの? ルシル・・・?」
美少女とか言うなよ。今でも傷つくんだよ、それ。
「それにこの水色の髪の女の子・・・私、知らないよ?」
すずかのセリフに、フェイト達の、特になのはの顔色がハッキリと変わった。それはそうだ。私以上にすずか達と付き合いがあったシャルの事を、悪気やわざとではないとはいえ、“知らないよ”、なんて言われたらやっぱりショックだろう。
そういう私も少なからず傷ついている。この場にシャルが居たら、彼女は泣いていたかもしれない。アリサはすごい勢いでテーブルの上に置かれているアルバムをめくり、そしてフェイトに写真データをもっと見せるように言う。いつの間にかエイミィもこちらを覗き込むような形で参加していた。
「あんた達、もしかしてあたし達を騙そうとかしてる? だってあり得ないでしょ、こんなの。だって憶えてないだもん、ルシルやこの女の子の事。だったらそこに行きついちゃうでしょ? アルバムの写真は今さらイジれないけど、フェイトの写真データはやろうと思えばやれ――」
『違うよっ!』
アリサの言葉を、なのはの悲鳴のような否定が遮った。なのはの映るモニターへと全員が目を向ける。なのはは・・・泣いていた。
「なのは!? ちょっ、なに泣いてんのよっ!?」
「え? えっと、なのはちゃん?」
突然泣き出したなのはに、激しく狼狽するすずかとアリサ。なのはは嗚咽を漏らしながら何度も『違う』と否定の言葉を続けた。
「そうだよ、アリサ、すずか。そうじゃない。違うんだ。確かにルシルとこの水色の髪の子、シャルはいた。特にシャルは、私たちと同じ聖祥小と中学に一緒に通ってた」
フェイトがその当時の写真データをモニターに表示させた。小学校の制服を着て、シャルを含めたフェイト達が楽しそうに笑って通学している。中学校の制服を着て、何か良い事でもあったのか肩を抱き合って笑いあってるシャル達。テーブルの上に置かれたアルバムにも同じ写真がある。だがそこににシャルは映っていない。シャルの居るべき場所がポッカリと空いていた。
『詳しい話は長くなるで今は出来んけど。すずかちゃん、アリサちゃん。確かにシャルちゃんは私らの親友やったんや。もちろんルシル君もな』
はやても小さく嗚咽を漏らしながら、二人に告げる。
『詳しい話は明日にするよ。でもね、これだけは言っておきたいんだ。シャルちゃんは、私たちの友達。何物にも代えられない・・・大親友、なんだよ・・・』
なのはが何度も手の甲で涙を拭いながら、万感の想いを込めて告げた。黙るしかなくなったすずとかアリサ。幼馴染三人にこうまで言われたら嘘だとは思えなくなったんだろう。
最後に私へと視線を向けて「あたし達は、本当にルシルやシャルって子と友達だったの?」アリサが沈痛な面持ちで訊いてきた。私はただ首肯する。ショックを受けたように目を見開いて、私から目を逸らすアリサ。次にすずかが、
「だったら、だったらどうして? どうして私とアリサちゃんはそんな大切な事を憶えてないの?」
若干涙目になりながら訊いてきた。これもまた長くなる話。今、ここで詳細に話す時間はない。だから今は、「世界がそうなるように仕組んだからだ」そう言うしかなかった。
†††Sideルシル⇒フェイト†††
詳しい話は後日ということになって、すずかとアリサは渋々帰宅した。なのはとはやてはルシルにもう一度「こんな事になってごめんなさい」って謝って、ルシルは「シャルの事を思えば、こうなった方がよかったのかもな」って小さく微笑んだ。そして夕食を私とルシルとアルフ、エイミィとカレルとリエラで頂いて、私とエイミィで夕飯の片づけをしている時、
「ねぇフェイトちゃん。私ね、ずっと引っかかってたんだ」
エイミィが話し始める。
「クロノ君やお義母さんがさ、ジュエルシード事件や闇の書事件とかのデータを私に見せないようにしてた事があったんだ。結構さりげなくで自然なんだけど、何処か不自然さもあって、でも気になるほどじゃないから何とも思わなかった。
でも、今日のフェイトちゃん達のやり取りを見て、判ったんだ。ルシル君とシャルちゃん。二人の事を憶えていない私が、二人が解決に協力してくれた事件の資料を見て不審に思うんじゃないかって、クロノ君たちはそう思ったんだろうね。だから二人が関係している資料を私から遠ざけた・・・」
エイミィは「教えてくれたらよかったのに」って寂しげに苦笑した。私は「ごめん」としか言えなかった。するとエイミィは、
「フェイトちゃん。教えて。どうして私もルシル君とシャルちゃんの事を憶えてないのか。フェイトちゃんが教えること出来る範囲でいいから」
皿洗いを中断して、私を真っ直ぐ見てきた。私も皿拭きを中断して、真っ直ぐ見詰め返す。
『ルシル、エイミィに話すけどいいよね・・・?』
マンションの屋上でアルフと格闘戦の模擬戦をしてるルシルに念話で訊く。返ってきたのは、『ああ。私も参加するから、少し待って――へぶっ!?』だった。へぶっ?・・・? あーごめん、ルシル。ひょっとしてタイミングが悪かったかな?
この後、少し頬を腫らしたルシルが戻ってきて、カレルとリエラが寝たのを確認してから話に移った。エイミィはずっと黙って聞いていて、そして最後に、
「本当に遅れたけど・・・。おかえり、ルシル君」
ルシルに微笑んだ。
†◦―◦―◦↓????↓◦―◦―◦†
ルーテシア
「お? おかえり、レヴィ。引きこもりはもういいの?」
レヴィ
「わたしをニートみたいに言わないでよ。ちょっと気分転換にクローゼットから転移して出掛けてたの」
ルーテシア
「(何でまたクローゼットから?)へ、へぇ。それで? どこに行ってたの?」
レヴィ
「ウチの作者のところ。わたしを完結編本編に出す様に直談判に行ってきた」
ルーテシア
「うわぁ、そこまでやっちゃうんだ。その行動力に、お姉ちゃんは引いたよ」
レヴィ
「でも言えなかった」
ルーテシア
「それはまたどうして? そこまで行ったんなら、砲撃でも何でも使って脅迫って言う名のお願いが出来たのに」
レヴィ
「ルーテシアもなかなかに危険思考になってきたよね。だってさ、完結編の、まぁシーンがバラバラだけど、いくつかのプロットを執筆してたんだもん。何か邪魔し辛い雰囲気だったから、側に在った広辞苑を投げつけて帰ってきた」
ルーテシア
「(十分邪魔してるよそれ)お、おおっ! それでそれで? もしかして読んできた?」
レヴィ
「うん、まぁちょっとだけ。とりあえず、ルシリオンが・・・」
ルシル
「私がどうしたって?」
ルーテシア
「もう何も言わないよ?」
レヴィ
「ルシリオンが・・・・“鬼”だった」
ルーテシア
「人格面で?」
ルシル
「おいっ」
レヴィ
「それもあるけど」
ルシル
「あるのかっ!?」
レヴィ
「特務六課が苦戦してた敵の何人かを瞬殺したり、事もあろうになのはさんとフェイトさんを撃墜したり、泣いているはやてさんを無理矢理横に寝かせて、お腹を触ったり――」
ルーテシア
「きゃああああああああっ!」
ルシル
「あああああああああああああああああっ!」
レヴィ
「うるさい」
ルシル
「嘘だよなっ!?」
レヴィ
「それはどうかな?(フフフ、困れぇ困れぇ♪)」
ルーテシア
「ルシルさん、しばらく話しかけないでね」
ルシル
「嘘だと言ってくれぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!」
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