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ネギまとガンツと俺

作者:をもち
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最終話「麻帆良祭~最後の分岐点~」



 一機の巨大飛行船の上。

 葉加瀬聡美が巨大魔方陣で呪文を唱え、大規模な強制認識魔法を発動しようとする中、二人の人間が対峙していた。

「さて、まさか私の前に立つのがネギ坊主ではなく、先生だたとはネ」

 感慨深げにため息をつく超鈴音。

「もう止めにしないか? ……あまり生徒を傷つけたくはない」

 それに対し、優しい言動の割には面倒そうなタケル。

「フフ、先生も甘いネ。私を止めたくば口ではなく、力で来るヨ」

 構える超に、タケルは無表情で頷く。

「……わかった」
「では」

 そして、次の瞬間。

「悪いが全力で行くネ」

 気付けば背後に立っていた超の動きに、タケルは対応できず、電気を帯びた拳によって背中を殴り飛ばされた。タケルの体が地面と平行に飛ぶほどの威力。

「先生では悪いが私に勝てないヨ」

 意味ありげに笑う彼女に、だがタケルは何事もないかのように体を反転、見事に着地を決める。

「「え!?」」

 これに驚いたのは当然、その場に居合わせた二人。

 葉加瀬と超。

 超が着込んでいる最新……というか未来の軍用強化服はその拳に電気をのせて人を失神させることも、そして一般人ならばその電気だけて殺すことすら可能な強力なソレである。

 そして、超は「全力で」と言った。つまり、一般人なら死ぬはずの電気量で殴り飛ばしたということ。

 この一撃で死ぬとは思っていなかった彼女たちだが、それでも十分に決着がつくと考えていた。

 それを身に受けても、体の麻痺どころか何の症状も起きていないタケルの姿に、流石に驚いてしまうのは仕方がないことだといえる。

 そんな彼女達の驚きを無視して、タケルは呟く。

「……なるほど。これがカシオペアとやらの時間跳躍か」
「なぜ、それを?」

 尋ねる言葉には答えず、今度は彼が駆け出した。

「むっ」

 今度は直接の格闘戦闘。

 タケルの膨大な力と速さは、超のそれを凌いではいるが、それだけ。ネギと近いレベルの格闘術をマスターしている彼女に、拳が届くことは無い。

 いなされ、体勢を崩されてけりの一撃を受けた。今度は5Mほど弾き飛ばされて、受身すらとれずに飛行船の屋上という大地に激突。

 これも超鈴音の全力の蹴り。普通の人間なら今ので背骨が折れていてもおかしくないほどの一撃だった。

「これで、終わったネ」

 だが。

「体術はネギレベル……か?」

 ――どちらにせよ、殴り合いでは勝てそうにないな。

 やはり平然と。

 化け物はのっそりと立ち上がった。

「それで全てか?」

 ほとんど効いている様子もみせずに呟く彼の言葉に、だが超も大きく息を吐きだして納得がいったように小さく頷く。

「なるほど。流石に龍宮と茶々丸をやっつけただけあってその戦闘力は凄まじいようネ」
「……まぁ、不意をついだだけだが」
「ふっ、あの二人から不意をつくだけでも大したものヨ?」

 ――謙遜は良くないね。

 呟き、言葉を続ける。

「だけど、それでも私には勝てないヨ」

 手に取り出したのは強制時間跳躍弾。

 銃として撃ちださずとも効果を得るその汎用性は、確かに超自身の時間跳躍と組み合わせれば無敵を誇るだろう。

 悠然と微笑む超に、タケルは小さな悪戯をする子供のような笑みを。

「さて、どうだろうな」
「いつまで笑っていられるカナ?」

 超が軽く目を閉じ、強化服の背部に設置されたカシオペアが一瞬だけ唸りをあげる。

 そして。

 彼女は確かにその場から消え去り、それと正に同時。タケルがいたはずの真後ろに現れていた。

 ――そう。

 タケルがいたはずの場所に。

 だが。

「いない?」

 どこを見回しても、彼の姿はない。

「上カ?」

 それでも、いない。

 それは本来ありえない。超が時間跳躍により消えてタケルの背後に現れたのはまさに同時のタイミング。

 どこかに逃げる時間も隠れる時間も。いや、そもそも移動する時間すらない。

「……?」

 後ろで見ていた葉加瀬も超と同様に首を傾げ、「マズ……!!」超が呟く瞬間だった。

「チェックメイト」
「え」

 葉加瀬の真後ろ。

 気付けばそこにいたタケルは一切の容赦なく、いつしか手にしていた強制時間跳躍弾を葉加瀬の背に。

「あ」

 呆然とした呟きがまるで空気の抜ける風船のような色で残り、褪せていく。

「超さん、ごめんなさ――」

 葉加瀬もまた未来への波へと呑まれ、この時間この世界から消えた。

「……な」

 何とも、呆気なく。

 長年にわたって貯めこまれていた彼女たちの計画も、今となってはほぼ壊滅。たった一人のイレギュラーが全てを覆していた。

「時間跳躍のときに一瞬でも目を閉じたのが失敗だったな」
「……」

 確かに、それは超のミス。だがそれは超からしてみればそれはある意味では仕方がないというものだ。

 魔法も気も使えないということはもちろん、調べが済んでいた。それでも気を抜いてはならない相手だということも彼女なりわかっていた。

 だが、それでも既に格闘で打ち勝ち、時間跳躍という絶対優位に立っていた彼女に、そんな油断すらしないでおくことなど、それこそ場数を踏んでいなければ不可能だ、

 まさか姿を、しかも一瞬で消すことが出来るだろうと誰が思うだろうか。

「俺の狙いに気付いたのは流石、だが少し遅かった。キミの策は素晴らしかったが……あえて言うなら実戦不足だった」

 確かに、茶々丸とマナとの連絡が出来なくなった時点で、タケルが強制時間跳躍弾を手にしていた可能性を念頭に入れていなかったのは超らしからぬミスだったかもしれない。

 だがそれを含めても、今の今まで戦っていて実は時間跳躍弾で葉加瀬を狙っていたなど、誰が一瞬でその企てに気付くことができるだろう。

 間に合わなかったものの、ほんの数秒の沈黙でタケルがしようとしていたことに気付いた彼女は、むしろ流石というべきではないだろうか。

 ともかく、あらゆる予想外の全てを手にして、戦いを組み立てていたタケルの、いうなれば勝利だった。

 これで、残る面子は超鈴音だけ。

 ――強制時間跳躍弾がもうないのが面倒だな。

 内心でタケルが困ったように呟く。

 あれさえあればすぐにでも彼女を3時間後に送って、それで終わりになるが残念なことにタケルの手持ちの強制時間跳躍弾は葉加瀬に使ったので最後。

 つまり、残された手段は真っ向勝負しかない。

「……何で、ここまで無駄なく動けるカ?」

 俯き、顔を伏せたままの問いに、タケルは周囲に目を配りつつ、話をすることに逡巡する様子をみせたが、さすがに生徒の真摯な声に口を開いた。

「……さっきも言ったが、キミの策に関しては本当に素晴らしかった。多分本来なら俺もここまで首尾よくキミ達を抑えることは出来なかっただろう」
「本来なら?  ……!」

 首を傾げようとした超は、すぐにそれに思い当たったのか、驚きの表情に。

「まさか……」
「そう、そのまさかだ」

 22年に一度、神木に宿る魔法力。異常気象により一年縮まったことで綻びは始まった。

 本来、あと一年をかけてじっくり魔法教師の動きを探るつもりだったにも関わらず、期間が縮まり、そのせいで急いで探りを入れたせいで魔法教師に目をつけられた。

 全ての綻びはそんな、ほんの些細なことからだった。

 それがなければタケルが超に着目することもなかっただろう。何度も人前でカシオペアを使うことも、ネギにソレを渡すことも恐らくなかった。

 綻びの始まりがタケルに情報を与え、それが終わりへと繋がっていった。

「戦力だけでも全て整えたのは流石だったが」

 それも、学園結界を張りなおされてしまっては、小型ロボはともかく巨大ロボのほうは動かなくなり、結局は意味がない。

 全てはこの男。

 がっくりと肩を落とす超に、タケルがゆっくりと近づき。

「……まだネ!」

 顔を上げたその瞳にはまだ光が。

 そう、まだ終わったわけではない。

「何?」

 怪訝に首を傾げるタケルだったが、その可能性に一瞬で辿り着き、驚きというよりもやはり面倒そうな表情を見せた。

「……キミも、呪文詠唱をできるんだな?」

 その指摘は、ズバリ。

「フフ、当然ネ。今から先生を未来へ送る。それからまた呪文詠唱すればまだギリギリ間に合うヨ」

 その言葉に、タケルがやれやれと首を振る。

「……」

 その余裕のある態度が、超の警戒心を高めていく。

 いつでもカシオペアの運用を出来るように身構え、相手の出方を窺う。

 ――勝負は……次の一瞬ネ。

 一向に衰えそうにない超のその心の強さにはタケルとしても内心で舌を巻いているのだが、残念ながら今は敵同士で、そんな場合ではない。

「仕方ない……か」

 呟き、初めて超の前で軽く腰を落とし、彼は言い放った。

「もう終わってるんだがな」




 ――お、かしい……ネ。

 黒い拳が腹部に入り、凄まじい威力に弾き飛ばされた。

 全ての計画は順調に進んでいるはずだった。

 武闘祭を足がかりとして、世界樹の魔力を用いた全世界規模の『強制認識魔法』発動。

 最も危険な学園長は原則として手を出そうとしない。よしんば手を出そうとすることがあってもエヴァンジェリンがいるので結局は動けずに終わる。

 次に厄介なのはネギも含めた3-Aの実力者達が団結してこちらを抑えにかかってくることだったが、それも懐中時計型タイムマシン―カシオペア―により、最終日より一週間後にならなければこの世界に帰って来れないように設定してある。

 まぁ、恐らく何らかの手段で彼等はこの時間に帰ってくる可能性もあるが、それはさておき。今現在は確かにこの場にいない。

 最後の障害となるのは魔法教師たちだが、彼等に対抗できる戦力はこちらも2年間かけてきた計画だけあって用意してある。

 実際に、用意したロボ軍団で学園長を除けば右往左往しないような人間は2人だけだ。

 その二人タカミチ先生、ヤマト先生だけが唯一の脅威。

 いや、だがそれすらも本来はこちらの強制時間跳躍弾=B・C・T・Lを用いれば後は隙を突くだけで簡単に除外できる。

 ……はずだった。

 ――それなのニ!

「う、く」

 黒服の彼がまだ動こうとするこちらを止めようと動き出す。

 背後に備えていたカシオペアは一手目から、ギョーンという意味のわからない音が響いた途端に気付けば破壊されていた。

 ならば格闘戦だと殴りかかるが、いくら殴ってもこちらの攻撃が効いた様子はない。最初はともかく、疲れも出始めた途中からは一方的に殴られるばかりだ。

 ――こんな、ところで!

「もう、諦めろ」

 彼の存在は予想外すぎた。

 独りで、全ての敵を跳ね除け、全ての策を打ち破り、全てを終わらせようとしていた。




「……なぜ、ネ」
「む?」
「なぜ戦うネ? この戦いには私の未来がかかてるヨ! 今、魔法を世界に認識させておかないと悲劇が!!」

 感情を剥き出しにした、彼女の心。

 それは真摯で、真実が。

 だから、タケルは言う。

「……キミが未来を大切にしたがっているように」
「……」
「この現在を、俺の目の前にあるこの今を、俺は守りたい……それだけだ」
「……っ!」

 超の歯がギリと鈍い音を響かせた。

 超もタケルも既にそれぞれの中にそれぞれの想いが存在している。それを口先で曲げることなど、出来やしない。

 タケルはタカミチと同じように学園側の人間。だが、想いはタカミチのそれより遥かに浅くて、凄まじいほどに単純。今を大切にし、未来の命に一筋の希望も可能性も見出そうとしない。
そんな、誰よりもタケル自身のための――横暴とも我侭ともとれる強い想い。

 だから、その分。

 それは揺らがず、倒れない。

 超はカッと見開いた目で、間合いをとる。飛行船の上からも身を投げ出し、空を舞った。

「……?」

 さすがに空は飛べないらしいタケルは、まだ何かするのか? とでも言いたげな顔で超を見つめる。

 ――くっ。

 その余裕が超には気に入らない。

「これなら!!」

 肩部に装備されていた最新鋭の指向性、自動性能を備えたビーム兵器を発射。

 まるで某MS兵器のファン○ルのように襲い掛るソレは、次の瞬間にはタケルが取り出したソードによって切り刻まれた。

 だが、それは囮。

 その時には彼女が持つ全ての強制時間跳躍弾を配置。

 数百発もの弾丸は一切の隙間なくタケルに放たれ――

 ――空中の一部がごっそりと抜け落ちた。

 そう思えるかのように一瞬で、その空間にあった半分以上の弾丸が地に堕ち、消え去った。

「ふぅ」

 小さく息を吐き、余裕の表情でその身を躍らせる。隙間だらけになった強制時間跳躍弾の雨は、最早、飛行船の屋根に着弾するばかりで、タケルに少しでも当たる気配すらない。

「まだ……やるのか?」
「くっ……!」

 ――化け物ネ。

 呟いていた。

 超による全ての初見である筈の攻撃に、タケルは恐ろしいほどの順応力をみせて、即座に理解し、反応する。

 ――全ての一切が通用しない。

 それら一連の動きは超にそう思わせるのに十分なほどの異様さを示していた。それほどの、圧倒的強さ。

 それでいてまだ本気の一端でしかない様子を、彼女はヒシヒシと感じていた。

 ――かなわない。

 だが、それでもこの計画は今の超鈴音にとっての全てだった。

「……仕方ないネ」

 例え己を蝕む悪意の力ですら、計画成就のためならば構わない。それほどの想いが、超にはある。

 だから。

 忌むべきであり、おぞましいほどの、本来は使うべきでない力にスイッチを。

「ラスト・テイル マイ・マジック スキル・マギステル」

 そして、彼女は最後の力を行使する。




「ラスト・テイル マイ・マジック スキル・マギステル」
「……まだ、む?」

 ――まだ策があるのか。

 そう言おうとしたタケルの言葉がピタリと止んだ。

 それはまだ策を持っているという周到さへの呆れたわけでも、強力な魔法の力を感じたからでもない。

 ただ、超鈴音の表情が苦痛に歪む瞬間を見たから。

 ――苦痛を必要とする力……だと?

「■■■■■■■■……」

 タケルには理解の出来ない言語を呪文として吐き出す彼女の顔は、文言が進むにつれて頬が引きつり、歯を食いしばる様をありありと表している。

「ふふっ」

 苦痛から歪みそうになる顔を誤魔化すために笑顔を浮かべ、その最中にすら呪文の詠唱を止めはしない。

 ここにきて、タケルは本当の意味で超鈴音を尊敬するようになっていた。

 ――超さん、キミは……一体?

 何があったか、どうしてそうなったか。たかだが14、5年しか生きていないような少女が必死になって自分の体をかけて戦い抜こうとしている。

 タケルは彼女のこの戦いにかける意気込みを侮っていた。

 全ての計画が瓦解すれば、普通は諦める。それは策士であればあるほどに、状況を冷静に見ることができるからだ。つまり、タケルはすぐに超が諦めるものとふんでいた。

 だが、実際はそう上手くいかなかった。

 彼女はなにがあっても戦いに勝つ強い意志を持っていた。それは不利だとか、そういった一切の状況に関係するような甘いものではない。

 激しく、強く、烈しい一途な信念。

「……辛そうだな」

 だから。

 フと呟いたその表情は、気付けば無色。

 つまり、それは――。

 ――タケルが、本気で戦う合図。

「ふぅ……ふぅ」

 呼吸を繰り返し、彼女の攻撃方法にすら目星をつける。

 彼女は現在、未だに空中にいる。

 そして、空を飛べないタケルは未だに飛行船の上。

 ――ならば、一つ。

 お決まりのガンツソードを居合のように腰だめに構え、コントローラーをいつでも発動できるように左腕部に装着。周囲をさりげなく見渡し近くに浮かぶ飛空挺がないことに内心で舌打ちを。だが、それをまるで気にした様子もみせずに――

「――こい」

 まるでタケルの呟きに答えるように、超のそれは放たれた。

「■■■■■」

 凄まじい魔力によって構成された大きな爆炎がタケルを、いや、タケルどころか飛行船までをも包み込む勢いで爆発する。

「……キミは、本当に強いな」

 タケルの呟きは、超から放たれた轟音によりかき消された。




 自分を呑み込もうとする巨大な炎を見据えて、エヴァンジェリンの言葉を思い出していた。

『魔法は実体のない幻想ではない。いわば水の如き流れる物体。現実に存在する本物の力だ』

 つまり、目の前にあふれる魔法の炎は、滝から流れる単なる大瀑布のようなもの。

 ――それなら!!

「ふっ!」

 腰だめに構えていたソードを全力で振りぬく。

 おそらく、それは誰の目にも映らなかっただろう。

 ほんのコンマの時間。

 誰にも断ち切れぬはずの爆炎の嵐は、確かに切断された。

 だが、それはあくまでも一瞬で。

 だが、一瞬があれば十分で。

 すかさずコントローラーで身を隠し、そのまま炎の隙間に体を突っ込んだ。




 気付けば、勝負は決していた。

 爆炎の魔法から躍り出たタケルに、超は空から引きずり落とされ地面に叩きつけられていた。その時の衝撃のせいか、彼女の軍用スーツはついに故障し、使い物にならなくなった。

 つまり、超鈴音の牙はほぼ全て抜かれてしまったことになる。

 マウントポジションをとり、ソードを超の首に突きつけ、タケルが口を開いた。

「もう、あきらめろ……」
「……いやと言ったラ?」

 超がにやりと微笑み、それに対しため息を吐く。

「キミを適当な場所に――」

 その台詞が最後まで言い切られることは無かった。

 なぜなら

「――っ!」

 ぞくりと。

 タケルの背筋が震えたから。
 



 事態は急激に異変を迎えていた。

「……マズい」
「な、何が起こてル!?」

 ストップしていた、もしくはその一部を欠損し動けなくなっていた小型ロボと人型ロボ。それらがまるでタケルと超を囲むように隙間無く全方位を埋め尽くし殺到していた。

「動けるか?」

 ヒソヒソとささやくタケルに、超もその不穏な空気を感じ取り、静かにそして残念そうに首を振る。

「スーツは完全に壊れてしまたし、無理して魔法をつかたせいもあって体が動きそうにないネ」
「……そうか」

 小刻みで独特な呼吸を繰り返し、ノロノロと超を抱える。

「何ヲ?」
「文句は後で聞く……少し黙ってるんだ」

 ロボたちに一斉に向けられた銃に、タケルはそれでも動かない。

「……」

 一拍の沈黙の後、場が一斉に動きだした。

 同時に火を噴く銃口が視界を焼き、響く銃声が鼓膜を激しく叩く。だが、タケルはそれでもその瞬間には飛び上がり、その囲いを抜け――

「……おいおい」

 どうにか身を捩り、近くにあった建物の壁をけって方向を転換する。

 タケルが一瞬前までいた空間と建築物と、足元の小型ロボすら巻き込んで。いつの間にか現れていた巨大ロボの拳がそれらを全て破壊していた。

 どうにか無事に着地したタケルだったが、今度は銃の雨にその身を晒すことになった。慌てて超を庇いながら逃げるように走る。

 どうにか建物の影に入り込んだタケルに、続いて空から小型の飛行機がその身を翻す。

「くっ!!」

 ――ジリ貧だな。

 攻撃したくても今現在、その両手は超を抱えるために使われているため今はとりあえず逃げるしかその手段は残されていない。

 機関銃部と翼部を刃とした飛行機の突貫攻撃に、タケルは再度跳躍。

 上空20Mほどの位置していた、幕を垂らすため浮いていた飛空挺に着地した。

「……よし、って嘘だろ」

 安堵も束の間、その高さは丁度巨大ロボの目線だったようで、巨大ロボは大きな口を開け、その中から飛び出した銃口がタケルに向けられていた。

 その銃口は、まるで人がすっぽりと入りそうなほどに大きく、ガンツスーツでも防ぎきれそうにない。

 またもや逃げ出そうとするタケルの行き場をなくすためか、飛行機型の星人が空を舞って待ち構える。下でも追いついてきた小型のロボ星人たちが待ち構えて銃を向けている。

「……」

 それならばとコントローラを作動させ、視界から消え――

「オオオオオオォォォ!!」

 ――ることは出来なかった。

 巨大ロボ星人の咆哮が響くと同時に作動しかけたステルスが小さなショート音とともに故障。

 ――詰み……か?

 ため息を吐き、視界を落とす。謝ろうと超鈴音に向けた視線の先で、彼女はにやりと微笑んでいた。

「……どうした?」
「これ、何カ?」

 そういってポケットから取り出した物は2発の強制時間跳躍弾。

「……よし、とりあえず超さんを」
「わかたヨ。じゃあ残りの弾は全部地面において置くネ」
「頼む」

 すぐさまポケットから6発の弾を地面に落とし、超は自分の体に弾を押し付け――

 ――だが、それも。

「オオオオオォォォ!!!」

 余りの暴力じみたその咆哮に、全ての弾が砕けた。超の体が竦みあがり、その動きがピタリと止、まった。超自身がダメージを受けていない様子から人体そのものにダメージを与えるものではないことがわかる。

 だが、タケルのスーツはその咆哮に反応し、キュウウゥゥという嫌な音と共に液体を流出させた。

「嘘だろ」

 呟くと同時、考える前に超を抱えて空に身をなげうった。



 ――そういえば。


 迫り来る銃弾と大きな腕がなぜかスローモーションで見える。反射的に腕の中にいた彼女を投げ捨てた。

 
 ――……なぜだ?


 視界一杯に広がった大きな腕を最後に、ぐしゃりと響いてはいけない音が自分の体に響いた。


 ――……なぜ、俺は?


 そして、何もわからなくなった。


 ――超さんをずっと守ってたんだ?




 タケルの意識は闇へと葬られ、タケルの肉体はこの世界から跡形も無く消え去った。


                    BAD END

 
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