IS学園潜入任務~リア充観察記録~
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怪異の巣窟 後編
―――走る!!
―――とにかく走る!!
―――廊下は走っちゃいけない? 知ったこっちゃない!!
「待ちなさい!!」
(待つわきゃ無えだろ!!)
恐怖の大王№2に出会ってしまった俺は反射的にその場から逃げだした。更識の目の前で隠し通路に入るなんてことをしたらそれこそアウトだから、とにかくその場を離れる。
素の殴り合いなら負ける気はしないが、ここはIS学園で、アイツは国家代表の肩書きを持つ猛者。戦いにISを持ち出されたら確実に死ぬ。
てなわけで無暗にISを展開できないであろう校舎内に逃げ込んだまでは良かったのだが、楯無の身体能力が予想以上に高く、この文字通り命懸けな鬼ごっこを中々終わらすことが出来ないでいた。
(…とっ!!)
「よっとっ!!」
セイスが階段を“ジャンプ一回”で登り切れば、楯無はやや遅れながらも、彼に匹敵するスピードで階段を登りきり…
(うらっ!!)
「と、危ないなぁ!!」
セイスが廊下に設置されていたゴミ箱を掴み、振り向き様に投げつければ、楯無は体を反らしてあっさり避け…
(とう!!)
「やるわね!!」
廊下の窓から宙へと飛び出し、外の配管を伝いながら別フロアへと人間離れした身体能力で移動してみせれば、彼女は行き先を先読みし、階段を使いながら先回りを試みる…
(せい!!)
「きゃっ!?」
バナナの皮を設置しても、彼女は華麗に飛び越え…ることは出来ず、ギャグ補正の名の元に踏みつけて引っくり返り、その弾みでセイスの視界にピンク色がチラリと……
「…(怒)!!」
(ヤベッ!?)
こんな感じに人外染みた体力で妨害しながら走り続けるセイスを、楯無はしっかりと追いかけ続けてくる。その状況に、彼は段々と焦り始めた…
(俺に生身でついて来れるって、どんだけだ…!!)
まだまだ体力に余裕はあるものの、楯無の方が我慢の限界を先に超えてしまう可能性もある。『埒が開かん!!』と言わんばかりにISを使われたら、一貫の終わりだ。
(ならば!!)
―――急ブレーキ!!
「ッ!?」
漫画のようにキキィ!!という音を出しながら足を止めた。その突然の行動に楯無も動揺し、思わず足を止めてしまう。しかし、その行動が命取りである!!
「おるあああああああああああぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁあ!!」
「なっ!?」
―――続けざま、セイスは全力で楯無に向かって走り出す…!!
流石に追いかけていた相手が突っ込んでくるとは思わなかったようだ。途中でセイスの人外染みた体力にはそれなりの警戒をしていたようだが、最初から彼が逃げることを優先してたせいで油断していたのだろう。
それを機に、セイスは思いっきり拳を振りかぶり、同時に殴りかかる。不意を打たれたせいで回避が間に合わないと判断した楯無は、ガードの体勢に入るが…
(計・算・通・り!!)
「え…!?」
―――その勢いのまま楯無を素通りした…
◇◆◇◆◇◆◇
(やられたっ!!)
まさか、いきなり殴り掛かって来るとは思わず反応が遅れてしまった。すぐに相手が通り抜けた方へと視線を向けると、とある部屋が目に入った…。
(食堂!?まさか…!!)
ここでようやく相手の目的に察しがついた。ここの食堂はお洒落にも外を見渡せるテラスが野外に設備されている。今は夜なのでサッパリ見えないが、天気の良い日は良く見えるそうだ…。
―――学園を取り囲む海原が…
(海に逃げる気!?でも、かなり距離が…)
いや、彼なら……先程の鬼ごっこでチラホラと見掛けた彼の身体能力を思い返せば不可能な話では無い…!!
その予想が正しい事を証明するかのように、視界に捉えた逃走者は勢いを殺すことなく一直線に外のテラスへと向かって走りつづけていた。
「逃がさないわ!!」
もう出し惜しみする余裕は無い。自身のIS『ミステリアス・レイディ』を部分展開し、ガトリング内蔵式ランスを呼び出す。相手を殺さない程度に無力化を計り、照準を手足に合わせる。そして、その引き金を…
―――パパパパパパパパパパパパン!!
「ッ!?」
―――“引く前に”楯無の背後から炸裂音が響いた…
一瞬、伏兵か何かに撃たれたのかとさえ思った楯無は反射的に後ろを振り返る。すると、そこには人なんて居らず……くすぶった爆竹が一つ、寂しく転がってるだけだった…。
―――ダンッ!!(パリン…)
「しまっ…!?」
気付いた時にはもう手遅れ…。力強く地を蹴る音と、ガラスの割れる音がした方へと視線を戻した時には既に、逃走者は宙を飛んでいた………否、手足をジタバタさせながら“跳んでいた”。やがて…。
―――ドッボーーーン!!
50メートル以上はあろうかと云う距離を跳びきり、彼は大きな水柱を上げながら海へと飛び込んだ。
慌ててISのセンサーで索敵してみるものの、海中に潜られたせいか全く引っ掛からない。
「そもそも監視カメラに“映らない”のよね、彼…」
だいたい本音の奇行を学園に配備されている監視カメラ越しに見掛け、彼女が“何も居ない筈の空間”に着ぐるみを差し出した時点でようやく存在に気づけたのだ…。
どんな理屈でカメラに映らず、ISのセンサーに引っ掛からないのか自分には分からない。しかし、これだけは言える…。
「……今日は私の負けね…」
人知れず悔しそうに呟いたその言葉は、静かな夜の空へと消えていった…。
◇◆◇◆◇◆◇
「て、ことがあったわけでさぁ…」
「ほぅ…」
時は戻って現在、7月。俺はエムことマドカに当時のことを語っていた。
ステルス装置と爆竹を使い、どうにか楯無を撒いて海に飛び込んだ俺は脱出用に造った例の海洋直結型非常口を逆走して隠し部屋に帰還。学園の奴らは俺の狙い通り侵入者が外に逃げた、もしくは組織や雇い主の元に帰ったと思い込んでいる。よもや自分達のすぐ傍に居るとは思うまい…。
「成る程……しかし、なんで部屋にクマの着ぐるみが置いてあるのかは分かったが…」
「んあ…?」
「さっきも訊いたが、何故そんなに憂鬱そうなんだ…?」
あ、そうなんだよ…クマの着ぐるみ返せて無いんだ。本人はスペアクマが無くなって少し不思議そうに(当時の奇行が寝ボケであったと確定)してたが、結局は深く気にして無かった。その後、返す機会も捨てる機会も来ず、とりあえず部屋に置きっ放しにしてるわけなんだが…
―――このクマの着ぐるみこそが、俺の憂鬱の元凶に他ならない…
「なぁマドカ…俺ってさ、学園中に仕掛けたカメラと盗聴器で情報集めてんじゃん…?」
「そうだな。だが、それがどうした…?」
「……それでさ、フォレストの旦那には報告書と集めた“データ”を“そのまま”送らなきゃならないわけで…」
「……あ…」
そう、“データ”を……“仕掛けたカメラの映像”を送らねばならないのだ…
―――クマの着ぐるみで全力疾走するシュールな自分が映ったデータも含めて…
「みんな今頃、腹抱えて爆笑してるだろうな。帰ったら何て言われるか楽しみだ、ド畜生…」
「……とりあえず、元気出せ…」
結局あの映像は亡国機業の全メンバーが拝見したらしく、フォレストとスコールに至っては俺の顔を見る度に笑い出す始末だった……ちくせう…
余談だが、最近になって『IS学園七不思議』というものが出来たらしい。その中の一つに『ランニング・ベアの怪』なる物が存在すると判明し、再び亡国機業に爆笑の渦を巻き起こすことになるのだが……それはまた、別のお話…
ついでに、その七不思議の噂を学園中に広めたのは“癒し系オーラ漂う着ぐるみ少女”だったということをここに追記しておく。
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