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とある彼/彼女の籠球人生

作者:駆瑠
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第二話

どうも、今年で小学四年生になりました、日神楽(ひかぐら) 皐月(さつき)です。たまに名前だけだと女かとか嫌な事言われますが男です。そしてもう一つ嫌なのが身長です。
135cm。クラスの背の順で並んでもほんの少しの差で前の方に並びます。それだけなら俺はあまり文句は言いません。お母さんも成長期はまだ先だよ、と言ってくれてます。
けれどそれは━━━━。


「おぉし! 今のはいいぞ、水無月ちゃん!」


「はい! もう一本お願いします!」


見上げるほどの身長の大人をドリブルで避わし、これまた見上げるほどの高さのゴールにボールを放り込んだ幼なじみが比較対象でなければです!
水無月(みなづき) 夏音(かのん)。同じ年に生まれた女子にも関わらず身長158cm(信じられないことにまだ欲しいとか言ってる)とクラスどころか同学年中でも背の順で一番後ろの奴です。その上アメリカ人のおじいちゃんの影響らしく、髪は綺麗な金髪で、そのせいかやたら大人びて見える。学校から一緒に帰れば母さんの知り合いの人に「綺麗なお姉さんね」とか言われる。否定すればするほど周りは笑ってくるのだ。嫌になってくる。しかも本人は強引な性格で今日も大人の集まりに混じってバスケの練習をさせられている。


(すげぇ……また避わした……!)


今日は毎週公園で野球をして遊んでいる友達のところに行こうと思っていたが、夏音に無理やり連れてこられて大人に混じってバスケの練習をするハメになった。普通なら無視して公園に行くのだが、迂闊な事をすれば「女蔑ろにするたぁテメェ、それでも男か!」と親父にぶっ飛ばされるのだ。ちなみに前に試してそうなったのでここから逃げれば今回も確実にそうなるだろう。
それはともかくバスケの練習はキツい。シュートを撃ち続けるだけでも相当な汗が出る。だというのに夏音は同じ回数のシュートを撃ったにも関わらず、続けて大人相手に1対1の練習をしている。俺は疲れて休憩中。この体力の差は何だ?
夏音がいうには“皐月はいいシューターになる“そうだが本人を見ていると強くなれるとかまったく信じられない。
今も左から行くと見せかけて、足の間にボールを通しながら方向転換。右から抜いて加速。ゴール下に入ったところで左手でボールを持ち上げつつ跳躍━━━━。


「夏音!」


したところで思わず叫んでいた。抜かれるのも予想出来てたのか、相手が素早く旋回しながら夏音を追って跳び、横からシュートコースを塞ぐように手を振るのが見えた。どれだけ夏音がデカくても相手は大人の男性、それも若い頃バスケをやっていたらしい体は更にデカい。当然手足も長いために多少距離を離しても今みたいにすぐ追いついてくる。多分今までのが本気じゃなかった。これまでは俺や夏音に合わせて手を抜いてたんだろう。よく思い出せば抜かれた後に夏音を追い掛けるようなことをこれまでしていなかった。


「なっ!?」


夏音のシュートコースは完全に塞がれていた。なのに聞こえたのは相手の声。これまで何度夏音に抜かれても余裕の態度で接していた人から初めて戸惑いの声を聞いた。振るわれた腕は空振りし、直後夏音の“右手“で高く放り投げられたボールはバックボードで跳ね返りゴールに向かって落下。リングに当たったものの、跳ねることなくネットを潜り抜けて地面に落ちた。


「凄いな……。いつの間にか覚えたの、あんな技。水無月ちゃんの歳でダブルクラッチなんて出来る子、そうそういないでしょう?」


「……ま、前にパソコンで見まして……!」


そこで二人とも休憩する気になったのか、相手の渡したタオルで汗を拭きながら夏音が歩いてくる。
ただ、それを見ても声を掛けようとは思えなかった。バスケに限らず、運動全般が得意な夏音を、同じクラスの奴らは凄いだのなんだの褒める。だが、いつも夏音に連れ回される俺はその方面で常に比較されて一部の男子から馬鹿にされていた。「女に運動で負けるなんて」とかそんな感じだ。でも、そいつらも夏音が毎週欠かさず大人相手にこんな練習をしているのを知らない。しかもまともな勝負になってるなんて信じないだろう。
でも、だからって━━━━。


「それっ」


「ひゃい!?」


「あっははははははは! ひゃい! ひゃいって! あははははははは!」


「夏音!!」


首にいきなり感じた冷気に思わず声を上げながら振り返ると、両手にペットボトルを持った夏音が居た。


「奢ってもらった。ほらこれ」


「普通に渡せ……」


ペットボトルを受け取ると、さも当たり前みたいに隣に座ってきた。いや、別に俺のベンチじゃないしいいんだけど。


「なあ?」


「ん?」


「なんでこんな練習してんだ?」


「なんで…って、センターだってドリブルぐらい━━━━」


「そうじゃなくて! 練習するならミニバスのクラブだってあったし、学校にもバスケ部あったろ!」


夏音が突然バスケクラブに殴り込んだ(そうとしか言えない姿だった)のが一年くらい前。クラブの人達も最初こそ戸惑ったりしてたが、今では好意的に受け入れられている。だが、そこまでするぐらいなら普通にミニバスとか入ればいいのではないだろうか?


「こっちの方が色々教えてくれそうだからな。実際勉強になることも多い」


「そこまでして一体何がしたいんだよ」


「何……って……」


「友達も居ない癖に。母さんだって言ってたぞ。いじめられてるんじゃないかとか」


他の奴らが遊ぶ間もこいつは暇な時間があれば走り続け、ずっとこんな練習を繰り返していた。ぶっちゃけて言えばこいつに友達と呼べる奴は俺ぐらいしか居ない。共通の話題が無いのだ。皆が皆バスケの話をするならいいが、そんなわけがない。無視されるまでじゃないが、孤立するのも早かった。俺から話しかけないとこいつは一人寂しく席に座っているだけなのだ。
なのに━━━━。


「好きな事で一番になりたいのは当たり前だろ?」


なのにこいつは笑いながら言ってくる。夏音からすれば本当に当たり前なんだろう。


「それに……友達なら皐月が居るだろ? 大丈夫だって」


「えっ!? おい━━━━」


「よし! 休憩終わり! 行くぞ!」


「おぉ!? 待てって、こら!」


返事をする暇も無く、ボールを渡されコートに引っ張られていく。


「痛ってぇ、ちくしょう……」


すごい馬鹿力だった。抵抗すら許されずゴールの前に立たされた。一言夏音に文句言ってやろうと思ったが、痛みに手を振っている間にさっきとは違う人と話し合っていた。ゴールの方を向いたり時折俺に顔を向けてくる。
文句を言うタイミングも外しちまったし、もうしょうがない。諦めてボールを構えることにする。
確か……夏音が言うにはゴールの周りに書かれてるライン……その中で一番離れてるやつの外から撃つのが“普通“でシューターとしての“最低条件“だとか言ってたな。


(ええと……まず、つま先をゴールに向けて━━━━?)


他の人達から教わったことを思い出しながらボールを構えると夏音と、夏音と話していた人がゴール近くに移動してきた。


「気にしない気にしない。こっちも練習してるから。邪魔しないから安心して撃っていいよ」


なんだろう? 近くで俺のシュートを見たいとかそういうやつか?
正直ガン見されているのでまったく安心出来ないのだが、言ってもしょうがなさそうなので素直に撃つことにする。


(撃つために時間が掛かるとディフェンスに邪魔されるから、ジャンプは低めに……手首で弾き出すように……撃つ━━━━!?)


ボールを撃った直後だった。両膝に手をついた体勢で俺を見ていた二人がいきなりゴール下に走りだし、互いに押し合い始めた。っと、いっても流石に夏音が押し出されていたが……。


(外した……!)


ボールがリングにぶつかって跳ねた。もっとも前まではリングにすら届かなかったので、これでも十分進歩しているのだ。


「ッ……!」


「ふっ……!」


だが、二人はシュートの結果など気にせず、重力に引かれて落ちてくるボールに飛びかかっていく。相手が両手でボールを掴んで着地すると、夏音と二人で話し始めた。
いや……何がしたかったについては分かってる。此処で何度も大人達が試合をするのを見ているのだ。要するに外れたボールの確保の練習だろう。
だが━━━━。


「「よし! もう一本!」」


「外して当たり前みたいに言うな!!」


これぐらいの文句は許されるのではないだろうか?


(ったく……ん……?)


ボールを受け取り、再びフォームを確認しながらシュートの体勢に入った時、ゴール下にある入口に━━━━。


「…………」


「…………」


顔半分だけ出してる子と目があった。思わず動きを止めると、半分だけ出てた顔が黒い髪を揺らして引っ込んだ。


「皐月~~?」


「あぁ、悪い」


誰かの子供だろうか? まぁ、いいか。


「ふっ……!」


俺がシュートを撃つとまた二人がゴール下に駆け込んだ。
が━━━━。


「よし!」


ゴールリングに掠ったものの、今度は入った。そう、入ったんだ。だから夏音……私の出番奪ったな……みたいな顔して見るな。 
 

 
後書き
足の間にボールを通しながら方向転換:レッグスルー

ドリブルの技術の一つ。視野を保ちつつ足の間にボールを通すことで安全に切り返すことが出来るが、難易度は高め。

ダブルクラッチ

シュート体勢に入った状態からボールを身体に引き寄せ、タイミングをずらしてから再度シュートを放つ技術。空中でボールを保もつことと、姿勢を維持する体幹の力が必要。難易度はかなり高い。

ゴールの下に描かれてるライン……その中で一番離れてるやつ:スリーポイントライン

作者の能力の限界によりこんな書き方になったが、大体の人は知ってるライン。ここより外からシュートを入れると三点が貰える。作中では普通だの最低条件だの言っているが、そんな事を言える人がいたらただの馬鹿か本当に凄い人かのどちらかです。後者だった場合は敬意を持って接しましょう。
余談だがミニバス(ミニバスケットボール)にはスリーポイントが存在しない(通常のシュートは二点になる)。なのでシュート練習だけなら無理にラインの外からやる必要は無い。
にも関わらず皐月がその位置からシュートしていたのは夏音にそう言われたから。

夏音=ここから撃てたら格好いいし練習させてみた
皐月=ルールを完全に把握していない
クラブの大人達=知ってると思った

良い子でも悪い子でも友達を騙すのはやめましょう。


以上で第三話になります。中学に入るまではこんな展開になると思います。
誤字脱字ご意見ご感想がありましたらぜひお願いします。
 
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