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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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憎悪との対峙
  22 秋から冬へ

 
前書き
今回も特にアクションはありませんが少し長いです。

しかしかなり大きな変化がラストであります。
ぜひ最後までお付き合いください。 

 
「くっそ....あぁ....」
「動かないでください。もうじき終わります」

安食はデンサンシティのホテルの部屋でうつ伏せの状態で苦しんでいた。
数時間前にようやくホテルに戻ることが出来た。
ブライノイズへと変貌したスターダストによって受けたダメージで腹部は裂け、なんとか止血まではしたが、それ以上の事が出来ないまま、プライムタウンを抜け出せたのは奇跡にも等しい。
自室でようやく消毒や傷口を縫うなどのまともな治療を受けていた。

「あぁ...ありがとう。だいぶ良くなった」
「そうですか。でも正直、あなたがここまでやられるとなると...いったいスターダスト・ロックマン...例のロキの子の1人ですが...何者でしょう?」

短めの髪にスーツ姿のValkyrieの女性は針とピンセット、ガーゼなどを片付けながら恐れを抱いていた。
安食の実力はValkyrieで知らない者はいない。
そんな安食にこれだけのダメージを与えられるということは、スターダストがどれだけ恐ろしい電波人間であるかを物語っているようなものだった。

「それは恐らくディーラーでも把握できていない、そして彼自身も把握できてないだろう。だが私の推測が正しければ...多分、アイツと同じかそれに近い存在である可能性が高い。ムーの力への適合能力が高い体質ということだろう」
「アイツ...ですか?よろしいのですか?アイツは勝手に計画を変更して明日行動を起こすつもりです。それもディーラーの例のデータを奪うつもりだと」
「構わない。アイツの計画がうまくいけばディーラーにはかなりのダメージを与えられる。一見、おちゃらけてるが、天才だ。多分、そこもスターダストとほぼ同じ思考回路だろう」
「似た者同士?ということですか?」
「あぁ、そして私自身も彼と似ている。昨日の調査結果を見て唖然としたよ」

安食はそう言って深呼吸をした後、彼女に声を掛けた。

「だがアイツを100%信用するわけにもいかない。高垣美緒に指揮をさせろ」
「了解しました。そう伝えます」

そして安食は一人きりになり、再び彩斗の資料を見始めた。
自分との共通点の多さ、そして性格こそ違うが思考パターンなどは比較的似ていると感じていた。

「落ち着け....仮にそうだとしても、奴はエンドレス・ナイトメアを食らったんだ。もう現れない」

安食は少し頭を回転させただけで、自分がValkyrieと敵対する立場ならどう動くかを考える。
すると幾つかの行動が思い浮かんだが、彩斗は既に行動不可能だと決め、自分を安心させた。























午後3時、WAXAニホン支部の管制室のドアが開いた。

「スマンな、リサ、マヤ」
「いえ、大丈夫です」
「てか、ネット使えねぇのに休みがエンジョイできるわけねぇだろ!」

リサとマヤの2人は休みだというのに、緊急事態のため呼び出された。
シドウは本当に申し訳無さそうに謝るが、2人は全く気にせずに自分のデスクに座った。
そして才葉シティのインターネット管制システムについてのデータが入ったUSBメモリを受け取った。

「これがデンサンシティと才葉シティのサーバーシステムの攻撃手口、確実とは言えませんが同一犯の可能性が高いです」
「そうだね、姉ちゃん。どちらもサーバーは中のファイルシステムがメチャメチャにされてるだけじゃなく、サーバーマシン自体のCPUのクロックを正常値を逸脱する程に上昇させることで発熱・発火、サーバールームの他のサブシステムまでもダウンさせるという手口だ。ただの愉快犯や調子に乗ったスクリプトキディじゃない」

リサとマヤはキーボードを叩き、かろうじて復旧できたデータの解析に移る。


Lisa@waxa-central-sys:mnt# ./home/Lisa/analays/decode.rb code4
Decoding
<===================================>
Completed.

ASCII Text File 19KB
Assembly Program



Maya@waxa-central-sys:mnt# ./home/Maya/analays/ac_log sys.log
Ok.
List captured.

2XXX-10-29-22:44 from 192.168.0.4 | Welcome to SAIBA-City Entrance
2XXX-10-29-22:44 from 192.168.0.4 | user root
2XXX-10-29-22:44 from 192.168.0.4 | pass1 jt8j403jg9444n
2XXX-10-29-22:44 from 192.168.0.4 | pass2 kn44jgfir41vgq
2XXX-10-29-22:45 from 192.168.0.4 | pass 3 ntlsxp2j9ma02
2XXX-10-29-22:45 from 192.168.0.4 | ok Welcome root




「ん?アカツキ!才葉シティのインターネット管制システムの職員のPCのデータは?」
「いや...ここには無いが...」
「どうしたの、マヤちゃん?」

マヤは1つのおかしな点に気づいた。
それはサーバーが攻撃を受けたというわけではないのだ。

「犯人は昨日夜、ローカルネット経由でシステムにアクセスしてる。それも同じ館内のPCだ。そこを踏み台にして侵入したとなると、そっちのPCのログを見なきゃ犯人のリアルIPは分からねぇ」
「ほんと...それに正規のログイン手続きを踏んで、しかもパスワードを一発で認証しているわ」
「でも仮にIPが分かってもインターネット自体使えなきゃ、犯人が何処からアクセスしてきた何者か分かんないし」

シドウはなんとか2人の話についていっていたが、とうとう若干の差を付けられた。
更に気を抜けば突き放されそうで、マヤの隣に座って解析していた笹塚に声を掛けた。

「なぁ?どういうこと?」
「早い話が直接アクセスするのは無理でなんすよ、かなり重要なシステムなんで普通に誰でも攻撃できるっていう状態じゃマズイんで。でも、もちろんインターネットを制御するだけあって間接的には繋がってるわけです」
「あぁ...そうだな」
「でもそこで働いてシステムを運用してる職員たちはどうしてもネットに繋がなきゃなんないっすから、そこのPCに侵入して踏み台にしてシステムにログインしたってことですよ」
「あ....何となく分かった...気がする」

シドウはいまいちよく分からなかったが、取り敢えずリサとマヤの話に戻った。

「きっとバックドアが仕掛けられてたんだろ。きっと何ヶ月も前から。何度も侵入してキーロガーやローカルネットのホスト数、システムの構造を入念に調べあげてたはずだ」
「そうね。それに間違いなくウィザード級のクラッカーよ。そもそもそこのネットワーク上のPCに侵入するということだけでもかなり難しい、それにCPUのオーバークロックやファンの停止を指示する機械語を操るだけの腕の持ち主....それでこそ『シャーク』とか『ラット』のような....」
「取り敢えず、踏み台にされたPCを解析してみないことには全く話が進まない」
「お前たちの技術でシステム自体の復旧というのは無理なのか?」
「私たちの技術はあくまで解析や攻撃、防御のファイアーウォールなんかのシステムが有る上で発揮できるものです。システムそのものとなると、専門のスタップでないと無理でしょう」

リサはため息をついた。
若干背伸びをして首をパキパキと鳴らす。
そしてマヤは席を立つと、自分のデスクの引き出しを開けた。
そこからMacbook Proを取り出し、管制室を後にする。

「おい!今から才葉シティ庁舎に行くぞ!!何人かついて来い!!」

男勝りな発言で偶然廊下を歩いていたシドウの部下を数人見繕ってマヤは調査に出かけた。
しかしその様子を見てリサは幾つかの感想を抱いた。

「全く...もっと女の子らしくしてもいいのに...」
「恥ずかしがり屋なんだよ。きっとホントはお前よりも女らしかったりしてな」
「...そういえば、あの娘、いつの間にMacbook Proなんて買ったのかしら?」
「.....」

シドウはリサの疑問の持つポイントに改めてアナログな自分とは違う進化している人類だということを再認識した。

















午後5時、星河スバルは自室で荷造りをしていた。

『おい!まだかよ!スバル!?』
「待ってよ、それに今準備出来ても出発は明後日なんだからさ」

スバルはため息をつき、最後の下着をひとまとめにした袋をバッグに入れた。
これで荷造りは完了だった。

「でもゴメン、正直、昨日の段階まで全く信じてなかったからさ」
『まぁオレの言い方も訳分かんなかったかもしれねぇけどよ』
「本当にウォーロックの言う通りにデンサンシティで事件が起こった。それに今日も」

問題はスバルは床に広げた新聞のインターネットダウンの見出しとは打って変わって端の目立たないところにある記事だった。
ウォーロックの感じ取った通りの場所で殺人事件があったのは昨日のことだが、今日、また新しい事件が起こった。
その記事には

『デンサンシティで謎の雷、再び?』

上空からの雷ではなく、地面から空に向かって伸びる雷を見たという目撃証言、そして写真が載っていた。
昨日も雷が地面から空に向かって伸びるという事件があったらしく、ウォーロックの言う通りだった。

「この雷、どう見ても電波人間の攻撃だよ」
『あぁ、地球の雷なんざ見たことはねぇが、あからさまに地球のものじゃないのは分かる』
「それに中学生たちが殺された現場でも同じような雷が目撃されたニュースがあったしね」

スバルもこれまでの電波人間としての経験から昨日とは違い、写真があることで見分けがついた。
これまでも雷を使う敵、稲妻のような攻撃を使う敵などあらゆる敵と戦ってきたから分かることだった。

「多分、今回のインターネットダウンも何か関係があるかもね」
『あぁ、このオレたちとそっくりの電波体の他に数体の気配を感じた。多分、電波人間同士の勢力がぶつかったんだろう』
「どっちが味方、っていうかどっちも敵なのかな?」
『そう考えた方が楽かもな。片方が片方の情報を撹乱、社会のパニックに乗じてまた何かやらかす気だろうよ』
「いったい何が起こってるのか....」

荷物を机の上に置き、ベッドに倒れ込んだ。
トランサーの通信が使えず、もはやミュージックプレイヤーや画素数の低いカメラの機能しか使えない端末に成り果て、現代の情報化社会の弱さを実感しながら再びため息をついた。
そんな時、部屋のドアがノックされた。

「ん?母さん?」
「スバル!ちょっと一緒に出かけましょう?」

あかねはドアを開けると、部屋に入ってきた。

「どうして?」
「あなた、明日、出かけるんでしょう?トランサーのIP電話が使えないし、メールもダメだと連絡出来ないじゃない?だからいつでも連絡が取れるように携帯電話を用意しておかないと」
「携帯電話....あぁスマートフォンとかね」

スバル自身、スマートフォンなど買ったことはなかった。
全てトランサーのIP電話機能で電話は完結したからだ。
しかしビジネスシーンなどではまだまだ愛用されていることは知っていた。

「そうよ、データ通信は出来ないのは同じだけど、従来通りの回線、それも高音質で電話が出来るのは携帯電話だけですから」
「そうだね...」
「親子で加入すると安く済むし、スバルの声もいつだって聞けるじゃない」
「....うん、分かった」

そう言ってスバルはベッドから起き上がり、あかねとともに玄関に向かった。
スバルはあかねの心中を察した。
自分と離れるのが寂しいのだ。
それも数年前に最愛の夫と離れ離れになってから、それを埋めるように息子である自分を一層溺愛するようになったからだ。
その影響はスバル自身にもあった。
母親を自分が守ろうとする意識が強まり、何かを失うことに極端な恐怖を抱くようになった。
それが原因でウォーロックと出会うまで自分を塞ぎこんでしまう程に。
だが今でもその恐怖心は全く変わらない。
だからこそ何かを失わないようにシューティングスター・ロックマンとしてFM星人と戦おうと決めたのだった。

『携帯電話?何だよ、そりゃ?』
「たまに見るでしょ?トランサーとPET以外で電話している人」
『あぁ、あれか。あれならこの状況でも通話できるってわけか?』
「そういうこと」

スバルはトランサーをポケットに仕舞い、靴紐を結び始めた。





















10月29日、午前6時33分。
オクダマスタジオ内では朝の番組の生放送をやっていた。

「ミソラちゃんとスズカちゃんからお知らせがあるということで...ではミソラちゃん、スズカちゃん、よろしく!」

「ハイ!え~クリスマス、そしてスズカの誕生日である12月25日にスカイタウンのスカイパークホールでコンサート、あとトークショーイベントをやります!!」
「珍しく私も歌います!!」
「もしかしたら2人のデュエット曲披露もあるかも?」
「ぜひ見に来てください!チケットは明後日の31日から販売開始です!!」

「ハイ、ということで本日のゲストは響ミソラちゃん、氷川スズカちゃんでした!!また遊びに来てくださいね!!」

響ミソラと氷川スズカは控室に戻ると、椅子に座り、ため息をついた。

「ハァ...これって労働基準法違反とかにならってないのかな?」
「ん~ギリギリって感じもするけどね、そういえばありがとうね。忙しいのに曲書いてくれて」
「いやいやスズカが歌詞書いてくれなきゃ出来なかったよ。私、歌詞が先だから」

ミソラはスズカにペットボトルのミネラルウォーターを渡した。
お互い睡眠時間は少なく、疲れ気味だった。
2人はドル箱アイドルだ。
午後10時以降に活動させられることも珍しくはない。
これは労働基準法違反だ。
これによって2人は中学生でありながら、殆ど学校には行っていない。
特にミソラは元から勉強が得意でないこともあり、音楽と体育以外の成績は大概2だ。
スズカに関しても5は1つもない。
そんな状態で2人は今日に喜びを感じていた。
ついさっき2人で曲を作り上げたことと、今日は珍しく学校に行けることだ。

「でもなぁ...未だに分からないんでしょ?『アキト』くんっていう人が誰か」
「そうなんだよね。それに君付けしてるけど、男の子か女の子すら分かってないし。今でもファンレターは来るんだけど。何だか返事書いても話が繋がらないんだよね。まるで私の返事読んでないみたいに」
「送り先間違えたんじゃない?」
「そんなこと無いと思うけど...」
「でもあの時は凄かったよね。最初にスズカがファンの人から送られてきた曲をカップリングにするって言い出したことに驚かされたけど、私の作曲したA面よりB面のカップリングの方がスッゴイ人気でちゃったんだもん」

これは数年前、スズカが無名の頃から応援しているファンから届いた曲についての騒動だった。
ラジオで「最近、着メロにする曲を悩んでるんだよね。ミソラの曲だとスタッフみんな登録してるから誰に着信が来たか分からないし」と口にした数週間後、ファンレターとともに曲データの入ったメディアが送られてきた。
その曲はしっとりした出だし、デジタル感溢れるトランスとジャズチックなピアノ伴奏、ドラムのくせのあるリズムなどミソラの曲とは全く違うが、切なく激しい冬を思わせるものだった。
スズカはこの曲に完全に心奪われた。
最初は着メロにするだけだったが、それでは飽きたらず、数ヶ月後に舞い込んできたスズカが企画で2枚目のCDを出す機会が出たことで完全にその思いは爆発した。
1枚目同様にミソラがA面、B面ともに作曲しスズカが作詞をするという流れを踏襲する事が考えられていたが、スズカはここでこの『アキト』が作曲した曲をB面にすると言い出した。
それは親友であるミソラをB面で起用しないと言ったも同然、つまり友情にヒビを入れかねない行為だ。
しかしミソラは驚きながらもそれを受け入れ、編曲ということで参加したが、あまりにも自分の得意ジャンルと離れていたこと、そしてあまり手を加えると逆に質を下げてしまう程の完成度の高さから間奏部にディストーションの効いたギターを入れる程度だった。

「そうだよね。あれは色々物議を醸したよね。ミソラのファンの人からは非難もされたし、逆に私のファンの人たちはファンレターと一緒に送れば私が作詞して歌ってくれると思って曲をたくさん送ってきちゃったりしてね。フゥ...朝ごはんはパンと牛乳だけか....」

そしてCDが発売された後、ミソラが作曲編曲をしたA面の『Blizzard Light』を事務所やレーベルも宣伝したが、ネット上ではB面の『Winter Footsteps』の方がいいと評判になり、シングルの分割ダウンロード販売ではB面の売上が既に歌手としてオリコン上位の常連であるミソラのA面の売上を圧倒的に上回ってしまうという異常事態が起こった。
それによってミソラの事務所とファンからは非難轟々だったが、その裏では多くの音楽のレコード会社はこの作曲した『アキト』の正体を探る動きが活発になった。
この時、スズカはとんでもないことをしてしまったことを理解した。
その後、自分のラジオで『実はこの曲を作曲してくれたアキトさんは皆さん同様、大切なファンの1人であり、私が無名の頃から応援してくださっている大切な方で、どうしてもお礼がしたくてメッセージを込めて作詞して発表させていただいたんです。この方は一般の方で決して芸能関係の方ではありません。そのため報道や音楽関係のスカウトなどはプライバシーを遵守し、私の大切な人を傷つけないように配慮して頂きたいと思います』とメッセージを発し、事態はひと通りの収束を得た。
しかし未だに『アキト』による新曲やメジャーデビューを望む根強いファンも多く、ネット上では『スズカ×アキト』のユニットファンクラブなんてものまで出来てしまっていた。

「そうだね...最近、クレープ食べてないもんね...ロッポンドーヒルズのクレープ屋さんは美味しいって聞くし、今度行ってみたいなぁ」
「あぁ、とっても美味しかったよ。ブルーベリーソースだったけど」
「え!?スズカ、食べに行ったの?」
「うん、この間のオフの日に」
「裏切り者ぉ....」
「でもミソラは愛しのスバルくんと行くんでしょ?ソッチの方が羨ましいなぁ....私の王子様は誰よりも私を分かってくれて誰よりも遠い存在な気がするもの」
「私はそのミステリアス感が羨ましいよ。なんだか恋愛小説みたいじゃん?」
「そんな...」

スズカとミソラはそんなことを話しつつ、制服に着替えた。
久しぶりでリボンがうまく結べない。
しかしなんとか着替えると、廊下を歩いて地下駐車場で車の準備を済ませて待っているマネージャーのものに向かった。
しかしミソラは途中で大切なことに気づいた。

「あ!イケナイ!!」
「どうしたの?」
「スマホとノートと教科書と筆記用具の入ったバッグごと控室に置いてきちゃった....」
「もう...何しに学校にいくのか分からないよ...次のテストで50点取れないと再テストでしょ?ミソラ、数学大きらいだからなぁ...」
「....ちょっと先に行ってて。ついでに提出しなきゃいけない宿題もやっていくから!!」
「ちょっと!?まだやってなかったの!?」

ミソラは踵を返し、走って控室に戻った。
スズカはため息をつきながら駐車場のマネージャーの愛車であるHONDA・Accordの方へ向かった。

「あ、ミソラは少し遅れるそうです」
「あぁ、そうですか。スミマセンね、いつも」

スズカは隣でTOYOTA・PRIUSのエンジンを掛けて待機したミソラのマネージャーに伝えると後部座席に乗り込み、ゆっくりとAccordは発進した。

「今日は久々の学校ですね」
「うん、でも授業についていけるかな...特に理科と社会」
「英語とか数学とかは大丈夫なんですか?」
「大丈夫、英語もとから好きだし、最近では洋画の吹き替えとか多かったし、数学は忙しい中でもテキストやってたから」

スズカの本業は女優、ラジオDJ、声優などタレント業がメインで歌手ではない。
そして最近では洋画の吹き替えも多く、英語に触れる機会も多い。

「数学のテキスト...あぁ、例のファンの人が教えてくれたってやつですね」
「そうそう、凄く分かりやすくて、この間の期末テストも全く学校に行ってないのに数学で学年10位に入っちゃった」
「スゴイじゃないですか!でも気をつけてくださいね」
「何を?」
「別に某アイドルグループみたいに恋愛禁止令は事務所から出てませんけど、スキャンダルにならないように。これからが大事な次期ですから」
「...それって私がアキトくんに恋してるって?」
「違うんですか?」
「大体、男か女かも分からないのに恋だなんて!考え過ぎだよ!」

スズカはあまりにも唐突に言われて笑い始めた。
だがすぐに笑いが消えた。
確かに外れてもいない気がしてきた。
これまで何度も引退しようと思ったし、スタッフと折り合いがつかずに折れそうになった時にもいつも支えてくれたのはミソラの優しさとファンレターの暖かさだった。
最近ではファンレターが届かないだけで悲しくなるまでになりかかっている。
スズカはそれに気づきかけ、話題を変えた。

「そういえば考え過ぎと言えば...ここ数日のインターネットが使えなくなったり、デンサンシティで色々と事件が起こってるのって何か変だと思うんだけど...」
「まぁデンサンシティの事件なんて今に始まったことじゃないですよ。あそこは危険地帯ですからね。でもインターネットが使えないのは大変ですね。仕事にも支障が出ますし」

Accordは高速に入ると更に速度を上げた。
周囲には多くのバスが走っている。
リニアバスが動かなくなったため、人が運転するバスを再び動かす事になったのだった。
これまでは全てネットワーク制御に移行し、これまでハンドルを握ることに情熱を注いでいたドライバーたちは窓際部署に移動にしたというのに、こんな状況では彼ら以上に頼れるものがいないという何十年も時代が逆行したような世界へと変貌しつつあった。

「才葉シティで道路にバスが走ってるの久々に見たよ」
「才葉シティは最新のテクノロジーが採用される実験都市的な面もありましたからね。普通の街なら今でもバスは走ってます。それを考えると他の街の住人なら驚くことでもないですよ」
「でも怖いよね。インターネットがないとこんなに社会のバランスが崩れるんだもの」

スズカは現代社会の脆さを痛感しながら、ポケットからiPhoneを取り出した。
これで電話したのは昨日が初めてだった。
仕事の関係上、いつでも連絡が出来るツールは持ち歩かなくてはらない。
ケータイショップでは今、多くの人が訪れ、契約することすら難しくなっているらしい。
ホーム画面から電話帳を開き、一応、仕事関係の人間の連絡先がひと通り入っているかを確認するが、少し目が霞んだ。
そんな時、トランサーから声が聞こえた。

『スズカ、少し顔色悪いわよ?大丈夫?』
「アイス....大丈夫だよ。ちょっと眠いだけ」

声の主は自分のウィザード『アイス』だった。
数年前から自分の仕事のアシスタントをしてくれるようになり、今ではもう1人のマネージャー兼友達といった関係にまで進展していた。
アイスは心配性な部分があった。

『ならいいけど...でも無理しないようにね。学校の勉強より体調の方が大事よ』
「分かってるよ....」

スズカは水を飲むと、一度背伸びをした。
そして外を見た頃には高速を降り、学校の門をくぐっていた。

「では3時頃に迎えに来るので」
「分かりました。何かあったら連絡します」

スズカは車から降り、玄関に向かった。
だが少し違和感を感じた。

「あれ?先生たちまだ来てないのかな?」
『そうね。もう7時半だし、そろそろいてもいい頃だと思うけど』
「映画に出てきそうなジープとか停まってるけど」
『確かに...学校も静かすぎるわ。いつもなら陸上部とか朝練とかやってるはずなのに。しかも電波が変よ、さっきから全く校内のローカルネットワークに接続できないわ』
「え?....ケータイも圏外...どうなってるの?」

スズカとアイスは違和感を覚えながら、下駄箱で靴を履き替える。
そこには大量のラブレターが詰まっていた。
スズカはその多さに驚きながら、一応開いてみた。

「あちゃ~...3週間も前の放課後に呼び出されてる」
『いいのよ。スズカを軽々と呼び出して告白なんて10年早いわ』
「でも悪いことした気分。来ると思って待ってたかもしれないし」

「あぁ、君が登校してくるまで待ってたよ」

「!?」

次の瞬間、不気味な男の声とともにスズカのこめかみの部分に冷たい金属の物体を押し付けられた。
ちょうど保健室の前だ。
スズカは恐る恐る声の方向を向いた。
そこには黒いスーツに紫のネクタイをした男がベレッタM92を握って立っていた。

「響ミソラは?」
「.....今日は体調を崩して休み...」
「そうか、でもまぁいいや。君程の有名人が人質ならこれでもう十分だ」

そう言って男は銃を向けたまま、スズカに歩かせた。
『ちょっと!乱暴しないで!!』
「心配せずとも手荒な真似はしない。君たちが変なことをしなきゃね」

アイスの抵抗も虚しく、スズカは無理に背中を押され3階の会議室まで連れて行かれた。

「みんな...」
「スズカちゃん...」
「スズカちゃん!?どうして!?」

「静かに!!」

会議室には既に何人もの生徒がいた。
陸上部のエース、有名少年作曲家、これまで何度もあらゆる賞に輝いた画家などの生徒たちが自分を含めて19人。
この学校は芸能界との繋がりが深く、多くの音楽、美術、スポーツなどあらゆるジャンルの才能を持った生徒が在籍している学校だ。
その中でもここにいるのはこれからの芸能界を先導する人材の一部だった。

「まぁ皆さん、この学校のエースの方々だ。響ミソラ以外は」

黒服の男と女が数人入ってきた。
全員が片手に銃を持っている。

「中には朝から熱心もとい馬鹿みたいにグラウンドを走っていて連れて来られて不快な思いをしている人もいることと思う。だけど君たちには拒否する権限はない」

「ちょっと!?何でよ!?」
「ふざけんな!!」

多くの生徒は非難の声を上げ、反抗するが次の瞬間黙り込んだ。
黒服の1人が天井に向かって発砲した。

「キャァァ!!!」

「恨むなら人より優れて生まれた自分たちを恨むんだな」
「次に騒いだら、1人ひとり殺していきます。そのおつもりで」

黒服たちはそう言って笑顔を作った。
スズカを含めた生徒たちは震えながらテーブルの下に隠れたり、その場に跪いたりしていた。
今まで一度たりとも経験のないことだった。
映画で銀行強盗が登場したりするような展開は何度か見たことがあった。
しかしそれが現実として起こっていると思うと信じられない程の恐怖に襲われた。
逆らえば本気で撃ってくる。
近くにあるだけで吐き気がするほどの本物の殺意というものに初めて出くわしたのだ。
正気を保つことが出来ない。
しかしスズカは正気を保つどころか、立っていることすら危うかった。

「ウッ...」
『ちょっと!スズカ!?』

スズカは貧血で倒れた。
ここ数日の疲労、そしていきなりの事態に思考と体が共に追いつかなかった。

「おやおや、これでは先が思いやられる。君たちには我々の目的が遂行されるまでここにいてもらわなきゃならないんだ。それが今日なのか明日なのかそれとも来年になるか分からないんだよ」
「ただ待ってるのも退屈でしょうし、気分転換も込めて授業でもやりましょうか」

そう言って黒服たちは怯えている生徒たちをよそに楽しそうに会話を始めた。




 
 

 
後書き
今回は少し前に彩斗がスズカのファンであった部分を詳しくしました。
そしてラストではValkyrieが計画の第二幕を開始しました。
そんな中、主人公は...?
マンションの上で気絶した後、どうなったのでしょう?
次回、主人公が出ますw
 
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