つまらないもの
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第九章
第九章
だがこのことについてだ。連は話すのだった。
「まさか。ああなってるなんてね」
「管さんってどういう人だったの?」
話を聞く妻が夫に問うた。
「同じクラスだったっていうけれど」
「正直に言おうか?」
夫はあらたまって妻に告げた。
「あの人のこと」
「うん、どうだったの?」
「いい人じゃなかったね」
こう言うのだった。暗い顔で。
「どうもね」
「いい人じゃなかったの」
「特権意識が強くて権力志向でね」
「そういう人だったの」
「うん、そういう人だったよ」
高校時代の彼を思い出しながらだ。妻に説明した。
「本当にあまりいい人じゃなかったね」
「そうだったのね」
「自分が偉くなって権力者になることを考えてた人だったけれど」
「ああなってしまったのね」
「多分」
どうなのか。連は話した。
「道を踏み外してたんだ」
「道をね」
「それでああなったんだよ」
こうだ。残念そうに話すのだった。
「人間。やっていいことと悪いことがあるからね」
「そうね。悪いことはね」
「したら駄目だね」
「あの人は」
管についてだ。連はまた話した。
「結局あれなのかな」
「あれって?」
「自分だけを高みに置いてね」
高校の時の彼との話を思い出しての言葉だった。
「それで他の人を見下してね」
「そうしてなのね」
「そう、それで自分は特別だと思って」
「何をしてもいいって思ったのね」
「そうだろうね。そういう人だったんだ」
「つまらないわね」
妻は夫の話を聞いてだ。管をこう評価したのだった。
「権力が全てで。そうして自分を特別だって思うって」
「つまらないんだ」
「つまらないわ。人間って権力やそうしたものばかりじゃないじゃない」
「そうだね。人間ってね」
「他にも色々なものがあるわ」
こう夫に話すのだった。
「だからね。そういう人ってね」
「つまらないんだね」
「そうしたこともわからない人生なんて」
人生についてもだ。妻は話した。
「つまらないわ。人間としてもね」
「そうなんだね。つまらないんだね」
「私はそう思うわ。あなたはどうなの?」
「あの時はそういう考えもあるかって思ってたけれど」
しかしこれまでの人生を生きてきてそうして今妻の話を聞いてだ。連にしても考える顔になってだ。こう妻に話したのであった。
「やっぱり。つまらないね」
「そう思うわ。それであなたはどうするの?」
「僕?」
「そう。あなたはどうするの?」
夫に対して問うのだった。
「あなたはそうした人になるつもりは」
「興味ないね」
権力や余計な金やそうしたことにはだ。興味はないというのだ。これが連の考えだった。妻にそのことをありのまま話すのだった。
「実際にね」
「そうね。ないわよね」
「普通に生きるべきだね。人の中でね」
「そういうことよ。それじゃあね」
「うん、今日も診察だね」
話をだ。仕事に移すのだった。
「頑張ろうか、今日も」
「ええ、そうしましょう」
妻も夫の言葉に笑顔で応えてだ。そうしてだった。
二人はその日の仕事に向かうのだった。連はそれから管がどうなったのかは知らない。もうだ。つまらないものには興味を示さなかったのである。
つまらないもの 完
2011・6・2
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