セニョール
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第四章
第四章
「勝てませんでした」
「今日は絶対に」
「正直諦めていました」
「けれどこいつが」
「野球は最後の最後までやるものだよ」
だがサンターナは己を誇らずにだ。笑顔でこう皆に話した。
「だから僕がやったんじゃなくて」
「御前じゃない?」
「じゃあ誰がやったんだよ」
「それじゃあ」
「皆がやったんだよ」
その笑顔での言葉だった。
「皆がね」
「俺達が?」
「俺達がやったのかよ」
「今日の勝ちは」
「そうだっていうのか」
「そうだよ。野球は皆でやるものじゃない」
また言うサンターナだった。
「一人じゃ絶対に勝てないしできないよ」
「そうだよな。野球ってな」
「最低九人いないとできないからな」
「一人じゃ絶対にできない」
「そういうスポーツだからな」
ナイン達は彼の今の言葉に考える顔になった。そのうえでの言葉であった。
「じゃあ今日は」
「ああ、皆でやれたんだな」
「そうだな」
「満塁になったのもそれからも」
試合を振り返りもする。サンターナの言葉を反芻しながら。
「俺達全員でやったこと」
「そうなんだな」
「皆で頑張って楽しんで勝つものだよ」
これがサンターナであった。
「これからもそうしよう」
「ああ、そうだな」
「それじゃあな」
「今日は皆で手に入れた勝ちだ」
「そしてこれからもな」
皆言い合う。チームの雰囲気が変わった。蟻田はこの日満足した顔で見ているだけだった。しかしだ。彼はしっかりと見ていたのである。
サンターナはだ。練習の時もサンターナだった。
「練習、練習!」
いつも真っ先にだ。楽しい顔で練習をするのだった。
柔軟もランニングもだ。率先してやるのだった。
「身体を動かすって楽しいよ!」
「ううん、練習好きなんだな」
「それも楽しいって」
「何か違うな」
「基礎練習なんてな」
地味で嫌う者が多い。しかし彼は違った。
そうした練習も笑顔でするのだった。そしてチームメイト達にだ。
「元気出していこう!」
こう声をかける。明るい声でだ。
彼に声をかけられるとだ。皆それだけで変わった。
「そうだな。それじゃあな」
「練習も楽しくやるか」
「そうしないと怪我もするしな」
「だよな。沈んでやってもな」
こうして彼等は練習も変わった。勇んで、しかも楽しんでするようになった。すると今度は怪我人も激減した。チームはここでも変わった。
そしてであった。チームはペナントを勝ち進みだ。
優勝し日本一になった。その日本一の場でだ。
ナイン達はだ。サンターナを囲んでこう言うのであった。
「おい、胴上げしような」
「ああ、今年の日本一はサンターナのお陰だ」
「こいつがいたからな」
「ここまでこれたしな」
笑顔で話してのことだった。
「いいな、サンターナ」
「今からな」
「胴上げするからな」
「いや、それはいいよ」
ところがだ。サンターナは謙虚な笑顔になって断るのだった。
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