ソードアート・オンライン ~命の軌跡~
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Episode5 変わらぬ決意
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感想及び、お気に入り登録して下さった方、ありがとうございます。
やっとEpisode5が書きあがったので、載せます。
途中自分でも何を書いてるのか分からなくなってしまったので、文章が変な部分、誤字脱字があると思います。見つけた方は指摘していただけると助かります。
それでは、どうぞ!!
アインクラッド標準時 2024.10.18
第四十層 『白銀の洞窟』
「せいっ!」
硬直状態で無防備なモンスター目掛けて、逆手に構えた短剣で水平に斬りつけ、金属がぶつかり合ったときの様な、甲高い音と共にモンスターのHPが減少する。その際、鉄を棒で思いっきり叩いたときのように、手が痺れる。
(くっ!想像以上に硬いな……)
通常攻撃とはいえ、与えたダメージの少なさに、内心頭を抱える。対峙している<アイアン・スパイダー>、まさに読んで字の如く、鋼鉄製の巨大な蜘蛛。
(このダンジョンにポップするモンスターは、どれも軒並み防御力が高いな……)
二本の前足から繰り出される攻撃を回避し、うまく懐に潜り込み通常攻撃で対処。攻撃後はその場に留まらず、すぐさま相手の攻撃範囲外へと離脱するヒット・アンド・ウェイの戦法をとっている。
(これは、うかつにソードスキルは使わないほうが賢明かな)
相手の能力と僕の能力から、そう判断した。相手の防御力の高さから、僕の軽い攻撃を与えたところで、ノックバックは望めない。したがって、技発動後の硬直を狙われる恐れがあった為だ。相手が僕のスピードに追いついていないことが唯一の幸いだ。
(とにかく、この一体を少しでも引き付けておかないと!)
情けない話だと思うが、自己嫌悪している暇はない。チラッと、リズさんのほうへ目を向ける。彼女も僕と同じモンスターを相手している。しかし、あちらはリズさんが優勢。僕らは、<アイアン・スパイダー>二体と遭遇した。そこで、リズさんが一体を倒すまでの間、もう一体のほうを引きつけておいてほしいと言われた。
(おそらく、リズさんは僕が高レベルのプレイヤーでないことに感づいたから、そう判断したと思うけど……)
今の僕では、こうなることは分かっていた。理解していた。しかし、それらのことを覚悟の上で、僕はこの道を選んだのだ。だから―――
(今の僕にできる精一杯のことをするだけ!)
脳天目掛けて振り下ろしてくる前足を、相手の懐に転がるように回避し、低い姿勢のまま腹の下へ駆け、モンスターの腹に短剣を突き刺す。そして、そのまま相手の腹を裂くように走り抜ける。
「ギャァー」
少し効果があったのだろう。今の叫び声がその証拠だ。しかし、それと同時に、モンスターの怒りを煽る引き金になる。が―――
「どうやら、僕の役目はここまでみたいですね」
ピンク色の髪をした少女が、メイスを振りかぶるのを視界の端で捉える。
「はぁー!」
今までとは違う強力な威力を誇る打撃が、モンスターに直撃した。
ソードアート・オンライン ~命の軌跡~
Episode5 変わらぬ決意
いくつかの戦闘を経ながら、だいぶ洞窟の深部まで歩いてきた。正直、僕一人ならこれだけの戦闘をこなしながら、ここまでたどり着くことは不可能だっただろう。元々、《隠蔽》でモンスターに気づかれないように狙撃ポイントまで移動し、攻撃を仕掛けるのが、僕のスタンダードな戦法だ。しかし、それはあくまで相手が一体のときのみ。二体以上なら戦わない。それを徹底して貫き通している。元々、弓は奇襲向けだし、どちらかといえば、援護に特化したスキルということも理由の一つだ。
(ん!?)
微かだが人の気配を感じた。常日頃、周囲を警戒する癖が身に染み付いているので、気配を読むことに関しては、自信がある。そこで、サポートスキル《索敵》で辺りを探る。
(これはモンスターとプレイヤー、それもプレイヤーは複数。ということは、パーティーで狩をしているのかな?)
正確な距離までは分からないが、それほど遠くはない。プレイヤーが《隠蔽》を発動していなければ5人。
「リズさん」
「ん?どうしたの?」
「この先で、狩を行っている人たちがいます」
「うそ!?」
驚いた表情を浮かべるリズさん。しかし、その表情に少し違和感を覚える。
「あちゃー。シン、それってマジ?」
「?はい、僕の《索敵》に反応があったので……」
リズさんは、がっかりした様子で肩を落とす。
「どうしたのですか?」
「えっとね……。この先に、あたしたちの目的のアイテムをドロップできるモンスターがいるのよ」
(なるほど、違和感の正体はこれのことか……)
もし、狩をしているプレイヤー達が、目的の<シルバーロック>と戦闘を行っている場合、割り込むのは、マナー違反になってしまうし、ドロップアイテムだけ頂戴するのは、都合が良すぎる。それに、そのパーティー内にマスタースミスが居るとは限らない。そうなると、リポップするまでの約三時間待たなくてはならない。
「一応確認しましょう。必ずしも、そのモンスターと戦っているとは限らないので」
「そうね。じゃあ、急ぎましょう!」
万が一ということがあるから、僕たちは足を速める。いくら自信があるとはいえ、《索敵》も万能ではないし、範囲にも限界がある。
通路を進んでいくと、開けた空間へと出た。広さが直径三十メートルくらいで、天井の高さが十五メートルくらいの半球型の空間。庭園などにありそうな、大きさが二メートル前後の化粧岩が辺りに散りばめられている。身を隠すのには、もってこいだろう。
「はぁー」
リズさんが大きな溜息をつく。期待虚しく、悪いほうの予想が当たってしまったからだ。この広場に足を踏み入れた時、銀色のゴーレムと五人のプレイヤーの戦闘が目に飛び込んできた。
「先客が居たんじゃ仕方がないか……、ここに居てもどうしようもないから、一旦さっきの場所まで戻りましょう」
「そうですね」
僕たちは、今来た道を戻ることにした。ここで、リポップを待つのは得策ではない。安地ではないので、モンスターとエンカウントする可能性があるからだ。それに、アイテムの消費をできるだけ抑えておきたいので、反対する理由がない。むしろ賛成だ。
「せっかく来たのに……。はぁ、ツイてないな……。きっと今日の運勢最低ね」
「そう、落ち込むことないですよ。三時間後、またチャンスがあるんですから」
「そうだけど、なんか悔しくてね」
「悔しい?」
「うん。悔しい。まぁ、元はあたしに原因があるんだけどね。マスタースミスとは名ばかりで、あたしもまだまだ未熟だってこと、改めて痛感したわ」
リズさんが苦笑しながら、そう吐露する。必死に笑顔を作ろうとしている、リズさんを見ると、心が痛む。記憶の中にある―――と重なり僕の心を締め付ける。
「リズさんは凄いですよ」
「えっ?」
「だって、自分を未熟だと言える人は、なかなかいません。自分をよく見つめることができ、自分をよく知っている証拠です。だから、リズさんは凄いですよ」
だから、僕は彼女のそんな作り物の笑顔を壊す為、言葉を発した。発した言葉は、もちろん本心だ。しかし、それは僕の自分勝手な都合が含まれていることも事実だ。
(はは……。僕って嫌な人間だな)
結局―――から逃げているだけなのだ。どこまでいっても、僕は弱い人間なのだ。人間はそう簡単に変わることができない。だから、僕はこの先も弱い人間のままなのだ。
一度もモンスターとエンカウントしないで、安地まで戻ってきた。僕は立ったまま、先ほどと同様、辺りの警戒を行うことにする。一方リズさんも、先程のように腰を下ろした。違う点は、リズさんが腰を下ろした場所が、僕の側だということくらいだ。
「シン、座らないの?」
「はい。僕はこのままで大丈夫です。気にしないでもいいですよ」
「そうは言うけど、気になるのよ。ねぇ、ここ座って」
リズさんが腰掛けている岩は、少し大きめの二人掛け用ソファーくらいある。その空いている左側を左手で軽く叩き促してくる。
(ここは、リズさんの言う通りにしておいたほうがいいかな?)
わかりました、と言って腰掛ける。それから、またお互い無言になる。僕はソロで活動している関係上、一人でいる時間が長いので、このままでも問題はない。特に、気まずいとも思わない。けど、何か話題はないか考える。矛盾しているかもしれないが、リズさんが、ソワソワしているので、僕から話を振ろうと考えたからだ。
(さて、どうしようかな?)
こういう場面で意識すると、なかなか話題というのは、浮かばないことが多い。そして、なんとか搾り出した話題というのは、会話が続かないようになっているものだ。もともと、話術に富んでいるわけでもないので、当たり障りのないことを聞いてみることにする。
「「リズさん(シン)―――」」
漫画やアニメのお決まりというヤツだ。お互い同時にしゃべりだす、という少し貴重な体験をした。となると、次はきっと―――
「「リズさん(シン)からどうぞ(いいわよ)」」
うん。やっぱりセオリー通りだ。
「僕のは、あまり重要なことじゃないので、リズさんからどうぞ」
何をやってもうまくいかない。それを何とかしようと頑張っても結果が、どんどんと最悪な方向へ進んでいく。そんな経験をしたことがあるだろう。あたしは今、そんな境遇にいる。
「せっかく来たのに……。はぁ、ツイてないな……。きっと今日の運勢最低ね」
「そう、落ち込むことないですよ。三時間後、またチャンスがあるんですから」
「そうだけど、なんか悔しくてね」
「悔しい?」
「うん。悔しい。まぁ、元はあたしに原因があるんだけどね。マスタースミスとは名ばかりで、あたしもまだまだ未熟だってこと、改めて痛感したわ」
右も左も分からなかった頃、我武者羅に一つ一つの武器を作っていた頃なら、こんなヘマをすることはなかった。不意に涙が込み上げて来るのを、グッと堪えて無理やり笑顔を作る。あの時、キリトのお陰で思い出すことのできた気持ち。忙しさのあまり、また忘れてしまっていた、自分の不甲斐なさが悔しかった。
「リズさんは凄いですよ」
「えっ?」
「だって、自分を未熟だと言える人は、なかなかいません。自分をよく見つめることができ、自分をよく知っている証拠です。だから、リズさんは凄いですよ」
慰めてくれているのだろう。シンは優しい。これは多分間違っていない。それに、物事をよく見ている、かなりの観察眼の持ち主だ。だから―――
(きっと無理に笑ったのが、ばれちゃってるわね)
気づくと、安地まで戻ってきていた。一度もモンスターとエンカウントしなかったのは、幸いだと思う。正直、今の状態では戦うことができない。なので、気持ちが落ち着くまで休むことにする。シンの立っている側に、座れそうな、ちょうどいい感じの岩を見つけたので、そこに腰を下ろす。シンは相変わらず、立ったままだ。
「シン、座らないの?」
「はい。僕はこのままで大丈夫です。気にしないでもいいですよ」
「そうは言うけど、気になるのよ。ねぇ、ここ座って」
そうは言ったものの、実際は側に居て欲しいと思った。優しいシンに少しだけ甘えたい。キリトの時のように、人の温もりが欲しい。じゃなきゃ、不安で仕方がない。実際、死に直面しそうな状況というわけではない。だけど、あたしがこの世界で、今まで積み上げてきたモノが、少しずつ崩れていくような気がしてならない。たとえ、それが偽者であっても……。
(ダメね……。いつもの元気なリズベットに戻れそうにないかも……)
マイナスな事ばかり考えてしまう。自分でも分かっている、しかし自分の心を制御できないでいる。そんな時、シンが隣に腰掛けてくれた。それだけで、少し不安が取り除かれる。隣に座るシンの手に目を向ける。
(キリトの手、温かかったなぁ)
あの時、心に感じた温かさを思い出す。人の温もりが、この不安を打ち消してくれるかもしれないと思った。
「「シン(リズさん)―――」」
お互い、同じタイミングで呼び合う。
「「シン(リズさん)からいいわよ(どうぞ)」」
またもやタイミングが一緒だった。それが、少し可笑しかった。
「僕のは、あまり重要なことじゃないので、リズさんからどうぞ」
シンが先を譲ってくれた。少し気になるけど、お言葉に甘えるとする。
「ねぇ……手、握ってもいい?」
シンが突然のことに少し表情を変える。しかし、すぐに笑って右手を差し出してくれた。あたしは、ゆっくりと右手を動かし、シンの手の平に自分の手をそっと重ねた。すると、シンが優しく包み込むように握ってくれた。
(……温かい)
目を閉じ、肌寒さを忘れ、温もりを感じる。たとえ仮想世界だとしても、生きていると感じる。あたしの心の中にある不安な気持ちは、全て消えてはくれないけれど……、少しだけ小さくなった気がした。
「シンは―――」
「ん?」
「シンは、何の為に戦ってるの?」
「僕が戦う理由ですか?」
「うん」
「戦うといっても、僕は攻略組の人たちのように強くありませんから、このゲームをクリアする為、とは正直なところ違います」
手を握ったまま、遠くを見つめ、シンが語りだす。その瞳がどことなく悲しみに染まっていた。
「ただ、たとえゲームクリアに直接貢献できなくとも、今の自分にできることを精一杯やろうと思っています。それが、どんなに小さなことでも……。何もしないで、ジッとしているのだけはしたくなかった。だから、僕は戦っています」
強い人だと思った。力とかじゃなくて、心がとても強い人だと……。その強さにあたしは惹かれた。そして、あたしの中にある感情が、次第に大きくなっていくのが分かる。
(そっか……。あたし、シンのこと好きになっちゃったんだ)
先ほどまで存在していたはずの不安が、いつの間にか無くなっていたことに気づいたのは、もう少し後のことだった。
「ねぇ……手、握ってもいい?」
予想外のお願いに少し驚く。また、からかっているのかと思ったが、リズさんの目を見たとき、それを否定した。その瞳が僕に助けて欲しいと、懇願しているように思えた。決して演技なんかじゃない。そう感じたから、僕は無言で右手を差し出した。差し出した手に、リズさんはゆっくりと手を重ねてくる。僕はそれを優しく包むように握った。すると、彼女の表情が安心した、それへと変化していく。
(僕は、リズさんを傷つけることになるかもしれないな……)
自意識過剰であったり、勘違いであってほしい。それなら、僕だけが馬鹿を見るだけで済む。しかし、もしも彼女の気持ちが僕に向いていたとしたら―――
(リズさんの心に傷をつけてしまう。僕はリズさんの気持ちに、答えることができないから……)
そのときは、残酷ではあると思うけど、そのことを告げなければならない。
(ホント、僕は酷い人間だ……)
その気がないのに、優しさだけを振りまく。しかし、困っている人を見過ごせない。これでは、他人の心を弄んでいるのと、何も変わらない。
「シンは―――」
「ん?」
「シンは、何の為に戦ってるの?」
「僕が戦う理由ですか?」
「うん」
「戦うといっても、僕は攻略組の人たちのように強くありませんから、このゲームをクリアする為、とは正直なところ違います」
これは、本当のことだ。今の僕では最前線は愚か、この洞窟ですらギリギリというところなのだから……。だけど―――
「ただ、たとえゲームクリアに直接貢献できなくとも、今の自分にできることを精一杯やろうと思っています。それが、どんなに小さなことでも……。何もしないで、ジッとしているのだけはしたくなかった。だから、僕は戦っています」
戦うことを選んだ。
(それが、どんな結末を迎えるとしても……)
闇の底で、小さな希望という光を見つけたときから、戦い続けると誓った。
(その光を信じて、戦うと約束したんだ!)
その決心は揺らぐことはない。たとえ、どんな困難な道でも、どんなに絶望を感じようとも、諦めたりしない。
「シン、ありがとう」
「ん?感謝されるようなことは、言った覚えはないのですが?」
「うんん。シンが気づいてないだけよ」
「そうですか……。よく分かりませんが、折角なので受け取っておきます」
「そう、それでよし!」
先ほどの作り物の笑顔でなく、本当の笑顔。とてもきれいで、太陽のように明るい笑顔。僕には眩しすぎるので、思わず視線を外してしまった。その際、握っていた手も離してしまう。すると、リズさんが少し残念そうな表情になってしまう。
(はぁ……。これは、決定かな?)
神様というのは、残酷なカードを切る。よく言われるが、あながち間違いではないと思う。僕に大半の原因があることは承知だが、世界のシステムというのは、やはり残酷にできている。
(告げるのは、早いほうがいいかな……)
そう決意し、遠くを見つめる。きっと、僕がリズさんの笑顔を、涙に変えてしまう。愚か者が撒いた種であるにも関わらず、正直、逃げたい気持ちがある。だけど、ここで逃げたら、この先、戦い続けることができなくなるだろう。それだけは、してはいけない。ここで逃げたら、僕はあの約束を守れなくなる。
それぞれの想いと決意を胸に、静かに時を待つ。ゆっくりと、しかし確実に刻まれる時間。そして―――
「そろそろ、時間ですね。行きましょう」
「うん」
二人は立ち上がり、それぞれの獲物を手に、洞窟の奥へと進んで行く。
To Be Continued
後書き
作者「やっと書けた~」
シン「でも、更新も物語の進行も遅いですよ。このままだと、読者の方々も飽きてしまいますよ?」
作者「うっ……。でも……」
シン「でも、なんですか?」
作者「私にも色々とあるんですよ。それに、書きたいことが沢山あって……」
シン「言い訳は結構です」
作者「シン、目が怖いんだけど……」
シン「そんなことないですよ。それより、次は―――」
作者「大丈夫!次でリズベット編最後まで持っていく予定だから!」
シン「本当ですか?」
作者「うん。多分」
シン「はぁ。わかりました」
作者「うん。それでは―――」
作者&シン「「次回もお楽しみに!!」」
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