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春から秋に

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第五章


第五章

「もう家に入りましょう」
「ここで屋根にあがったら駄目か」
「飛ぶのはお爺さんになりますよ」
 風は次第に強くなってきていた。まさに台風だ。
「ですからもう」
「はしごをかけるにしても」
「そのはしごにしろ」
 この嵐ならというのだ。
「飛びますから」
「じゃあどうしようもないか」
「はい、やっぱり危ないです」
 そうだとお爺さんに話すのである。
「ですから」
「わかった」
 仕方ないといった顔でだ。お爺さんも遂に頷いた。
 そしてそのうえでだ。お婆さんに対して言うのだった。
「じゃあ家に入ろう」
「はい、屋根は確かに不安ですけれど」
「わしに何かあったらどうしようもないな」
「そうです。瓦も屋根もその時はその時で」
「瓦が飛んでそれが人に当たったら」
「こんな時に外に出てる人の方が悪いんですよ」
 それこそ災害救助の人以外にはだ。お婆さんの言うことは一理だった。
 そしてお爺さんはその一理を受けてだ。決めたのだった。
 こうして二人は家に入りだ。台風を避けるのだった。
 それからだった。台風が過ぎ去って。
 お爺さんもお婆さんも外に出てだ。まずは屋根を見た。すると。
「何とかな」
「はい、大丈夫でしたね」
 二人は屋根を見てだ。まずはほっとしたのだった。
「本当にどうなるかって思って心配だったけれど」
「何ともありませんでしたね」
「いや、よかった」
 お爺さんは心からこの言葉を述べた。
「本当にな」
「そうですね。それに」
「瓦もな」
「ええ。瓦も一枚も飛んでいませんね」
 家の青瓦も一枚もだった。飛んでいなかった。それも大丈夫だったのだ。
 そこまで見てだった。二人は安堵したうえで。
 お爺さんの方からだ。言うのだった。
「じゃあ。早速な」
「はい。ビニールハウスですね」
「それを貼ろう」
 台風で剥がしていたそれをだというのだ。もう一度張るというのだ。
 そのことをだ。お爺さんから言ってだった。
 お婆さんもだ。お爺さんのその言葉に笑顔で頷いて。そうしてだった。
「わかりました。それじゃあ」
「張るか」
 こうした話をしてだった。お爺さんとお婆さんの二人でだった。
 そのビニールハウスを張ったのだった。二人の中では台風は終わったのだった。
 小さく青かった苗もだ。台風が過ぎてから見ると。
 青々と成長していたところに次第に米が実りだしていた。
 その米を見てだ。お爺さんは目を細めさせてお婆さんに話した。
「いよいよだよな」
「そうですね。今年もですね」
 お婆さんもだ。その細めさせた目でお爺さんに応えて言う。
「お米が」
「ああ。けれどな」
「雀ですね」
「あれが一番厄介だからな」
 こうだ。青から金色になろうとしている米を見て言うお爺さんだった。
「かかしもあるけれどな」
「気休めですからね」
 見ればもうかかしがある。しかしそれでも来るのが雀だ。雀とて馬鹿ではない。かかしがあろうとも見破って米にたかるのである。
 それがわかっているからだ。お爺さんは。
「今年もな」
「網をですね」
「ああ、張ってな」
「それと目玉も置いて」
 ビニールの黄色い大きな目玉だ。雀だけでなく烏も驚かせてそれで寄せ付けないのだ。鳥への備えも厳重にしているのだ。
 
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