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ミッドナイトシャッフル

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第五章


第五章

「確かにお金も欲しいけれど」
「それでもなのね」
「ほら、カラオケボックスって賑やかに歌って騒ぐ場所じゃない」
 だから人気がある。酒も出る。
「それで来る人って皆笑顔になるじゃない」
「それがいいのね」
「そう、それが見たくてね」
 それでだと。話しているのが聞こえた。
「このお店で働いてるのよ。このお店に入ったのはたまたまでも」
「それでもなのね」
「このお店ってお客さんの笑顔が凄いいいから」
「だから働いてるのね」
「そういうことなの。だからね」
 それでだと。話していた。
「お客さんに何もなくてよかったわ」
「お巡さん様々よね」
「そうそう。お兄ちゃんも警官だけれど」
 今度は俺の話だった。耳が自然と聞き耳になる。
「いつも私に言ってるのよ。新宿なんかで働くなって」
「物騒だからね、ここ」
「けれどそれでも。笑顔が一杯見られるから」
 それでだと。お店の同僚に話していた。
「このお店にいるのよ」
「成程ね、そうだったの」
「お兄ちゃんには悪いけれどね」
 それでもだと。俺のことを話していた。俺はその話をずっと聞いていた。
 その俺にだ。先輩が声をかけてきた。
「おい、行くぞ」
「あっ、はい」
「帰って上に報告だ。こりゃ手柄だしな」
「ですね。危なかったですけれど」
 俺は妹のことは言わずに先輩に応えた。
「何とかなりましたね」
「署長も喜んでくれるさ。そうだな。ひょっとしたらな」
「ひょっとしたら?」
「署長の贔屓のライオンズの試合のチケットが出るかもな」
 実は署長は西武ファンだ。生まれは埼玉だかららしい。それで俺達が何か手柄を立てると西武の試合のチケットを差し入れしてくれる。それが習慣みたいになっていた。
 まあ俺はヤクルトファンなので微妙な気持ちだがそれでも貰えることは嬉しかった。署長の気持ちだからだ。
 その気持ちの話をしながらだ。俺達は署に帰った。そうして取り調べに入った。
 取り調べの結果は存外詰まらないものだった。ナイフもおもちゃでだ。
 チャカはモデルガンだった。本物じゃなかった。先輩にそのことを言われてだ。
 俺は思わず拍子抜けした顔になった。その俺にだ。
 先輩は笑ってだ。こう言ってきた。
「まあ本物でなくてよかったな」
「ですね。それが若し当たったら」
「御前マジで危なかったぞ」
「ですね。けれど何でモデルガンだったんですか?」
「たまたまモデルガンの店で買ったやつらしい」
「じゃああのナイフもですか」
「ああ、その店で買ったやつらしい」
 そうした事情だった。それでだ。
 
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