カードエクスクルーダーが十代のデッキにいる理由
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カードエクスクルーダーが十代のデッキにいる理由
ある日、遊城十代のデッキ内にて。
「いやー、今日の二人は良かったなぁ…あそこでフレイムウィングマンとはねぇ……十代も憎い事しやがるな」
スパークマンがフェザーマンとバーストレディの活躍を労う。
その内心では自分も『シャイニングフレアウィングマン』として参加したかったとの思いもあったが、それを言うほど野暮ではない。
「お二人ともすっごくかっこよかったです!」
余りに感動していて幼い顔を涙でぐちゃぐちゃにしている、魔術師見習いの少女、カードエクス クルーダーも興奮しながら拍手してデッキに帰ってきた二人を迎える。
「ありがと、けどまぁ…これで私たちの出番も終了かな」
そんなエクスクルーダーの顔を苦笑しながら拭いてやりつつバーストレディは呟いた。
「構わないさ、十代が僕達を大切に思っていてくれている事が改めてわかった……それだけで充 分だ」
このデッキで十代との付き合いが一番長いであろう彼、フェザーマン。
入学当初は一番の切り札として活躍していた彼等だったが、幾度も現れる強敵に次ぐ強敵を前に、次第に苦戦することも増えた、新たな進化として『シャイニングフレアウィングマン』という強力な姿も手にしたが、新たにデッキに加わった『N・スペーシアン』達に場面を譲る事も多くなっていた。
ヒーローである彼がそれで嫉妬することはない、彼等の力を認め、彼等が活躍する為に舞台を整える、それも立派な仕事だ。
……ただ、自分が十代の力になれない歯痒さ、そして寂しさだけは間違いなくあった。
それだけに十代の『永遠のマイフェイバリット』という言葉に、フェザーマンは良き主と、そして入学してからの彼を支える事の出来た自分を誇りに思う。
「……うん、これからは君達を支えることが僕らの仕事だ、十代を……頼む」
フェザーマンの真摯な言葉に『N・スペーシアン』達は、任せろ、と力強く頷くのであった。
「あーあぁ……それにしても、かっこよかったよね、フレイムウイングマン」
「お前、何時まで言ってんだよ」
これで今日何度目か、エクスクルーダーの呟きに、N・グランモールが溜め息をつく。
「だって、かっこよかったんだもん!」
「あぁあぁ、わかった、わかった」
この少女には、一つ困った癖があり、誰かが活躍すると、その日は一日中その話ばかりになってしまうのだ。
そりゃ、格好いいのはわかるが、聞かされ続ける方は面倒くさい。
「私もあんな風に活躍出来たらなぁ……」
「無理無理、お前の攻撃力じゃなぁ」
「むぅ!グラちゃん酷い!」
グランモールの指摘にむくれるが、確かに攻撃力400でフィニッシャーになるのは余程のサポー トがなければ難しいだろう。
「いやいや、攻撃力がすべてじゃないっしょwww」
「お前か……」
面倒臭いのが増えたとげんなりするグランモールをよそにエクスクルーダーの顔が輝く。
「ですよね!バブルマンさん!……でも、どういうことですか?」
「そりゃ、勿論モンスター効果っしょ!攻撃力なんか二の次三の次、役に立つ効果があるかの方 が重要でしょーよ」
成る程、バブルマンの言うことも尤もだ。
「それで?エクスちゃんの効果は何だっけ?www」
「はい!一ターンに1度墓地のモンスターを一枚除外することが出来ます!」
「TUEEEEEEEEEEEwww一ターンに一枚除外wwwエクスたん強すぎワロタwwwいやー俺なんか二 枚ドロー&特殊召喚しかできない能無しwww参ったねこりゃwww」
「そ、そうですかね…えへへ」
バブルマンの言葉に素直に照れるエクスクルーダー。
「とはいえ、重要なのは十代のデッキに噛み合っているかどうかだがな、つまり汎用性だ」
N・ブラックパンサーまでもが話に加わる。
「はんようせい、ですか」
「汎用性www、ありすぎっしょ!モンスターをゲームから除外!こりゃあ強力効果!一ターンに一 枚wwwしかも墓☆地☆からwww」
「おい、お前こっちこい」
「なんすか?最近攻撃力5000に自爆特効wwwした漢の中の漢モグラさん?あっあっあっ…… アッー!
グランモールが強引にバブルマンを連れていった先で悲鳴が聞こえた気がするが、今のエクスクルーダーにはブラックパンサーの言葉の方が重要だった。
「そうだ、どんなデッキにも使える効果……その点では、お前の効果は使いづらいと言わざるを得ないな」
「……やっぱ、そうですよね…」
バブルマンに乗せられて浮かれかけたが、実はエクスクルーダー自身が一番自分の効果の微妙さは自覚していた。
「勘違いするなよ、お前の除外効果そのものが弱い訳じゃない……ただ、十代のデッキでは真価を発揮しづらいだけだ」
「うぅ……それじゃ意味ないもん!私も皆さんみたいに活躍したいんだもん!」
そう、他のデッキで活躍出来ても意味がないのだ。
あくまで、いい人達がいっぱいいる自分の大切な仲間がいるこの場所じゃなきゃ駄目なのだ。
しかし、現実は厳しい 。
攻撃力も低い、効果も微妙。
「……何で、マスターは私をデッキにいれたんでしょうね…HEROさん達のサポートが出切るわけでもないのに」
「それこそ、十代にしかわからんだろうな」
しばし、エクスクルーダーは小さな腕をくんで難しい顔でうんうんと唸り続け。
…… そして、言った、決めた。
「私、決めました!今からマスターに私がデッキにある理由を訪ねてきます!」
確かに、十代本人に尋ねればすぐに解決するだろう、だが。
「どうやって尋ねる?」
「そ、それは勿論、実体化して…」
「お前には無理だ」
エクスクルーダーの意見を一言で切り捨てる。
カードである彼等が、現実世界に干渉するのは簡単ではない。
一つは力、単純な話ではあるが、強力な力、特別な力を秘めたカードなら自分の意思で実体化し、現実世界にある程度の干渉もできる。
もう一つは、世界。
実体化しやすい別の次元の宇宙なら特別な力をもたないカードでも実体化は容易い。
……残念ながらエクスクルーダーは強力な力など持っていないし、十代の世界も彼女が自力で実体化するには厳しい世界だった。
当のブラックパンサーは実体化ができるが、自身の存在意義に関わる事を他人に言付けるのは嫌だった。
「でも……ネオスさんに頼めばきっと!」
そう、このデッキでも抜きん出て強い力を持っている彼なら自分を実体化させるくらい簡単なのではないか。
特にネオスは自分に優しい、頼めばきっとうまくいくに違いない。
「頼む……それはやめてやってくれ」
だが、ブラックパンサーに真剣な顔で言われ戸惑う。
どうして?と尋ねるエクスクルーダーにブラックパンサーはある方向を見るよう視線を向けた。
そこで少女が見たものは。
十代『~の効果でネオスを特殊召喚!』
ネオス『よし!行ってくる!』
スカラベ『待てネオス!お前、今日これで何度目だ!?』
バード『いい加減休み貰えよ!このままじゃお前過労死するぞ!』
ネオス『はは、何を言うんだ、墓地に送られてからが仕事じゃないか』
スカラベ『や、やべぇ!こいつ目がイってやがる!』
バード『誰か手を貸してくれ~!マジで最近、ネオスがヤバイぞ!』
ネオス『デュワ!』
「……自分以外のカードを実体化させるのはネオスにとっても楽じゃないんだ……出来れば……」
「う、うん…私のわがままで迷惑かけちゃ駄目だよね…」
「いや、わかってくれればいいんだ……お前はまだ若い、地道に頑張ってれば見せ場はくるさ」
それで話は終わりとばかりに、ブラックパンサーは背を向け必死にネオスを止めようとしている 二人を助けるべく走っていった。
その哀愁に溢れた背中を見送りつつ エクスクルーダーは再び悩む。
活躍したい 。
自分がデッキにいる意味を知りたい。
その為に実体化したい 、だけど、自力じゃ出来ない。
かといってネオスには頼れない。
このデッキで他にネオスに匹敵する力の持ち主、それは。
うんうんと悩み、考えた末ー
「……で、ボクに頼みに来たというわけかい」
「そうなんです、ユベルさん」
ユベル、最近仲間に入ったこの人ならばと意を決して話しかける。
HERO達とは全く異質な存在感を持つ存在に。
「自分が存在する意味…ねぇ…」
軽く視線を向けられただけで小さな体がすくんでしまう。
だけど、退くわけにはいかない。
「はい、ユベルさんなら私を実体化させる事ができる…筈ですよね?」
「そりゃ、ねぇ…出来なくはないさ」
やっぱり!と顔を輝かせながら更にいい募る。
「お願いします!私どうしてもマスターのお役にたちたいんです!」
「………………………」
ぺこりと頭を下げて必死に頼む、だけどユベルは何も言わない、ただジッとエクスクルーダーを見ているだけだ。
駄目なのだろうか?不安になりつつ顔をあげる。
「あ…あのぉ…ですから…」
「いいよ」
「え?」
「別に、それくらい構いはしないさ…今すぐがいいのかい?」
「あ…ありがとうございます!…ち、ちょっと待っててください!他の皆に出掛けてくるって言ってきます!」
思った以上にあっさりと了解してもらえた事で舞い上がりながら。
他のヒーロー達に報告すべく駆け出していくエクスクルーダー。
そんな少女の後ろ姿を眺めていたユベルに話かけたものがいた。
「珍しいじゃないか、一体どういう風の吹きまわしだい?」
顔を向けずともわかる、このデッキで自身に話しかけてくるカードは多くはない。
「君か…」
ネオス。
デュエルを終えてデッキに戻ってきた彼がそこにいた。
ユベルは基本的に他のヒーロー達と関わらない。
それは本人の性格もあるのだが、それ以上にユベルの性質と他のヒーローやネオスペーシアン達の性質は真逆であり相性が悪すぎるため不用意に近づくとそれだけでお互いを傷つけあうことになりかねないのだ。
彼等のような性質をもたない、エクスクルーダー。
もしくは強力な力を持つネオスだから普通に会話する事もできる。
だからこそ彼は自分が他の仲間達との架け橋になるべく時間さえあればユベルに話しかけるようにしていた。
一時は敵対していたが、今は違う。
共に十代を支える仲間として、他のヒーロー達との溝を少しでも埋めるために。
そんなネオスを時に鬱陶しいと思いながらも、取り合えず話しかけられればユベルは会話に応じる。
毎回毎回、十代に、幾度も幾度も召喚されては文句一つ言わず戦うネオス。
その命を削るが如き十代への献身は、若干の妬ましさを含みつつも、一目置かざるを得ないし、認めない訳にはいかなかった。
「ただの気まぐれ…と言えば信じるかい?」
少し苦笑するネオス、それも充分にあり得る話だ。
そんなネオスの反応に面白くなさそうな顔をしつつ、呟くように続ける。
「最近…十代が少し変わった事はキミもわかっているだろう?」
無言で首を振るネオス、その意味は肯定だろう。
「あの、騒がしい娘が行けば…少しは気分も変わるんじゃないかって…思っただけさ」
ボクが十代の為にならない事をするはずがないだろう?
そう続けたユベルの言葉に、ネオスは変わったのは十代だけでなくユベルもなのだろう、と思う。
少なくとも、以前のユベルであれば十代の事を他人任せにするなど考えられなかった。
「…それに、あの娘はボクが彼女の活躍の場を奪った事には何も言わなかった…それくらいの事はしてやってもいいさ」
そう、エクスクルーダーが大望し、始めて召喚されたのはユベルとの戦いの時であった。
一応、仕事は果たせたが彼女が望むような華々しい活躍が出来たとは言いがたいままユベルのカードに破壊された、そしてそれ以降エクスクルーダーは召喚される事もなくデッキの中で不満を溜め込みながら燻っている。
だが、少女はそれを盾にユベルに協力を要請するような事はしなかった。
ただ、十代の為になりたいがため、ユベルに協力を頼み。
叶えてやれば素直に感謝し喜ぶ。
…その純粋さが少し眩しかったのかもしれない。
「ボクには十代しかいない、だけど十代はそうじゃない…彼の助けになれる存在はボク一人じゃない…その、程度…今なら受け入れられるさ…」
十代を愛している。
それだけは何があっても変わらない。
ただ、その形は
少しは変わることもあるかもしれない。
かつて、そうであったように。
どこか寂しく呟くユベル。
そんなユベルに『そうじゃない』と言いたい。
だが、ユベルがそれを受け入れるには、もう少し時間が必要なのだろう。
だからそれ以上ネオスは何も言わなかった。
今はただ、エクスクルーダーへ力を貸し、自分からデッキの仲間達に歩み寄る姿勢を見せたユベルに感謝と嬉しさを感じながら二人で肩を並べ、はしゃぎながら駆け寄ってくる少女を見守ることにする。
「…ところでキミ、今のうちに休んでおかなくてもいいのかい?」
「はは、今回のデュエルでは三ターンも墓地(と言う名の休憩室)で過ごしたからね、全然大丈夫さ」
「…そうかい」
「………………………」
視線の先には天井がある。
勿論、それを眺めていたい訳ではない。
オシリス寮、ボロいベッドに寝そべりながら十代はずっと考え込んでいた。
精霊の事 ミスターTの事 そして、自分が果たすべき使命の事
いつからだろう、デュエルの事を考える度、ワクワクした気分だけでなく、暗く苦いものが混じるようになってしまったのは。
もやもやしたものを振り払うかのように枕に乗せた頭の向きを変え、目を瞑ろうとした。
その瞬間。
「起きてください!マスター!」
「っ?!」
聞き覚えのない子供の声に叩き起こされた。
「もぉー!もうお昼ですよ!こんな暗いお部屋で寝てちゃだめですよぉ!」
「な…何だ?一体!?」
「はい!お早うございます!わーい、マスターに私触ってる~!」
別にユベルの力を疑っていた訳ではないのだが。
実体化が上手く行き十代に触れる事が出来る。
この世界で十代と話が出来る。
その感動と興奮で、幼いエクスクルーダーは自分でもよくわからないくらいのテンションで十代に抱きついてしまう。
「い、いや…!何なんだよ一体…!」
勿論、十代にそんな彼女の感動など伝わる訳もない。
とにかく、自分に抱きついてくる少女を、引き剥がそうと狭い二段ベッドの中で押し合いへし合い…。
その結果。
「…その、本当にすみませんでした…」
「いや、まぁ…いいけどさ…」
苦笑しながら後頭部、そこにできたたん瘤を押さえる十代と土下座せんばかりに小さな体を更にちぢこませるエクスクルーダー。
ベッドから落ちた二人、なまじ十代はエクスクルーダーを庇おうとしたため後頭部を床に打ってしまった。
正直かなり痛いが、実体化当初の浮かれっぷりはどこへやら、今にも泣き出しそうな顔で詫びられて、更に責める事の出来る十代ではない。
とりあえず、話題を剃らす意味も込めて、当初の自分の疑問を投げ掛ける。
「…で?一体どうしたんだ、何かあったのか?」
「は、はい!それはですねマスター!」
「あ~十代ででいいよ、何か落ち着かないし」
十代の問い掛けを聞いた瞬間、顔を上げ、ぐっと両手に力を込めて語り始めようとしたエクスクルーダーを悪いと思いつつも制止する。
カードとはいえ年端もいかない少女に『マスター』と呼ばせるのは、何となく気恥ずかしさがあった。
「そうですか?…それじゃあ十代さんで」
「あぁ」
「えっとですね…私が十代さんのデッキにいる意味を知りたいんです!」
「デッキに…?あ、あぁ…」
仕切り直し、真剣な顔で言われたエクスクルーダーの言葉に、一瞬微妙な顔をした十代。
そんな十代に構うことなくエクスクルーダーは延々と語る。
いかに自分が肩身の狭い思いをしているか。
どうして使ってくれないのか。
そもそも最近は手札にドローされた事すらないのですが。
他の仲間のように、自分ももっと活躍したいのに。
他の仲間のように、自分も十代と一緒に戦いたいのに。
自分は何をすれば、どのカードと協力すれば真価を発揮できるのか。
幼い故に、感情ばかりが先走ってしまい立て続けに疑問と不満をぶつけてしまうエクスクルーダー。
そんな彼女の言葉を黙って聞く十代の顔は苦い。
そして、エクスクルーダーの不満を一通り聞き終えた彼が、最初に発した言葉は。
「…ごめん」
謝罪であった。
「え、えっと!いえいえ!私こそ、言い過ぎですよね!す、すみません!」
いくらなんでも文句ばかりを言い過ぎたと、十代の表情を見て自覚し謝罪するエクスクルーダー。
それに、謝罪の言葉を聞くのが本意ではないのだ。
「でも…とにかく、私がデッキにいる理由を教えて欲しいです…」
このままじゃ、頑張れない。
自分の存在意義もわからず。
ドローされる事もなく、ただデッキの底で出番を待つだけなのは辛かった。
エクスクルーダーのどこまでも真剣な哀願に、十代は口を開いた。
言いづらそうに、それでも少女の真剣に、誠意で応えるべく、ポツポツと。
「…アカデミアに留学生が、ヨハンやオブライエン、ジム達が来てさ…あいつらのデッキを見て、俺ももっともっと自分のデッキを強くしたいって思ったんだよ」
『宝玉獣』や『ヴォルカニック』など。
強力なのは勿論、それ以上に独特の味を持つ風変わりなデッキの数々。
それらと出合い、戦った十代は自分の『E・HERO』ももっともっと、別の可能性を拡げられるのではないか、と思った。
「だから、思いきって今まで使った事の無い、いっそ全くHEROと関係ないカードを入れて見るのも面白いかな…って思ったんだ」
「は、はぁ…」
正直、期待外れな理由と言うのが少女の感想だ。
要約すれば。
他のデュエリスト達に刺激を受けたから、自分も今まで以上に何か変わった事をしたくなり『HERO』デッキに関係のないカードを入れてみた、と。
なんとも微妙な投入理由には少し落ち込むが、重要なのはそこではない。
「で、でも…!何かあるんですよね!出来るんですよね!?十代さんの必殺コンボが!」
そう、取り合えずどうすれば活躍できるかどうかのほうが今の自分には重要だ。
だが、十代の答えは。
「…ごめん」
「………………」
つまり、ないと言うことだ。
当然だろう『E・HERO』として既に完成しているデッキ。
そこに『何となく』で投入されたカードが活躍出来るほどデッキ構築は甘くない。
事実、入れた当初ドローしたことは何度かあったが上手く使える場面は全くと言って良いほど無かった。
それでも一応、何か出来ないかと暫くは入れていたのだが…
「…………………」
エクスクルーダーは、これ以上ないと言うほどに落ち込んでいる。
そんな言葉では足りないほどに。
十代は何か声をかけようとし、だが何かの拍子があれば今にも泣き出さんばかりの少女を前に、何もできず彼女が落ち着くまで待つしかできなかった。
そして、暫くして。
「…そうですよね、十代さん、最近はあまりデッキを触らないですもんね…」
小さく、絞り出すように呟く。
自分がデッキにいる理由。
そして。
自分がデッキから抜かれなかった理由。
この、二つが少女の中で繋がる。
遊城十代。
何よりもデュエルが好きな少年。
アカデミアに入った当初は寝る間も惜しんで、ああでもない、こうでもない、と床一面にカードを拡げデッキ構築を楽しんでいた、彼。
だけど、最近は少し変わった。
デュエル時以外デッキに触れる事が少なくなった。
ユベルやオネストなど、新しい仲間をデッキに加える事はあっても、昔のように一枚一枚デッキのカードを確認そして吟味したりという事をしなくなった。
だから、自分が入ったままだったのだ。
HERO達のサポートもできない自分が。
役に立たない自分が。
十代の強さは『引きの強さ』でもある、だから、本来デッキに必要がない自分はドローされる事もなかった。
「………………っ」
全てが理解できた少女。
だが、泣き出しそうな顔をしながらも、出した言葉は十代をなじるものでは無かった。
「十代さん…デュエル、楽しくないですか?嫌いになっちゃったんですか…?」
自分がデッキにいる事に大した理由なんかなかった。
それは辛い…もの凄く辛い。
だけど。
十代がデュエルを楽しんでいない、そして毎日独りで孤独に過ごしている。
…そのほうが、ずっと嫌だった。
それに対し十代は。
「……はは」
「わ、笑うなんて酷いですよぉ!」
「あぁ、ごめん…それ、明日香達にも同じような事を最近言われたよ…俺、心配かけてばっかだな」
苦笑しながら、申し訳なさそうに…そして少しだけ嬉しそうに十代は言った。
「だって、皆十代さんの事が大好きですもん!」
「サンキュ…そうだな、確かに最近は色々あって、色々変わったけど…でも、明日香達とのデュエルで改めて思ったよ…俺はやっぱりデュエルが好きなんだって…デュエルはすげぇ楽しいってさ」
デュエルは楽しいだけではない。
ただ、それを受け入れる事に時間がかかっていただけで。
デュエルが好き。
その、気持ちだけは何があっても変わらないことは友人達とのデュエルで再認識できた。
「そうですか…よかったぁ」
目尻に涙まで浮かべて、エクスクルーダーが安堵の笑顔を浮かべる。
そして、もっと十代に元気になってほしくて言葉を続ける。
「それじゃあ十代さん!もっともっとデュエルをしましょうよ!こんな暗い部屋に閉じ籠ってないで!…デッキも…いらないカードなんて抜いて楽しいデュエルをしましょうよ!」
前のように毎晩デッキ構築を楽しむ十代に戻ってほしい。
つまり、自分が抜かれる事になる。
それでも、エクスクルーダーは十代の笑顔の方が大切だった。
だが、そんな少女に十代は言った。
「いや…抜かないよ」
「え、で…でも…私、お役に立てないんですが…」
「デュエリストには手札の数だけ可能性がある、カードの一枚一枚が可能性なんだ、役に立たないカードなんて無いって…俺の尊敬する人が言ってたんだ」
武藤遊戯
十代が尊敬し、目標としている人の言葉。
とはいえ、それを言われてもエクスクルーダーの表情は晴れない。
その『可能性』を拡げる為に投入された自分は。
実際、役に立ってないのだから。
「…あの、そう言って頂けるのは凄く嬉いんですけど…やっぱり私は…」
『E・HERO』と『カードエクスクルーダー』この二つは噛み合わない。
それは、実際にデュエルした十代が実感している筈なのに。
「そうだな、正直今はまだ上手い使い方が見つかってないけど…うん、抜きたく無いんだ、お前を」
こうして、実体化してまで自分の存在意義を訪ねに来たにもかかわらず。
結果として失望させた自分を恨むこともせず。
友人達同様、自分を気遣ってくれる。
そんな『仲間』である彼女を外したくない。
「すぐには上手く使ってやれないかもしれない…だけど、俺が遊戯さんみたいなすげぇデュエリストになれたら…その時はきっとお前を俺の『HERO』デッキで活躍させて見せる…それじゃ駄目か?」
その十代の言葉にエクスクルーダーは笑った、泣きながら。
「あ、あはは…そんなだから十代さん、デッキ枚数がどんどん増えちゃうんじゃ無いですか」
『E・HERO』に『ネオスペーシアン』『ハネクリボー』や『ユベル』各種サポートカードの『魔法』や『罠』
既に、一般的な理想値、基準値である40枚は越えてしまっている。
それでも尚デッキが回る『引きの強さ』は十代が『仲間』を信頼し絆を繋いでいるからなのだと。
改めてエクスクルーダーは実感する。
「だって、仲間は多い方が楽しいし、面白いだろ?」
「はい!…約束ですからね十代さん、絶対私を活躍させてくれるって!」
「あぁ、約束だ」
十代との約束。
それが無性に嬉しくて幸せで、その感情のまま再び十代に抱きつこうとした瞬間、両者の間に光が生まれ形を為す。
その正体は。
「よく言ってくれたぞ、十代!」
「ネオスさん?」
割って入るかのように、突如として現れたネオス、その眼は赤い。
「ね、ネオス?一体どうしたんだ?いきなり」
十代の疑問、それに応えたのはネオスではなかった。
「可愛い娘が心配なのさ、ウチのお父さんは…ね」
「ユベル?お前まで一体どうしたんだよ今日は…」
いつの間にか実体化し隣に立っていたユベル。
ユベルのからかいにも似た言葉に少々照れたような表情(十代にはよく判断できないが)を浮かべながらも、真剣な表情に戻り(無論、これも十代には区別がつかない)ネオスは十代の前に立つ。
「十代…確かに、今君が悩み苦しんでいるようにデュエルは楽しい、それだけでは無いだろう…だが、エクスクルーダーがそうであるように、君の友人達も、デッキの皆も君を支え、助けになりたいと思っている、君は独りじゃない、君には沢山の仲間達が…そして私がいる事を忘れないでくれ!」
「ネオス…」
若干の急展開と状況についていけない部分が多少なりともありつつ、それでも尚。
自身が幼い頃に描いた、世界を救う究極のHEROの激励は、十代の胸に響き、彼を燃え上がらせる。
「あぁ、そうだな…これからも、頼りにしてるぜ!ネオス!」
「勿論だ!」
「ぅう…お二人とも格好いいです…」
何となく、その場の空気に流されて感動しているエクスクルーダー。
そんな彼女が、出立の際『ネオスを控えるよう十代にそれとなく伝えろ』と他のHERO達から言われた事を思い出すことは無いだろう。
まぁ、本人はそれで本望なのだから問題ないのかもしれないが。
「やれやれ、単純同士は楽でいいね」
そんな二人のやり取りを呆れたように見つめるユベル。
その体にエクスクルーダーが抱きつく。
「ユベルさん!」
「ん?なんだい」
「今日は本当にありがとうございました!ユベルさんが実体化させてくれなかったら私…私!」
それ以上は言葉にならず、抱きついたまま泣き出すエクスクルーダー。
どうしたものかと悩むユベルに十代が笑いかける。
「そっか、お前もか…悪いな、いつも迷惑かけて」
「ふ…昔から世話を焼かせる奴だよ、キミは」
そう言って少女の頭をぎこちなく撫でながら。
ユベルは苦笑した。
それから暫くして。
「はーい皆さんごちゅうもくー!」
十代との会話以降更に元気になったエクスクルーダーの声がデッキに響く。
何事かと集まってくる面々に、これでもかと言うほどのどや顔だ。
「今日は私達のマスター、十代さんが新しいカードを手に入れたので、私がご説明をさせて頂きます!」
『E・HEROガイア』
星6 地属性 戦士族
攻撃力2200
守備力2600
融合素材『E・HERO』+『地属性モンスター』
効果 このカードが融合召喚した時、相手のモンスター1体の攻撃力を半分にし、このカードの攻撃力はその数値分アップする。
なんと、固有のカードでは無く『属性』で融合できる融合HEROが現れたのだ。
勿論『地属性』であるエクスクルーダーにとってはこれ以上無い朗報である。
「これで、私も皆さんと戦えるんです!」
なので、さっそく皆に報告しているのだが…
「正直、微妙な効果じゃないかしら」
と、グローモス。
「悪い効果とは言わないが…エクストラデッキは15枚…枠を割くには厳しいな『フレイムウイングマン』は十代の象徴でもあるし『カオス・ネオス』も外すには惜しいポテンシャルだからな」
と、ブラックパンサー。
「で、でもでも!地属性なら誰でもいいんですよ!出しやすくて良いじゃないですか!」
「なら、俺とクレイの旦那で充分じゃねーか」
「ぐ…グラちゃんのばかぁああああああああ!」
かたや制限効果の鬼畜バウンス。
かたや守備力2000の守りの要。
流石にこの両者に比べられるのは厳しすぎる。
基本、皆優しい、いい人達なのだが。
自分達の見せ場とも言えるエクストラデッキのカードに関しては譲らないことが多い。
特に最近は枚数が制限された為に尚更だ。
「いや、これは使えるだろ、強いと思うぜ」
「ですよね!スパークマンさん」
スパークマンの擁護に喜ぶが。
「おぉ『超融合』を使えば相手の地属性を簡単に除去出来るじゃねぇか!」
「ち、ちょっとぉ!」
「成る程なぁ…確かにつえぇな」
「手札コストが少し痛いけどね…悪くないんじゃないかな」
感心するスカラべとドルフィン。
『ガイア』が評価されるのは嬉しいが。
エクスクルーダーが望む方向からは大きく逸れてしまっている。
「ぅう…私、やっぱりいらない娘なんですか…」
予想と違う結果に落ち込む少女。
そこに空気を読まない男が一人。
「いやいやwwwそんな事ないっしょwww」
「ですかね、バブルマンさん…私、攻撃力も効果も微妙なんですが」
以前にからかわれた事もありジト目のエクスクルーダーにバブルマンは何時に無く真剣な目で力説する。
「いやいや、ステータスも効果も二の次三の次!エクスたんは可愛い!見た目がよけりゃそれでいいっしょ!」
「そ、そうですか?私、可愛いですか!」
あっさり乗せられ喜ぶエクスクルーダー。
「そーそーwwwエクスたんはこのデッキのアイドルなんだからwwwバースト姐さんやユベルじゃ萌えね…おがぁ!ほごぉ?!」
突如、苦悶の声をあげ苦しむ彼を助けるものは誰もいない。
「そうですかぁ…私、このデッキのアイドルですかぁ…えへへぇ」
踊るようにはしゃぎながら喜びデッキ内を駆け回るエクスクルーダー。
そんな少女に少々呆れつつも、仲間達は微笑ましげに見守るのであった。
ハネクリボー「『相棒』は『手札コスト』じゃないと思うんだ」
ネクロ「召喚されるだけマシじゃね?」
後書き
自分なりに色々妄想で捏造しちゃいました。
もう少しネタが纏まったら
遊戯デッキの前期と後期モンスター達による内部抗争とか
女性モンスター達の百合的な話とか書く予定です。
感想とかご意見とかいただけると次作へのモチベに直結するので凄く嬉しいです。
読んでいただきありがとうございました。
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