許されなかった浮気
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第一章
第一章
許されなかった浮気
伊藤邑子は恐ろしい話を今友人の水谷良子から聞いていた。
二人は今邑子の家で紅茶を飲んでいる。その場で良子は話すのだった。
「イタリアの話だけれどね」
「奥さんが浮気をして」
「そう、それでなのよ」
良子はさらに言う。
「旦那さんが怒ってね」
「奥さんの歯を全部抜いて」
「当然浮気相手はその場で縛り首よ」
「うわっ、その場でなのね」
「浮気の現場を押さえてね」
つまり言い逃れのできない証拠を掴まれたというのだ。こうなってはどうしようもない。
しかしここまではよくある話だ。普通に修羅場になって終わりだ。だがその夫はだ。妻に対してさらに容赦ない処罰を与えたというのである。
「で、奥さんの歯は全部抜かれて」
「それで終わりじゃなくて」
「三日間鎖につながれてほったらかしにされてね」
つまり糞尿を垂れ流しにさせられたというのだ。
「勿論食べるものも与えられずに」
「歯を抜いただけでもかなりなのに」
邑子はそのやや垂れた大人しめの目に恐怖を宿らせて言った。顔の色は白くやや細長い顔立ち自体も優しい感じである。髪は茶色でパーマをかけて伸ばしている。髪から見える耳は大きい。
その邑子に対して良子は目が大きくアーモンド型であり黒く長い髪を奇麗に整えてだ。目鼻立ちはかなり若い感じである。その良子が邑子に話しているのだ。
「そうよ。三日の間ね」
「動けない様にしたの」
「で、これで終わりかっていうと」
「まだなのね」
「ここからが物凄く怖くて」
話しながらだ。実際にだった。良子もその顔を青くさせていた。
「その奥さんをやっと引き出したって思ったら」
「殺したの?」
「ただ殺したと思う?」
剣呑な顔でだ。良子は邑子に問い返してきた。二人共話に夢中で紅茶を飲む手は止まっている。白い奇麗なリビングがかえってお通夜の様な雰囲気を出させていた。
「そこまでする旦那さんが」
「そうね。やっぱり普通には殺さないでしょうね」
「そうなのよ。奥さんを壁にある穴の中に押し込んで」
そうしてそこからだった。
「で、その穴を煉瓦ですぐに塞いで。塗り込めてね」
「つまりそれって」
「そう、奥さんを生きたまま壁に埋め込んでしまったのよ」
良子は蒼白になった顔で邑子に話した。
「そうして奥さんを殺したのよ」
「無茶苦茶するわね、また」
「そう思うでしょ。けれど浮気をしたらね」
そうすればだ。どうなるかというのだ。
「そんな目に遭うこともね」
「覚悟しないといけないのね」
「そりゃね。私は浮気はしないし」
良子は自分から言った。
「邑子もでしょ」
「男は旦那一人よ」
邑子もこのことははっきりと答える。
「そんな。浮気なんてしないわよ」
「言い寄ってきた相手にしてもよね」
「ノックアウトしてやるわよ」
実は邑子は元々所謂ヤンキーであり喧嘩慣れしている。バイクにも乗る。腕には今でも自信がある。だから今もこう言えたのである。
「そんな奴はね」
「そうよね。私だってそうよ」
そして良子はその邑子のヤンキー仲間だった。お互いに結婚した今も付き合いがあるのだ。
「そんな奴は蹴飛ばしてやるわよ」
「で、お互いにそうよね」
「浮気はしないわよ」
これは絶対だった。良子にしても邑子にしてもだ。
だがそれでもだとだ。邑子はこう言った。
「けれど。浮気したら」
「そういうことになったのよ。昔はね」
「怖いわね。っていうか夢に出るわよ」
「そうでしょ。私も話を聞いてそう思ったわ」
ヤンキー出身で喧嘩慣れしててもだ。そうだったというのだ。
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