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女侠客

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第三章

「道場の用心棒、寺子屋の先生として知られています」
「それは何よりだね」
「日本橋じゃ知らぬ者はないって人ですよ」
 それが彼、奥田右京だというのだ。
「偉い先生ですよ」
「あたしは学問は嫌いだがね」
 字は書けるが好きでないことは確かだ。
「それでも子供に教えるなんて大したものだよ」
「全くですね」
「しかもね」
 ここからも言おうとする、だがだった。
 そこから先は言わずにだ、こう言ったのだった。
「まあいいさ、日本橋の旦那だね」
「へい」
「覚えたよ」
 笑ってこう言ったおみよだった。
「しっかりとね」
「それは何よりでやんすね」
「そうだね。それで最近だけれど」
「最近?何でやんしょ」
「この店の団子美味くなったね」
「砂糖を変えたんですかね」
 籐次もその団子、串に三個ずつ刺しているそれを食べながら応える。
「それでやんすかね」
「それはいいことだね、やっぱり団子は甘くないとね」
「美味しくないでやんすね」
「甘いから茶の渋さがよくなるんだよ」
 おみよは茶も飲みながら言う。
「それでなんだよ」
「そういうことでやんすね」
「そうだよ、じゃあ明日もこの店で食おうかね」
 おみよは白ィ団子を食べながら述べた。
「そうしようかね」
「それがいいでやんすね
 籐次は自分のやや左に傾けさせた髷を左手で撫でながら応える、着崩した格好がどうにも手下っぽい。蝙蝠安を思わせる格好だが人相は悪くない、その彼の言葉だ。
 おみよは暫くして日本橋に赴いた、そこで適当にそこにいる男に奥田の話を聞くとだった。その男はすぐにこう答えた。
「はい、奥田様でしたら」
「あの人のことを知ってるんだね」
「有名ですからね」
 だからだとだ、男は明るい知っている顔でおみよに言う。
「知ってますよ」
「それじゃあ今何処にいるんだい?」
「はい、ここから右に行って」
 男は二人が今いる場所の右手を指し示して言った。
「そこから呉服屋と米問屋の間の道に入りまして」
「それでだね」
「はい、長屋に入りまして」
「その長屋にいるんだね」
「丁度そこで寺子屋をやっておられまして」
 それでだというのだ。
「今はそこにおられますよ」
「わかったよ、じゃあね」
「はい、それじゃあ」
 こうした話をしてだった、おみよは男に礼を言ってからその長屋に入った。
 そして寺子屋の看板がある部屋をそっと覗いてみるとだった。
 まずは子供達の声がしてきた、男の声も女の声もある。
「先生、こうですか?」
「これでいいんですか?」
「こう書くんですか?」
「そう、そうだよ」
 低いいい声がしてきた。
「そう書くんだよ」
「わかりました、それじゃあですね」
「この字を書いていくんですね」
「何度も何度も書くんだ」
 そうしてだというのだ。
「覚える為には」
「はい、わかりました」
「そうします」
 子供達も明るい声で答える、そのやり取りを聞いてだった。 
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