少年と女神の物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第六十三話
ダメだ・・・全然見つからない・・・
俺はひたすら泳ぎ続けて捜しても見つからず、それでも高ぶり具合から近くにいることだけは分かるので、捜索を続けていた。
ここまでして戦えないのでは、割に合わない。意地でも見つけてその神様と戦ってやる。
『ねえ、ムー君。一回やすまない?根つめすぎだよ?』
・・・・・・
『分かった。俺はあの岩場で休むよ』
『それ意味ない』
林姉の言ってることは最もなのだが、今隙を見せる・・・背を向けたりしたら、それこそ格好の的だ。
それは捜している時も変わらない気はするが、それでもおれ自身の警戒度は神の近くにいるほうが高い。
わざわざ離れていったら、警戒が解けた瞬間に狙われるのは間違いないだろう。少なくとも、俺ならそうするし。
そんな事を考えながら少し泳いで、先ほどからずっと途切れることなく続いているゴツゴツとした岩場に腰を掛ける。
にしても、変な岩場だな・・・鱗みたいな模様があるし、なんか生きてるみたいに脈打ってるし。
アハハハハー・・・
ゲイ・ボルク、ブリューナク!林姉を避難!急げ!大至急!ハリー!!
『かしこまりました』
『オウ!』
俺の両腕から槍が飛び出し、林姉を引っ掛けて海面に向かうのとほぼ同時に、俺の腰掛けていた岩場が大きく動き、俺に巻きついて俺の動きを封じ、そのまま逃げられない程度に締め付けてくる。
マズイマズイマズイマズイマズイ!完全に罠にはまった!!しかも体内が揺らされて、酸素が口から外に出る!死ぬ!
普段の戦闘なら、死んでも特に問題はない。でも今は違う!まだ沈まぬ太陽が発動できてない!つまり、今死んだら今度こそ生き返らずに死ぬ!!
そして、さらに最悪なことに水中では言霊が唱えられない!だからこそだろう、この神がこのまま俺の窒息死を狙ってるのは。
そうでなくても、俺は水圧に耐えるために体を守る術をかけている。
水圧がどれくらいのものなのか分からなかったので全力でかけた。神でもそう簡単には破れないはずだ。
・・・いや、本気で来たら簡単に破れそうだけど・・・
チクショウ!トトのあの権能が本気で欲しい!
◇◆◇◆◇
私はムー君の槍二振りに連れられて、地上に打ち上げられた。
「ケホッケホッ・・・」
「大丈夫ですか、依林さん」
そのまま梅ちゃんに抱えられて、どうにか海水を全部吐き出す。
酸素ボンベ、途中で落としちゃった・・・
「うん、私は大丈夫・・・ね?」
「ね?じゃないですよ。急に武双君の・・・それも、ゲイ・ボルグとブリューナクが飛んできて、どれだけ驚いたことか・・・」
「ゴメンね~、驚かせちゃって」
そう言いながら立ち上がって、元気なところを見せる。
心配させるわけにはいかないもん。この子達は妹じゃないけど、この場で一番のお姉ちゃんの仕事。
「あの・・・」
「ん?な~に?」
「武双君は?」
そこで、全部思い出した。
そうだ・・・ムー君が!
「酸素ボンベ、いくつか貰うね!」
「え、ちょ、依林さん!?」
跳躍の術で軽く跳んでその場にある酸素ボンベを全部回収。
そのまま止めようとしてくる手を避けて走り、海に入る手前で再び跳躍。
何回か跳躍を繰り返して、大体ムー君の真上だと思う位置でボンベを背負い、飛び込む。
そのまま全力でもぐって、途中で水圧に耐えるための術を上乗せ。ムー君が掛けてくれたやつだから大丈夫なはずだけど、無意識のうちにやっていた。
ひたすら進んでいって、ムー君が腰掛けてた岩場を見つけた。
後は、このままたどっていくだけ・・・いた、ムー君!
そのまま泳いで近づいていくと、ムー君はこっちに気付いたのか、締め付けられて苦しそうにしながら首を振ってくる。
―――ダメだ、こっちに来ちゃ!
そう言ってるように見えたけど、私は気にせずに近づく。
そしてムー君の口に酸素ボンベをつけて、呼吸をしてもらおうとして・・・全部吐き出されて、目を見開いた。
慌てて頭に手を当てて、その体が揺れてるのを確認。
そっか・・・全身揺らされて、全部吐き出しちゃってるんだ。
だったら・・・
「!?」
ムー君が驚いてるのも、お顔を真っ赤にしてるのもまず間違いないと思う。
だって・・・私も、今間違いなく顔真っ赤になってるし。
恥ずかしい・・・冷たい海の中にいるのに、顔が熱い。今にも気を失っちゃいそう。
でも、そんなことは出来ない。そんなことをしたら、二人揃って死んじゃう。
そう考えながらキスしていた口を一回離して、すぐにムー君のお口を手で塞ぐ。こうでもしないと、全部吐き出しちゃうから。
で、空いた手で酸素ボンベの吸入口を自分の口に当てて、少しでも多く吸い込んで時間を置かずにムー君とキス。
そのままムー君に肺の中の酸素を流し込んで、吐き出しちゃった分は全部私の肺に入れる。
循環呼吸。吐き出しちゃうなら、それも私とムー君の間で循環させればいい。
当然酸素がなくなって二酸化炭素だらけになっちゃうから、そのたびに一回口を離して酸素を補給する。
ムー君が驚いた目で見てくるけど、それには出来る限りの笑顔を返す。
私は、大丈夫。当分の間はこれを続けられる。
だから、ムー君は何か手を考えて?この場から二人揃って変えれる手を。
それまでは、ちゃんと守ってあげるから。
だから、一緒に帰ろう、私の大好きなムー君。
ページ上へ戻る