鬼灯の冷徹―地獄で内定いただきました。―
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伍_週刊三途之川
六話
「うっわあ!広いし綺麗やし、何かオーラある人、いっぱいおる!!」
テレビ局へ入るなり、ミヤコははしゃいで言った。広いロビーに、忙しく行き交う人々、否、鬼たち。
たまにすれ違う芸能人オーラを溢れさせている人、否、鬼。
鬼灯はそんな彼女を横目に、はあ、とため息をついた。
「さっきわたしが言ったこと、理解してました?」
地獄を管理する閻魔大王の第一補佐官ともあれば、ほぼ顔パスなのだろう。
鬼灯はさっさと控え室の方へ向かう。ミヤコも続いた。
「こんにちは、鬼灯様。本日は当番組へのご出演、ありがとうございます」
控え室の前へ着くと、どうやら番組のプロデューサーらしき人物が鬼灯に向かってそう丁寧に言った。
「いえいえ。いつでも協力させていただきます。金魚草の魅力を多くの方に知ってもらわねば」
「今回も切れ味の鋭いトーク、期待してます。では、後ほど」
「はい。よろしくお願いいたします」
切れ味の鋭いトークか。鬼灯がテレビ番組の収録でどういうコメントをするのかミヤコは気になった。
何しろ普段から掴みどころのないキャラクターというか、ドSかと思えばそうでもないらしいし、超合理主義者といったところだろうか。
そんな彼が、情報番組で視聴者を惹き付けるようなことを言うとは意外だった。
プロデューサーが去った後、鬼灯は慣れたように控え室に入る。
「わたしはこれから少々、打ち合わせに行ってきますので」
「はーい。わかりました」
「くれぐれも問題を起こさないように」
いつの間に自分は問題児扱いされるようになったのか、ミヤコには見当もつかなかった。
そんなにトラブルを起こした覚えはない。
鬼灯はすぐに部屋を出て行き、彼の金棒とミヤコだけがそこに取り残された。
「・・・・・・ちょっとくらい探検してみようかな。問題を起こさんかったらいいんやし」
まあ、こういう少しいい加減で子供っぽい性格を、鬼灯は懸念しているのかも知れない。
そんなこととは露知らず、ミヤコはそっと控え室のドアを開けた。
「ちょっとお手洗いへ」
そばに誰もいなかったがわざとらしくそう言い、廊下へ出る。
地獄へ来たばかりの頃は、たった一人でウロウロするなんてとんでもなかったが、慣れとは怖いものである。
等間隔にある部屋のドアには、現世と同じようにタレントの名前が書かれていた。
「うん?」
数メートル先のドアの前に、見覚えのある影。ミヤコはすぐにそれが何なのかわかると、思わず声を上げた。
「昨日の猫!」
昨日の猫、小判だ。小判はその声でミヤコに気付くと、目をカッと見開いた。
「ゲッ!?何であんたがここに」
「あんたこそ。えっと、小判」
小判がいるドアには『ピーチ・マキ様』と書かれたプレートがある。小判はメモ帳を得意そうにペラペラさせ、持っていたペンで額の辺りを掻いた。
「わっちは記者さね。マキが新曲をリリースしたってんで、そのインタビューよ」
「そういう普通の記事も書くねんな」
「というかあんたが一人でここに来るわけニャイわな。まさかとは思うが・・・・・・」
「そうやで、鬼灯さんと一緒に来てん」
「やっぱりか。さっさとマキに取材して、とっとと退散するのが身のためだ」
小判はぶつぶつと悪態をつくと、控え室のドアを叩いた。
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