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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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Dragon and human of mixed race


「姉さんは、人間として生まれなかったんだよ」

告げられた言葉は、重く響いた。
それと同時に、シャロンの言葉が意識に流れる。

()()()()()()()()貴女が・・・自分の居場所まで見つけるなんてね』

人間として生まれてこなかった。
人間のフリをした貴女が。
それじゃあまるで―――――。

「ティアは・・・人間じゃねーのか?」

その声が若干震えている事に、ナツは気づいていただろうか。
だが、全員が同じ思いだった。
ティア=T=カトレーンという少女は、人間以外の何者でもないはずなのに。
それ以外の生命体の姿をしている訳ではない、人間以外に見えないのに。

「・・・ああ、姉さんを人間という括りに入れてはいけない。人間の括りに入れられる事は、姉さんが1番望んでいる事であり、1番望んでいない事なのだから」

矛盾する言葉を呟いて、クロスは髪を耳にかけた。
その仕草は姉によく似ている。

「姉さんを表すとすれば・・・1番似合うのはこれだろう」

そして、クロスは紡いだ。
よく通る、冷たさの中に優しさを秘めた声で。



「Dragon and human of mixed race」
















「グレイ・フルバスター・・・」

ポツリとその名を呟いたパラゴーネの紅蓮の瞳は、燃える炎のように煌めいていた。
その呟きが聞こえたのか、1人の少女が立ち止まる。

「どうしたのパラゴーネ、さっきからその名前ばっかり呟いているけど」
「私が潰したい男」
「あらあら」

肩を竦めるワインレッドの髪の少女。
パラゴーネは少女を見上げた。

「フラウだって潰したい相手の1人や2人、存在するでしょ?」
「いないと言ったら嘘になるかしら」

クスクスと笑う少女『フラウ』。
その右太腿には、血塗れの欲望(ブラッティデザイア)の紋章が刻まれている。

「氷の造形魔導士。静のアイスメイクを操る・・・ウル・ミルコビッチの、弟子」

その声に、憎しみに似た感情が宿る。
フラウはその隣に腰掛け、顔を覗き込むような仕草をした。

「あら?でもパラゴーネの目的を達成する為には、狙う相手が違うんじゃなくて?」
「肯定する・・・でも、私の狙う相手を潰すなら、グレイ・フルバスターを潰してからの方がダメージは大きいと思う。仲が悪いとはいえ、弟弟子だから」
「なるほど。えーっと・・・標的の名前、何だったかしら?」

天秤宮の名を持つパラゴーネが狙う者。
紅蓮の瞳を更に燃え上がらせ、無意識で近くの物を浮かばせ、ギリッと自分の腕を強く掴んで。
憎しみに溢れた声で、標的の名を言い放つ。


「零帝・・・リオン・バスティア・・・」













「ドラゴン!?」
『!』

クロスが紡いだ言葉の最初に現れたドラゴンの単語に、思わずナツは反応する。
ナツだけではない。
ガジルは興味なさげにデバイス・アームズの残骸を食べているが、その目は小さく見開かれている。
ウェンディは両手を口元に当てて静止し、ココロは目を見開いて立ち上がった。

「オイ!ドラゴンってどういう事だ!?まさかティアも滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)なのか!?」
「落ち着けよナツ!」
「ぐほっ」
「そうよ!それに、今のクロスの言葉にスレイヤーって単語は無かったでしょ?」

思わずクロスへと詰め寄るナツをグレイがマフラーを掴む事で止め、ルーシィが同意するように頷く。
マフラーを掴まれたナツは小さく苦しげな声を発した。

「クロス、今のはどういう意味だ?」
「・・・直訳しよう」

エルザに問われ、クロスは小さく溜息をつく。
そしてゆっくりと、先ほどの言葉を直訳した。








「“竜と人間の混血”」








時間が、止まった。
ギルドにいた全員がそう錯覚を覚えるほどに、空間の動きが停止する。
平仮名にしてしまえば13文字で済む言葉の意味を理解するのに、30秒はかかっただろう。
時計の針が奏でる、普段なら絶対に聞こえないカチコチという音がやけに響く。

「・・・混血?」
「竜と、人間の?」

クロスが言った一言を繰り返す。
こくっとクロスは頷いた。

「そ、それって・・・」
「ああ――――――――竜人、と呼ばれる存在だ」

竜人。
その言葉は、ファンタジー小説でしか聞いた事が無かった。
こんな―――――こんな、身近で聞くような、言葉では無いはず。

「・・・俺達カトレーンの一族は、かつてその膨大かつ強大な魔力でこの世界を創り上げたと伝説されている」

突然、クロスがスケールの大きな話を始めた。
一族規模から世界規模へと。

「カトレーンの初祖が世界を創り、万物を作った。初祖は星より生まれたとされ、己の一族に“魔力”の花言葉を持つカトレアを少し変え、カトレーンの名を付けた」

初祖、つまりはカトレーンの始まりの存在。

「そして、その初祖の名は――――――――」

青い瞳が光を受けて煌めく。
テノールボイスに乗せられた言葉は、すんなりと耳に入った。








「――――――星竜、シュテルロギア」








星竜シュテルロギア。
つまりは、竜。

「・・・え?」

そう呟くのが、精一杯だった。
いろいろスケールが大きく、衝撃的な事実ばかりで、驚きから覚めないのだ。
そして覚めないまま次の驚きがやってくる。

「初祖が竜って・・・」
「つーか待てよ!じゃあ、何でクロス達は人間なんだ?竜が初祖なら竜の一族のはずだろ?」

スケール大きめの話にルーは意味が解っていないのか呆然とし、アルカが御尤もな事を叫ぶ。
人間から人間が生まれるように、竜からは竜が生まれるはず。
が、竜を初祖に持つクロスはどこをどう見たって人間であり、兄のクロノも人間にしか見えない。
ティアも人間にしか見えないのだが―――――――。

「ああ、普通はそうだ」

クロスは頷いた。

「俺も詳しくは知らん・・・というか、知ろうと思わない。聞いた話じゃ、どこかの代で竜と人が愛し合い、その間に生まれたのが竜人らしいな。そして代を重ねていくにつれ竜の血は薄くなり・・・俺達の代では人間と人間の間から人間が生まれている」

つまり、こういう事だ。
最初のうちは竜と竜の間から竜が生まれていた。
が、どこかの代で愛し合った竜と人の間からその両方の血を併せ持つ者、竜人が生まれた。
しばらくは竜人が生まれ続けていたが、竜もいつかは死んでいく。
次第に竜は減り、竜人だけが残った。
竜人と人間が愛し合い、その間から竜の血が少し薄くなった竜人が生まれる。
それを繰り返し、結果としてクロスやクロノの代では竜の血は一滴たりとも残らなかったという訳だ。

「だが―――――そこに、生まれるはずのない竜人が生まれた」

生まれるはずのない存在。
その名は、聞かなくてもすぐに解った。




「ティア=T=カトレーン・・・姉さんだよ」




イレギュラー、とも言うべきだろうか。
不規則的、変則的な存在。
それが、ティア=T=カトレーンという少女が隠してきた真実だった。

「姉さんは複製能力(コピー)を持たない。それだけでも一族の中じゃ白い目で見られるのに、更に生まれるはずのない竜人として生まれてきたなんて・・・出来損ないと呼ばれる理由はそれさ」

驚きが覚めた。
代わりに、怒りが湧いてくる。

「何だよソレ!気に入らねぇ!」
「どんな風に生まれるかなんて解る訳ないじゃない!何でそれでティアが出来損ないになるのよ!」
「つーか、そんな状況見て周りは何とか言わねぇのかよ!」
「そんなの酷すぎるよ!ティアが可哀想じゃないか!」

ナツ、ルーシィ、グレイ、ハッピーが口々に喚く。
それを片手で制しながら、クロスは口を開いた。

「お祖母様に逆らえる人間なんて一族にはいないんだ。自分の命が惜しいからな、誰も姉さんを助けようとは思わない。当時の俺には・・・姉さんを助ける事は出来なかった」

幼かったから、なんて言い訳はしない。
ただ、殺されたくないなんて、自分勝手な理由だった。
クロスは泣き出しそうな声でそう言った。

「姉さんの体の中には、人間の血と竜の血が半分ずつ流れている。その体質は竜であり、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のように視覚・嗅覚・聴覚が優れ、身体能力の高さも竜人であるが故だ。これは細かい点だが、ドラグニル達の犬歯が牙のように鋭いのと同じように、姉さんの犬歯も牙のようだ」

これが出生も何も関係ない身体能力だったら、素直に凄いと言えるだろう。
だが、彼女が身に着ける身体能力の全ては、本来向けられるはずだった愛情や優しさを犠牲にして得たもの。
凄くもあり、喜ばしい能力であり―――――悲しい能力だった。

「でもさー」

その空気を破ったのは、空気クラッシャーでお馴染みルーだった。
難しい言葉が飛び交い続けているからか、その頭の上には?が見える。

「それって竜人とは限らなくない?偶然視覚とかが良くて、偶然犬歯が牙みたいだったって事はないの?」

偶然が重なりすぎるが、有り得ないと言い切れる訳じゃない。
こてっと首を傾げるルーに、クロスは小さく溜息をついた。
ゆっくりと首を横に振る。

「いや・・・確かに能力だけならあり得る。だが、姉さんには“竜人である事”を決定づけるものがあったんだ」
「決定づける、もの?」

ああ、とクロスは頷いた。
自分の青い髪を左手で抑え、右手でそこに触れる。

(うなじ)に、な」

普段は長い青い髪で隠れる箇所。
当然、そこに何があるかをナツ達は知らない。
ティアはロングヘアをカールさせる事はあるが、結ぶ事は多くないのだ。
アカネビーチに出かけた際は少し高めの位置でポニーテールにしていたが、それも髪が項を隠していた。


「お前は知っているんじゃないのか?」


ふと、クロスがそう言った。
その顔がギルドの入口へと向く。
つられるように、ナツ達もそっちを向いた。



「―――――ロキ」



そこに立つのは、ロキ。
ルーシィと契約する星霊『獅子宮のレオ』でありながら、今も変わらず妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士である。
人間界にいた期間が長かったからか、ルーシィの意志とは関係なしに(ゲート)をくぐって人間界に来られるのだ。

「ルーシィいつの間にロキ呼んだの?」
「呼んでないわよ!てゆーかアンタ、何で!?」
「今日は女の子とデートの約束をしててね」

予想通りの言葉に思わずルーシィは額に手をやる。
ロキはつかつかと足を進め、クロスの横へと立った。

「取り引きをしたんだ」
「え?」

それと同時に、ロキが口を開く。

「僕が星霊で、消えようとしているのをみんなに黙っておいてもらう代わりに・・・ティアの項にあるものを黙っておくっていう取り引きさ」

結果として、ロキの正体は知られた。
だけど、だからといってティアの項の『それ』の事を話すつもりはなかった。
よく言えばフェミニスト、悪く言えば女たらしのロキは、女の悲しむ事をしないタイプなのだ。

「だけど・・・ここまで来たら、話しても問題ないよね。クロス」
「姉さんに後で怒られるかもしれんが、覚悟の上さ」

肩を竦めるクロスに苦笑いを浮かべ、ロキはナツ達の方を向く。

「ティアの項には――――」

そして、ロキは言った。
はっきりとした口調で、紡ぐ。







群青色(ラピスラズリ)の―――鱗があった」







驚愕襲来。
今日だけで何度目になるか解らない驚きに、ナツ達の目は見開かれる。

「親指くらいのサイズの鱗が並んでた。見た時は驚いたよ」

ロキはそう呟いた。
そりゃあ人間の項に鱗があれば驚くだろう。
―――ティアは人間じゃ、なかった訳だが。

「これが姉さんが竜人であるという証明。姉さんが持つ鱗は、星竜シュテルロギアと同じ色だ。ここまで揃ってしまっては、竜人であるという結論以外有り得なくなる」

否定したくても、これが現実だから。
その姿はやはり姉にそっくりで、2人は双子なんだなと改めて感じさせる。

「何故姉さんだけが竜人で、俺が人間なのかは解らない。出来る事なら・・・変わってあげたい。こんなの、不公平すぎる!」

ダン!と。
クロスが思いっきりカウンターを拳で殴りつけた。
怒りに体を震わせる。

「力を持たない竜人の姉さんに、お父様の愛人の子である為白い目で見られる兄さん・・・兄弟の中で、俺だけが何もない。俺だけが唯一何の痛みも背負ってない!それが何より憎たらしい!何も出来ない俺がっ!」

力を持たず、更に竜人として生まれた事で、ティアは辛い運命を強いられた。
力は持っているものの、父親の愛人の子として生まれたクロノは、強い風当たりを受けていた。
そしてそんな兄と姉の辛さを知っているのに何も出来ない事に、クロスは自分に対して怒りや憎しみを抱いてきた。
誰も幸など持っていない。全員がそれぞれの不幸を抱えている。
それを1人は抱え込み、1人はそれを感じさせない程に明るく振舞い、1人は分けてもらおうとしている。

「・・・だから、姉さんをこれ以上不幸にする輩は許さない」

声が、変わった。
結果として、その声はクロスのものだ。
だが、その声に込められている感情は、いつものクロスのものではない。

「カトレーンの一族を、滅ぼしに行く」













カトレーンの本宅。
その一室に、ティアはいた。
服装はシャロンが着替えるよう命じた、純白の尼僧服。

「こういうのはルーシィにでも着せておきなさいよ・・・」

不満そうだが着る。
シャロンの命令に逆らったらどうなるかなど、ティアはとっくに知っているのだから。

「!」

すると、ティアが突然目を見開いた。
辺りを見回し、呟く。

「嫌な予感がするわ・・・」








―――――――まさか、その嫌な予感が後に的中するとは。









この時のティアは、まだ知らなかったのだった。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
長い!説明文っぽくなってる!そして結局言いたい事は『ティアは竜人』って事です。短っ!
まー、項の鱗以外は完全人間ですから。見た目は。

最近改名を考えてますが、どうしようかなー・・・。
緋色の空って長いし、FTにあるんですよね、緋色の空って話。ま、その話が好きでこの名前なんですが。
うーむ、どうするかな。

感想・批評、お待ちしてます。 
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