ファイアーエムブレム ~神々の系譜~
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第一章 運命の始まり
第三話
記憶の狭間に、様々なものが落ちている。全ては過去でその頃にはもう戻れない。いまでも楽しかったことや悲しかったことをふと思い出す。
今日もそんな日の一日として未来の俺に刻まれるのだろうか。それは楽しみであり、悲しみである。
「これが、グランベル王国のバーハラ王家の城ですか……」
「そうだ、我が城よりも大きく壮観であろう」
「ええ、ここは攻守にわたりその力を発揮するでしょうね。所々に工夫が見られます」
「お前は、その歳で城の知識があるのか?」
「はい、お兄様がいない間にたくさんのことを学びました」
「そうか……。弟に負けぬようこの兄も頑張らなければな」
今夜は、パーティの当日だ。到着したのは一週間ほど前のことであり、兄も士官学校から駆けつけ久しぶりに親子が全員揃った。久しぶりに見た兄は前にもまして体つきが出来上がってきており、その顔も凛々しくなっていた。そんな兄にラケシス姉さんはベタベタ。
どんだけブラコンなんだよ、俺にはそんなベタベタしないくせにと少々悲しむ7歳の秋だった。
そして俺たち一行は、パーティ会場に到着した。なんでも、この日のためにほとんどの国の王や王子、姫達が集まっているらしい。そんなにも規模の大きなものだったから、急遽俺もこれに参加することになったわけだ。実にめんどくさい、どう考えても外面で笑ってても、裏では何考えてるかわからない連中ばっかりだ。
そんな悲観することはないと、兄には言われた。というのもこのなかには、兄の親友も参加しており紹介してやろうとのことだ。シアルフィ公子シグルド、レンスター王子キュアン。この2人が兄の親友らしい。
そういえば、シグルドって勇者役の人じゃなかったっけと、思いつつ将来その人に兄はおいただされるんだよなと考えるととても気が気ではなく、どんな人物か見ておくべきだと思った。それによって対策を立てなければと。
確か、シグルドと兄は悲劇的な運命を迎える。イムカ王が愚息のシャガールによって暗殺されその後、グランベル侵攻の挙兵に異を唱え、思い留まるように諌めた兄を幽閉する。シグルド軍に敗れ、エルトシャンの調停により助命されマディノへ遷都するが、自分の過ちを省みず、シグルド軍に再び反旗を翻す。その際、トラキアの竜騎士を傭兵として雇ったものの、トラキア王トラバントに見限られ、シグルド軍に討たれる。
兄はといえば、シャガールが反旗を翻した時に苦しみながらも共に反旗を翻し、最後はラケシス姉さんの説得もあり、もう一度説得を促すが、シャガールによって処刑されるという運命だったはず。
つらい、あまりにもつらいその悲劇は、シャガールという馬鹿が火種を付け、兄上が愚かすぎるほどの忠誠心を持っていたため起きた出来事であり、騎士道や魔剣ミストルティンの恩義もわかるが、それはそれ。これはこれであり、俺としてはさっさとシグルドについて勝ち馬に乗ればよかったのにと思うところがある。
「あれがアズムール様ですか? 父上」
「そうだ、グランベル国王のアズムール様だ。我らの謁見にはまだまだ時間がかかる。それまでは礼儀正しくしておるのだ。兄上達について行け。私と妻は、挨拶回りをしなければならんのでな」
「はい、気を付けます。それでは、後ほど」
「うむ」
兄上と姉上とともに会場を周る。またもや姉上は、兄上にベトベト。正直恥ずかしいが、女性を男性がエスコートするのは社交界では当然のことなので、姉上は正式にベトベトできるのだ。
ちなみに俺は、そんな彼ら二人の後ろにはぐれないようについていく。これが結構大変なことで、人が多いため一瞬でも目を離してしまうと二人の姿が見えなくなってしまうのだ。
そうして、今回ここに来ることになったために急遽目標を作ったのだが、そのうちの一つが達成されようとしていた。
「これが噂の姫君かい?」
「ああ、キュアン。自慢の妹だ。どうだ、可愛いだろう?」
「美しいだな、可愛いというよりも。どうも初めまして私の名はキュアン。兄上とは仲良くさせていただいております。どうぞよろしく」
なるほど、これがキュアン王子かこれまた堂々たるものがある。いろんな世界でいろんな世界を見てきたがその中でもこの王子は、王子様ランキングトップ10に入れてもおかしくはない何かを感じさせる。ちなみに兄上はその中でも5位以上になるだろうと俺はふんでます。
「まぁそんな、嬉しいです。ラケシスです、こちらこそ兄がお世話になっております」
「ええ、どういたしまして」
「おい、キュアン!」
「おお! やはりエルトシャンも家族の前だと怒るか。悪かったな」
「ふん、それでシグルドはどこにいる? あいつの自慢の妹君をこの目で見てみたい」
「もぉ、お兄様」
そういって笑い合う三人だった。俺の居場所がありません、どうか兄上私にも触れてください。
「ああ、そうだった。ロキこっちに」
俺の願いが天に届いたのか、ようやく俺が話の輪に入る時が来たようだ。
「これまた自慢の弟のロキだ。挨拶しとけ、キュアンはレンスターの王子だ。今はこんな感じだが、将来は化けると私は見ている」
「エルトシャン、それはひどいな。しかし、こっちも噂通り利発そうな子だ。よろしくな、キュアンだ」
「どうも、ロキです。こちらこそお噂はかねがね。次代のゲイボルグを継承する方に会えて嬉しく思います」
「これは、これは。丁寧にありがとう。こちらこそ、君に会えて嬉しいよ。今度、我が家に招待したい、もちろんエルトシャンにラケシスも」
「ありがとうございます」
「キュアン、こちらこそ君を我が家に招待したい。なんやかんや君とシグルドには世話になっているからな」
「そうだな、我々が本科を卒業したらお互いの家に行くことにしよう」
キュアン王子は、間違いなくいい男である。それは間違いないと思った。というか兄上の友人だし、そこらへんはわかっていたんだけどね。
「探したぞ、二人とも!」
俺の後ろから声が聞こえた。俺を含め全員がそちらを向く。背が高く、髪が青く、尚且つイケメン。どう考えてもあの人だ。その後ろには手を引かれ歩く可愛い、これが未来のキュアン王子の妃となるひとだろう。
「「シグルド!」」
やはりな!
「ふぅ、やあ二人共。それでこれが俺の妹だ」
「どうも皆さん。妹のエスリンです、よろしくお願いします」
そのあとは当然のごとく、知らない者同士の挨拶へ。姉上のところは長くなったので割愛させていただきます。
「兄様、そろそろ私も紹介してください」
「そうだったな。シグルド、これが弟だ」
「やぁ、シグルドだ。なんでもエルトシャンの幼き日よりも才覚を見せているとか、ノディオン王国は、エルトシャンと君がいれば安泰だね」
「ありがとうございます、シグルド様。ロキと申します、よろしくお願いします」
「こちらこそ、でも様はいらないよ」
そういって差し出された手は、大きく筋肉が隆々としてるのが分かる。兄さんも勇者の素質は十二分に備えているが、こちらも負けじとそれはあるようだ。今は仲良くしていくのがベストだろう。時勢をみて変えていけばいいだけの話だ。
「では、シグルドさんと」
「うん、それでいい。そういえば、ユングヴィ家のエーディンは見ていないだろうか?」
「ユングヴィの息女か? すまない、あまり拝見したことがないのでわからん」
エルトシャンの答えに、姉上とキュアン、そして俺が頷く。
「そうか、領地がうちとは隣同士でな、幼馴染のようなものなんだ。といっても年齢は少々下だが。すまないが、探しに行ってくるよ」
シグルドとエスリンは、そう言ってその場を離れた。その後はキュアンとともにとりとめのない話を長々としていたが、ウェイターの一人が次がノディオン王家の謁見のお時間ですと呼びに来た。
あれかな、もしかしてウェイターって貴族の顔と名前全部頭に入ってんのか。そう考えると、さすがはバーハラ王家。一ウェイターの質が高い。
キュアンに別れを告げ、俺たちはその場を立ち去った。先ほどのウェイターに所謂控え室のような場所に連れてこられ、既に父上と母上がそこで待っていた。
「どうだ、パーティは楽しいか?」
「ええ、それなりに」
「そうか、そうか。私が初めてここに訪れた時は緊張しっぱなしだったぞ」
「きっと一人だけなら、そうなってたでしょう。ですが兄上に姉上のおかげでそうならずに済みました」
「うむ、エルトシャン。ラケシス。ロキ。お主たちは、仲良くせねばならんぞ。兄妹で血で血を争うなんてことはしてはいかん。幸い、その兆候はないようでよかった」
「「「はい」」」
なんというか、そんなことここで話すことやないやろ!
パーティも終わり、その翌々日にはエルトシャンは士官学校に戻り、ロキ一行も帰路についた。ロキが城に帰り着いた翌日、剣の特訓が再び始まった。他にも槍や馬術を教わり、もちろん勉学にも励んだ。そしてあっという間に3年の月日が経ち、ロキ10歳。ようやく神の啓示が果たされようとしていた。
序章 運命の始まり 終幕
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