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World of Destiny Crossed―魔法少女と剣士の物語―

作者:ULLR
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第一部
魔法少女と剣士
  魔法少女との邂逅

 


 群がってきた異形の怪物を閃光で薙ぎ払った女の子は辺りの景色が戻っても警戒を解く様子は無い。

「魔女は、逃げたわ」

 改装中の工事現場の奥の薄闇に向かってその人は声をかける。すると、そこに現れたのはーーー
 見滝原中の制服ではなく、薄紫と白の衣装に身を包んだ暁美さんだった。

「仕留めたいならすぐ追いかけなさい。今回は貴女に譲ってあげる」

 これは……警告か。成長リソースの奪い合いであるMMOの中に2年も居た俺は声色やその人が発する気配で相手の心中がある程度分かる。
 俺達を助けてくれた黄色い彼女から発せられるソレは攻略組のものと同質。膨大な経験を積んだ者が自然と放つようになる貫禄がそこにはあった。

「私が用があるのはーーー」
「飲み込みが悪いわね。見逃してあげるって言ってるの」

 ピリッと空気が緊張する。殺気ではない。それは最後通牒だ。
 暁美ほむらという存在がなんであろうと俺達の前に立ちふさがるこの少女には勝てないだろうという確信があった。
 暁美がまどかの腕の中の不思議生物をチラッと見る。そしてどこか悔しげな視線でまた少女を見た。

「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

 微笑みながらそう言うその人を暁美さんは悔しそうに見ると、踵を返す。
 そしてそのまま、闇の向こうへ消えて行った。

「ーーーありがとう、マミ。助かったよ」

 マミと呼ばれた少女がまどかが抱えていた不思議生物に何かを施すと、それは息を吹き返した。

「お礼はこの子達に。私は通りかかっただけだから」

 不思議生物は長い尻尾をふわりと回転させて、跳びはねながら言った。

「どうもありがとう!僕の名前はキュゥべえ」
「キュゥべえ……?あなたが……私を呼んだの?」

 呼んだ?まどかを?

「そうだよ。鹿目まどか。それと、美樹さやか」
「え……なんで、あたし達の名前を?」

 さやかが戸惑った声で呟く。しかし、キュゥべえはその質問には答えず、淡々と、そして切実な口調で言った。

「僕、キミ達にお願いがあって来たんだ」
「……お、お願い?」

 俺は、また何か言葉に出来ない、形容し難い感覚に襲われる。
 迷宮区で、分かれ道に差し掛かった時のあの感覚。選んだ先は死か生か。引き返すのが最善か否か。

「僕と契約して魔法少女になってよ!」

 この時はまだ、それを選択する事が出来なかった。











「私は巴マミ。あなた達と同じ見滝原中学の三年生よ」

 俺達は今、怪物ーーーどうやら魔女と呼ばれているらしいがーーーから助けてくれた魔法少女な女の子のマンションに来ている。
 というか先輩だったのか……。いかんな、あの世界に行ってから人の年齢を読み取るのが苦手になって来ている……。
 巴先輩はワンルームのマンションで、家具や壁紙の色からは落ち着いた雰囲気が滲み出ていた。
 隣のまどかとさやかも感動した様子でその部屋を見渡している。

(俺からしたら落ち着かないが……)

 聞くところによると、一人暮らしをしている巴先輩の部屋は俺から見たら女の子の部屋と言うより、女性の家と言う方が近くて何となく緊張してしまう。

「どうぞ」

 にっこり微笑んで差し出されたのは、良い香りのするハーブティーとシフォンケーキ。それを小さな三角形のローテーブルに置き、テーブルを囲うように座る。俺から見て右斜め前に巴先輩とさやか。左斜め前にまどかと言った具合だ。

「遠慮しないでどうぞ食べて。ろくにおもてなしの準備もないのだけれど……」
「美味しいよね、このケーキは」

 キュゥべえという不思議生物も嬉しそうに巴先輩の横に腰掛ける。

「じゃあ……お言葉に甘えて。いただきます」
「「いただきます」」

 甘いものは嫌いな方では無い。それに、さっきの戦闘のせいかどうかは分からないが、酷く腹が減っていた。
 俺がもぐもぐとシフォンケーキを頬張っている間に、巴先輩とキュゥべえは交互に『魔法少女』や『魔女』についてまどか達に話して行った。
 曰く、巴先輩はキュゥべえと『契約』を交わして魔法少女になったとか。契約のプロセスはまず、キュゥべえが素質のある少女の願い事を何でも一つ叶え、その対価として魔法少女は魔女と命懸けの戦いに身を投じる……。
 願いから生まれる魔法少女と呪いから生まれる魔女。魔法少女が希望を振りまき、魔女が呪いを撒き散らす。魔女は人間には見えず、密かに人に不安や猜疑心などという禍の種を世界にもたらす。巴先輩は理由のはっきりしない自殺や殺人事件は魔女の呪いが原因の事が多いと言う。

「あの異空間のような場所は、一体?」
「あれは魔女の結界と言って……魔女の創造した巣のようなもの。魔女毎に構造は違うし、途中で出てくる使い魔ーーー最初に出てきた小さいやつらの事なのだけどーーーそれは魔女の分裂体で、人を食べて成長すると、分裂元の魔女となるわ」
「取り巻きのMobみたいなものか……」
「えっと……?」
「!……えと、こっちの話です。ごめんなさい」

 しかしまあ、大体やってる事はRPGと変わらないようだ。結界(ダンジョン)に潜って使い魔(Mob)を倒しつつ魔女(ボス)を倒す、と。

「でさ、マミさんは魔法少女で……悠、あんたは結局何者なわけ?」
「私も気になるわ。朝宮君が使い魔を倒したあの力……魔力を感じたわ」
「……正直、分からないんです。今は使えませんし……何で、仮想世界のような力が現実でも使えたのか……」
「「仮想世界?」」

 首を傾げる巴先輩とキュゥべえ。対してまどかとさやかは分かっているも、難しそうな顔をしている。

「……巴先輩は、2年前の《SAO事件》って聞いたことはありますか?」
「え?……ええ。あるわ。最近まで続いていた大事件で……あ、まさか?」
「そうです。俺は俗に言う《SAO生還者》ってやつでして……さっきの腕が光ったりしながら攻撃したのは、その《ソードアート•オンライン》の中での《体術》スキルなんです」
「あれが……でも、どうして?」

 さやかが顎に手を当ててうぅ……と唸っている。お前が分かるわけないだろう。

「キュゥべえ、何か分かる?」
「悪いけど、さっぱりだよ。僕が分かるのは、悠が体内に魔力を保有している事と、あの時は体内の魔力を外に引っ張り出して使っていた事ぐらいだ」
「何で魔力を俺が……」

 引っ張り出すという事だったので、何となく挑んでみるが、手はさっぱり光らなかった。

「これは僕の仮説に過ぎないけど、悠が力を使えるのは結界内だけなんじゃないかな?」
「ん?何故だ?」
「君はさっき、君自身の力を仮想世界の力と言った。魔女の結界内部はある意味、現実では無い。現実世界では無い空間を異界……仮想世界と定義するなら辻褄は合うと思うな」
「なるほどな……」

 取り敢えず何故俺が魔法少女しか持っていないはずの魔力を持っているかは置いておく事になった。
 それから巴先輩はまどかとさやか、そして俺にしばらく魔女退治に同行しないかと提案した。
 まどか達には魔法少女入門講座として、俺には自分の能力の検証として……。

「別に3人とも、強制はしないわ。命のやり取りであることは事実だし、はっきり言えば危険よ。魔女との戦いがどういうものなのか、それをその目で見た上でそれでもなお叶えたい願いなのかをよく考えて欲しいの」

 そう言って巴先輩は優しい笑みを浮かべた。











 正直言えば、俺はもう命のやり取りがある場所には行きたく無い。
 2年間、俺は必死でデスゲームを生き延びて来た。全プレイヤーを解放するという崇高な使命感があった訳でも無く、貫きたい信念があった訳でも無い。ただ、死ぬことが怖かっただけだ。
 死ぬのが嫌で必死に強くなった。ステータスを、武装を、スキルを、感覚を鍛え、過剰とも言える安全マージンをとってもなお、慎重に情報を集め、危険が少しでもあるなら違う道を選択した。
 その気狂いのような安全思考の結果、俺の実力はいつしか攻略組と並ぶようになってしまった。
 死から遠ざかるように歩んでいた道はさらに危険な場所へと俺を誘い、時を重ねるにつれて俺はもう攻略組として認識されてしまった。
 冗談じゃないと思いつつ時は過ぎ、そしてあの瞬間に辿り着いた。

『これが伝説の正体だ。一度もHPがイエローになったことがない訳は、コイツがシステムに保護されているから……《他人のやっているRPGを端から眺めるほどつまらないことはない》。そうだろう、茅場晶彦』

 《黒の剣士》と呼ばれていたキリトのその言葉を聞いた時、頭が真っ白になった。
 今まで溜め込んでいた鬱屈が一気に爆発し、それはヒースクリフ、茅場に集中した。
 己の武器を破壊の権化に変え、中距離から撃ち出すユニークスキル《撃剣》。自分のものとは思えない、獣のような咆哮を上げながら俺はそれを放った。
 俺に背を向けていた茅場はハッとして振り返ると盾をかざし、それを防いだ。しかし、絶対防御を誇る《神聖剣》はその時ばかりは撃ち負けた。
 俺は壁際まで吹き飛ばされた、赤い鎧をまとった魔王に俺は並々ならぬ殺意を向けていた。ーーー冷静さを失う程に。
 ストレージから呼び出した新たな武器を構え、投げる。だが、茅場はそれを事もなげに弾いた。
 その態度に激情した俺は次なる武器を呼び出し、投げようと構えた。もしそれが投げられていたら俺はその隙を突かれ、倒されていただろう。
 俺を諌めたのは茅場の正体を看破したキリトだった。
 冷静さを取り戻した俺とキリトは共に茅場を追い詰め、遂に倒して現実へと帰還した。

「…………」

 そう、何度も死にかけながらようやく戻ってきた日常なのだ。わざわざ戦いの日々に戻る事は無い。
 普通に学校へ行き、遊び、たまにかつての仲間達とVRワールドで会えればその他、ましてや命のやり取りのある事など要らない。

「本当に……なんだってんだよ、俺の人生」

 昨日はまどかやさやか、そして一応命の恩人である巴先輩の手前隠していたが、俺は魔法少女というものに酷く嫌悪感を抱いていた。
 いや、正確に言えば昨日起こった不思議現象全てが不快だった。
 普通に暮らしたいだけなのに、断りも無く俺の日常を壊した《魔女》、《使い魔》、《魔法少女》。そして自分自身の訳の分からない力。
 全部俺を放っておいて他所でやれば良いものを、俺を平然と巻き込んで来る。
 そんな事を考えながら何時も通りに登校し、教室に入ると既にまどかとさやかは来ていた。そして、

「……っ⁉︎」

 あのキュゥべえという不思議生物が当然の如くまどかの肩の上に陣取っている。
 だが、まどかとさやか、そして俺以外にそれが見えている者は居ないらしい。多分、これも魔法か何かなのだろう。

「あ、おはよう悠君」
「おはよー」
『おはよう!』
「……ああ、おはよう」

 最後のキュゥべえの声だけは頭の中に直接響くように聞こえて来た……もう何も驚くまい。
 その後、キュゥべえを狙っているらしい暁美さんの件などを念話(テレパシー)で相談し、何時も通りの1日が始まった。












 昼休み。
 昨日、巴先輩は俺に関しては自分でどうするかを考えて、考えが固まったら伝えに来て欲しいと言った。なので、俺は貴重な授業の合間を縫って組み立てた今後の方針を巴先輩に伝えるべく、3年生の教室に来ていた。が、

(居ない……)

 聞けば、昼休みが始まった途端教室から出て行ったらしい。タイミングが悪いとはこの事だ。
 仕方なく一旦購買に寄ってパンを買うと、教室でそれを食べようと階段を登り始める。教室がある階に着いた時、ちょうど上から暁美さんが降りてきた。

「「…………」」

 意図せずして再現される昨日の光景。暁美さんも思わぬ睨み合いに、咄嗟の事で臨む体勢になっていなかったのか、きつい視線が微妙に揺らいでいる。
 あまり、友好的な会話をした間柄ではなかったが、そのおかしさに思わず可笑しくなってしまう。それが表情に出たのか、暁美さんはあの鋭い声で言った。

「……何がおかしいの?」
「いや、ごめん。何となく」

 暁美さんはピクッと眉を潜めて何かを言おうと口を開きかけたが、ため息を吐いてそれを見送った。

「貴方は何となく人を嗤うのかしら。とても失礼よ」
「だからごめんって。……暁美さん」

 しかし、ここで暁美さんに会えたのは行幸と言えよう。彼女はーーー話の流れによるがーーー俺の今後の方針の要なのだから。
 そうして、俺は後に魔法少女達のの運命を、世界の理をも変革する事になる契機となった、この言葉を彼女に話を切り出した。








「君と話がしたい。《魔法少女》に関連する事で」
 
 

 
後書き
はい。8月に更新するとか言ってて大分遅くなってしまいました。申し訳ありませんm(_ _)m
主人公を王道にまどかの傍に置くか、ほむらサイドに置くかという所で迷っていたための遅延です。

迷った末に主人公はややほむらサイド寄りで行きます。クロスオーバーしているSAO要素も空気にならずにするのはこの位置が最適だと思ったからです。
次話は最初にまどかsideで昼休みのシーンをやってほむらsideか主人公視点で話を進めて行きます。
では…… 
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