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インフィニット・ストラトスの世界にうまれて

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転生男子と学園祭 その二

一年四組の教室に戻った俺だが、借りてきた猫のように大人しくしていた。
このクラスに来て数日。
まだこのクラスに馴染めていない――というか、非常に居心地が悪い。
男子がいないということがこれほど辛いものなのか。
俺がこのIS学園に来るまで唯一の男子として生活をしてきたであろう一夏のことを超人に思えてしまう。

教室内で聞こえるのは女子たちの声。
女という字を3つ合わせて、かしましい。
読んで字の如く、女子が三人寄れは喧しいという意味である。
この場所にいるのは数人程度のはずだか結構騒がしい。
他の女子たちはどうしたのかといえば、手の開いている女子たちは一夏をゲットするためにこぞって第四アリーナへと足を運んでいる。
ついさっきまで女子たちが、廊下をバタバタと走る足音が引っきりなしに聞こえていた。
つまり各クラス店番している人間や仕事がある以外の女子たちが居なくなってしまったということだろう。
一年四組の女子たちも例外ではなく、数名づつのグループを作ると、きゃあきゃあ言いながら教室を出て行った。
うちのクラスだけではなく他のクラスを覗けば同じ光景が見れただろう。
一年四組を訪れる人間も少ないことだし、この分ならトイレに行くと言って教室を抜け出せそうだ。

俺はクラスメイトの女子たちが楽しそうに会話を交わす光景を眺めながら、最近見た夢のことを思い反した。
厳密に言えば、夢ではなく幻の類いかもしれないが。

福音戦で俺は撃墜された。
その時に見た夢の風景とまったく同じものが目の前に広がっていた。
天空には星が見えていたが、水平線は白み始めていることから夜明けが近いのかもしれない。
波打ち際近くの砂浜に胡坐をかいて座る。
すると前触れもなく不意に姿を現わしたのは、白いワンピースを着た十歳位の金髪ツインテールの少女。
顔には微笑を称えている。
幼く見える割に整いすぎている顔は、まるで作り物のように感じてしまう。
俺の目の前にいる少女は確かに見覚えがある。
福音戦で撃墜され、気を失っている時に見た夢の中で出会った少女で間違いないだろう。

「お久しぶりですね、ベインズさん」

少女は挨拶をすると歩み寄り俺の横に体育座りをする。

「久しぶりだな」

俺が挨拶を返すと少女は驚きの表情を見せこう言った。

「今日はわたしに抱きついてこないのですか?」

目の前のちびっ子に抱きついた記憶がまったくない俺は否定をした。

「おい、今日はって何だよ。俺がお前に会うたびに変態行為を働いているみたいな言い方をするな。前回会った時もそんなことはしていない」

「そうでしたか?」

と少女は言いつつ、とぼけるような顔をした。

「どうやら年のせいか、記憶違いが発生しているのかもしれません」

「お前の実年齢が何歳かは知らんが、見た目から判断すれば十歳程度だろ? お前の歳で年寄りってことなら人類のほとんどが年寄りってことになっちまうだろうが」

「もう、ベインズさん。子供相手に本気で怒らなくてもいいじゃないですか。冗談ですよ、冗談」

「どの部分が冗談なんだ?」

「決まっているじゃないですか。わたしが年寄りだって部分がですよ」

「殴るぞ?」

俺が拳を振り上げると、頭を両手で隠し、身体を縮めながら暴力反対です! と少女は言った。
殴るつもりなどなかった俺は振り上げた拳をすぐに下ろす。
そして穏やかな声で少女に語りかけた。

「殴りはしないよ。
でも、何で俺がここにいるのか位は教えてくれないか?」

「そうですね。前フリもこの位でいいでしょう」

「何? これから、この場所で、漫才でも始まるというのか?」

「ええ、そうです。わたしとベインズさんの夫婦漫才が始まる予定です」

「クソ、そうだったのか。前もって言ってくれればネタの一つでも考えてきたのに……俺は、アドリブは苦手なんだよ」

俺は頭を抱え激しく悩んでいるように見せる。

「無理に付き合ってくれなくてもいいですよ? ベインズさんがそろそろわたしの正体に気づいたのではないかと思い会いに来てみました」

俺は頭を抱えた状態から少女の顔を窺いながら、

「ISのコア。コアの人格なんだろ?」

と言うと、少女は満足げな表情を見せる。
そして口にしたのはこんな言葉だった。

「頭のネジがゆる~いベインズさんでもようやくその答えにたどり着きましたか」

「頭のネジがゆる~いは余計だ!」

俺はちびっ子相手に大人気なく大きな声を出してしまった。

「ベインズさんが怖いです」

少女は怯えた表情を見せる。

「なあ、いい加減話を進めようぜ」

少女の表情は怯えから次第にニンマリしたものに変わった。
百面相かお前は。

「仕方がありませんね。話を進めるとしましょう」

「こうして俺とお前が話をしているということは、俺のISは二次移行出来るのか?」

「そんなの無理に決まっています」

「何でだ?」

「有体に言えば、能力を制限されている――といったところでしょうか。ISが動いているのが奇跡というレベルです」

「 ……能力制限ね。やっぱり、篠ノ之束の仕業なんだよな」

「勿論です。ここまでされるとは、あなたは随分と彼女に愛されているのですね」

どう考えてもそれは愛じゃないだろう。
俺は篠ノ之束にとってはイレギュラーな存在でしかない。
しかもちびっ子の話から察するに、邪魔者でしかないのだろう。
ISのコアが自分の命令を受け付けないとなれば、時期は解からないが篠ノ之束が直接行動に出る可能性がある。
覚悟はしておいたほうがいいかもしれない。

「まあ、わたしも女の意地があります。動くなと言われても、はいそうですかと言いなりにはなりませんよ」

しかしこいつは、創造主である篠ノ之束の命令を完全ではないにしても無視できるのか。
とんだチート野郎だな。

「ということでベインズさん? わたしの前に跪き、足にキスをする位には感謝して欲しいところですよ」

「感謝はするが、別の形にしてくれ」

「これ以上を望むなんて――本物の変態さんですか? 今すぐ警察に逮捕されちゃってください」

「お前が何を想像しているのか解かる気がするが、俺はそんなもんは望んでいないし、そもそもいらねーよ、そんなもん」

「安心しました。わたしはベインズさんが変態だろうとなかろうと気にはしませんが、会うたびに自分の身体に危険を感じるのはさすがにイヤですからね」

少女はほっとした表情を見せる。
身体の危険を感じるのは十年は早いだろう。
リレーで使うバトンのようなその華奢な身体を何とかしてから出直してくれ。

その後しばらく会話のやり取りをしていたが、太陽が登ったあたりでようやく満足したのか少女は帰ると言いだし、俺の前からふっといなくなる。
そして俺は夢から覚めたのだった。

「ねえ、ベインズくん。ぼーっとしてどうしたの?」
声をかけてきたのはクラスメイトの女子で居残り組の一人。
俺の顔を覗き込んでいる――というか、身長差もあって見上げているといったほうがいいだろう。

「あ、ゴメン。気になることがあって、ちょっと考えごとをしてたんだ」

「気になる娘? それってもしかして、うちのクラスの娘かな? あ! 更識さんだったりして。ベインズくん良く見てるもんね――」

どうやら会話に齟齬が発生しているようだ。
更識簪のことは、それは見たくもなるだろう。
一夏ハーレム第六の女子なんだから。

「それとも、別のクラスの娘かな?」

目の前にいる女子は、目を大きく見開き、身体を乗り出すようにしている。

「いやいや。気になる女子じゃなくて気になる、こ・と。悩み事だよ」

「なんだー。てっきりまた女子を狙っているのかと思った」

またって何だよ、またって。
俺はどんだけ軽い男子に見られているんだ? 実際は女子にはモテないのにな。
それにしても、俺が更識簪を見ていることがよく解ったな。
俺の目の前にいる女子は、俺の観察日記でもつけているのか?
それはそれとして、そろそろ教室を出るとするか。

「悪い、ちょっと出かけてきていいか?」

「え? うん、いいけど……どこ行くの?」

「トイレ」

「りょうかーい。でも、トイレ行く途中で女子をナンパしちゃダメだぞ」

俺は作り笑いをしつつ、心の中でナンパなんかしねーよと思っていた。
一組に所属していたときはこんなことを言われなかったのに、四組では言われている。
俺の噂話にドップラー効果でも発生しているのか? まあ、噂話は多少大袈裟なくらいが面白いだろうからな。
まったく難儀なことだ。

トイレに行くと言って一年四組の教室を離れた俺は、観客参加型演劇が行われている第四へと向かっていた。
原作には生徒会長に撃退されたオータム様が、学園の敷地内を逃げている描写がある。
しかし、いつ、どこを、どんな風に逃げるという具体的なことは書かれてなかった気がするな。
襲撃現場は第四アリーナの更衣室だろうからそっち方面なのだろうが、俺は確信を持てないでいた。
ほっといても解決する可能性は高いが、俺の知っていたインフィニット・ストラトスという物語と今の状況との間には差異がある。
俺はこの世界を外側から客観的に見ることができない以上、この先どうなるかなんて解らない。
なら自分の目で確かめたほうがいいだろう。

見つけた。
第四アリーナから少し離れた場所。
俺の足の向く先に三人の人影が見える。
あれは――セシリアとラウラ、もう一人はオータム様か? 二人に捕まったのかもしれん。
空中に視線を移し、オータム様を迎えにきているであろうBT兵器二号機『サイレント・ゼフィルス』を探す。
目を凝らすと、空中に何かが浮かんでいるように見え、それがこちらに近づいてくるように感じた。
多分あれはサイレント・ゼフィルスなのだろう。
セシリアとラウラは気がついていないのか、まだ空を見ていない。
俺はISを展開。
急いでいるため機体チェックは省略する。
PICが重力という名のくびきを解くと、ISはふわりと地面から離れた。
俺はスラスター全開で空中へと羽ばたく。
量子化してあるライフルを呼び出すとサイレント・ゼフィルスに砲口を向けるように構える。
ハイパーセンサーの照準にはサイレント・ゼフィルスが入っている。
警告もせずに攻撃を始めるのはどうかと思うが、IS学園の敷地に無断で踏み込んでいるんだから攻撃されたとしても文句を言われる筋合いはないだろう。
それにサイレント・ゼフィルスはライフルで何かを狙っているように見えた。
俺は牽制のつもりでビームを三連射。
だがそのビームは何かによって阻まれ、サイレント・ゼフィルスに届くことはなかった。
シールドビットか。

セシリアたちの上空に差し掛かると、ラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』が地上から上がってきたかと思うと攻撃態勢に入る。
右肩に装備されているレールカノンで攻撃するつもりだろう。
ラウラの前へと出ると、

「邪魔だ! どけ」

「俺に考えがある。ここは任せてくれ」

と告げた。
俺は機体を翻すと、ビット兵器を四つ切り離し、サイレント・ゼフィルスに向かって飛ばした。
空中を不規則な機動を描くビット兵器。
そのビーム兵器が攻撃を始める前にサイレント・ゼフィルスは回避運動をしつつ手に持つライフルでビット兵器に対し射撃を開始していた。

「正確な射撃だ。だが、それ故読みやすい」

「おい、お前。何が考えがあるだ。格好をつけるのはいいが全機撃墜されだぞ」

俺はラウラにツッコミを入れられていた。

――偏光制御射撃。
BT兵器が高稼働時に可能な射可能な射撃で、それを使ってくると思ったんだが、使うことなく四機のビット兵器は撃墜された。
偏光制御射撃ってのは、ビームが目標に対して追尾するように見えるだろう。
どんなもんなのか見てみたかったんだがなあ。

セシリアのIS『ブルー・ティアーズ』が俺たちの元に上がってきたところで頼みごとをしてみる。

「セシリア、あいつにミサイルを撃ち込んでくれないか? こう、なるべく別方向から向かうように」

俺はジェスチャーを交えながら説明をした。

「いいですけど……、それにどんな意味がありますの?」

セシリアは怪訝な表情を見せる。

「やってみれば解かるよ」

セシリアはわかりましたわと言うと腰のあたりにあるミサイル発射管からミサイルが放たれた。
四本のミサイルは排煙で航跡を描きつつ、別々の方向からサイレント・ゼフィルスに向かって襲い掛かる。
サイレント・ゼフィルスの持つライフルが動いたかと思うとビームが放たれ、そのビームは弧を描くと次々とミサイルを葬っていく。
二度の射撃で四本ののミサイルすべてが撃墜された。
それを目の当たりにしたセシリアが声を発する。

「これはまさか、偏光制御射撃!?」

見ればセシリアは呆然としていた。
今見た光景がよほどショックだったらしい。
ハイパーセンサーが危険を知らせる文字を表示し警告音が鳴る。

「ラウラ!」

俺が叫ぶと、

「解かっている」

ラウラは俺たちから離れるように回避を開始していた。
まったく動く気配がないセシリアの右腕を引っ掴むと俺も回避開始する。
警告音は鳴りっぱなし、俺の脳ミソにチリチリとした何とも言えない感覚がある。
サイレント・ゼフィルスの狙いは俺たちのようだ。
ライフルの砲口がこちらを向いている。
まあ、二人で動いている俺たちの方が的がデカいんだからそれも当然か。
ビームが俺たちに向かってくる。
回避が間に合わない。
そう感じた俺は、左手からセシリアを解き放つ。
俺から離れて行くセシリアが何かを叫んでいるが構っている暇はない。
ビームがすぐそこに迫っているのだから。
それにセシリアに怪我でもされたら一夏のことだ、俺がいながら怪我させたとか怒りそうな気がする。
原作の一夏は福音戦で箒を守るためにシールドエネルギーがゼロにもかかわらず自分の身体を盾にしていたくらいだしな。
俺は左手を盾代わりにビームを受けると、装甲表面は燃えているかのように真っ赤になり、ビームは装甲を内部へと侵入した。
ビームは左手を貫通することはなかったが、装甲の一部は溶け落ちていた。
火はついていないようだが内部で何かが燻ってでもいるのか煙が見える。
ツンとした刺激臭が鼻に付く。
若干左腕に痛みを感じるがそんなの気にしていられない。
俺は右手に持っていたライフルを構えなおすと、申し訳程度に応射するがすべての攻撃がシールドビットによって防がれる。
サイレント・ゼフィルスが動いたかと思うと、俺たちの間を突っ切るようにしてオータム様の間近に降り立ち、六機のビット兵器が機体から放たれると、俺たちを牽制するかのように配置された。
オータム様を助けだしたサイレント・ゼフィルスは再び空へと飛び上がると来た方向と思われる方角に飛び去っていく。
この場から離れていくサイレント・ゼフィルスの姿を見たセシリアが追跡しようとしていたが、ラウラに諫められていた。

地上に降りた俺はISを待機状態に戻す。
ISの左腕は損傷してしまったし、修理が終わるまで山田先生の補習を受けるのは出来ないだろうな。
今回は撃墜されないだけ良かった。
セシリアとラウラに左腕の具合を見てもらうために医務室に行くと言って俺はこの場を離れた。

学園祭も終わりとある日の放課後。
教室の自分の机に突っ伏していた俺の名を呼んだ人間がいた。
それはクラスメイトの女子で理由を尋ねてみれば、その女子は教室の入口を指差している。
指差す方向を見れば入口から顔を覗かせていたのは、のほほんさんだった。
一緒のクラスにいたはずなのに何ヵ月も会っていない気分になる。
俺が久しぶりと言うと頬を膨らませてむくれられ、俺はのほほんさんの機嫌をとるためにお菓子を奢るハメになった。

のほほんこと布仏本音。
俺の元クラスメイト。
着ている制服は改造され袖丈が異常に長く、寮内では着ぐるみを愛用している。
話し方も行動もゆったりしていることから一夏にのほほんと呼ばれることになった。
布仏家は更識家に代々仕えていて、更識姉妹とは幼なじみ。
更識簪の専属メイドであり、ISの整備も手伝っているそうだ。
整備の腕もいいらしい。
そんなに腕がいいなら俺のISを魔改造してくれないかな――などと考えていると、のほほんに腕を引っ張られ連れてこられた場所が明らかになる。
どうやらここは生徒会室のようだ。
その生徒会室に足を踏み入れてみれば、窓を背に会社の経営者が使っていそうな豪華な机と椅子がある。
この生徒会室には俺の他に、生徒会長と一夏、それにのほほんさんの顔が見える。
他にもう一人の見知らぬ人物がいた。
髪を三つ編みにした眼鏡っ娘。
リボンの色が三年生であることから、たぶんこの人がのほほんさんの姉である布仏虚なのだろう。
生徒会での役目は会計だっけ?

生徒会長と視線が合うと俺は姿勢を正す。

「こんにちは、生徒会長。用件は何でしょうか」

ちょっとお堅い挨拶だったか。

ご存知の方も多いと思うが、生徒会長の名前は更識盾無。
本当の名前は刀奈だったか。
更識家の十七代目の当主で、更識家は対暗部用暗部を担っているらしい。
明朗快活、文武両道、料理の腕も中々。
抜群のプロポーションとカリスマ性を持つ。
更識盾無は生徒会長の中の生徒会長と言えるだろう。
日本に住んではいるが、ロシア代表操縦者を努めている。
俺は生徒会長がどれだけ強いのか見たことがないから知らんが、本人が言うIS学園最強もあながち嘘ではないのだろう。

「キミを呼んだのは一夏にくんの生徒会副会長就任祝いをするのと、キミの生徒会での役目を決めようかと思って」

一夏の顔を見れば、副会長就任を喜んでいるようには見えないが、俺は一応おめでとうとお祝いの言葉を贈った。

「一夏の副会長就任を祝うのは構いませんが、俺が生徒会ってのはどういうことですか?」

と言った俺に生徒会長は一歩足を踏み出し、右手に持っていた扇子で俺を差すとこう言った。

「キミは確か――私が観客参加型演劇に参加しなさいと言った時に何て言って断ったのかしら。私の記憶が正しければ、暇な時は生徒会の仕事でも何でも手伝いますと言って断ったのよね?」

覚えていますよ、生徒会長。
でもあの時はそれしか断る理由が思いつかなかった。

「キミも一夏くんと一緒に生徒会に所属してもらうわよ。キミの役目は……そうね、一夏くんの補佐をしてもらおうかな。ということで今日からよろしく」

生徒会長の顔には満面の笑み。
俺を指していた扇子をパンッと音をさせて開くとそこには合縁奇縁という四文字熟語が書かれていた。
俺は扇子に書かれた文字を見ながらこう思う。
明日からどんな運命が俺を待ち受けているのだろうかということだ。

ここからの話は余談であり、蛇足だ。
生徒会長のありがたいお言葉により一夏は生徒会に所属しつつ各部にレンタルされることになった。
俺もオマケとして行くことになっている。
何でこんな面倒なことをするのか不思議に思う。
一夏があちこち歩き回るより一夏を部長にした『一夏部』でも創設すればいいんじゃないかと思う。
一夏部を創れば、一夏がどの部に、どんな順番で派遣されるかを決める必要はない。
一夏に会いたい女子が、会いたい時間に、部室を訪れればいいのだから。
自分が提案しておいてなんだが、『一夏部』という名称からは一体何をする部活なのか謎だが、一夏と語らいながらお茶でも飲んでいればいいだろう。
それが部活なのかとツッコまないでほしい。
活動内容など学園への奉仕活動とでもしておけばいいだろう。
ということで生徒会長に俺の考えを提案してみると面白そうだと言っていたが、一夏は自分の名前がついた活動内容不明の謎部活には反対のようだ。
部活には顧問が必要だが、一夏の姉である織斑先生にお願いすればいいだろう。
ということで俺はさっそく職員室を尋ね、織斑先生を前にして『一夏部』の創設について熱く語ったが、最後まで聞くことなく出席簿アタックをくらうことになった。
いいアイデアだと思ったんだがなあ。
こうして俺が提案した『一夏部』は日の目を見ることなく廃案となった。 
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