Fate/EXTRA IN 衛宮士郎
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二回戦開始
決戦場から出てきて、再び校舎の景色を見ると、ようやく勝利の実感が沸いてくる。それでも、慎二の事が気になってならない。
目の前にいながら、助けることが出来なかった。勝ち続ける限りずっと今の光景を見なければいけないということか。絶対に、何度やっても馴れそうにない。一体どれだけ呆然と立ち尽くしていたのだろう。
「一回戦、終わったみたいね」
「遠坂か」
いつの間にかやってきた遠坂が、声をかけてきた。遠坂も勝ち残ったのか。内心ホッと安心した自分がいる。
「負けて死んだのはアイツの方ね。アジア屈指のゲームチャンプも形無しか。まあ、命のやり取りなんて話、あの馬鹿には未体験だっただろうけど」
まるで今日学校であった出来事を、誰かと話し合うかのように人の死を語る遠坂。確かに慎二はゲーム気分でこの戦いに参加して、その気分のまま敗北し、最後まで死を否定していた。
「……で、どうだった?遊び気分でこの聖杯戦争に参加した魔術師の末路ってヤツ?どう、みっともない死に様だった?」
「っ、そんな言い方……!」
「あのね、ここは戦場なのよ。敗者に肩入れしてどうするの。それでアイツが生き返るワケじゃないんだから」
何も言い返せない。その通りだった。この戦いは、ただ単純に負けたものはただ死ぬ。
「っていうか、何でマスターのあんたが血だらけなのよ?」
「えっ?あっ………」
肩が撃たれたのをすっかり忘れていた。肩に穴が空いている上激しく動き回ったせいか、服の至る所に血が染み渡っている。服をまくり傷の様子を見てみるが
(もう塞がっている…………)
傷口はもう完全にふさがっていた。傷の治りが速いところをみると遠坂も不思議がってた謎の治癒力はこの世界でも健在のようだ。しかし、治りが早くても痛いことには代わり用がない。
「結構な量よ?大丈夫?」
「大丈夫たいしたことじゃないさ。それより遠坂は怪我とかしてないよな?大丈夫か?」
「何でこっちが心配されてんのよ………………まあいいわ。早く私と会うまでに相応しく、もっと強くなりなさい。サーヴァントと共にね」
「嬢ちゃんも素直じゃねぇな。素直に怪我しないでねっていえばいいのによ」
ランサーが実体化してケラケラと笑ってからかうように言うとかぁ〜と遠坂の顔が赤くなる。
「いきなり、実体化してなに言ってるのよ!?別に深い意味はないわよ!」
「わかったわかった」
怒鳴る遠坂をまるで闘牛士のようにのらりくらりとかわすランサー。俺だったら確実に殴られてるのに……………。
「まあ、坊主の場合は、よほどのことがない限り死なねえだろうな。俺の槍でも死ななかったし………」
「ん?ちょっと待って。それってどういうこと?」
「あっ、やべえ」
実体化を解いて逃げるランサー。あの聖杯戦争の話をしてないのかな?理由はわからないがランサーが言わないのなら俺から遠坂に説明することでもないか。
「ああ!また気になることだけ言って逃げたわね」
「その大変そうだな遠坂」
俺の言葉を聞くとキッ!と一睨みをする遠坂。しかし、それはわずかな時間だけで、すぐに踵を返し、階段をゆっくりと登り始める。
「なんか興が削がれちゃったわ。また後日会いましょう衛宮君。いろいろと聞きたいこともあるし…………」
それだけいうと遠坂は階段を登るスピードを早めて姿が見えなくなった。おそらく、ランサーや俺たちの関係が聞きたいのだろう。う〜んここ話すべきかな?
『いつまでぼっとしている。早くマイルームにかえて休むぞ』
悩んでいる俺にアーチャーは怒鳴ってきやがった。さっきまで一言もしゃべらなかったくせに…………。
「はいはい。それじゃあ帰るか」
俺も階段を登り二階のマイルームに向かう。マイルームに帰ってくると緊張がとけたのか疲労感が襲ってきた。無理もない。宝具の投影や血をかなり失った。
「悪い。俺はもう寝る」
「それがいいだろう。今日はもう寝ろ」
アーチャーも積み上げた椅子に腰をかけ腕組みをして目をつぶる。寝るつもりか?英霊は睡眠がいらないはずなのに………………今度聞いてみるか。俺は藤ねえに蜜柑を届けた時に貰った名称タイガーライトの電気を消す。部屋が真っ暗にしてベット(自作)にはいると疲れは思った以上に出ていたらしく、直ぐに眠りについた。明日になれば、二回戦が始まる。今はとにかく休まないとな。
目的のない旅
海図を忘れた航海
君の理想の果てにあるのは、迷った末の無残な死だ
……だが 誰しもは初めは未熟な航海者に過ぎない
骨子のない覚悟では、勝利には届かない
残り64人
動くもの一つ無い、戦いの終わった戦場を見つめる少女の夢を。いや、それを少女の夢と称するのは過ちである。
目の前にいる己の為した破壊と殺戮を見据えるその少女は確かにセイバーだが、傍に居る筈のセイバーでは無く、召喚された時の彼女ですらなく、一人の王であった。
王は、青と金の豪奢な装飾が施され黄金の光を蓄えた彼女の剣を地に突き立て、真直ぐに前だけを見詰めている。その瞳は、微塵も揺るがない。視線を辿ってみると
(あっ…………)
思わず息をついてしまった。
王が見つめているものは、王自身の死である。戦場の中心で、愛馬にもたれた己の姿。その身体にはもはや手遅れとわかる傷が刻まれ、周囲に味方の姿も無い。
護ろうとした国に裏切られ、滅ぼされる。それが、王の未来であった。
『それでも、戦うと決めた。避けえない、孤独な破滅が待っていても。それまでに救えるものがあるのならば』
剣を担い王が呟くのが聞こえる。
それは、誓い。何者にも汚す事叶わぬ誓い。死の眠りに伏し、王が呟くのが聞こえる。
『だが、私は間違えたのだろうか。あの時、剣を抜いたのが私でなければ、この結末にはならなかったのではないのか。憎しみ合い、穿ちあう必要など―――』
それは、迷い。願いの果てに見つけてしまった迷い。呟きと共に、世界の全てが消えていく。
《二回戦 一日目》
悲しい夢を見た気がする。内容を思い出すことができないが悲しいという気持ちだけが俺の中に残っている
気晴らしも兼ねて校舎を歩き回っているとあることに気がついた。
「人が少なくなっている………」
先日まで人で溢れかえるほどいた廊下が嘘のように静まり返っている。
『単純に計算するならば、128人の半分が消えたことになるからな』
昨日の対戦で五十人以上の人がいなくなったことになるな。戦いが進むに連れて、これからもどんどん減って行くのだろう。校舎を歩きながら少なくなったマスターを見る。
ある者は勝利の笑み。
ある者は生き残った事の安堵。
ある者は次の試合の為の準備。
そしてある者はこの戦争をゲームだと勘違いし、一回戦で現実を見せつけられ敗北を恐れる表情。
理解したのだろう。ここが戦場だということを。参加者全員のピリピリとした空気が学校全体を覆っているようだ。
「しっあわっせはー、あっるいってこっない、だーから歩いていくんだね!」
前方からスキップしながらやってくる白野。…………………先ほどの言葉を訂正しよう。一人だけ飄々としている奴がいた。
「一日一歩ー、三ぃ日で三歩、さーんぽ進んで二歩さっがーる!へい!」
「って、結局一歩しか進んでおらんではない!」
わざわざ実体化してまでもツッコミをいれる赤セイバー。さらに訂正しよう。二人だけ飄々としている。
「あっ、おはよう士郎。一回戦勝ったのか」
「……………ああ、何とかな」
弓道場の時とは違い、人懐こい表情で喋りかけてくる。う〜ん、なんか昨日のこともあるから、会話しにくいと思ったがそうでもないな。
「これから、次の対戦相手を見に行くんだけど、一緒にどう?」
「もう次の対戦相手が発表されているのか?」
「いや、端末機に連絡がきてるけど………」
「えっ!?」
慌てて端末を操作して調べてみると
【2階掲示板にて、次の対戦者を発表する】
かなり前から連絡がきていた。全然気づかなかった……………これからは、確認するのを忘れずに確認しよう。
「それでどうする?」
「わかった。一緒に行こう」
『貴様正気か?』
アーチャーの驚いた声が聞こえてきた。アーチャーの言いたいこともわかる。この戦いに対戦表というものが存在しないため、おそらく対戦者はランダムに決まるだろう。
下手すれば、今隣にいる白野が次の対戦者かもしれない。しかし…………
(一緒にいても襲ってくるわけじゃないし。こいつのことを知るチャンスだろ?)
会ってまでそんなに日がたってない上に、どんな人物かを見極めたい。
『やれやれ。うちのマスターも随分と腹黒になったものだ。いや、師匠の影響かな?』
霊体になっているため見えないが、おそらくいつものポーズで飽きれているのだろう。ってか、何気に遠坂のことバカにしたよな?
本人がいたら殺されているかもしれないぞ。あっ、いないからこんなこと言えるのか。
「お〜い、士郎。早く行こう」
「あっ、すまん」
俺は白野と一緒に掲示板のある場所に向かった。道中、情報を聞き出せないかと赤セイバーについて聞いたところ
「知ってる?セイバーっていつも寝る時俺に抱きついてくるんだ。可愛いでしょ」
「へぇ〜そうなんだ」
何故かひたすらサーヴァントの自慢話を白野から聞かされている。
転んで起き上がった時に涙目になっていた顔が可愛いいとか。
湯上りの姿が綺麗だとか。
エネミーとの戦闘の時華麗に戦うとか。
寝言を言っている赤セイバーに萌えたとか。
正直、聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなことばかりだ。
(アーチャー。頼む。俺と変わってくれ!)
『断る!貴様が巻いた種だろうが!!』
薄情なサーヴァントめ。そんな会話をしながら掲示板の場所まで到着すると、それぞれ相手の名前を確認することにした。
白野の対戦相手が気になったので見てみるが、自分の対戦者以外の文字が読めない。情報が自分のだけと制限されているようだ。
諦めて自分の所を見てみると掲示板には、前回の様に二人の名前が記されている。自分の名前と、そして
『マスター:ダン・ブラックモア
決戦場:二の月想海』
「ダン・ブラックモア…………」
俺の記憶には聞き覚えのない名前だ。慎二とは違いどのような相手なのかわからないな。
「君か。次の対戦相手は」
背後から聞こえた声に振り向くと、老人、いや老騎士と表現するのが正しい人物が立っていた。
いつの間に後ろにいたんだ!?気配すら感じ取れなかった…………。
「無事一回戦を勝ち残れたようだな。おめでとう」
これから殺しあう相手に贈る言葉とは思えない突然の祝辞。
「あっ、いえ、そんな…………」
それに返すのを一度躊躇ったが、彼の言葉に皮肉や敵意は感じられなかった。心の底から俺に対して賞賛を送っている。
「ふむ……」
老騎士ダン・ブラックモアは俺を採点するように睨む、という程の鋭さはないが、かといって優しくもない、感情の篭らない眼差しで見てきた。俺を品定めしているといえばいいのかな?
「若いのに、良い目をしている。まだ、若いが実践経験を多くしたものがするような戦士の目だ」
「あ、ありがとうございます」
ついお礼を言ってしまう。俺の言葉に笑みを携えて、老人はその場から背を向ける。
「せっかくの一騎打ちだ。お互い良い戦いをしよう。では、失礼する」
それだけいうとダン・ブラックモアは立ち去った。 第一印象では平等な条件下での戦いを求めているような様子が取れる。
平等な条件か戦いを求めるなんて初めてだ。体験したほとんどの戦いは、平等とはかけ離れたものばかりだったからな………………。
相手が求めているものが自分の納得できるものなら少しでもそれに応えなければ。それが殺し合う相手に対する、最低限の礼儀。
歩いていく老騎士の姿を見送ると、アーチャーは実体化してつぶやくように感想を漏らす。
「どこかの兵士のようだ。かなりの手練れと見た。間違いなく初戦よりも強敵となるだろう」
「ああ、心してかからないとな」
珍しくアーチャーと気があった。前回とは違い、暗号鍵を集めるのも困難になるな。
「いや、あの老騎士から反逆の相が漂っておるぞ」
「「!?」」
突然の第三者もとい、赤セイバーの言葉に驚く。実体化していきなり何なんだろうか?
「いきなり何かね君は?」
俺と同じことを思ったのかアーチャーが尋ねた。
「うむ。簡単に説明するとあの男からは騎士を名乗るにふさわしい。余としてもサービスしすぎてはないかと思うほどの武人の心を感じた」
確かにそれは俺とアーチャーも感じたと思う。衰えの感じられないあの姿は、深い年輪を重ねた大樹を思わせる。
「しかし、先ほども申したがあの男の周りからは反逆の相が滲み出ている。警戒しておくのがよかろう」
「その根拠は何かな?」
「そんなの決まっておろう?」
赤セイバーは自分のアホ毛に指を差す。ちなみに白野曰く赤セイバーの可愛いチャームポイントらしい。
「余のくせっ毛が反応しておるからだ!」
アーチャーの言葉に赤セイバーは、胸を張り頭にあるアホ毛を揺らせ、堂々とした態度を取った。
「な、なるほど」
「…………………それはすごいな」
自分でもわかるくらい苦笑いをしている俺とこめかみを抑えつぶやくアーチャー。堂々とした態度に俺たちは言葉がそれしかでてこないようだ。いや、第一それ根拠じゃないだろ?
そう言おうと思ったが、藪蛇になりそうなのでやめておくことにしよう。一方、赤セイバーの言葉はさらにつづく。
「そして、余の嫌いなものは倹約!没落!反逆だ!覚えておくがいい」
赤セイバーに便乗して悪ノリしたのか白野も
「俺が好きなのはセイバーだ!覚えておけ!!」
赤セイバーと同じポーズで叫んだ。さっきの会話でそれぐらいわかるよ。なんか、頭が痛くなってきた………………。
「………………行くぞ。マスター」
「………………ああ、そうだな。それじゃあ俺たちはこれで。またな白野」
白野たちに別れを告げると俺は一目散に一階の保健室を目指す。彼処は参加者の健康管理などもしていた。頭痛薬ってあったかな?
「余も奏者のことが大好きだ!!」
「相思相愛だな俺たち!」
「「ハハハ!!」」
掲示板の場所からは二人の笑い声が反響してくる。あれが世にいうバカップルというものだろう。少しはTPOというのをわきまえて欲しい。
『第一暗号鍵を生成。第一層にて取得されたし』
暗号鍵の生成を告げる携帯端末に従い、アリーナに向かおうとしたところ、
「こんにちは。衛宮くん」
丁度購買から出てきた遠坂と鉢合わせになった。
「貴方の対戦相手、聞いたわ。ダン・ブラックモアとはついてないわね………」
「知ってるのか?」
「ええ。現役じゃないけれど、彼は名のある軍人で西欧財閥の一角を担う王国の狙撃手だったわ。現役の時は、匍匐前進で一キロ以上進んで敵の司令官を狙撃したとか、いろんな逸話があるもの」
「へぇ〜」
遠坂が言っているなら本当のことだろう。なみの精神力じゃない。今回は一回戦とは違い、強敵になるな。
だが、話を聞いた限り、赤セイバーが言っていたことは当てはまらないような気がする。やっぱりただの気のせいなんだろうか?
「一回戦とは何もかも違う。見た所記憶も戻って無さそうだし、ご愁傷様」
遠坂は俺に見切りをつけたように、そしてどこかからかうように遠坂は言う。
「まあ、例えあんたの宝具がどんなに強くても、このままだとあっさりサー・ダンに殺されるでしょうね」
あっ、意地悪そうな笑みを浮かべてるな。しかも、あっさり殺されるって……………俺そんなに弱そうに見えるかな?
「残念ながら、俺はまだ死ぬわけにはいかないさ。それにまだ、宝具なんか使ってないぞ」
そのように返すと唖然とした顔で遠坂は絶句していた。なんかまずいこと言ったかな?
「……宝具、一回戦で使ってないの?」
「え、あぁ、うん」
螺旋を描く刀身を持つ剣、螺旋剣や北欧の英雄ベオウルフが振るった剣赤原猟犬などは、確かに使ったがあれはアーチャーの宝具じゃない。カラドボルグは俺が使ったしな。
「それってサーヴァントの力を完全に使ってないわけ?そんな状態でエル・ドラゴを倒したの!?」
「そうなるかな」
驚きの声をあげる遠坂。俺も別の意味で驚いている。あの会話だけでライダーの真名を突き止めるとはさすが遠坂だ。
「……私てっきり、貴方の白髪のサーヴァントの宝具が桁違いに強いから、エル・ドラゴも宝具頼みで倒したかと思ってたわ」
遠坂はそういうが、アーチャーの宝具は、正確には言うと、使いたくても使えないのが現状。
【固有結界 無限の剣製】
いくら俺が成長したからと言っても起動させるための魔力が明らかに足らない。遠坂並みの魔力があってやっとだ。
(それに今使ったら遠坂が…………)
ギルガメッシュと戦った時みたいに使えないかと尋ねたことがあるが、アーチャー曰く
「使えないこともないが。凛が死ぬぞ」
セイバーと契約し、俺を通じてアーチャーへの魔力供給。
俺の魔力があるとはいえ、実際のところサーヴァントを二人も契約しているのと変わらない。
記憶にある遠坂も俺同様に魔力の量が増えてるが、二体同時契約は負担がかかりすぎる。そのため宝具は使えない。
しかし、レオのサーヴァント、大英霊ガウェインのような相手ともいつか戦わないといけない場面で使えなかったりしたら、負けるのは目に見えている。早くこの問題をなんとかしないと……………。
「少し、見直したかも。貴方の勝機を信じてみるのも良いかもね。頑張りなさい」
「ああ」
遠坂はそれだけ言うと立ち去って行く。応援されたってことでいいのかな?立ち去る遠坂を見届けてから、俺はアリーナに向かった。
アリーナの入り口にたどり着くと気配を感じたため、気配を殺し入り口を覗いてみると ブラックモアと一人の青年がいたものだ。
「いいか、一回戦とは違い、今回の相手は油断できない。予断も独断も感心はせんぞ」
どうやらサーヴァントと会話をしているようだな。
「へいへい、わかってますって。一回戦よりはマシな相手だって割り切って当たらせて貰いますよ。だけど、俺には対した相手に見えないですが」
そうニヒルに笑い、ブラックモアを見る緑衣の青年。
草木とほど近い色合いの衣装と、どこか整えられていない金色の髪は、風が吹けば葉と共になびくような自然さを感じさせる。
落ちついているが、本人は落ち着きが無い。そんな印象の在る、サーヴァントだ。
「だからこそ、油断はならんと言っている。一回戦の様な独断は許さん。この戦いでは、とにかく私との連携を取ってもらおう」
「了解っと。…ったく、口うるさい爺さんだこと」
最後は呟く様にして吐き捨て、アリーナに入って行く。転移が完了すると、そこには静けさだけが置いていかれていた。
「あれが、ダン・ブラックモアのサーヴァントか…………」
「ふむ。何処かランサーと同じような匂いがするな」
「どういうことだ?」
「気にすることではない。我々も行くとしよう」
アーチャーはアリーナに入っていき、俺も慌ててあとを追いかけた。
《二の月想海 第一層》
二回戦のアリーナ第一層は、外見的な変化は一回戦の時の使い回しのように色違いだけだ。転移の魔法陣から身を乗り出し進もうとすると
「ゴフッ」
吐血してしまった。すぐに身の回りを漂う違和感に気付く。目を凝らせば、辺り………いや、アリーナ全体に薄い紫色の霧で覆われていた。
「……アリーナ全体を範囲にした毒だな。奴らが宝具か何かを使い、私達が弱るのをどこからか見てるのか。それとも最初からアリーナ自体に設置されていた罠だろう。見たところ前者のようだが」
あのサーヴァントの仕業と見ていいだろう。しかし、弛緩性の毒じゃないのは不幸中の幸い、動けるのなら、この毒を解除することも出来る筈だ。
「このエリアを探せば起点はある筈だ。それを破壊する。そうすればこの毒も消えるだろう」
「そうなのか……よし、行こう!」
話しているだけでも毒は力を奪っていく。一刻も早く毒を解除するために走り出すが、直ぐに足が地面から離れた。
「激しく体を動かすな。サーヴァントならある程度大丈夫だが、貴様にはこの毒は負担がかかりすぎる」
「お前の言いたいことはわかるがこの格好やめてくれ!!」
俺の現在の状況。アーチャーの脇に抱えられている。恥ずかしい上に男としてすごく情けない。
「たわけ!私とてこんなことしたくないが仕方ないだろう。私も我慢しているのだ。貴様も我慢しろ!」
こいつの意見は正しいのが悔しい。くっそ。こんな格好遠坂やセイバーに見られたら一生の恥だ。先に進むと、当然のように鉢型や箱型のエネミーが出現する。
道中のそれらはアーチャーが滅しながらも、少しずつ毒に犯されていく俺はアーチャーに抱えられて進んでいく。
「あっ!あれだアーチャー」
「あれが起点のようだな」
しばらくして、辺りを漂う瘴気を生み出している一本の木がアリーナの行き止まりに立っているのが透けて見えた。
アーチャーが起点に近づいて行くと霧の色も濃くなり、毒も少しずつ強くなっていく。
(厄介な宝具だ………急がないとまずい)
俺と同じことを思ったのか、アーチャーも移動スピードを上げる。そして、起点の近くまでくると
「これはどういうことだ!」
ブラックモアがサーヴァントを怒鳴っているのがきこえる。
「しゃがめ」
俺はアーチャーの言われたとおり、身を屈んでその場に伏せ、アーチャーも壁に寄りかかった。
「どういう…って、旦那を勝たせるために結界を張ったんですよ。決勝まで待つなんて、前回も思ったけど面倒ですし?」
どうやら予想通り、この結界はサーヴァントの独断による発動のようだ。
(隙があるけど、どうする?)
(ここは、手は出さない方がいいだろう)
アーチャーはアイコンタクトで俺に合図をしてきた。確かに、情報もないのに相手に襲いかかるのは、危険だ。ここは情報収集に徹することにした。
「誰が、そのような事を命じたのだ、と言っている。イチイの毒はこの戦いには不要だと言った筈。戦わずして相手を嬲るなど、どうにも誇りと言うものが欠如しているようだな」
早速情報がきたなイチイの毒。それがこの結界の正体か……………つまり、それがあのサーヴァントの出自に関わってくるのだろうか。
「だーかーら、最初にも言ったんすけど、俺には誇りなんて求められても困るんだっての。それで勝てるんなら、俺は英雄になんざなってませんし?それで相手を倒せるんだったらよかったんですが、俺は毒を盛って殺すリアリストなんでね」
どうやらあのサーヴァントは誇りとかそういう類のものを重視する英雄ではないようだ。セイバーのように真っ正面から戦うのではなく、奇襲、毒殺といったやり方で勝つのが、サーヴァントのあり方らしい。
「成程、奇襲に条約違反と言った策に頼るのがお前の戦いか」
そう言ったブラックモアの声は、一段とトーンが落ちていた。ありありと見て取れる怒気は、隠れて様子をうかがっている俺たちにも届いている。一触触発のピリピリとした空気の中、再び彼は口を開く。
「いまさら結界を解け、とは言わぬ。だが、信義と忠心。その二つをしっかりと教え込まねばならないということは分かった。……今は戻るぞ」
「……はいよ。仰せのままに」
渋々返事をする声と共に、二人はリターンクリスタルを使ったのかその場から消えた。
ようやく先に進むことが出来る。
先に進むと一本の木が立っていた。
眼前の木からは毒々しい、濃密な魔力が零れ、濃い紫の霧が出ている。
間違いなく、あれこそが毒の基点。
「あれが起点だな。アーチャー!」
「承知した」
アーチャーは干将・莫邪を投影し起点の木を切り倒す。すると、あたりの紫色の霧は消え、呼吸が楽になった。
「これでやっと探索ができるな。行こうぜアーチャー」
「いや、今日はここまでにしておこう。あれだけ毒を浴びたのだ。体に異変があるかもしれん」
異変って言われても対したことはないんだが、ここはアーチャーの意見に賛成した方がいいかもしれない。
リターンクリスタルを砕き、マイルームへと戻ることにした。
夢を見ている。
目の前に見えるのは、ビルの屋上から空を見上げる俺とセイバー。
その二人の視線の先には、天馬に乗ったライダーがいた。
見る機会がなかったが、おそらくこれがライダーの宝具なのだろう。
「貴方達は格好の餌食というわけです!」
ライダーは己が愛馬に命じて急降下させる。天から落ちる流星のようだ。天馬は一筋の光となってセイバーへと襲い掛かる。
音速に迫る……否、同等以上の巨大質量の突進。言うなれば戦闘機の特攻にも等しい破壊力だ。
「させるかぁっ!」
だが、さすが最優のクラスと謳われるセイバー。
超音速の突進を自らの剣でどうにか軌道をそらすが、セイバーも吹き飛ばされる。
「く…………!」
「まだです」
ライダーの攻撃は続く。一度躱されたくらいでは終わらない。一度回避されたといってもペガサスは死んではいないのだ。
旋回し、再びセイバー達の居る場所をロックオンすると二度目の突進を仕掛けた。次はさっき以上の速度で、二人を狙った突進。
「ぐっ!」
再度、セイバーは天馬の突進を剣で軌道をそらす。しかし、剣と天馬との衝突のせいで、剣を地面に突き刺し、膝をついてしまった。
「ほう、これを耐えるとは……………やれやれ、強制はしたくなかったんですが、仕方ありません。私の宝具で決着をつけましょう」
ライダーは倒れないセイバーにしびれを切らしたのか、全力を出すつもりだ。
「騎英の手綱!」
ライダーの手に手綱が現れ、天馬に装着された。恐らくこれが騎乗兵としての本来の能力。
だから、天馬のような格の高い幻獣をも従わせることができるのか。
「猛ろ!天馬よ!!」
大きく旋回したライダーを乗せた天馬は、先ほどとは比べ物にならない位、急激にスピードが上がった。それはまさに光速と呼んでもいい。
それになんて圧力だ。あんなものをくらったらセイバー達は塵一つ残らない。あの手綱は、ペガサスの潜在能力をも高めるのか。
「天上の神々に愛された美しき我が子よ!その蹄を轟かせ眼前の敵を蹴散らすのです!!」
セイバー達が立っているビルの屋上まで残り数十メートル。覚悟を決めたのかセイバーは
「いいでしょう。私も全身全霊を持って倒します!」
風王結界
を解き、自らの聖剣の真の姿を解放した。セイバーは天馬が激突するであろう場所に立つと
「あなたの宝具に答えましょう」
聖剣の刃に魔力を流し、変換、集束・加速させることで神々しい光が宿る。
「私はこの一閃で進むべき道を切り開く!ゆくぞ!!」
セイバーは自らの手にある聖剣振りかぶり
「約束された勝利の剣!!」
究極の斬撃を放つ。凄まじい轟音。単純な破壊力でいえば神霊レベルの威力を誇るエクスカリバーの前に存在できる物などない。
「ば、馬鹿な!?この子が敗れるとは――――!!」
ありとあらゆる存在を切り裂く光の奔流は、ライダーと天馬に破壊していく膨大な光の束に完全に飲み込まれ、何も言い残す事無く、ライダーは天馬と共に無へと還っていった。
「うわぁぁぁっ!!」
目を覚ました。ぼんやりとした意識のまま、天井を眺める
「……なんて夢だ」
手のひらで顔を撫でながら、呟く。額に浮かんだ汗が、指先を濡らした。それほどまでに、ついさっきまで見ていたであろう夢は、破壊力があったのだ。
チラリとアーチャーの方を見てみる。アーチャーは目を瞑り、俺が眠る前と同じ格好でいた。
よく椅子がただ積まれているあんな不安定な場所に腕を組んで寝てられるな……………。まあ、そんなことより、
(今の夢は……………)
アーチャーがエミヤシロウの時の聖杯戦争のことだったんだろうか?でも、何で?
(んっ?そういえば…………)
以前、遠坂が言ってたな。マスターとサーヴァントは精神的に繋がっている。結びつきが強くなればなるほど、相手の過去を垣間見ることがあるって。
なんだかんだで、こいつは俺のことをマスターとして認めた。そのことにより、こんなことが起きたのかな?
でも、此処って電脳世界なんだけど夢って見るのか?う〜ん、……………さっぱりわからん。
(考えても仕方ないか…………)
別に問題があるわけじゃないし、気にしないでおこう。
《二回戦 2日目》
昨日手に入れた情報――イチイの毒について図書室で調べようとしてアーチャーと共に向かった。すると
「ごきげんよう」
後ろから抑揚の無い、どこか機械的な声が掛けられる。振り向いてみると眼鏡を掛けた薄紫の軽くウェーブのかかった髪を腰くらいまで伸ばし、露出の多い変わった服を着ている褐色の少女が立っていた。
何度か廊下ですれ違ったことがあるが、喋るのは初めてだ。自己紹介をしておくか。
「おはよう。俺の名前は、衛宮士郎。えっと……………君は………」
「私はラニ。貴方と同様、聖杯を手に入れる使命を負った者。私は貴方を照らす星を見ていました」
星?何のことだろうか?よくわからず、戸惑う俺など気にせずにラニは言葉を続ける。
「他のマスターたちも同様に詠んだのですが、貴方だけが霞に隠れた存在。――どうか答えてほしい。貴方は、何なのですか?」
「え?」
本当に分からない…………返答に困るな……………。思わず、一歩後退してしまう。
「――警戒しないで下さい。私は、貴方の対戦者ではないのですから」
「……………ああ、わかったよ」
無意識の内に警戒心を持っていたようだ。ラニに指摘され、それを抑える。でも、いきなり変なこと言われたら…………な?
「さっきも言ったけど、俺は衛宮士郎。それ以上でもそれ以下でもないさ。というか何でそんなことを聞いてくるんだ?」
「私は新たに誕生する星を探している。その為に、多くの星を詠むのです」
「ふ〜ん」
星というものは何をさしているかわからないが、恐らくこの学校で誰かを探しているのだろう。
「私はもっと星を観なければならない。ですので協力を要請します。ブラックモアの星を、私にも教えてほしい。そしてあなたはブラックモアの情報を手に入れる」
いかがでしょう、と促されるが、つまりはどういう事なのだろうか?
星を詠む、という行為についても良く分からないが、対戦者の情報がわかるなら、有益なものになるだろう。
相手の情報がまだあまりないからな………………貰えるなら貰ったいいだろう。アーチャーはなんかいうかもしれないけどいっか。
「わかった。協力するよ。俺はどうすればいいんだ?」
「何かどんな小さな遺物でも良いから持って来てください。どれだけ希薄な物であろうと私はソレから星を読み取ることが出来る」
要するにサーヴァントが使ったものあるいはその一部を持ってこればいいのか………………。
それを渡すことによって情報が手に入る。いつの時代になっても魔術師が等価交換を求めるのはずっと変わっていないな。
「了解。任せろ」
「ありがとうございます。では、ごきげんよう」
そう返すとと頭を下げ、ラニは歩いていった。その姿を見送ると
「やれやれ、貴様はすぐに安請け合いする。今がどんな状況かわかっているのか?」
アーチャーが飽きれながら実体化してきた。くっ!やっぱり、こいつの呆れたような顔はムカつく。
「うるさい。いいだろ別に」
「まっ、今回は報酬があるだけよしとしてやろう。無償奉仕はごめんだからな」
ふぅ〜とため息をつき、実体化を解くアーチャー。こいつと結びつきが強くなったって嘘じゃないか?そんなことを思いながら、図書館へと向かった。
図書室につくととりあえず片っ端から植物図鑑を引っ張り出して調べてみる。イチイについてはすぐに見つかった。
【イチイ】
別名アララギ。
果実は甘く、そのまま食用にしたり、焼酎漬けにして果実酒が作られる。
しかし種子には有毒 が含まれている。種子を誤って飲み込むと中毒を起こし、量によってはけいれんを起こし、呼吸困難で死亡することがあるため注意が必要である
ケルトや北欧では聖なる樹木の一種とされている。
また、イチイの弓を作るという行為は、「森と一体である」という儀式を意味する。また、イチイは冥界に通じる樹ともされる。
花言葉は 心残り 悲しみ
「なるほど…………」
パタンと読んでいる本を閉じ、元の場所に戻す。情報をまとめると相手はケルトか北欧神話の出身で、毒などを使う英霊。しかし、これだけでは、真名を絞るのは無理だ。
ラニの頼みもあるし、今日はもうアリーナに向かい、相手に関わる物を探しに行くとしよう。図書館から出て階段を下ると
「あっ!衛宮くんいいところにいたわね」
「……………………」
藤ねえが立っていた。はぁ〜嫌な予感しかしない。
「実は、柿をアリーナに落としちゃって、お願い!見つけたら私に届けて」
いや、まだ何も言ってないんだけど……………どうしよう。断った方がいいよな。でも、怒ったら厄介なことになるのはめにみえてるし……………。
『マスター、私達が逆らえるとおもうか?』
(無理だよな……………)
渋々、承諾するという意味で首を縦に振ると
「じゃよろしくね〜!!」
藤ねえは何処かへ走り出した。相変わらず元気だな………。
《二の月想海 第一層》
アリーナの第一層は最初に来た時と変わらず、殺風景が広がっている。
幾つかのエネミーの影が見える。干将・莫邪を投影して切り込んだ。
一体目の箱のようなエネミーは単純ながら素早い攻撃を連発してきた。
回避と防御を使い分けつつ、急所を突いた一撃で消滅させる。すぐさま、干将・莫邪を消し
「投影開始」
新しい干将・莫邪を作り出す。
無意味なことに見えるが、これは、アーチャー曰く、
「戦いの中で投影した剣が壊れた時にすぐさま、同じ剣を投影して戦うことができるかどうか」
のトレーニングらしい。二体目の鉢型のエネミーは大振りの攻撃を連発してくる。冷静に攻撃を避けつつ、合間に隙の小さい攻撃で何度か攻撃し、倒すことが出来た。
先ほど同様、二本めを破棄して、
「と、投影再開」
三本目の干将・莫邪を作り出す。
三体目のワニの口のようなエネミーは防御体制を崩さず、此方の攻撃に対して反撃を行おうとする。
「同調開始《トレース・オン》」
干将・莫邪に強化の魔術をかけると刃渡り50cmぐらいの夫婦剣が、1m程の大きな双剣に変化した。一撃で決める!!
「はぁっ!」
エネミーを斬りつけると防御した状態で、そのまま倒す。チラリとアーチャーの方に視線を移すとアーチャーは首を左右に振った。
「まだまだだな。お前は、まだ投影するスピードが遅い。もっと早く投影せねば、素早い相手などには勝てん」
評価は頑張りましょうだそうだ…………。悔しいがまだこいつの投影のスピードに比べると遅いし、投影されたものが脆いし弱いのはわかる。
(そうは言われても、どうやって投影のスピードをあげればいいんだ?)
俺の投影は
創造の理念を鑑定し、
基本となる骨子を想定し
構成された材質を複製し
製作に及ぶ技術を模倣し
成長に至る経験に共感し
蓄積された年月を再現し
これらを投影して、始めて完成する。これを、もし一つでも手を抜けば、すぐに壊れてしまう。確かに、投影のスピードが上がれば、それだけ戦略の幅が広がっていくけど…………。
(どうしたものか…………)
そんなことを考えながら、しばらく歩き回ると、毒を撒き散らすイチイの木があった場所に辿り着いた。
「ん?これ…………」
足元に違和感があるのでみてみると欠けた矢じりが落ちている。ひょっとしてあのサーヴァントのものじゃないか?一応、拾っておこう。
「今日は、昨日いけなかったおくまでいくとするか」
「ああ、暗号鍵も回収するとしよう」
アーチャーと二人道を進んでいくと、広い場所にでた。あたりを見回すと転がっていた消滅していないエネミーを見つけた。どうも様子がおかしい。アーチャーが近づき、様子を見てみる。
「死にかけてるだけで、外傷はほとんど無しというところか。これが原因のようだ」
そのエネミーに突き刺さっていた矢をひっこ抜くと、当の昔に限界が来ていたのか、溶けるようにエネミーだけが消えて行った。
アーチャーの手に残った矢も消滅し始めたが、矢の後ろについている風切羽だけが残る。それをしまい、エネミーを倒しながら、更に奥に進むと脚に何かが触れた。
「ん? これ、何だろう?」
一本の細長い棒が落ちていた。折れてはいるが、矢の一部だろうか。鏃、棒、風切羽これまで見つかった遺品が矢ばかりであるため、相手のクラスが想像できた。
「あの緑の奴もお前と同じ弓兵だな」
「私と同じとは少し語弊があるが、まあ、そんなところだろ」
相手のクラスも特定できた上、ラニに渡す物に関してはこれで十分だろう。後は暗号鍵だな。歩き続けると通路の中心に置かれているあるものに目が奪われた。
「ダンボール?」
ガムテープで蓋をされたダンボールが落ちている。ひょっとして……………。中身を開けてみると案の定、中身は柿が入っていた。しかもかなりの量。
「藤ねえ、これ一人で食べる気かな?」
「くだらんことを聞いてくるな。あの人に常識など通用しない」
「ごめん。そうだったな…………」
春はイチゴを山のように持ってきて、夏は、スイカを野球部が使うほどの数ほど持ってきて、柿は、渋柿、干し柿、甘柿など数々の柿(稀に牡蠣)を持ってきて、冬は、ダンボールをいっぱいの柿を引越しに使うぐらいの数を持ってきたな。桜や遠坂やセイバーがくるようになってから大分、処理が楽になったが、一人で暮らしていたころなんか毎日三食でてきったっけ………………。
「うっ……………ちょっと気分が………」
思い出すと胸焼けがしてきた。食べても食べても次々に運ばれてくるためみかんが詰まったダンボール箱減らない。それを減らすためあらゆる手を使い一週間三食みかんを使ったっけ。
「た、耐えろ」
「が、顔面蒼白のお前が言っても説得力がないぞ…………」
「き、貴様もだろ」
俺たちはダンボールをしまうとよろよろと探索を再開する。何とか暗号鍵をゲットすることができたが、気分が最悪であったため今日はここまでにして 切り上げることにした。
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