ドリトル先生と京都の狐
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第四幕その九
「いや、湯船にもね」
「大分馴染んできたんですね」
「そうなんだ、随分とね」
「イギリスじゃ湯船に入るなんてまずないですからね」
「シャワーだからね」
「はい、それで済ませますから」
「お風呂はあってもね」
本当にです、シャワーだけで済ませるからです。
「そうしたものだからね」
「そうですね、けれど先生はもう」
「うん、日本に来てまだ少ししか経っていないけれど」
それでもだというのです。
「随分馴染んできたよ」
「先生日本に合ってるね」
王子は頭を洗いながら先生に顔を向けて言ってきました。
「僕よりもずっとね」
「そうかな」
「うん、だって僕まだ湯船には抵抗があるから」
「そういえば王子のお国では」
「そうだよ、シャワーか水浴びだよ」
それで済ませるからです、王子のお国は暑いので水浴びでも充分なのです。
「だから湯船はね」
「抵抗があるんだね」
「そうなんだ、けれど先生はもう」
「ううん、そう考えると合っているのかな」
「そう思うよ」
こう先生にお話する王子でした。
「傍から見てだけれどね」
「そうかもね、日本酒も飲めているしね」
「それと和食にも馴染んでるしお箸の使い方もね」
「慣れてるんだね」
「そう、後ね」
「後は?」
「浴衣の着方も」
それもだというのです。
「馴染んでるよ」
「そっちもなんだ」
「うん、僕の着こなしは自分でもどうか思うけれど」
王子はこの辺りあまり自信がありません、日本の服を着ても何かが違うといつも思ってしまうのです。ですが先生は。
「先生は違うから」
「ちゃんと着られているかな」
「ばっちりだよ」
太鼓判さえ押しての言葉です。
「もうね」
「そうなんだね」
「僕もそう思います」
トミーはシャワーで身体の泡を洗い落としながら先生に答えました。
「先生浴衣の着方もいいですよ、あとお家でも」
「日本の服の着方がだね」
「はい、あの甚平っていいますか」
その服をです、先生は最近お家でよく着ているのです。外出の時は絶対にスーツにネクタイという真面目な格好ですが。
「あれも似合ってますよ」
「そうかな」
「とても。本当に日本人みたいに」
「ううん、生まれも育ちもイギリスなんだけれどね」
先生は湯船の中で微妙な顔になってトミーの言葉に応えます、その頭の上には丁寧に折り畳んでいるタオルがあります。
「それでもなんだ」
「うん、本当にね」
「日本人みたいだね」
「そこまで馴染むなんてね」
王子もでした、このことは。
「僕も予想しなかったよ」
「そうなんだね」
「うん、けれどいいことだよ」
「今いる場所に馴染めるってことはだね」
「そう、合っていると楽だからね」
だからだというのです。
「いいことだよ。だったらね」
「今度は何かな」
「日本に長くいてね」
「そうしたいけれどね、今はそう考えてるよ」
「それで奥さんも見付けたらどうかな」
「それよくサラにも言われるよ」
日本にいてもイギリスにいる時と同じ頻度で合っている妹さんにです、先生は会う度に言われています。もう何年も何年も。
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