魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep50貴女が思い描いた物語の果て~Ace of Aces~
†††Sideなのは†††
ルシル君はフェイトちゃんに任せて、私とシャルちゃんはセレスさんを止めるために“エヘモニアの天柱”の最上階を目指す。
「あーもう! どうせなら最上階まで直通にしろっての!」
シャルちゃんが愚痴を零しながら先頭を翔ける。私たちが入った転送装置の転移先は、最上階の1つ下のフロアに固定されていた。そこからは迷路のように入り組んだ通路を、スピードを落としつつ飛行していた。
そしてようやく、最上階へと通じる転送装置を発見。私とシャルちゃんは床に降り立って、お互いを見合わせる。
「準備は良い、なのは?」
「うん。大丈夫。いつでも行けるよ」
きっと話し合いではセレスさんは止まらない。戦いになるだろう。シャルちゃんですら警戒する氷結の魔術師セレスさんと。そして、これがきっと2度と出来ないシャルちゃんとの最後の共闘。泣かないよ。まだ何も終わっていないんだから。
「よし。行こう、セレスの元に」
シャルちゃんの後に続いて転送装置に入り、視界が一瞬閉ざされる。視界が元に戻り、私の目に映るのは大きな円形のホール。その中央に椅子が3脚。その内の1脚にセレスさんは腰かけていた。
今のセレスさんは、灰色の髪をシニヨンして、黒色のインナースーツ、その上から白のテールコートを着て、白の袖なしインバネスコートを羽織っている。両手には白銀の籠手、白のズボン、白銀の脚甲が付けられたロングブーツ、騎士甲冑姿だ。
「ようこそ、我らが城エヘモニアの天柱へ。歓迎します。剣神シャルロッテ・フライハイト、エースオブエース・高町なのは」
セレスさんが立ち上がると同時にすべての椅子が消失。何も無いホールとなった最上階で、私たちは対峙する。
「セレス、今すぐ儀式を停止して。何をするのかは知らないけど、良くないことなんでしょ?」
「良くない? どうしてそう思うのですか? もしかしたら世界にとって良い魔術かもしれませんよ?」
セレスさんの左手には“ディオサの魔道書”。右手にはデバイスの両刃剣。
シャルちゃんは「なら効果を教えなさい。それで判断するから」と問い質した。私は魔術の話には口を出さない。情けない話、意味が解らないから。
「かつての古き時代と同じことをしようと思うのです。破壊による新たな創造を、次元世界に起こそうかと・・・そう、ラグナロクを」
「「な・・・っ!」」
今、セレスさんはラグナロクと言った。この場合のラグナロクは、はやてちゃんの魔法じゃなく、シャルちゃんとルシル君の記憶で観たアノ・・・!
「何を考えている! ラグナロクなんて発動したら、本当に全てが消えて無くなる! 何が破壊と新たな創造だ! 創造なんて出来ない!」
シャルちゃんが本気で怒鳴る。ラグナロクはシャルちゃんの死因でもある。そして“界律の守護神テスタメント”となった最大の要因。大戦時は、ルシル君とフノスさんのおかげで世界の完全滅亡は防げた。でも、それでも被害は甚大で、今の次元世界が誕生した。
「そんなの間違ってる! セレスさん!」
私も大声でセレスさんに声をかける。
「なのは、シャル。人生には無数の選択肢があるの。だけど、その選択肢の中に絶対の正解なんてものはありません。選んだあと、それを正しいものに変えていく。人生とはそういうものでしょ? そして私は、世界のやり直し、という選択肢を選びました。その選択が良いものか悪いものかは、後々の世界が決めてくれますし、それ以前に私が良いものへと運ぶつもりです」
セレスさんがそう告げた後、“ディオサの魔道書”が光となって“シュリュッセル”の刀身に入った。そんな“シュリュッセル”を構えたセレスさん。やっぱり戦うしかないみたいだ。
ゴゴゴゴ、と地鳴りのような音と振動が足元から伝わってくる。周囲を見渡すと、天井が中心から四方八方に裂けて、花弁のように開いていくのが見て取れた。
「そう、これは滅亡ではなく、新たな歴史の始まり」
VS・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は真実隠す哀しき復讐の女王セレス
・―・―・―・―・―・―・―・―・VS
開いていく天井に連動して壁もまた開いていく。ここ最上階に完成したのは、開いた花のような大きな舞台。
「なのは。セレスは最悪殺してでも止める。解かるよね?」
「・・・そうならないように祈るだけだよ」
シャルちゃんは“キルシュブリューテ”を、私はカートリッジを2発連続ロードした“レイジングハート”を構える。お互いは一瞬も視線を逸らさず、相手の動きを見る。
「っ・・・」
――神速獣歩――
――閃駆――
――アクセルフィン――
私が息を呑んだのが合図となって、私たちはそれぞれの高速移動法を使う。シャルちゃんとセレスさんは床を駆け、お互いが持つ剣の刃を走らせる。私はシャルちゃんの邪魔にならないように空へと上がって、いつでも援護が出来るようにしておく。
シャルちゃんとセレスさんの刃が衝突、衝撃波が空に居る私のところにまで届いた。そこから始まる2人の円舞のような斬り合い。周囲に散る火花が綺麗だと、場違いな思いを抱く。
「セレス、私の話を聞いて・・・!」
――雷牙月閃刃――
「・・・聞きましょう・・・!」
――氷奏閃――
雷撃を纏う“キルシュブリューテ”と、冷気を纏う“シュリュッセル”の斬撃の打ち合い。2人の斬撃を見て、私は本当にこの場に居ていい存在なのか判らなくなった。戦闘に割り込めない私は、別にこの場に居なくてもいいんじゃないか、と。
「ラグナロクを発動した。世界をリセットする。でもね、やり直しどころか修復不能の域に行くのがラグナロクなのよ? どういう理由で、どういう基準で世界を滅ぼすというの・・・!」
「こんな偽善と裏切りに満ちた世界、私はもう耐えられません。ですからラグナロクを、そんな過ちだらけの世界だけに向かって発動するのです。それならばある程度の世界を存続させることが出来ますから、人類は滅びない」
「待って! はやてちゃんも私たちも、セレスさんを裏切っていない! アレは全部ディアマンテが仕組んだことなんです!」
「もう知ったことではありません。賽は投げられた、というやつです」
激しい斬り合いの最中にそう告げるけど、セレスさんは聞き入れてくれなかった。鍔迫り合いとなった弐人。そこを狙って、私はセレスさんにバインドを仕掛ける。セレスさんの両腕と両足、胴体にリングバインド。完全に拘束した。
「ナイス、なのは!}
シャルちゃんが褒めてくれた。良かった。私がここに居られる理由を見つけることが出来た。シャルちゃんの元へと降りて、セレスさんと対峙する。
「色々言いたいけど・・。セレス、あなた、1つ重大なミスを犯してる。さっきも言ったように、ラグナロクは例外なく世界を、ううん、次元そのものを食い殺す。それを、狙った世界に発動する? 無茶だし無理だし無謀だし・・・不可能よ。ラグナロクは制御できない魔術。あなたの暴走は基盤からして破綻している」
「制御できない? それはおかしな話ですね。ルシルの真技がどういうモノかをお忘れですか、剣神シャルロッテ」
バインドで拘束されていても余裕の笑みを消さないセレスさんがそう告げた。意味が解らず、シャルちゃんへと視線を送ると、余裕なセレスさんを警戒していたシャルちゃんの表情は青褪めていた。
ルシル君の真技。私が知っているのは、大戦時の記憶で見た対人のグロリアス・エヴァンジェル。そう言えば、もう1つ対界の真技が在るとか無いとか・・・。
「お気付きですよね? そう、再誕の字を冠するアポカリプティック・ジェネシス。アレは、ラグナロクの術式を応用し、その圧倒的な力を制御できた唯一の絶対真技、ですよね」
パキィンと音が響いた。私のバインドが凍らされて粉砕された音だ。自由になったセレスさんはシャルちゃんへと“シュリュッセル”を振るう。シャルちゃんの動きが一拍遅れた。今の話がショックだったみたい。
「させない!」
だから私は“レイジングハート”をシャルちゃんの前へと瞬時に伸ばして、セレスさんの一撃を受ける。そこでシャルちゃんもショックから立ち直って、私たちを跳び越えるように前へ跳躍して、セレスさんの背後に降り立つ。
――光牙月閃刃――
それと同時に真紅に光り輝く“キルシュブリューテ”を一閃。
――守護宣言――
それよりも早くセレスさんの背後に氷の壁が突き立った。けど、シャルちゃんの一撃の前には無意味だった。一刀両断された氷の壁。私の目に、驚愕しているセレスさんの顔が映る。シャルちゃんの2撃目がセレスさんに向かって奔る。
――愚かしき者に美しき粛清を――
直感。私とシャルちゃんはほぼ同時にセレスさんから離れて空へと上がる。その直後、セレスさんを中心に床が凍り付いていく。
「シャルちゃん、今の話・・・」
「確かにルシルの真技の術式を得ているなら、可能かもしれない。でも、そんな簡単な話じゃない。ルシルだって完全に制御できていないんだから。だからそんなの上手く行くわけがない。絶対に次元世界そのものが滅亡する・・・!!」
――炎牙崩爆刃――
炎の斬撃を床に放ったシャルちゃん。床を凍らせていた氷が一瞬で蒸発する。セレスさんはその前に私たちと同じ空へと上がった。睨み合うシャルちゃんとセレスさん。私もまたしっかりと見据える。
「さぁ、続きと行きましょうか。全てをやり直すために・・・!」
――洗練されし氷牙――
“シュリュッセル”を横薙ぎに振るった軌道に出現した氷の槍、その数14発。それが音も無く飛んできた。
「ディバイン・・バスタァァァーーーーッ!!」
私たちは上下に回避して、私が口火を開く。私がずっと共に歩んできた砲撃で。砲撃は一直線にセレスさんへ。だけど当たる直前、砲撃は先端から凍り付いて、そのまま凍波が私の構える“レイジングハート”の先端にまで迫る。軽くパニック状態。急いで砲撃を止めないと、私まで凍結される。
「なのは!!」
砲撃を放ち続ける“レイジングハート”まで凍波が残り数十cmと迫った時、シャルちゃんが砲撃を“キルシュブリューテ”で寸断してくれた。そのおかげで何とか凍波から逃れることが出来た。
「ありがとう、シャルちゃん。助かった」
「お礼はいいよ。親友を助けるのに理由なんて要らないんだし。でも今度は気を付けて」
シャルちゃんはそう言って、セレスさんへと向き直る。セレスさんは“シュリュッセル”を水平に構えて、十字に振るった。
――雪花飛翔――
氷で出来た花弁が何枚も高速回転しながら飛来してきた。
――炎牙月閃刃――
シャルちゃんは私の前に躍り出て、炎の斬撃で全て斬り払った。
「人間は必ず過ちを犯す、そういう生き物です。解ってます、それくらい」
今度はシャルちゃんがセレスさんへと最接近。真紅の炎を纏わせた“キルシュブリューテ”で直接セレスさんへと斬りかかる。また2人の斬り合いが始まる。私はアクセルシューターをスタンバイ。
「小さな過ちならば気付くのは難しいですけど、知らずとも簡単に修正できます・・・!」
通用するかは判らない。ううん、まず通用しない。でも、何かシャルちゃんを手伝えることが出来たら・・・と思って、私は自分の魔導に意志を込める。
「そして大きな過ちは小さな過ちに比べ、気付くのは容易いです。が、大きすぎてそれを過ちだと認めないときもあります・・・!」
セレスさんの独白は続く。シャルちゃんは黙って“キルシュブリューテ”を振るい続け、私も黙って2人の戦況を見る。
「誰も彼も自らが正しいとし、過ちに気付かない、気付こうとしない・・・!」
氷が蒸発する音と蒸気が2人の間に立ち上る。それでもセレスさんは勢いを止めずに“シュリュッセル”を振るい続ける。シャルちゃんもまたセレスさんの連撃を防いでは捌いて反撃。
「たとえ気付いたとしても、修正するのは途方に暮れるほど難しいから諦める。だから・・・くだらない争いはいつまででも続き、そして終わらない・・・!」
「だからその争いを治めるために世界丸ごと滅ぼすって? 随分と乱暴な考えを持つようになったのね、セレス・・・!」
セレスさんは力負けして弾き飛ばされる。
――咲きし福音――
だけどすぐさま体勢を整えて、足元に巨大なヨツンヘイム魔法陣を展開。六角形の縁に沿うように巨大で縦長の氷壁が生まれる。エルジアでフィレス空士が私とフェイトちゃんに放ってきた攻撃だ。
「制御されたラグナロク、その圧倒的な“力”で世界を滅ぼし、その恐怖で止まらない戦争を全て終わらせる。このオムニシエンスで起きている争いを、次元世界最後の争いとするために・・・!」
セレスさんが左腕を横に振るうと同時に6方へと氷壁が真っ直ぐ拡散していく。その内の1枚が私とシャルちゃんへと直撃コースで迫ってきた。
――炎牙煉衝刃――
私はエルジアでのように回避しようとしたけど、シャルちゃんが迫る氷壁に炎槍を一直線に放って、氷壁に成人サイズほどの孔を開けた。そしてシャルちゃんは私の袖を引っ張って、私を側に立たせた。
直後、迫る氷壁の孔を私たちは通過した。こういう対処法はきっとシャルちゃんだけにしか出来ない。すぐさまセレスさんへ接近を試みるシャルちゃんだったけど。
「・・・私が過ちなのであれば、あなた達は私を倒しなさい。ですが、私が正しいのであれば、あなた達は私に倒されなさい。世界がどちらかを生かすのか、この戦いの結末が教えてくれる!!」
――氷柱弾雨――
私たちの間に巨大な六角形の氷柱が幾つも壁になるように連続で降ってきた。シャルちゃんは接近を断念。“キルシュブリューテ”を構えたまま、途切れるのを待つ。私は結局何も出来ていない。役に立っていない。砲撃は通用しないし、バインドも簡単に砕かれる。魔導師の私と魔術師のセレスさんでは圧倒的に格が違い過ぎる。
「なのは。なのははまだ全力を出し切ってもいないのに、自分は役に立ってない、なんて思ってないよね・・・?」
「それは・・・」
思ってた。そう思ってたよ、声を掛けられるついさっきまで。シャルちゃんは突然“キルシュブリューテ”を縦一線に振り払った。すると氷柱の1つが真っ二つに割れて、その破片がさらに振ってくる氷柱の軌道を阻害して、氷柱のバリケードがドミノ倒しのように崩れていく。
「弱音は全力を出し切って、通用しなかった時に吐きなさい。なのはは私でさえも認めるエースオブエースなんだから、さ。もうちょっと自信を持って、やってみようよ・・・!」
シャルちゃんの姿がかき消える。一気にセレスさんの元へと接近していた。そしてすぐさま始まる斬撃の嵐。最悪セレスさんを殺そうとするシャルちゃん。それをさせないようにするためにはどうすればいい? もちろん私の魔法でノックアウトすればいい。
「レイジングハート、カートリッジを3連ロード。ブラスター2。ブレイカーの準備と並行して他の砲撃の準備もお願い・・・!」
≪・・・Yes, my master≫
シャルちゃんに言われた連続ロードの限界数、3発をロード。さらにブラスターで魔力を増大させる。凍結された砲撃は、全力でも何でもない一撃だった。負けて当然。だから今度は本気の全力で。チャンスを見逃すな。今はただじっと待つんだ。
†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††
まさかラグナロクなんて方法を引っ張りだすなんて思いもしなかった。しかもルシルの真技の術式を流用して制御するなんて。セレスは相当キているようだ。どうしてヨツンヘイムの関係者って言うのは、こう暴走してくれるんだろうか。というかそれ以前に、こうメチャクチャやっているのにどうして“界律”が働かない? 先代テルミナスの力は消えて、次元世界は正常になっているはずなのに。
(セレスの奴、まだ何か細工しているな・・・!)
この世界に再び喚ばれて、事情を聴いて、第一に考えたことがソレだった。魔族を現代に出現させたとなれば、“界律”が黙っているはずがないんだ。なら考えられるのは、セレスが魔術を使って“界律”を誤魔化している。となればほぼ禁呪の域だ。
思考を止めずに“キルシュブリューテ”を一閃。“ディオサの魔道書”と融合して神器化した“シュリュッセル”を弾く。セレスは大きく弾かれて後退。
「は・・・っ!」
だけどすぐさま刃を戻して、私へと斬りかかって来た。その一撃を真正面から受ける。受けた場所から“キルシュブリューテ”の刀身が凍っていく。私は“シュリュッセル”を捌いて、セレスを押し退ける。
「どうして魔族をあれだけ召喚しておいて、界律は何もアクションを起こさない・・・? だからこう考えてる。あなたが禁呪に手を出しているじゃないか、って」
――炎牙月閃刃――
凍りついた“キルシュブリューテ”に炎を纏わせて解凍。炎を振り払って、“キルシュブリューテ”を脇に構える。セレスは反応を示さない。
――極雪轟嵐――
返ってきたのは声じゃなくて攻撃。“シュリュッセル”の刀身に吹雪を纏わせ、私に向けて放ってきた。私はそれを大きく横へ移動することで回避。
――ストライク・スターズ――
セレスの放った竜巻へ、私の背後から脇を通ってなのはの大砲撃が突っ込んで行った。砲撃に追随してきたシューターの1発が私を掠める。うわっと、危ねぇ。なのはの砲撃は竜巻の中心を見事撃ち抜いて、竜巻を拡散させて消した。そして技後硬直で動けないセレスへと真っ直ぐ進んで、呑み込んだ。直後に桜色の閃光が爆ぜる。
「・・・お見事」
あれこそなのはの砲撃だ。見ていて清々しい。背後に居るであろうなのはへと視線を移すと、きちんと油断せずに爆ぜた閃光を見詰めているのが見える。私もきっちり油断せずに最大警戒で、セレスを呑み込んだ閃光を見詰める。
――制圧せし氷狼――
閃光を食い破って来たのは、氷で構成されて冷気を纏う狼、その何十頭という群れ。私は出来るだけなのはに到達する狼の数を減らすため・・・
「炎牙崩爆刃!」
炎の斬撃を連続で打ち放つ。姿の見えたセレスとの間で大爆発。爆炎を突破してきた狼、その数・・・22頭。空を駆ける氷狼が私に襲いかかり、また脇を通り抜けて行こうとする。
『私は大丈夫・・・!』
なのはからの念話。ここはなのはを信じるべきか否か。私は『ごめん、お願い!』なのはを信じることにした。何頭かが私の脇を通り過ぎて、背後に居るなのはへ向かっていく。私は、自分に襲いかかって来た14頭の狼を片っ端から斬り伏せる。夕陽が狼たちを照らして、反射する夕陽が眩しくて仕方がない。一瞬眩しさに目を閉じそうになった。
「痛っ。乙女のやわ肌を噛むな、ケモノ!!」
それが隙となって、左腕と右足に噛みつかれた。全身に炎を纏って、噛みついて放さない狼を蒸発させ、残りを粉砕した。なのはが気になりながらもなのはを信じて、セレスとの戦闘を再開するために動こうとした。
「魔道抑制結界・・・!」
そのとき、魔力が一気に抜け、戦闘甲冑すらキャンセルされて飛行できなくなった私は、眼下に広がる“エヘモニアの天柱”の最上階に落下した。
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
私に向かってきた氷で構成された8頭の狼。シャルちゃんが私のことを思ってくれて、半数以上の氷狼を引きつけてくれた。だから私は、私を信じてくれたシャルちゃんに応えるためにも・・・。
「レイジングハート!」
≪All right. Accel Shooter≫
アクセルシューター16発を、冷気を引きながら空を駆け、口を大きく開けて襲いかかってくる氷狼へと放つ。さらに“ブラスタービット”を4基展開させる。シューターを避けては直撃を受けて、身体を少しずつ砕け散らしていく氷狼。
アクセルフィンで噛みついてくる氷狼から離れて、“ブラスタービット”4基から砲撃。シューターと砲撃で氷狼を誘導して、1ヵ所に集めた氷狼を砲撃で一掃する。だけど最後の1頭が前身だけで突進してきた。
≪Accel Fin≫
――フラッシュインパクト――
左拳に魔力を圧縮して纏わせ、アクセルフィンの突進力を利用した一撃を、氷狼の鼻っ面に叩きこむ。昔は“レイジングハート”でやっていたことだけど、成長した今なら拳で十分な威力だ。最後の1頭を粉砕して、全頭を掃討完了。
「シャルちゃん!?」
シャルちゃんの居る場所へと振り向くと、シャルちゃんは戦闘甲冑じゃなくて、黒のタートルネックトップ、淡い桜色のワンピース、白のカーディガンっていう私服姿。その私服姿で“天柱”の最上階の床へと落下していた。私はすぐさま対象を浮遊させるフローターをシャルちゃんに掛け、ゆっくりと最上階の床に降ろした。
――洗練されし氷牙――
セレスさんは、そんなシャルちゃんへ向けて氷槍を放とうとしていた。私はアクセルフィンで高速移動、シャルちゃんを守るためにセレスさんの前に立ちはだかる。その直後、氷槍を4本撃ち込んできた。
ラウンドシールドを展開して防ぎ、“ブラスタービット”を操作してセレスさんへと多弾砲撃を放つ。セレスさんは避けようともせずに砲撃の直撃を受けた。どうして?だとかより、まずはシャルちゃんの現状把握だ。
「シャルちゃん、何で私服姿に・・・!?」
「たぶんヨツンヘイム術式の、魔力炉を強制停止させるヤツだと思う。ごめん、なのは。魔力炉が回復するまで私は戦えない」
最悪な状況だった。シャルちゃんが戦えない。ということは、私ひとりでセレスさんと戦わないといけないということ・・・。無理だ。シャルちゃん抜きで勝てるような相手じゃない。ショックを受けていると、背後からドサッと何かが落ちた音がした。振り返ると、そこにはセレスさんが床に倒れ伏していた。
「「え・・・?」」
まさかさっきの砲撃で決まった・・の? 判らないけど、でも“レイジングハート”を構えたまま警戒する。セレスさんが“シュリュッセル”を突いて立ち上がった。私は目を見開いた。顔は青褪めて、口の端から血を流している、その弱々しいセレスさんの姿に。
セレスさんは大きく咳き込んで、空いている左手で口を覆う。指の隙間から漏れる赤い血。違う。砲撃によるダメージじゃない。もっと別の原因だ。咳き込み方からして・・・・病気・・・?
「やっぱり。セレス、あなた・・・」
「・・・確かに、ゲホッゲホッ、はぁはぁ・・・シャルの言う通りです。私は禁呪、ぅぐ・・・に手を出した・・・これは、っつ、その代償・・・!」
本当に辛そうなセレスさん。口端から漏れる血を袖で拭いとる。私は「今すぐ病院へ!」と提案するけど、シャルちゃんが「もう助からない」と告げてきた。
「助からない? セレスさんが? 嘘、だよね・・・?」
だけどシャルちゃんも、セレスさんですら首を横に振った。私は知らずに「なんで?」と聞いていた。セレスさんはまた咳き込んで、深呼吸して息を整えた。
「世界を敵に・・はぁはぁ、回してもいいほど、私はゲホッ、お姉ちゃんのことが好きだった・・・。だから、お姉ちゃんを、っぐ・・死に追いやった管理局・・・っ、世界に・・・復讐を・・・!」
セレスさんから放たれる世界全てに対する敵意。
「禁呪の1つ、界律接触・・・に近いものでしょうけど。禁呪は1度使用すれば、その者の命を根こそぎ刈り奪っていく。魔族召喚やラグナロクのペナルティをその身に全て受ける。そのための禁呪なんでしょ・・・?」
シャルちゃんは悲しげに告げた。対するセレスさんは俯いたまま呼吸を整えるだけで精いっぱいのようで返事をしない。
『念話にて失礼します。そう、ですね。それで大体合っています。でも後悔はしていません。改革と謳っておきながら、その実、単なる復讐者でしかない私にはお似合いな罰です。それに元より短命の身。たった2、3年の差でしかありませんしね』
口頭じゃなく念話。顔を上げたセレスさんは狂気が含まれた笑みをしていた。もう後戻りしない覚悟。死んでもいいから果たそうとする決意。それに短命? 初耳だった。セレスさんはそんな気配を一切見せなかった。
『ラグナロクの術式完成まで残り僅かとなりました。まずは手始めに、憎き管理局の本局と、エルジアのように世界内で争いを続けるいくつかの世界に向けて発動しましょうか』
まるでご飯の献立を考えるかのような気楽さでそう言った。“シュリュッセル”を構え直して私を見詰めてくる。
「なのは、あなたが止めてあげて。今、彼女を止めることが出来るのはあなただけ。優しいあなたに背負わせたくはないけど、お願い、世界を守れるのはあなただけなの・・・!」
『行きますよ、エースオブエース!!』
――神速獣歩――
姿がかき消えて、一瞬で間合いに入られた。振り下ろされる“シュリュッセル”を“レイジングハート”の柄で受け止める。火花を散らしながらの拮抗。私の真正面に居るセレスさんが吐血する。でも浮かべているのは笑み。それを見て泣きそうになる。
「どうして・・・どうして・・・どうして!?」
そんな叫びと一緒にセレスさんを押し返す。セレスさんは簡単に離れて、でもすぐさま“シュリュッセル”を横薙ぎに振ってきた。私はバックステップで避けて、“レイジングハート”を向けようとする・・・けど。
「なのは!!」
世界を守るために友達を討つ。迷い、戸惑い。それが私の動きを堅くした。そんなのお構いなしに攻撃を加えてくるセレスさん。私は防戦一方になる。
『誰からも頼られるエース。その頂点に君臨するエースオブエース。あなたが幼い頃からその細い肩に押しつけられた称号。辛かったでしょ? 才能があったから、常に頼られ、常に期待され、常に羨望を受けたあなた。逃げたかったのではないですか、そのプレッシャーから』
「聞いちゃダメ、なのは!!」
何度も振るわれる“シュリュッセル”を何とか防ぎきる。頭の中に響いてくるセレスさんの声。シャルちゃんが何か言ってる・・・?
『エースとして戦場に送り込まれ、戦い、傷つき・・・墜とされ。空で戦う以上、常に死と隣わせ。墜ちればそれで終わり。今度は死ぬかもしれない。あなた、本当に続けられるの? 愛娘のヴィヴィオを独り残して・・・?』
――なのはママぁぁぁーーーーっ!――
ヴィヴィオの顔が思い浮かんだ。私が居なくなってしまった時、泣き叫ぶヴィヴィオの顔が。一瞬動きを止めてしまい、隙となる。強い斬撃によって弾き飛ばされて尻餅をつく。セレスさんの何度目かの吐血。それでもセレスさんは笑みを消さない。
『私が、争いをこの次元世界から失くす。あなたや他の魔導師が戦場に2度と立つことが無いように、これ以上の犠牲者が出ないように・・・! そう、家族を失う悲しみと憎しみを背負うのはもう私だけで十分ッ!』
「「っ!!」」
セレスさんの最後の言葉、そこには狂気が一切無かった。あるのは純粋な願い。そう思えた。だからこそ驚いた。セレスさんがハッとして、すぐに狂気の笑みを浮かべ直す。今なら判る。わざとらしく、演技臭い。
「うん、怖いよ、本当はいつも怖かった。みんなに希望を与える名エースオブエース。負けられない、負けちゃいけない。そんなプレッシャー、本当は重荷だった」
そう言いながら立ち上がる。そして“レイジングハート”を構え直す。
「でも、それは自分が望んで今まで歩んできた道の結果。だからこそ逃げ出さずに、全てを背負って空を翔けてきた。これからもそう。私は、自分が選んだ道を歩み続ける。どれだけ危険でも、その先に笑顔を取り戻せる人が居るのなら、私は戦う、戦い続ける」
私はカートリッジ2発ロード。シューターを20発と展開。セレスさんは念話で『そう』と一言。どこか嬉しそうな笑みを浮かべたのは、きっと気の所為なんかじゃない。
「セレスさん、もう止まることは出来ないんですか・・・?」
『人の足を止めるのは絶望ではなく諦め。人の足を進めるのは希望ではなく意志。私には意志がある。今すぐにでも命を落とそうと、私は最期まで歩みを止めない』
――雪花飛刃――
――アクセルシューター――
飛来してきた花弁をシューターで迎撃。セレスさんが疾走してくる。シャルちゃんが魔法も魔術も使えないのに、起動した“トロイメライ”で防いだ。
「シャルちゃん!?」
「空へ上がって、なのは。陸戦じゃなのはは不利」
「・・・うん、判った!」
私はもう1度空へと上がる。セレスさんもシャルちゃんとの鍔迫り合いを止めて、空に上がってきた。私はセレスさんに勝つ。辛くても、勝たないと、ダメなんだ・・・。“レイジングハート”を向け、ブラスタービット”4基を操作して5方から高速砲フォトンスマッシャー。
セレスさんは回避。避けきれない砲撃だけ“シュリュッセル”で裂いていく。
「エクセリオン・・・バスタァァァーーーッ!!」
私は攻撃を止めずにシューターで弾幕を張って、セレスさんがそれに対処している内に砲撃を放つ。
――氷星の大賛歌――
セレスさんは左手を翳して、空色の砲撃を撃ってきた。衝突したバスターが凍結されていって、2つの砲撃が同時に消えた。着弾点には氷の破片が舞い散って、薄暗くなってきた空に散る。
セレスさんは吐血しながらも接近戦を挑んでこようとして、私は砲撃戦を望んでいるからアクセルフィンで距離を取る。その間にもシューターや“レイジングハート”と“ブラスタービット”の砲撃で弾幕を張り続ける。
『世界の数だけ歴史があり、世界の数以上に英雄と謳われる人はいる。その英雄の名は語り継がれて後世に残っていきますが、英雄と共に戦って殉じた者の名は霞に消えていく・・・』
セレスさんの念話が届く。
――氷奏閃・翔閃――
冷気の斬撃を幾つも放ってきて、シューターと砲撃を相殺。私にも迫ってきたからアクセルフィンで回避をする。
『なのは、あなたは前者ね。でも、その他の人はどうかしら? 殉職者という数字にされて、人々の記憶にちゃんと留まるかしら? 答えはノー。勇敢に戦ったのに印象に残らなければ、死んだ者は数字にされる・・・』
「それは・・・・」
――ストライク・スターズ――
――氷星の大賛歌――
同じタイミングでの砲撃。凍結されかけたけど、今度はセレスさんへと届いた。桜色の閃光が爆ぜる。その閃光の上から飛び出してきたセレスさんが“シュリュッセル”を振るった。
――洗練されし氷牙――
氷槍が8本飛んでくる。直線軌道だから避けるのは簡単。“ブラスタービット”4基から砲撃。セレスさんは吐血したことで対処に遅れて直撃した。今ならバインドが通じるかもしれない。そう思い、レストリクトロックを用意。
――レストリクトロック――
『お姉ちゃんは損害1という数字になった。始めの頃は11歳での殉職だと世間を騒がしました。だけど人は忘れていったのです。時間は全てを洗い流していく・・・!』
――悪魔の角――
レストリクトロックが効果を発揮しきる前に回避された。すぐさま発生する氷の杭。エルジアでフィレスが使った魔術。そして私の敗因。
今度もまた対処する前に全身を掠っていって、切り傷を負わしていく。痛みに耐えながらも球体状の全方位障壁オーバルプロテクションを展開。氷の杭を防御しつつ、“ブラスタービット”4基で砲撃を放つけど、セレスさんは鋭い機動で踊るように回避していく。
『こうしている間にもラグナロクの発動が迫る』
「セレスさん!!」
アクセルシューターと砲撃で氷の杭の迎撃を行い、ある程度数が減ったところでプロテクションを解除。もう時間が無い。いつの間にか最上階には“オラシオン・ハルディン”に描かれた魔法陣と似たモノが描かれていた。シャルちゃんが“トロイメライ”で床を斬りつけて魔法陣を破壊しようとしているのが見える。
『急ぎなさい、なのは。世界を守りたいのなら、私を墜としてみせなさい。私を倒さなければ、ラグナロクの術式は止まらない・・・!』
――氷奏閃・翔閃――
冷気の斬撃。アクセルフィンで回避しながらフォトンスマッシャーを連射。セレスさんは“シュリュッセル”で全弾を斬り裂きながら突撃してくる。そして突然姿がかき消えた。見失った。
「上!!」
シャルちゃんの叫び声。“レイジングハート”を頭上に掲げた上でラウンドシールドを展開。その直後に、シールドに振り下ろされた“シュリュッセル”の一閃。
「く・・・っ!」
シールドは一瞬で砕かれて、“レイジングハート”の柄の中央に衝突。見上げる私の目には、青いを通り越して血の気の無い白い顔色になっているセレスさんの顔。私は耐えきれずに弾き飛ばされて、体勢を整える前に最上階の床に叩きつけられた。
「なのは、大丈夫!?」
「う、うん・・・大丈夫・・・」
駆け寄ってきたシャルちゃんに支えられながら立ち上がる。
「もう時間が無い。酷なことだけど、セレスを早く倒さないと・・・」
「判ってる。判ってるけど・・・」
床に描かれた魔法陣の発光量がさらに強くなってる。ラグナロクの術式の要である上空に佇むセレスさんを見上げる。肩で大きく息をして、もういつ倒れてもおかしくないほどの疲労が見て取れる。そんな時、“オラシオン・ハルディン”の方角から強い発光。
『ラグナロクの発動準備完了の合図ですよ。さぁ、完全発動するまでに私を倒せますか、エースオブエース!!』
「なのは、急いで!!」
私は頷いて応え、空へと再び上がる。雨のように降ってくる氷の弾丸。私は最小限の動きで紙一重に避けていく。
『急ぎなさい、なのは!!』
連続ロールしながらカートリッジを3連ロードし、エクセリオンバスターを放つ。セレスさんは“シュリュッセル”で弾き飛ばしながら、私へと降下してくる。すれ違いざまにお互いのデバイスへと一撃。衝撃波がすごい。お互いが大きく距離を取る。
セレスさんは“シュリュッセル”の刀身に魔力を集束させていく。こちらも全力で行かないと勝てないほどの集束率。だから私も“レイジングハート”と、セレスさんの周囲に“ブラスタービット”を展開して、それぞれに魔力を集束させる。
『何をしているのですか! 撃ちなさい! なのは!!』
「っ? セレスさん・・・?」
セレスさん。あなたはやっぱり、ラグナロクを発動する気が元からないんじゃないですか?
セレスさん。何でそんなに必死になって私に撃たれようとしているんですか?
セレスさん。あなたの本当の目的は一体何だったんですか?
『撃ちなさい!!』
「セレスさん!!」
――スターライトブレイカー――
頭上に掲げた“シュリュッセル”を振るおうとしたセレスさんへ、5方からスターライトブレイカーを撃ち込んだ。視界が桜色の閃光で完全に閉ざされる。目を細くして爆ぜる閃光を見詰める。と、刀身が半ばから砕けた“シュリュッセル”が閃光を裂いて飛んできて、最上階の床へと突き刺さった。私の視界に、力無く落下していくセレスさんの姿が入る。
「セレスさん!」
飛んでも間に合わないと判断してフローターを発動。ゆっくりと降下するセレスさんをシャルちゃんが優しく抱きしめた。
†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††
セレスが集束砲を受けたと同時に魔法陣が消滅した。“オラシオン・ハルディン”の方角から見えていた発光も今は無い。ラグナロクは発動しなかった。
「セレス・・・あなたは一体何を目指していたの・・・?」
床へ横たえたセレスへと話しかける。なのはとの戦闘中の念話は私にも届いていた。だから判らない。セレスの本当の願いが。
「セレスさん!? シャルちゃん、セレスさんは!?」
なのはもボロボロなのに、やっぱりセレスを心配している。私は何を言わずに、ただ目を瞑るセレスの顔を見るだけだ。
「セレス・・・」
私でもなのはでもセレスでもない第三者の声。声のした方へと振り返る。
「フィレス・・・!?」「フィレス空士!?」
そこに居たのは、はやて達と戦っていたはずのフィレス・カローラ。なのはと声が重なる。まず驚愕。そしてはやて達の安否。ここにフィレスが居るということは、はやて達は負けたということだ。次にフェイトとルシルのこと。エントランスホールで戦っているはずのフェイトとルシルを素通りした?
「誰ひとりと、して・・・殺めて・・ません・・から・・・。フェイト、と・・・サフィー・・ロも、無事・・・手を、出して・・ない・・・から」
私となのはの表情から察したのかフィレスは、フラフラとした足取りでこっちに歩み寄って来ながらそう告げた。フィレスの存在感ももう希薄だ。あと保って1分も無いといったところだろう。確かにこれならフェイトとルシルに手を出すことは出来ないはずだ。
「セレ・・ス・・・もう、いいの・・・?」
寝かせているセレスの側に座り込んだフィレス。セレスの目がうっすらと開いて、覗きこんでいるフィレスへと視線を移す。セレスは小さく頷いた。何がいいのかが解らない。だけど唯一解るのは、セレスの目的は達せられたということだ。
†††Sideシャルロッテ⇒セレス†††
すごく眠い。身体に力が入らない。これが、死、ということなのでしょうか・・・?
「セレ・・ス・・・もう、いいの・・・?」
お姉ちゃんの声が聞こえる。私は眠いのを僅かな力で耐えて目を開ける。ウェディングドレス姿のお姉ちゃんだ。見たのは3回目ですけどやっぱり綺麗ですね。
お姉ちゃんの、もういい?という問い。私は頷くことで応える。
私は世界に示したかったのです。殉職は決して尊いものなんかではないと。1人の命が消えて悲しむ家族が居るんだって。管理局はそれを軽んじているんだって。
知らしめたかった。私のように復讐心を抱く遺族が居るんだということを。命を賭してでも思い知らせたかった。今の管理局の危険性を。
そのために、悪事に手を染めた局員を何人も殺害しました。それくらいはしなければ、きっと管理局は変わらないと思ったから。
問題は“今回の事件”を世界がどう捉えるかですけど・・・。
(最期に・・・叶う、な・・ら・・・テスタ・・メント・・の存在が・・・良き影響、で・・ありま・・すよう・・に・・・)
もうダメ。眠くて仕方がありません。最期にお姉ちゃんの顔を脳裏に焼き付けて、私は静かに瞳を閉じる。
もう眠りましょうか。ひどく疲れてしまい・・まし・・・・・・・・・・・・
†††Sideセレス⇒シャルロッテ†††
セレスは静かに目を閉じた。なのはが何度も呼びかけるけど、セレスからは2度と声が返ってくることは無かった。
「テスタメント・・・は、もう・・役目・・・を終え・・た、のね・・。じゃあ・・一緒に・・・逝こう・・か・・・・セレ・・・ス・・・」
フィレスも、セレスの後を追うように光の粒子となって天に昇って逝った。
“テスタメント”はたった今、その役目を終えた。結局、セレスが何を望んでいたのかは判らなかった。
セレスが亡くなったことで泣いているなのはを見て、私は言葉を掛けずにゆっくりと立ち上がって、“ディオサの魔道書”と融合した“シュリュッセル”へと向かう。
魔力もようやく戻り、魔術を記す“ディオサの魔道書”の完全破壊という目的を果たそう。こんなモノ、これからの次元世界に必要のない代物だ。私は“シュリュッセル”を手に取り、魔力炉を再起動、魔術を使って“ディオサの魔道書”を分離させる。
「なのは。あなたはセレスを連れて、もう帰りなさい」
「え・・・? シャルちゃん・・・?」
「なのは、私とはここでお別れ。結局戦いばかりだったけど、楽しかったよ」
息を呑むなのは。その顔は忘れていたなぁ。口をパクパクしているなのはへと歩み寄って、剣のアクセサリー型の待機モードにした“シュリュッセル”を手渡す。私はなのはをそっと抱き締める。すると、なのははまた声を出して泣きだした。
もう、お別れのときくらいはやっぱり笑顔でいてほしいよ。でも仕方ない。セレスが亡くなったばかりじゃね。
「さ、もう行きなさい。私は後始末をしてから還るから。今までありがとう。大好きだよ、なのは」
「シャルちゃん・・・!」
だから泣き止むまで抱きしめていようかと思ったけどやめた。なのはももう子供じゃないから。私は立ち上がって、座り込んでいるなのはの手を引く。立ち上がったなのはは袖で涙を拭って、私に笑顔を向けた。
「シャルちゃん、ありがとう。私もシャルちゃんのこと大好きだよ」
そう嬉しいことを言ってくれたなのはの頭を撫でる。気持ち良さそうに目を細めたなのはは「それじゃあ行くね」と告げて、セレスを背負った。ゆっくりと転送装置へと歩いていくなのは。私はなのはの姿が見えなくなるまで見送るつもりだ。
転送装置の真ん前で立ち止まって、私に振り向いた。最後のお別れかな?と思っていると、なのはの表情が凍りついたといってもいいようなモノになった。
「シャルちゃん!!」
なのはが突然叫んだ。
――神速獣歩――
その直後、何かが背後を通り過ぎた。それに何か腕とか身体に衝撃が奔った気がする。
「このディオサの魔道書は・・・・王のモノだ」
(この声・・・そんな・・・だって・・・)
声のした方へと振り向こうとして、視界が反転。私は倒れていた。なのはの悲鳴が聞こえる。視線を自分の身体に巡らす。そこでようやく気付いた。私の左腕が・・・どこにも“無い”。それに、左脇腹がごっそりと抉り取られていた。傷口から漏れるのは赤い血じゃなくて、私という存在を構成する魔力の粒子。
「シャルちゃん! シャルちゃん! シャルちゃん!」
あぁ、よかった。今の私が肉体を持つ人間じゃなくて。血なんかを流してたら、綺麗ななのはがもっと汚れちゃうところだった。私は頭だけを動かして、私の身体をこんなのにした奴へと視線を向ける。
「なんで・・・まだ存在している・・・ディアマンテ!!」
そこには“ディオサの魔道書”と、私の千切られた左腕を持つディアマンテが居た。アイツは確かに私の牢刃でバラバラにして消滅させてやったのに・・・どうして?
「我は、全てを統べるに相応しきヨツンヘイムが皇帝アグスティン・プレリュード・マラス・ウルダンガリン・デ・ヨツンヘイム。・・・久しいな、剣神シャルロッテ・フライハイトよ」
アグスティン・プレリュード・マラス・ウルダンガリン・デ・ヨツンヘイム。
大戦の最終決戦、ヴィーグリーズ決戦で、ルシルの“神々の宝庫ブレイザブリク”によって討たれた皇帝の名だ。そして中立だった複数世界ミッドガルドを大戦に巻き込んだ憎きクズ王だ。
「バカな・・・!」
そう一言。それが精いっぱいだった。
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