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ソードアート・オンライン ~命の軌跡~

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Episode3  パーティー

 
前書き
 感想を書いてくださった方、ありがとうございます。

Episode3が書きあがったので、投稿します。


設定の一部を変更しましたので、Episode2の内容も一部修正しました。


それでは、どうぞ!
 

 
アインクラッド標準時 2024.10.18
第四十八層 リンダース

「ど、どうしよう……」

 冒頭からいきなりどうしたの?と思うかもしれないけど、わたしは今ピンチに陥っている。そう、ピンチなのだ。今日中に納めなくてはならない、オーダーメイドの注文が五件入っているのだけど、そのうちの一つ、細剣に使用するつもりであった金属素材(インゴット)の在庫がなかったのだ。
 その金属素材というのは〈エレミア銀鉱石〉。この金属は、そこまで需要のあるものではないから、ちゃんと在庫の確認をしていなかった。確認を怠った私に非がある。しかも、採取できる場所も現在知られている限り一箇所のみ。
 ちなみに、この金属を素材として武器を鍛えたところで、強力な武器ができるわけではない。むしろ現在最前線で戦っている攻略組の人たちが命を預けるには、かなり力不足っていう感じである。
 なら、この金属素材の特徴はというと、金属光沢が普通の銀の約二倍も有している。予断だけども、銀というのは電気伝導率、熱伝導率、可視光線の反射率が金属の中でも最高クラスなのよ。覚えておいて損はないわ。マスタースミスは伊達じゃないのよ!って、そんなことは置いておいて……。早い話、装飾品や観賞用の武器の素材として、よく使われる金属素材なのだ。

「もうっ!こんな趣味の為の武器を依頼する暇があったら、キリトやアスナみたいに攻略の一つや二つして来いっての!」

 と言ったものの、この依頼を受けてしまったのは、このあたし自身なのだが……。今さら後悔しても仕方がないし、悩んでいても何も始まらない。とりあえず、何かしらの手を打とうと思い右手を振り、メニュー画面を開く。

To : Kirito
 ごめん、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど、今日って時間取れる?

 まずは、キリトにメッセージを送ることにした。キリトのような攻略組の中でもトップクラスのプレイヤーに手伝ってもらえれば、ダンジョン内でも安心だし、大助かりだ。あたしがマスターメイサーとはいえ、一人でダンジョンへと赴くのは、なるべくなら避けたいっていうのが本音だ。

From : Kirito
 わるい……。今日は別の人とパーティーを組むことになって、今迷宮区に向かっているとこなんだ。

 まぁ、キリトにはキリトの予定があるから仕方ないかぁ。あたしもいきなりだったし……。とりあえず、気にしないで、と返信しておく。気を取り直して、今度はアスナにメッセージを飛ばす。そして、いくらもしないうちにメッセージが返ってきた。

From : Asuna
 ごめん、リズ!今日は他の人とパーティーを組んで攻略に向かってるとこなんだよね。

 はぁ、アスナもダメか……。それよりも、二人のメッセージが似てると思うのは、あたしだけ?っていうか、あの二人絶対一緒にいると思うんだけど……。そんなことよりも―――、

「あたし一人で行くしかないかな?」

  他に頼めそうな人がいないので、一人で行くことにする。なぜ、そこまでするのかって?
そんなの決まってるわ!ゲームの中とはいえ、苦労して手に入れたあたしのお店だからだ。一人であろうと、信用を失わせるようなことがあってはならないから、絶対に妥協はしたくない。
 とにかく、すぐに出発しよう。身支度を済ませ、店先のOPENの木札を裏返しにするため出口に向かう。店を開けたばかりだけど、まだ誰も居ないし、夕方まで休みにしよう。夕方には、受け取りに来るから、それまでには戻らないと。そんなことを思いながら、扉に手を掛けようとしたとき―――

「おじゃまします」

 計ったかの様なタイミングで扉が開き、一人の青年がお店の中に入ってきた。





ソートアート・オンライン ~命の軌跡~
Episode3 パーティー



第四十八層 『リンダース』

 午前九時を少し廻ったくらいに『リンダース』の転移ゲートに到着した。目的は昨日、エギルさんに教えてもらった『リズベット武具店』で、ここのオーナーに短剣をお願いするためだ。 弓使いは、ダンジョンで矢のストックを切らしたときのために、サブウェポンを用意しておかなくてはならない。あと、どうしても接近戦を強いられる時とかね。
 サブウェポンを短剣にした理由は、敏捷優先ビルド故に比較的高い筋力値を要求しないこの武器を選んだ。それに、敏捷型ビルドにとっては小回りが利くほうが実用性が増す。まぁ、例外はあるし、自分のレベルに見合っていないものは、当然扱えない。あくまで、サブであり、メインは弓であることは変わらない。保険として用意しておく程度のものだ。

「ここかな?」

 風車つきの家を発見し、店先にはOPENの木札が架かっている。それを確認して、少しホッとする。今日が定休日だったり、開店時間もう少し遅くからとかではなかったからだ。特にこのあと予定とかはないが、無駄足になるのだけは、なるべくなら避けたいところだかね。

「おじゃまします」

 扉を開いて、店内に入ると目の前にピンク色の髪の毛のウェイトレスのような格好をした女の子が立っていた。立っていたというよりは、外に出るため扉に手を伸ばしている格好だ。このお店の扉が店の外側に開くタイプだったので、僕が開けた勢いで、彼女に扉が当たることはなかったが、同じ姿勢のまま固まっている。

「あの……」
「えっ、あ……。い、いらっしゃいませ!」

 どうやら復活したみたいで、営業スマイルであいさつをしてくるが、その笑顔がどこかしら引き攣っているように見える。その様子に、内心首を傾げながらも用件を告げることにする。

「すみません、ここのオーナーの方ですか?」

 少し、失礼な質問かもしれないが、彼女の着ている服装は鍛冶屋の服装のイメージとはかけ離れているからだ。

「はい、そうですが……。何をお求めですか?」
「えっと、短剣を見繕って欲しいのですが」




「おじゃまします」

 あたしが開けようと、扉に手を伸ばした瞬間に勝手に開き、一人の男性がお店に入ってきた。店を閉めようと思った矢先に、これはお決まりの展開ってやつですか!

「あの……」
「えっ、あ……。い、いらっしゃいませ!」

 この怒りを誰にぶつければいいのだろうとか、色々と考えていたところ、声を掛けられ我に返る。この人に悪意はない。開いているお店に入ってきただけのお客さんなんだから……。とにかく接客しなきゃと思い、笑顔を作ったけど、きちんとできてたかは自信がないかも……。

「すみません、ここのオーナーの方ですか?」

 まぁ、この服装を見ればその質問も頷ける。だけど、この人は「オーナーの方いますか?」と聞いてこなかったので、気を使える人なんだと思う。

「はい、そうですが……。何をお求めですか?」
「えっと、短剣を見繕って欲しいのですが」

 あたしよりも年上だろう、キリトにはなかった大人びた雰囲気がこの人から感じられる。だけど、はじめてキリトと会ったとき以上に、高いレベルのプレイヤーには見えなかった。
 黒いシャツにダークグリーンのズボン、黒いブーツ。それに、紺色のフード付のマントを羽織っている。そして、特徴的なのが白いロングマフラーと右手の金の腕輪だ。すっかり秋も深くなり、少し肌寒くなってきているからマフラーは頷ける。だけど、腕輪のほうは、おそらくファッション用ではなく、何かしらの効果がある装飾品だと思うけど、なんと言ったらいいか……、正直あまり似合っていない。それは置いといて、キリトのこともあったから、レベルに関しては見た目よりも高いかもしれないので、案内することにする。 

「短剣の棚はこちらです」

 短剣が並ぶ棚に案内すると、男性は順に物色し始める。何個か手にとっているが、首を傾げるような動作を行い、もとあった場所に戻す。

「すみません、スピード系はどれになりますか?」
「それでしたら、これなんかどうでしょう?」

 あたしが差し出したのは、割と自信作の一振り。それなりにレア度の高いスピード系の金属を使用し鍛えた短剣。かなり軽く手数で攻める戦闘タイプのプレイヤーには、相性がいい武器に仕上がっているはずだ。 
 男性はそれを手に持つと、少し驚いたような表情を浮かべる。

「すばらしい短剣ですね。これも、あなたが鍛えたんですか?」
「はい、ここに並んでいる武器は全部あたしが作ったんですよ」
「ここにある武器全てですか?それは、すごいですね!」

 あたしの鍛えた武器を褒めてくれるのは、とっても嬉しい。だけど、この時ばかりは早く終わらないかな、って思った。幸い他のお客さんは来店していない。だから、他のお客さんが来る前に早く帰って欲しかったからだ。

「よし、少し重いけど、これにします。いくらですか?」
「あ、はい。―――コルになります」

 やっと、終わったと思い、この人が帰ったらすぐにお店を閉めて、あたしも出発しないと、と考えていたら―――

「なにか困ったことでもあったんですか?」
「えっ?」




「短剣の棚はこちらです」

 案内された棚には、短剣がきれいに陳列されていた。いくつか手にとってみるが、やや重い感じする。こういうときは、店の人に聞くのが一番効率がいいので聞くことにする。

「すみません、スピード系はどれになりますか?」
「それでしたら、これなんかどうでしょう?」

 渡された短剣を持ってみる。先ほど持ってみた短剣よりも軽い。僕はあくまで弓使いで、短剣にはあまり詳しくはないけど、これはとてもいい武器だと思う。なんていうか、武器に対する想いが伝わってくる感じだ。

「すばらしい短剣ですね。これも、あなたが鍛えたんですか?」
「はい、ここに並んでいる武器は全部あたしが作ったんですよ」
「ここにある武器全てですか?それは、すごいですね!」

 このデスゲームを終わらせようと努力している人は、前線で戦い続けている攻略組の人たちだけではないということを改めて感じさせられる。彼女のような生産職の人たちが影で支えているおかげで、戦うことができるのだと……。

「よし、少し重いけど、これにします。いくらですか?」
「あ、はい。―――コルになります」

 指定されたお金を支払い、短剣を受け取る。そこで、最初から疑問に思っていたことがある。それは、彼女の行動だ。なんていうか、そわそわしていて、何か急いでいるような様子が所々で窺えた。

(急ぎの仕事でもあったのだろうか?)

 いや、それなら店の開店時間をずらして、その仕事が終わってから店を開ければいいことだ。なら、緊急事態なことが起こり、とにかく店をいったん閉めようとしているのか。おそらく、後者だろう。それなら、先ほどから店の入り口を気にしているのにも頷ける。知り合いやお得意さんが来るというのも考えられるが、それなら、僕の接客をNPCの店員に任せればいいことだから、その線は薄いだろう。何となく、ほっとくことができないと思ったので、話だけでも聞いてみることにする。

「なにか困ったことでもあったんですか?」
「えっ?」

 彼女の表情がホッとしたものから驚きへと変化する。

「なんとなく、そんな様子だったからね。僕でよかったら話を聞きますよ。っと、その前に、他のお客さんが来る前に、やっておくべきことがあるのでは?」
「え、あ、うん」

 そう言って、彼女は店を出て行き、すぐに戻ってきた。

「すいません、なんか気を使わせてしまって」
「いや、気にすることはないですよ。それに、敬語は必要ないですよ」
「そう?正直この喋り方あまり得意じゃないのよね。あ、そうそう、自己紹介がまだだったわね。あたしは、リズベット。リズで構わないわ」
「僕はシン。よろしく、リズさん」
「さん付けはいらないわよ。それに、シンも話し方いつもどおりでも構わないわよ」
「いえ、僕はこれが地なので」
「そうなの?」

 お互い軽いあいさつを交わした後、本題に入ることにする。

「改めて、何か困ったことでもあったんですか?もし、僕にできることがあるなら、力になりますが」
「えっと、実は今日中に仕上げなきゃならない、オーダーメイドの注文に使う素材の在庫を切らしちゃって、急いで取りに行こうと思ったのよ」
「なるほど、誰か知り合いに頼もうとかは考えたのですか?」
「うん。でも、連絡はしてみたんだけど、今日は先約があってダメだったんだ。だから、あたし一人で行こうと思ったわけよ」
「そこに、僕が店にやってきたってわけだね」
「うん」

 金属素材の採取か……、場所によっては僕にも行けるだろう。よし、ここで会ったのも何かの縁だし、これからもリズさんにはお世話になることもあるだろう。

「あまり高層階でないのなら、僕がその素材取ってこようか?」
「え?いや、悪いわよ、そんな初対面の人にそこまでしてもらうなんて!」
「困った時はお互い様ですよ。それに、これからもリズさんに色々とお願いすることがあると思うしね」
「そ、そう?」
「うん。それで、場所はどこになりますか?」
「四十層にある『白銀の洞窟』ってところにいる、モンスターからドロップできるわ。〈エレミア銀鉱石〉っていう金属素材(インゴット)よ。今のところ、その洞窟でしか手に入らない金属よ」

 四十層か……、今のレベル(・・・・・)では、安全マージンは無いに等しいが、なんとかなるだろう。死と隣り合わせの修羅場の数なら、攻略組にも負けない程、乗り越えてきている。

「『白銀の洞窟』だね。じゃあ、今から採りに行ってくるよ」
「ま、待って!もしかして、一人で行くつもり?」
「うん、そうだけど?」

 弓使いではあるが、ソロで活動続けているので、一人のほうが戦闘もやりやすい。足手まといとかは、決して思わないが、ただ僕自身パーティーを組むことに少し抵抗があるというか、苦手なだけなのだ。

「だいたい、ドロップするモンスター分かってるの?」
「いえ。でも、そこでしか手に入らないってことは、その洞窟にしかポップしない、特定のモンスターからじゃないとドロップできないってことだよね。そして、そういう場合、一体ずつしか現れないことが多い。そいつを、見つけ出せばいいってことだよね」
「う、うん。合ってるけど……。じゃなくて、〈エレミア銀鉱石〉はある程度、《鍛冶スキル》が高くないとドロップできないわよ。シン《鍛冶スキル》は?」
「……全く無いです」

 そんな条件があるとは、思ってもいなかった。リズさんがそんなことで嘘を付くわけもない。つまりは、本当のことなのだろう。これは、僕一人ではどうしようもない。僕から協力を申し出た以上、今さら引くわけにもいかない。

「なら、一人で行くなんて言わないわよね?」
「はい、僕()一緒に行きます」
「うん!よろしくね、シン!」
「こちらこそ、リズさん」

 僕らは握手を交わし、店を出て第四十層の『白銀の洞窟』を目指すため、転送ゲートのある広場へと向かって歩き出した。久しぶりにパーティーを組むことになったが、僕にできることをするだけだ、と思うと少し気持ちが軽くなった。
 


To Be Continued


 
 

 
後書き
 最後まで読んで下さった方々、ありがとうございます。


 いかがでしたか?
 次回は、シンとリズベットの戦闘場面になります。うまく戦闘描写が表現できるかイマイチ自信がありませんが……

 それでは、次回もお楽しみに!!
 
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