| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Ep36壊れゆく世界~Starting the New world~

†††Sideフェイト†††

シャルとはやてを見送って1時間半くらい後、本局内に流れる最悪の結末を報せる放送。

『愚かしき時空管理局よ。私は反時空管理局組織テスタメントがリーダー、ハーデ。今日この日、この瞬間を以って、私たちテスタメントはあなた達に宣戦布告する。己が犯し隠してきた罪によって裁かれ消え逝きなさい』

その声は間違いなくセレスの声だった。管理局への宣戦布告。向こうで何かがあったに違いない。だけどそれを知る時間すら無かった。本局内に侵入者を知らせるアラートが鳴り響く。そして次に、オフィスに流れる“六課”に対する応援要請。

「テスタメントの幹部たちが将校たちを殺害している!?」

幹部たちが本局の上層部、一部の将校たちを殺害したという、そんな最悪の報せだった。ついに強硬手段で復讐をしに来てしまったということだった。考える時間も悩む時間も無く、私たち“六課”前線組は防護服を着用して現場に急行する。

――翔け抜ける速攻の陽虚鳥――

突き辺りを曲がった瞬間、赤い弾丸が視界いっぱいに入った。

――ディフェンサー・プラス――

――ラウンドシールド――

――パンツァーシルト――

私は半球上のバリアを、その前面になのはとヴィータのシールドが展開される。次の瞬間に轟音が1つ、2つ、3つと続いた。マルフィール隊3人の猛烈な突進攻撃。1つ目でヴィータのシールドが破壊されて、2つ目でなのはのシールドにヒビ、3つ目で破壊された。そのまま私のバリアに衝突、ヒビは入ったけど破壊されることなく弾いた。

「アレッタ三佐!」

私たちの目の前にその輪郭を現すアレッタ三佐をリーダーとしたマルフィール隊。そんな彼らの素顔を隠す兜の中からくぐもった声が聞こえた。「お前たちだけは違うと思っていたのに」って。その瞬間、彼らの姿が消えて、その奥から翠色の光がこちらに向かってきた。

――穿たれし風雅なる双爪――

「相殺する!」

――紫光掃破(ハーツイーズ・ドライヴ)――

レヴィが私たちの間をぬって前に躍り出て、砲撃を撃った。そして見事に本局に被害を出すことなく、翠色の砲撃を相殺することに成功した。対峙するのはフォヴニスと融合した緑色の甲冑姿のグラナードだ。

「特務六課・・・。ん? 騎士エリオか」

「グラナード・・・本当に復讐を・・・?」

今度はエリオが前に出て、“ストラーダ”を構えながらそ尋ねると、グラナードは今まで見せたことも無い下卑た笑い声を上げた。

「あぁ、殺してやった。フォヴニスで散々ぶっ叩いた後に、フォヴニスに喰わしてやった。ベーカーの阿鼻叫喚、ベーカーの肉が喰い千切られる音、骨が砕かれる音、そのどれもが最高に興奮した!」

そんなあまりに残酷なことを平気で、心底面白いとでもいう風に言った。私たちが何かを言う前にさらにグラナードは話を続ける。

「これでオレの願いは1つ叶った。もう1つの願い。オレが認めた相手と死闘を繰り広げて、勝敗がどうであれオレが消える。だというのに幻滅だぜ、特務六課。管理局(そっち)から協定を提案しておきながらボスを逮捕しようなんざ、そりゃないんじゃねぇか」

ボス。今なら誰を指しているのか判る。セレスだ。つまりこういう事態になったのは、管理局がセレスを逮捕しようとしたということだ。

「待って! それは何かの間違い――」

「間違い? 現にボスの家にまで武装隊が出張って逮捕しに来てんだよ。あーあ、可哀想にな。友と信じていたお宅らのリーダーに騙されて。だからよ。エリオ・モンディアル。“お宅”にはオレと闘う資格はもう無い」

そんなことあるわけが無い。だって、セレスが“テスタメント”のリーダーである確証を取るためにシャルとはやてはセレスの元に向かったんだから。だから、現状に於いてはセレスに“テスタメント”と繋がりがあるという情報も持っている局員なんて・・・。

(居るわけが無い・・・!)

居るとすれば、その武装隊を送った局員。その局員の誰かが“テスタメント”の誰かと繋がっている。たぶん今回のこの騒動は、その局員と幹部の誰かによって仕組まれたこと。私たち管理局と“テスタメント”の関係を一気に最悪な敵対関係とするために。

「ちょっと待って! それはおかしい!」

なのはがそう叫んだ。たぶん私と同じ考えに至ったんだ。でもグラナードは、話をする気も無い、とでも言うようにその姿を消した。幹部たちが退いたことで、本局内は被害状況確認のために一気に慌ただしくなる。

†††Sideフェイト⇒リインフォース†††

鳥のさえずりが聞こえる。意識が覚醒していく。まぶたを閉じていても判る光量。朝だ。目を開ける。最初は、寝起きで慣れない光のためにまぶたをすぐに閉じる。

「っ・・・く・・・」

右手で影をつくり、今度はきちんと目を開ける。何か夢を見ていたようだが、夢を見るように出来ているとは思えないからおそらく気の所為だろう。
陽の光にも慣れ周囲を見渡す。場所は湖畔の側にある森林に立つ大木。当然ながら眠りについた時から1歩として移動していない。大木にもたれながらゆっくりと立ち上がる。

「身体は・・・活動に支障なし。ユニゾン・・・可。転移・・・不可。戦闘・・・不可・・・」

自らの存在の現状を確認。結果知りえたのは、ただ動けるだけで単独での戦闘は出来ない、ということ。これでは真っ向から“テスタメント”と戦うことは出来ない。

「・・・すまない、マスター、ルシリオン。こうなれば、私は・・・」

完全な裏切り行為を今からこの手で行う。コンソールを前面に展開。ついでにここはどこで今日は何日かを調べると、管理世界スプールスで、今日は12月1日だと判る。そして時刻は12時少し前、朝ではなく昼だった。随分な時間を眠りに費やしていたようだ。
次に管理局と“テスタメント”に関する一般公開されている情報(ニュース)を閲覧。そこで判ったのは、あの戦いから管理局も“テスタメント”も動いていないということだった。互いに何かしらあったのだろうが今の私に知る術はない。だから今は用事を済ます。慣れない所為でなかなかに手古摺るが、それでも操作を続ける。

「マスター・・いえ、セレス。私は、管理局に・・・特務六課に付きます」

最後のキーを押して、おそらく主はやて達が1番苦労しているであろう“オムニシエンス”の障壁に関するデータを送信し、コンソールを閉じる。
一息つき、ある事をするために歩を進めて湖に近付く。人としての身体ではない以上、汗もかかなければ空腹にもならない(しかし睡眠は必要だという何ともおかしな話だ)。
しかし最初の1年はマスターに付き従って、一般人と同じような生活をしていたこともあり、人らしい行動、特に身体を洗浄するという行動を自然にとるようになってしまっている。とはいえ、ここ最近は“テスタメント”としての活動が多忙だったため、身体の洗浄は手抜き状態だ。

「久しぶりだな、湖での水浴びも」

幹部がまだ私とルシリオン、そしてセレスとトパーシオだけだった頃は、こういうことをしていた(もちろん男であるルシリオンはどこかにやっていたが)。そんな昔とも言えない思い出を思い出しながら、着ている服を脱ぎ裸となって湖に入る。

(身体的な損傷は完全に治っている・・・? これもフライハイトの恩恵ということなのだろうか・・・?)

完全に傷1つなくなった肌を、冷たい(が、気にはならない)湖水を片手ですくって洗う。いろいろと気になることはあるが、私には到底理解できないような“力”が働いているのだろうと無理やり納得する。最後に長い髪を洗ってから湖を出、カルド隊の炎によって少し損傷した服を着る。最後にルシリオンから贈ってもらったヘアピンで髪を留め、終了だ。

「まずは服をどうにかしなければならないな・・・」

服がボロボロでは地域警邏に目を付けられるかもしれん。そうならないよう新しい服を入手しなくては。近くに小さな街があることを祈り、“女帝の洗礼”に関するデータを纏めつつ私は湖畔を後にする。
最後にもう1度ニュースを観るためにモニターを開く。すると数分前までと打って変わって管理局と“テスタメント”の速報をしていた。キャスターが速報ニュースを読み上げた。その内容は驚愕するほどのものだった。

「テスタメントが・・・管理局に・・・宣戦布告!?」

この数分で、状況はとんでもない方向へと変化、悪化していた。

「急がなければ!」

私は何としても主はやて達と合流するため、次元港を探しに走る。

†††Sideリインフォース⇒シャルロッテ†††

私たちがミッドから本局内に向かっている間、事態は最悪な方へと向かっていた。本局へ向かうために乗った次元船内に流れる、主要管理世界にも放映されていると思うある映像データ。
それは本局の上層部、一部の将校たちによる幹部会の様子を隠し撮りされたもの。内容は“テスタメント”の持つ技術力を手に入れるために協定を結ぶフリをして、幹部たちを一網打尽にしよう、というものだった。

「上層部は・・・ここまで・・・!」

はやてが手を白くなるくらいにギュッと握りしめていた。その他にも、これまで管理局が犯し隠してきた不正などが流れる。一部とはいえ、信じていた管理局の嫌な部分を見たんだ、仕方ない。

「どうやら、仕組まれた事態のようね。セレスの意思とは関係なく、別の幹部によって」

私たちが3日という短い時間とはいえ全力で調べ上げた情報を、何故武装隊を送った上層部が知っているのか。答えは1つ。“テスタメント”の幹部の中に、管理局と協定を結んでほしくない奴が居る。

(そいつが上層部の将校の誰かにセレスの事をリークしたに違いない)

私とはやてが本局に戻ると、本局は当然ながら私たちがミッドに降りる前とは全く違っていた。慌ただしく駆けまわる医務官たちと局員たち。中には武装隊の姿もあった。なのは達からの連絡によると、将校の何人かが幹部の手によって殺害されたとのことだ。

「可能性としてはディアマンテでしょうね」

「ディアマンテ・・・許せへん、こんなん。絶対に・・・!」

そして今、私とはやてはある場所へ一直線に向かう。着いたのは、逮捕した犯人を一時的に閉じ込めておく留置所。ある程度進むと、武装隊が数人がある1つのドアの前で待機していた。まずは敬礼。そして入室の許可を取ってもらい、堅く閉じられていたドア開けてもらう。はやてに続いて中に入る。と、リンカーコアの働きを封じるリミッター付きの手錠をかけられた将校、名前は確か・・・。

「お話を聞かせてもらってもいいですか、ブルックルンズ少将」

そうそう。ライレー・ブルックルンズ少将。俯いてぶるぶる震え続けるブルックルンズ少将の目がはやてと私を見る。

「こんなことになるとは思わなかったんだ。私は・・・こんなことに・・・」

頭を抱えて唸り始めて、「違う。私はこんなこと望んでいない」って繰り返す。それでもはやては詰問をやめないで、何度も「何があったんですか?」と尋ねる。そんなのが1~2分くらい続いて、さすがに私はイラつき(ほぼキレた)始めた。

「ディアマンテにでも誑かされたか?」

顔にも態度に出さないで努めて冷静な口調にして、でも強めにカマをかけてみると、少将の身体がビクッと大きく震えた。ビンゴだ。はやてと頷き合って、さらに続ける。そして判ったのが、やっぱりディアマンテが裏で糸を引いているということだった。

†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††

シャルちゃんとはやてちゃんが戻ってきた。そして告げられるミッドで起こったこと。セレスさんが魔術師で、武装隊によって逮捕されそうになったこと、それがはやてちゃんが手引きしたって勘違いされたこと、そしてさっきの宣戦布告。

「ブルックルンズ少将が全部吐いたわ。少将はディアマンテと結託しとった。セレスを捕まえて、ディアマンテがリーダーとなったら管理局、少将個人に協力する、ってな」

「そんな・・・! それじゃカローラ一佐は、味方のディアマンテに裏切られたってことですか!?」

「おそらくディアマンテは管理局との協定を何としても邪魔したかった。だからこそ完全に敵対させるために、こんなことを仕組んだんでしょうね」

「彼の目的も復讐だから、ですか・・・?」

「そや。・・・ディアマンテの正体も少将から聞き出せたから、今から説明するな」

はやてちゃんがモニターを出し、かなり古い局員データを表示。映し出されたのは1人の青年。名前をメサイア・エルシオン陸曹長。40年も前に殉職したとされる、陸曹長と医務官の肩書を持つ局員のデータだった。

「医務官としての任務中に殉職。任務地は内乱続く、管理世界となって間もないサンサルバシオン。サンサルバシオンの人は、独自の技術で局に戦いを挑んだ。そして負けた。後に派遣されたのはエルシオン医務官の配属されている医療班と、当時三尉だったブルックルンズ少将の配属されている護衛の部隊」

当時の資料が次々に表示される。

「でも、まだ残っとった抵抗勢力との交戦に入って、結果局はその地区の一掃の決断を下した。医務官として仕事を全うしようとした医療班は、その命令を聞かず医療行為を続行。そしてそれは起こった。ブルックルンズ少将の部隊は、痺れを切らして医療班もろとも反抗勢力を艦載砲で・・・殺した」

「護衛部隊の隊長ローバー一尉の証言によると・・・え、なにこれ? 医療班が抵抗勢力に寝返ったことで、仕方なく抵抗勢力とともに鎮圧・・・。これって・・・!」

真実が隠蔽されて改竄されている。彼らの復讐したいという気持ちも徐々に解かってきてしまった。これは酷い。いくら被害拡大を防ぐためとはいえ、切羽詰まっていたとはいえ仲間を撃つなんて・・・。知りたくなかった、けど知らないといけない管理局の深い闇。大きくなり過ぎた組織には必ず付き纏う問題だ。

「八神部隊長! テスタメントの構成員であると思われるレジスタンスが、民間人を率いて暴動を起こしている、との連絡が入りました!」

「その他にも幹部と思われる白コート集団が各管理世界の地上本部、支局を襲撃! 応援要請が入っています!」

次から次へと入る最悪な報告。

「しゃあない。・・・幹部が姿を現しとるのはどこの世界や!?」

「はい、カルナログ。オーシア。ユークトバニアの3つです!」

「状況変化! その3世界の地上本部の将校や一部の局員を襲撃した後、すでに撤退を終えてます!」

「襲撃された局員たちは、先に放映された映像で不正を働いたとされた局員と判明!」

先手後手どころか手を回すことすら出来ないほどに早く事を成していく幹部たち。管理局による管理が始まって以来の最悪過ぎる状況が私たちを襲っている。

「どうすればええんや・・・? 動いて到着した頃にはもう何かも終わっとる。そんな相手をどう捉えれば・・・!」

ダンッ!とデスクに両手を叩きつけて、顔を歪ませるはやてちゃん。“テスタメント”の本拠地である“オムニシエンス”へ仕掛ければ、幹部たちも防衛のために不正局員の襲撃を止めて来るだろうけど、その“オムニシエンス”に入れない以上はどうしようもない。

「八神部隊長! 解読不明の文書データが・・・」

「解読ふめ――」

「見せて!!」

「・・・おぉ・・」

はやてちゃんが応える前に、シャルちゃんがその隊員のデスクに向かった。解読不明の文書。ヨツンヘイム語って呼ばれるモノなんだとすぐに判った。シャルちゃんが真剣な表情でモニターを眺めて、そして急に笑い出して「よっしゃぁーーッ!!」って現状には似つかわしくないテンションで叫んだ。

「はやて! ウスティオ、エストバキア、フォスカム、ノルデンナヴィクの地上本部に連絡して!」

「どういうことや、シャルちゃん・・・?」

「オムニシエンスの障壁の解除方法が判った! 今言った世界に障壁発生システムが置かれてるテスタメントの拠点があるみたい。そこを潰せばオムニシエンスに進入できる!」

私たちの前に、4つのマップが表示されているモニターが展開されて、拠点の位置と思われる座標が光る。

「少し待て、フライハイト。その情報は真実なのか? またディアマンテや他の幹部による罠かも知れんぞ・・・!」

シグナムさんの言う通りだ。この状況でこのタイミングで、1番知りたい情報が送られてきた。それを罠だと怪しむのは当然のことで、私だって信じられない。

「・・・最後はこう締めくくられてる。しかも音声付データ。よく聞いて、はやて」

『必ずまた貴女の下に集うことを誓って。ノーチェブエナ』

オフィスに流れる女性の声。間違いなくこの声は・・・。

「リイン・・・フォース・・・!」

「今の、間違いねぇ・・・リインフォースの声だ!」

「生きていたんですよ、はやてちゃん! リインフォースは今も生きてるんですよっ!」

「よっしゃーっ!!」

はやてちゃんたち八神家の面々が本当に嬉しそうに泣き笑いで喜び合う。今の状況でこの雰囲気は不謹慎だと解かっていても、それでも嬉しいことだ。そんな中、シャマル先生がリインフォースの居場所を聞いたけど、ネットワークに問題が発生しているみたいでトレース出来なかった。
でも、

「リインフォースもきっと動いてくれとるはずや。ウスティオ、エストバキア、フォスカム、ノルデンナヴィクへ連絡! 拠点の座標を送信後、私ら特務六課も出るよ!」

はやてちゃんの指示が飛ぶ。それに「了解!」と応える私たち。

「ごめん、提案したいことがあるんだけどいいかな?」

とそこでシャルちゃんが小さく右手を上げた。

†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††

私は右手を小さく挙げて提案。はやてに「聞かせて」って促されたから遠慮なく話す。

「六課の戦力を4つに分けることを提案したいんだけど」

「どういうことか聞かせてもらってもええか?」

そう言うと、やっぱり詳細を求められた。当然だし、私の考えをみんなに説明する。

「現在、幹部は途轍もないスピードで各管理世界の施設を襲撃し回ってる。それに対応しようにも、私たちにはそんなスピードはない。だからこそおびき出す。拠点を奇襲、その場に留まって幹部たちを釣る。そして決着。それが1番手っ取り早い」

スバルとティアナの元には間違いなくクイントさんとティーダが来る。これで先ず2人の幹部。シグナム達の元にはカルド隊。これで5人。エリオの元にはグラナード(何か闘う資格が無いだのなんだの言われたらしい)が来る、と思いたい。これで6人。残り1ヵ所には誰が来るかは判らないけど、最低でも1人は来るはずだ。

「みんなを囮にするようで本当に悪いと思ってる。幻滅されても仕方ないだろうね。だけど、このままだと状況はもっと悪くなる。だからここで決めておかないと、って思うんだ」

「・・・幻滅なんてしないよ」

「そうやな。こればっかりは手段を選んどったらアカンし、私もシャルちゃんに賛成するわ」

「そうでもしないとこの状況はきっと変わらない。だから、私もその手でいいと思うよ」

なのはとはやてとフェイトが私の提案にそんな優しい声で賛成してくれた。するとシグナム達もスバル達も同じように賛成を示す頷きをしてくれた。

「ありがとう、みんな」

みんなの優しさにお礼を言う。

「決まりやな。それやったら組み合わせはどないする?」

「んと、確定でスバルとティアナ、エリオとキャロ、シグナム達。残り1組は推測になるからどうしようかと思うんだけど。他のみんなはいつでもフォローは入れるように待機しておく、っていうのはどうかな?」

「最後の1組、わたしが・・・わたしが行く」

レヴィが遠慮したように手を挙げた。レヴィの相手は一応ディアマンテということにしたけど、正直レヴィに勝てる相手とは思えない。それにディアマンテが出張るかどうかと考えれば、まずアイツは出て来ない。何せ姿を現して前線に出たのは先の戦いの1回だけ。

「なのは。なのはもレヴィについて出てくれる?」

「え? うん、私はそれでもいいけど・・・。もしかして、アレッタ三佐たちマルフィール隊が来るかもしれないって考えてる・・・?」

「おそらくね。トパーシオはエルジアでの一戦から出て来ない。ルシルが来るっていうのも可能性あるけど、どっちかと言えばマルフィール隊が来そうなんだよね」

ルシルじゃなくてマルフィール隊。セレスはおそらく姉のフィレスと、そしてルシルを側に置くはずだ。何せセレスこそがルシルのファンクラブの創設者(知ったのは機動六課卒業直前)なんだから。だからこそ、セレスはこういう状況なら姉フィレスと想い人のルシルをしばらく自分の元に居させると思う。私だって何か辛い時があれば、好きな人や大切な人に側に居てほしいと思うから。

「ではこれで決まりだな。守護騎士(われら)はウスティオへ行こう。それでいいか、ヴィータ?」

「あたしはそれで構わねぇ。リインとアギトもそれでいいよな?」

「はいです」 「おうよ!」

「それじゃあ私とレヴィはエストバキアで。それでいい、レヴィ?」

「うん!」

「それならあたしとティアは・・・」

「フォスカムにしましょ。廃棄都市区画内にあるみたいだから、陸戦魔導師のあたし達には好都合よ」

「では僕とキャロは平地のノルデンナヴィクへ行きます。それでいいかな、キャロ」

「うん。広い場所の方がきっと戦いやすいだろうから、わたしはそこでいいよ」

「決まり。残りの私たちは、いつでもフォロー出来るようにヴォルフラムで待機ってことで」

ある程度の作戦を立てたところで、はやてがどこかに通信を入れようとしたとき、通信が入ったっていう報せのコールが鳴る。はやてがそれに応えると、クロノが映るモニターが展開。それとほぼ同時にはやての「ちょうどええとこに」っていうセリフと、クロノの『急ぎの話があるんだが』っていうセリフが重なった。

「えーと、クロノ君から聞かせて」

『あ、ああ。管理局はテスタメント幹部に対して出頭するよう呼び掛け、それが受け入れられない場合は実力行使で対処する、という決議がなされた。結果、テスタメントはそれには応じず、なおも管理局施設への襲撃を繰り返している。つまり、君たち六課を含めた管理局は、テスタメントを潰すこととなった」

クロノから聞かされた話に、誰も何も言わない。もうどっちが悪だとか正義とか、そういう問題じゃなくなってきているからだ。管理局は犯し隠してきた罪を曝け出されて、開局以来最悪な状況に追い込まれた。
“テスタメント”はそれに乗じて、不正を働いた局員に対して攻撃という、あまり賢くない選択肢を取った。でも、管理局全体がそんな悪い局員ばかりじゃないのは確か。不正を働いた局員の総数だって全体から見えれば3%にも満たないはず。
居る時点で悪いとも思うけど、人間である以上そういう欲を持ってしまっても仕方ない。まぁ同じ局員を自己利益のために謀殺したっていう連中には当然の報いだろうけど。

『・・・あー、僕からは以上なんだが・・・。そっちはどうだ? 応援要請とかが入っているんじゃないのか・・・?』

「そのことやけど、オムニシエンスの障壁の問題をクリアするために、六課を動かす。今から六課の方針を纏めて送るから見てもらってええやろか?」

『・・・判った。こちらで出来ることは何でもやろう。艦隊だとか大隊を出せ、と言うのなら出せるように努力をしよう』

「おおきにな、クロノ君。シャルちゃんと少し相談して決めるわ」

通信を切って、私に顔を向けるはやて。相談も何ももう決まっているでしょうが。“オムニシエンス”という世界丸ごと1つを攻略するには、管理局の抱える戦力の大半が必要だってことが。魔族を有する幹部は私たち“六課”が何とかしてみせる。だけど砲塔群に関しては管理局のフォローが無いとおそらく落とせない。

(それに戦闘機部隊のアギラスにも航空部隊の助力が要る)

そしてもう1つ、忘れちゃいけないのが“スキーズブラズニル”艦隊。4日前の戦いには出て来なかったけど、危機に陥ったらおそらく出してくる。それに対抗するためには、こちらにも高出力の魔導砲を積んでいる艦隊が必要だ。
私の推測だと“スキーズブラズニル”1隻に対して、こっちは大型のXV級艦を3隻くらいないとまず相手にならない。ルシルのレプリカ・“スキーズブラズニル”だからこそ、神秘が無くとも力押しの魔導砲で何とかなるはずだ。

「やっぱりシャちゃんが居ってくれてよかった」

そう私の考えを話すと、はやては嬉しいことを言ってくれた。それからすぐに私の話したことを纏め上げてクロノのところに送った。
そして“六課”メンバーをオフィスに整列させて、出撃の合図へと入る。こういう場合でもやっぱりやるんだ、って感心。んで、少し焦り。時間が無いよ、はやて。

「ええか。テスタメントは今までと違って暴走しとる。かなり危険な戦いになると思う。そやけど、これ以上の悲しい戦いは絶対に止めなアカン。そやから、みんなの力、私に貸してください」

やっぱりはやてはすごい子だ。はやてがそう言い終えた瞬間、オフィス内の士気が一気に膨れ上がったのが判った。上に立つ者としての、下を引っ張って共に歩んでいく力がはやてにはある。だからこそ隊員たちは「お願いします!!」って一糸乱れずに応えられる。

「特務六課、出撃!!」

・―・―・―・―・―・

グリューエン拘置所の奥の奥、ある1つの牢内に白コートを纏った男が現れる。その牢に捕えられている男が「久しぶりだね」と気さくに、友人と話をするような軽い口調で挨拶した。捕えられている男は紫の髪に金の双眸をしている。名をジェイル・スカリエッティ。5年前の都市型テロJS事件の首謀者だった男だ。

「随分と面白いことをしているそうじゃないか。フフ、私ももう少し時を待っているべきだったかな、エルシオン曹長、いや元曹長か」

スカリエッティの牢に現れたのはディアマンテ・メサイアだった。彼はフッと笑い、「どうだろうな」と素っ気なく返した。

「40年以上も前に死んだ君が、2年前、私の前に姿を現した時は驚いたよ」

「こっちはお前が牢に入れられたと知った時驚いたし、お前と会うためにどうしようかと悩んだんだが?」

「だが君はこうして私の前に監視網を掻い潜って姿を見せている。それでいいじゃないか」

グリューエン拘置所は高レベルのセキュリティーによって監視されている。しかし、亡霊と言っても過言ではない“テスタメント”幹部は、意識すればカメラに姿を映らないようにすることも可能だった。とはいえ、そのようなことが出来ると知っているのは彼、ディアマンテだけだが。

「結果論だな。と、本題に入らせてもらおうか。まずは、AMFシステムに関して礼を言う」

「アギラス、と言ったかい? それに搭載するという話だったが、役に立っているのなら私としても嬉しいよ」

カメラに背を向けるスカリエッティは、ディアマンテに対してそう笑いかける。そして彼もまた「ああ、本当に感謝している」と再度礼を口にした。
“テスタメント”の航空戦力である人格型AIを搭載した戦闘機“アギラス”のAMFは、スカリエッティがガジェットドローンに使用していたモノの発展型だった。とはいえ、エアインテークというウィークポイントの所為で、その本来の効果も発揮できずに撃墜されているのが現実だが。

「それで、今日ここへ来たのはこのためだけなのかい?」

スカリエッティがそう尋ねると、彼は「いや」と首を横に振った。「ふむ」と唸ったスカリエッティ。しかし次の瞬間にその表情が驚愕に染まる。

「無限の欲望ジェイル・スカリエッティ。マルフィール隊に代わり、俺が彼らの復讐を執行しよう」

マルフィール隊。かつてのアレッタ部隊の死の原因であるAMF。それはもちろん天然などではなく、スカリエッティが実験と称して、アレッタ部隊の殺害を企てた連中の計画を利用して試験運用したものだった。ゆえに、スカリエッティはマルフィール隊にとって復讐すべき対象の1人だった。

「ごふっ・・! なんの・・つも・・り・・・!?」

スカリエッティの背中から生える赤い液体に染まる腕。その腕の持ち主はもちろんディアマンテだ。多量の血液を吐き、スカリエッティは彼にもたれかかる。

「1度滅びるべき管理局の闇は、俺の損得関係なく排除する。それに、お前をこれ以上生かしておいても、いつか弊害になる可能性がある。ならば今の内に排除しておこうと思ったまでだ。あぁ、安心しろ。お前の保有していた技術力はすでにこちらで回収した。だからこの世界に未練なく逝けるだろう?」

スカリエッティにそう耳打ちし、用済みだからもう消えろ、と宣告した。そして純雷の皇馬アルトワルドの能力を使い、蘇生できないようにスカリエッティの体内を雷撃で焼き滅ぼす。
今は失き管理局最高評議会によって創り生み出された稀代の天才ジェイル・スカリエッティ。かつては地上本部を手玉に取り利用した彼は、ディアマンテに利用された揚句、呆気なく人知れずに殺害された。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧