進撃の巨人〜緋色の翼〜
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第七話:復讐の緋眼
「父さん!!!母さん!!!フローラ!!!」
リビングに入るなり大声で家族の名前を叫ぶ。しかし、返事は返って来なかった。次いで部屋を見渡す。そして、視線を下に向けたとき二人の大人が床に倒れているのが見えた。間違いなく父さんと母さんだ。急いで二人の側へ寄って声を掛けた。
「父さん!!母さん!!父さん!!!母さん!!!」
二人の体を揺すり何度も何度も声を掛けるが返事はいつまでたっても返って来なかった。
「父さん?母さん?」
二人を揺すっていた手の力が次第に抜けていく。
「と…うさ…ん、か…あさん。嘘…だろ?」
力が抜けて二人の体から滑り落ちていく手が二人の手に触れた。
冷たい。俺が知っているいつもの暖かい手と比べるとまるで氷の様に感じた。
「うっ……くっ、とお……さん、かあ……さん」
その冷たさを認識した途端、両目から涙が流れるのを感じた。
俺の中に様々な感情が爆発する。
悲しみ、苦しみ、怒り、そして、巨人への恐怖。しかし、何よりその巨人に何もできない自分自身が憎かった。
(どうして俺は何もできない。どうして俺は何もしない。どうして俺はここで這いつくばっている。どうして俺は……こんなにも弱い!!)
そんなとき、感情が渦巻く中、たった一人の妹のことを思い出した。
(フローラは?まだ、部屋に居るのか?フローラも父さんと母さんみたいになってしまうのか?)
それが思考に過った瞬間、俺はフローラの部屋へ走っていた。
フローラの部屋の扉を蹴飛ばした。不思議と痛みは感じなかった。
「フローラ!!」
部屋に入り部屋の中を見渡すがフローラがいる様子はない。
(居ない……いや、もう避難したんだ。そうだよな。大丈夫だよな……フローラ……)
無理やり自分自身にそう言い聞かせながらフローラの部屋の窓を蹴り破り外に出た。シガンシナ区とウォール・マリアの間の扉に向かって走り出そうと数歩進んだところで足を止め自分の家の方向を向き、両親に別れと感謝の思いをこめて頭を下げた。
顔をあげるとすぐに向き直り、全力で走り出した。
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幸い近くに巨人が居なく、一直線にウォール・マリアに向けて走ることが出来た。しかし、扉まであと少しというところで走っている途中、視界の端に人影が映った。
気になって視線をそちらへ向ける。そこにいたのはこちらに背を向けてうずくまっているフローラのような黒髪に少し茶髪が入ったような髪の女の子だった。
それを見た俺は走り出した。フローラがこんなところに居る筈がない、と。あの女の子がフローラで無いことを祈って。
「大丈夫か?」
俺はその子の元へ行くとしゃがんでその背中に声を掛けた。
「えっ?その声……シル……兄?」
しかし、神というのは残酷だ。俺の問いに対する声は今、ここに居て欲しくなかったフローラのものだったのだから。
「フ、フローラ……どうして…ここに……」
「シル兄だって、どうして………シル兄、お父さんとお母さんは無事なの?」
俺が来たことに驚いた後、フローラは不安気に尋ねてきた。何も答えられない。答えられないのは俺自身もまだ認めたくないのかもしれない。この現実を………父さんと母さんが死んだという事実を。
俺は歯を食いしばりフローラを抱きしめ、ただ一言、「ごめん」と呟いた。フローラも震える手で俺を抱きしめた。
ゆっくりとフローラが手を離して立ち上がった。そこで初めて俺が震えているのが分かった。何故震えているのかは明確だ。この妹を、フローラを失いたくなかった。
恐る恐る俺は、フローラを見上げた。今、他人から見た俺は実に滑稽だろう。なんたって妹は目に強い意志を宿しているのに対し俺は震えているのだから。妹より弱い兄、本当に情けない。俺が他人だったらその兄を笑っていただろう。そう思わせられるほどに、フローラは目に何かを決意したかのような意志が宿っていた。
「シル兄」
「な…なん…だ?」
強くあろうとするのに声が自然に震える。
思わず目を離そうとするが、フローラの目はそれを許さない。
「シル兄、生きよう…」
「……えっ?」
「生きよう!!!お父さんとお母さんの分まで!!どちらかが一人だけになっても!!」
「フローラ……」
フローラはそう叫ぶと俺に手を差し伸べた。俺はその手をしっかりと掴んで立ち上がった。こんなところでクヨクヨしてられない!そう思って自分を奮い立たせていた。
「ああ、そうだな。生きよう!!」
「うん…うん!!」
俺はそう言うなりフローラを背負って扉まで走り出した。
「へ?シ、シル兄?ど、どうして?」
「馬鹿か。足怪我してんだろ?あんなところでうずくまってれば誰だって分かるよ」
「うう、面目ないです……」
「クスッ、じゃあしっかり掴まってろよ?」
「了解!!」
返事を聞くなり、俺は全力で扉まで走った。
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「はあ、はあ。つ、着いた」
「ありがとう、シル兄!!大丈夫?」
俺が肩で息をしているとフローラが心配そうに顔を覗き込んできた。そんな、フローラを背中から降ろし頭を撫でながら「大丈夫だよ」というと、近くにいる駐屯兵団の兵に話しかけた。
「すみません!船はまだありますか?」
「子供!?こっちだ!!急ぎなさい。まだ間に合うかもしれない」
俺たちの姿を見るなり手を引いて先導してくれる。
やっと安心をした。そのとき、シガンシナ区の方からとても大きい足音がだいぶ近くから聞こえる。ふと、そちらを見ると、俺は目を見開いた。何故なら15m程の巨人が駐屯兵団の使う兵器を当たっても倒れることはなく一直線にこちらへ向かって来ていたからだ。
早く逃げなければそう思いフローラを背負おうと手を伸ばした瞬間。
グシャァアァアア
目の前に通り過ぎる巨人の足。次いで赤い液体が飛び散る。フローラの方を見てもそこにはフローラは居ない。
どうして?何故そこにフローラがいない?何故俺は宙に浮いているんだ?この血は誰の血なんだ?
そこまで考えたとき。俺は地面に叩きつけられた。背中に痛みを感じつつ辺りを見渡した。数m離れたところに赤い血溜まりが見えた。赤い血から覗く黒髪で少し茶髪が入ったような髪。扉を壊した巨人がシガンシナ区の方へ帰って行くのも目に入らず、ただ、ただ、ゆっくりとそこへ足を運んでいた。
そして、そこへ辿り着くと、その場にへたり込んだ。さっきまで生きていた筈のフローラがそこに倒れている。生きようと誓ったフローラが血を流してピクリとも動かない。手に触れると最初こそ暖かいもののだんだんと冷たくなってくる。その体に片足、片手はない。ぼうっとしてそれを見ていると足元に何かが転がってきた。それを見たとき、俺はどれだけ叫んだのだろう。どれだけ泣いたのだろう。どれだけ今までの思い出を思い出しただろう。
それは、フローラに三年ほどまえに、俺が街で買ってやった中央に小さな水晶が煌めくペンダントだった。
今までにない位に泣き叫んだ。どれくらい時間が経ったのだろうか俺が落ち着いた頃、さっきまで感じていた巨人への恐怖など消え失せていた。そして、俺の中に残った感情はこれ以上ないほどの巨人への殺意だった。
ようやく駐屯兵団が来た頃、俺は、涙を流してただ無感情に虚空を見ていたという。そして、その目は真っ赤な血の色、赤色をしていた。
後書き
主人公は目の色素が抜けて赤くなったという設定にします。主人公は黒髪赤目と思って下さい。
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