魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep25シャルをおバカさんと思う人は挙手 ~Interval 4~
†††Sideシャルロッテ†††
ヴィヴィオに案内された辿り着いたイクスヴェリアの眠る部屋。ここに来るまでにセインの叫び声が聞こえたような気がしたけど、うん、やっぱり気の所為だ。
「シャルちゃん。セインの悲鳴、聞こえなかった?」
「そう? 哀れな子羊の鳴き声なら聞こえた気もするけど、気に所為じゃない?」
「シャルロッテ、鬼畜」
私で遊んでことへの罰なのだ、これは。とはいえ、怒りよりかは楽しいって感じ。シスターシャッハと会わなかったら、もっと別のベターエンディングを迎えることが出来てたかもしれないね。
「シャルさん。この部屋です」
「ん」
ヴィヴィオがあるドアを指差した。そしてドアの前に立って、ヴィヴィオがコンコンコンとノック3回。
「お邪魔しま~す」
そっとドアを開けて部屋に入るヴィヴィオに続いて、私たちも入室。そこは日当たりのいい部屋で、とても温かかった。
「こんにちは、イクス。今日もお見舞いに来たよ」
ヴィヴィオがベッドに歩み寄りながら挨拶した。私もヴィヴィオの後に続いてベッドに歩み寄って、静かに眠る1人の女の子、イクスヴェリアを見た。
「今日はね。シャルさんっていう、すごい騎士を連れてきたんだよ」
イクスヴェリアの手を取って、優しく自分の両手で包み込むヴィヴィオ。そんな2人からベッドの側のドレッサーには写真立てに目を向けた。写真立ては大小1つずつで、飾られている写真は、小さな方にはスバルとイクスヴェリアの2ショット。大きな方にはいろんな写真が飾られている。学院で見かけたヴィヴィオの友達やナカジマ姉妹。あと、碧銀色の長い髪をツインテールにした、紺と青の虹彩異色の女の子も一緒に映ってる写真。背丈からしてヴィヴィオ達より1つか2つ年上かな。
「シャルさん、イクスを診てもらっても良いですか?」
「ええ、任せて」
ヴィヴィオにそう答えて、私はイクスヴェリアの額にそっと手を置く。
「我が言の葉は幻想を紡ぐ鍵」
詠唱。書庫から、ルシルから貰った調査系の術式を発動。イクスヴェリアの状態を確認する。魔術で回復できるかどうか。私に治せるかどうか。治療に必要な何か手掛かりは無いかと思って、この子には悪いけど記憶を少し覗かしてもらう。
見えるのは、私にとっては見慣れた風景。灰色の空、不毛の大地、血染めの泥濘、幾多の亡骸、壊れた武器の山。妙な人型――マリアージュって奴を生み出しては戦地に送り出すイクスヴェリア。目覚めてはそれの繰り返し。繰り返し。繰り返し。繰り返し・・・。
(私たちの時代に比べればマシ・・・だなんて言えないなぁ・・・)
戦場のあり方に於いて、マシだとかそうじゃないとか、そんなことを比べてちゃいけない。血が流て、命の灯が消えて、慟哭、憎悪、復讐、また血が流れて。戦場の大小関係なく命が消えることには変わりない。貴い命なんてものが安く思えるほどに容易く消えていく。
そして、マリアージュ事件ってやつの記憶になる。スバルとの出会いから始まって、今のように眠りに入るまでの記憶。短過ぎるけどすごく温かな思い出。これは私が踏み込んじゃいけない領域だ。すぐさまイクスヴェリアの記憶を覗くのを止める。
「・・・ふぅ」
一息つく。ヴィヴィオが「どうですか? 何とかなりそうですか?おずおずと聞いてきた。
う~~~~ん~~~~。結論から言えば・・・。
「うん、私でも何とかなりそう・・・かな。ある程度の力が戻れば儀式魔術も扱えるようになるし、ルシルから貰った複製術式の中にもこういう普通じゃないのを治す術式もあるし・・・」
、
ルシルの複製術式の中には、複雑過ぎる術式だけど人を救う術式が多い。次いで攻性、補助、防性(防御嫌いだしなぁルシル)って感じだ。
「ほ、ホントですか!?」
ヴィヴィオが立ち上がって勢いよく私にしがみ付いてくる。レヴィもそうで、「本当にイクスを治せるの!?」と詰め寄ってきた。落ち着くように2人を宥める。
「今すぐじゃダメだけど、調整を終えたらいけると思う」
その言葉がさらに2人を煽ることになった。ヴィヴィオとレヴィは「本当ですか!?」を繰り返す。いや、だから、本当だって言っているじゃない。
「落・ち・着・い・て、2人とも! イクスヴェリアは治せる! 明日朝早くに儀式をやってみるから、今日はこれで解散! OK!?」
2人の頭に手を置いてわしゃわしゃと全力で撫でる撫でまくる。そんなことを少しの間続けて、2人が落ち着いたところで、なでなでを止める。2人はくしゃくしゃになった髪のまま「あぅ~」と目を回していた。なのはと2人してヴィヴィオとレヴィの髪を手櫛で直す。うん、ちょっとやり過ぎちゃったね。
「それじゃあ今日はもう帰ろう。私もこれから予定あるし」
そう告げと2人は「うん」って頷いて応えた。それから騎士カリム達(セインの姿が見当たらない)に挨拶してから教会を後にする。まずはヴィヴィオを自宅に送るために、高町家へ向かう。その間、ヴィヴィオは友達にメールを、レヴィもルーテシアにメールを送ってるみたい。
「あの、シャルさん。イクスが起きるところ、友達も一緒に・・・というか、その・・・」
ヴィヴィオがそこまで言って口ごもる。どうやらヴィヴィオは遠慮しているみたい。ヴィヴィオの友達に、魔術を見られても良いですか?ってことなんだろうね。
う~~ん、別に見られても良いかなぁ・・・。魔術って言われないと気付かれないと思うし。それ以前に魔術という存在を知る人なんて、私とルシルと関わったなのは達しかいない。だったら見られても困るようなものじゃない。
「いいよ、その友達を連れてきても。って、私が許可していいのか判らないけど・・・。その辺りはシスターシャッハにでも確認しみて」
そう答えるとヴィヴィオは可愛らしい笑顔を浮かべて元気よく「ありがとうございます!」とお辞儀してから、ものすごい速さでメールの文字入力を再開。ニコニコしたヴィヴィオを高町家のハウスキーパーであるアイナさんに預けて別れる。
その後、私たちは本局へと戻った。本当ならチンクとかにも挨拶しに行きたかったけど、向こうは仕事中だし邪魔するわけにもいかないということで断念。まぁ、近いうちに連絡でも入れよう。
「ただいまー!」
六課のオフィスに入ると同時に右手を上げて挨拶。するとみんなが「おかえりなさい!」って返してきてくれた。すごく嬉しかった。5年前は“ただいま”って言えなかったから。それから、私に用意されたデスクへと向かう最中にスバル達が物凄き勢いで駆け寄ってきた。
「「「「シャルさん! イクスを治せるって本当ですか!?」」」」
オフィスに響き渡るスバル、ティアナ、エリオ、キャロの4人の声。至近距離で4人の音響口撃を聞いた私は軽く意識が遠のいた。何とか意識を繋ぎとめて、教会での出来事を話す。
「イクスが・・・起きる・・・よか・・・た・・・よかったぁ・・・」
イクスヴェリアが目覚めると知って、スバルが泣き出した。イクスヴェリアの記憶を見た時、スバルが最もイクスヴェリアと親しく近かった存在だ。
そして明日朝早く教会に行くことを、はやてに許可を取る。喜び合っていた4人だったけど、エリオだけがまじめな表情になって私のところに残った。
「・・・シャルさん。僕はいつでも良いですよ」
「ん。私も調整が終わったし、早速やろうか。はやて、場所取り大丈夫だった?」
エリオとそれなりに本気な模擬戦をするため、はやてに場所を用意してくれるように頼んでおいた。するとはやては部隊長のデスクから手を振りつつ「第2に、30分だけなら取れたよ」と笑顔を浮かべた。
「30分。うん、十分! ありがとね、はやて!」
「これくらい、どうってことないよ!」
一応エリオの戦闘に関しては映像で確認済み。それでも実際に戦ってみたい。何せエリオは、出力リミッター付きとはいえフェイトを負かしたことがあるらしい。そこだけを聞けば、グラナード・フォヴニスペアと渡り合えるだろう。だけど、グラナード達と戦える術を手に入れたとしても、エリオはフォヴニスの威圧感に押される嫌いがある。それを克服しないと、勝てる戦いを落とすことになりかねない。
(すっごい楽しみだなぁ、エリオと戦うの)
そして個人的な目的。あの小さかったエリオが、私相手にどこまで付いてこられるか、それを確かめてみたい。
「よし! それじゃ、エリオ。行こうか」
「はい! お願いします!!」
そして、私とエリオは本気で戦った。
「あれ!? 何で省略!?」
うん、エリオ。何言ってるのかな?
もちろん私の勝利。まだまだ抜かれるわけにはいかない。
「僕、結構頑張ったじゃないですか!?」
うん、少し黙っていようね。
結論から言えば、キャロのバックアップ付きであれば、十分フォヴニスと融合したグラナードと戦えるレベルだと判断。
「酷いですよぉ、シャルさん」
男はドンと構えてなさい。
「そんじゃはやて。カートリッジなんだけど・・・」
「うん、シャルちゃんのお願い通りに届いとるよ」
本日最後の予定。カートリッジに私の魔力を充填する作業。奥から隊員たち数人でカートリッジが納められたボックスを運んできた。おぉ、結構な量だなぁ。数えるのが面倒・・・な以前に数えたくない。
「シャルちゃん。無茶せんでもええよ。少し休んでからでも・・・」
「大丈夫。魔力炉が活発な今の内にやっとく方がいいんだよ」
両手にカートリッジを掴めるだけ掴んで魔力を流し込む。充填完了して、また掴めるだけ掴んでまた魔力を流し込んでいく・・・んだけど、そんなジッと見られてると少しやりづらいんだけど・・・。
「な、なんか話をしない?」
私に視線を向けているなのは達に話しかける。そしたらまずははやてが話し始める。
「質問なんやけど。幹部たちは、想いを人型に固定されたんやろ? その想い、未練を叶えたらどうなるん? リインフォースは私らと再会するのが想いらしいんやけど、今も存在しとるし」
消えたら困るんやけど、と締めくくるはやて。なんだぁ、仕事の話かぁ。まぁいいや。未練があるからこそ魔術師の魔術によって存在できる幹部たち。その未練が無くなったらどうなるか。
「まぁ消えるでしょうね。でもリインフォースが消えないのは、彼女が未来を願っているからでしょ? はやてやシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リイン、そしてアギト。八神家との未来を想っているからこそ、リインフォースは存在する。それくらいはやてにだって判っていることでしょうが」
「え、うん。そやな。私らもリインフォースとの未来を願っとる。そっか・・・リインフォースもそう願ってくれているんやな」
はやてが嬉しそうにホッと一息ついた。他の幹部たちに関してはノーコメント。何せ復讐云々ばかりらしいし、成功しても消えるとは限らない。そして、次はスバルとティアナからの質問だ。
「お母さんとティアのお兄さんは、魔族持ちだと思いますか?」
「もしそうなら、それなりの覚悟を、と思いまして」
家族と戦う気になったのかな? そんな顔をしてしまっていたのか、スバルとティアナは苦笑しながら、私の疑問に答えてくれた。
「ギン姉たちに相談してみたんです。お父さんやギン姉なら、お母さんとでも戦うかどうか。まあお父さんは魔導師じゃないから戦うとは少し違いますけど、でもギン姉は・・・」
「戦うって?」
「はい。ギン姉は、“私は母さんの、テスタメント”の真意を知りたい。そのために戦わないといけないのなら、私は母さんとでも戦う”と言ってました。あたしも知りたいんです。お母さん達のことを。だから・・・」
「もう逃げているだけじゃダメだと。向き合わないとダメだと。そう思ったんです」
2人の目には今朝までの迷いの色は無い。あるのは向き合う覚悟と戦う決意の色。
「なるほど。良い目だよ2人とも。答えは、そうだね~。たぶんだけど魔族持ちじゃない。何故なら昨日も言ったように魔族との融合は、戦力を得る代わりにアイツらの存在する証“想い”を削っていく。クイントさんとティーダは、きっとあなた達の成長した姿を確認することも目的に入れてるんだと思う。次いで管理局の改革。それだったら魔族なんて要らないでしょ?」
全ては私の推測でしかない。だけど、これで間違いないという確信もあったりする。親が子と戦うのに、魔族なんていう反則は必要ない。それを聞いた2人は深く考え始めて「ありがとうございました!」とお礼を告げてから自分のデスクに戻って、また考え込み始めた。
気が付けばカートリッジへの魔力充填も三分の一が終了。やっぱり黙々とこなすより、誰かと話している方がずっと早く終わる。そして話は私の、今日の教会でのセインとのやり取りになった。
「――でさ、セインってば私がバカだって言うわけ。失礼しちゃう。ねぇ?」
「は? だってセインの言う通りお前バカだろ?」
ヴィータがどこからともなく私をバカ呼ばわり。シグナムも自分の席で頷いてるし、レヴィすら「やっぱり」って、やっぱりってなんだコラーーーッ!!
「ちょっと待って! どうして私がバカなわけ!? それはまぁバカ騒ぎはするけど、それイコールバカってことはないんじゃない!?」
「いやぁ、判んねぇぞ。はやてー、シャルロッテの学校の成績ってどうだったー?」
「シャルちゃんの成績? なのはちゃん、フェイトちゃん、どうやったっけ?」
「えっと、小学校の時はそんなに悪くは無かったよ」
「中学の時だと理系以外はほぼ全滅だったけど、うん、悪くなかったよ」
「それは悪い分類だろ」
くぅ~、バカにしてぇ~~~。
「ちょーーーっと待った! 私はこれでも生徒会の役員、しかも会長になったことだってあるんだよ!」
この3千年の間の契約の中には、学校生活と魔術のお仕事を両立するのがあった。その中で高校の生徒会会長にもなったんだよ。もちろん成績だって、ルシルに次ぐ2位をキープしてたし、男子から告白だって何度もされた。どうだ? すごいでしょうが?
「し、シャルロッテが・・・」
「生徒会の会長・・・!」
うんうん、驚いているね。見たか、私はバカじゃない。会長だって務めるんだぞ。胸を張ってふんぞり返っていると・・・
「その学校・・・可哀想だな」
「ああ。おそらく、まともに機能していなかっただろうな、その生徒会は」
「ううん、学校自体が混沌としていて、生徒は乱れ、暴動・略奪、その果ての国内最低のお祭りバカ学校に・・・」
あれぇ? 想像していた反応とは全然違うよぉ? ヴィータとシグナムとレヴィが、物凄く私が会長を務めていた高校を憐れんでいる。
「そこまで言う!? ちゃんと機能していたもん! 生徒会の仕事だってちゃんとしてたもん!」
「ほぅ? どんなふうにしてたんだよ、シャルロッテ」
何かヴィータが前にもまして突っかかって来る気がする。これは1度、私の立場を思い知らせてあげないとダメなようだ。
「ヴィータちゃん。シャルちゃんが可哀想だよ」
「そうやでヴィータ。信じたらなアカンよ」
・・・はやて、なのは。そう言ってくれてるけど、その言い方だと2人もあんまし信じてないよね? 何か言葉の端々にちょっとした同情が垣間見えるのは、私の気の所為かな?
私が身体を震わしていると、フェイトが「落ち着いてシャル。シャルはすごいよ」って言ってくれるけど、私宥められてる!? 小さい子供にするように宥められてる!?
「で? そこのところはどうなんだ、フライハイト?」
「よぉーーく聞くがいい。生徒会は立派に機能していたわ。だって、“あぁん、私、こんな多い仕事できなぁ~~い”って言ったら、男子どもが馬車馬のように働いてくれるんだもん」
「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」
いや~、本当に楽だったなぁ。ちょっとお願いすれば代わりに男役員どもが働いてくれるから、放課後は結構遊んでいられた。まぁその度に副会長に怒られていたけどさ(物理的&精神的に)。
「やっぱバカだ」
「ていうかバカだ」
「どうしようもなくバカだな」
「「シャルちゃん・・・・」」
「シャル、もうフォロー出来ないよ」
私の好感度という名の株が絶賛大暴落中。
「今日からお前は、バカロッテでいいよな。おい、バカロッテ。茶」
ティーカップを差し出してくるちびっこヴィータ。
「んな!? むぅ~~~~~、うっさい! チヴィータ、ミニータ、プチータの究極三段活用!! 私だってそう呼んでやる!!」
「意味わかんねぇぇぇッ!!!つうか三段活用の意味知ってんのか!?」
「知るかぁぁぁぁぁッ!!!!」
「お前、生徒会長じゃなかったのかッ!? つうか成績が良くねぇと、生徒の代表みたいな生徒会長になれねぇんじゃねぇのかッ!?」
「そんなことどうでもいいわぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
ほとんどルシルに頼りきりだったし。
「何でキレてんだよ!?」
「チヴィータ、ミニータ、プチータの究極三段活用!! それはチヴィータ、ミニータ、プチータの究極三段活用が、私を怒らせ様なことをほざいたからだッ!」
「マジでそう呼ぶか!? バカロッテ、アホロッテ、ボケロッテの三段活用!」
口ゲンカ・じゃれあいって名前のコミュニケーション。ヴィータは昔と違ってさらに本気で来てくれる。それがすごく嬉しいし楽しい。だから・・・
「上等! 我が言の葉は幻想紡ぐ鍵!!」
こっちも本気でゴー! 使用術式は・・・これだ! 私の詠唱に絶句しているなのはとレヴィを除くフェイト達。知っているのは、今日私と出掛けたなのはとレヴィだけだから当然だ。指パッチン。「おわっ!?」と戸惑うヴィータを包み込む一瞬の閃光と煙幕。
今日この日、ヴィータは文字通りチヴィータ、ミニータ、プチータ・・・ううん、ミクロッタになった。
「“タ”しか合ってねぇぇぇぇぇぇッ!!!」
姿はどこにも見えず、声も聞こえず。うん、だってミクロだし。
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