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函館百景

作者:SPIRIT
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その3

赤レンガ倉庫から、結婚式場を横切り、ホテルのふもとに行くが、行く場所は反対方向。
函館山のほうである。
踵を返して、ベッドタウンのように並ぶ赤レンガを通り越した。
のちに横浜でも、赤レンガ倉庫と称した雑貨屋と美術館を発見している。どうも港町では、赤レンガの中に品物を置いたほうが、潮風に痛まなくて済むようだ。


赤レンガから道路を横切り、すぐ右側に行くと、昔の土蔵のような建物がある。高田屋嘉兵衛記念館である。
ドラマ『菜の花の沖』を見て以来、僕は高田屋嘉兵衛に興味がないわけではない。ただ、生まれた時代が江戸後期で華がないのと、彼の家庭生活における様々な不幸を知り、小説を読むのを敬遠していた。
中に入る時、件の小説もおかれており、最後の部分だけ一目見とおした。「ウラァ(ロシア語で『万歳』)、ギアナ」と言った彼の思いには、何があったのだろうか。
司馬遼太郎の小説の主人公たちは、妙に儚い。
資料維持代として500円払ったが、どうも古びてざらついた土蔵2件の中に閉じ込めた資料にしては、値段が高すぎるようにも感じられた。
中はいちおう石や土が見えるようにはなっており、その中に高田屋の船の模型、嘉兵衛が京の芸子に贈ったといわれる書簡、および北の人々の生活を思わせる鉄器などが詰められていた。
これを用いて生きていたのだろう。
石も座りやすく、つるつるになっていた。
高田屋嘉兵衛は家が貧しかったらしく、そこから裸一貫で大成したといわれている。ある意味では秀吉にも似ていて、昔は様々な絵本に載せられていたという話。その一面も飾られていた。
どちらかというと知名度では2級の人物だが(司馬遼太郎ファンの方は知っている人が多いだろうけど)、
生きぬいて、死んだ。
そういう人であるような気がした。


外で自販機を買い、函館山の坂を上る。
そこには路面電車もケーブルカーも通らず、自分の足で登っていく。
旅行好きだから、歩くことも嫌いではないが、夏の暑さの中には答えた。
函館山にはチャチャ坂と呼ばれる坂があり、チャチャ(アイヌ語で『おじいさん』)の名前に恥じず、体を前に倒して歩かなければならないほど急である。
運動不足ではあるが、歩いて苦痛ではない。
足が痛くなるが、一歩一歩踏みしめるごとに、景色が変わって面白い。
ビル、道路、海が少しずつ見えていく。
いい運動にはなる。
坂の上から下を見渡すと、高速道路、ビル、海が見える。
東京の街並みを思い出した。


そこから函館元町カトリック教会に急ぐ。
ロシアカトリックということになっているらしい。
教会の手前に寺のあるところもあり、いかにもシュールである。
汗をぬぐい、中に入った。
その中は写真撮影禁止ということで、撮影はできず。
ただ、妙に豪華であった。清潔、神聖、金色の聖母マリアが光り、光が差し込んで、一つの別世界を形成。
檜でできた壁が、和洋折衷を思わせる。


日が傾いても、相変わらず暑さは続いている。
とりあえず、近くのアイス売り場による。
るるぶでおすすめの、グレープアイスを食べてみる。
甘酸っぱい。
スイーツはこういうのがいい。
それ以来、ぶどうの甘酢が忘れられないようになり、ぶどうジュースを頻繁に飲むようになった。


その後、青と黄、完全なシンメトリーを彩った旧函館区公会堂に行く。
黄色と青のホワイトハウスといったところか。
いち早く開国した函館には外国人が行き来していたため、外国人をもてなす場所が必要だったという。
そのために作られた。
大使記念館の案内DVDを見ているうちに、気の遠くなるような睡魔が襲ってきた。
夢は見なかった。
なぜかは分からない。
こういうときにはタイムスリップした夢がお約束なのだが。
目が覚めたら夕暮だと思った。
何も変わらなかった。
明治に建てられたその作りは、そのままに保存されていたという。


閑散としたホール。
そこで多くの人々がドレスやスーツを着て踊っていたはずなのに。
そこはだれもいない。子供が一人。


現代人が当時の服を着てもあまり雰囲気はわかない。
むなしかった。
汗まみれで、正直それどころじゃなかったが。
子供の着ているドレスはもちろん、内部の建物につやがあり、妙に新しい。
そこが妙に、むなしさを増幅させていく原因だったが。
2回からの景色を見て、それをいやそうと思った。
いやされた。
海に沿う形で、高速道路が通っている。


なぜかこの構図を見ると、妙に気分が落ち着く。
東京荒川のほとりにある高速を、幼いころから見ていたからだろうか・・・。
下にある公園で。公園でジャズフェスティバルが行われていた。


気がつくと夕方だった。
バルコニーから、ジャズフェスティバルが見えた。
とは言え、せっかく函館まで来たのに、ジャズフェスティバルで時間を浪費するわけにはいくまい。
函館山のロープウェーに乗るため、山を降り、路面電車へ急いだ。
赤い花がきれいであった。



続く

 
 

 
後書き
正直このあたりは、ちょっと書きにくいあたりでしたね。
どちらかというとあまり印象が深くなく、文章にしにくいところで。
函館山の展望台や、山を降りた後の闇夜の迷走の方が印象深い気がする。 
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