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覇王と修羅王

作者:鉄屋
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自称王と他称王
  九話

 
前書き
グダグダグダグダ…… 

 
 呼び鈴の音が耳に届き、アレクの意識が浮上する。
 目の前にはそろそろ新品感が無くなってきたカーペット。でも間に羅刹甲が入った黒箱がある。アレクはそこで自分がうつ伏せで寝ていた事に気付いた。
 俺どうして箱の上で寝ているんだ? と考えるが、帰ってきて部屋に入ったあたりから記憶が無い。つまり其処で箱の上にぶっ倒れた。
 もう一度呼び鈴が響いたので身を起こそうとしたが……まだ怠い。なので即居留守決行と、全身の力を抜いた。動けない迄では無いが、動きたくなかった。
 成長した身体ではなんともなかったが、子供の身体に戻った途端に凄まじい脱力感に襲われた。本来の生み出せる量を越えていたのだろう。
 今後、大人モードで戦う事があっても大技は一回、使っても二回に留めておこう。そうしないとたぶん不味い。覇皇終極波動覇、轟覇機神拳、そして覇龍……もう一個なんかデカいものが出てたら、死凶星が落ちてたかもしれない。
 何気に結構ヤバイ橋を渡ってたかも、と今更危機感に襲われているとまた呼び鈴が鳴った。
 出てやるか、とほんの一瞬だけ思ったが、起きたくない気持ちは未だ絶大。そのうち帰ると高を括る。
 だが、ガチャ、という音でアレクは片眉を上げた。

「……そういや俺、帰ってからガキ掛けた記憶がねえな」

 それも今日だけでなく、ティアナに鍵を奪われた後から自分で鍵を掛けた事が無い。
 だから入られても仕方ない、とアレクは納得していると、侵入者はすぐ後ろまで来ていた。

「あの、大丈夫ですか?」
「それは頭が、って姐さんみてえに言いてえのかコノヤロウ……ってかアマだなお前は」
「すみません。鍵が掛かってなかったので、何か遭ったのかと……」
「そいつはどーも、残念ながら五体満足だ。……で、何しに来たアインハルト・ストラトス?」
「約束を果たしに来ました」
「約束……?」

 アレクは疑問を浮かべながら、正面に回り腰かけるアインハルトを目で追い、下された荷物の量にも疑問を抱く。
 はて、何を約束したんだっけ? ヴィヴィオと対戦させる事は約束させたが、他に何をした?
 だが、次いで耳に入った言葉である程度思い出した。

「貴方が勝利したので、約束した通り私を差し出しに来ました」

 確か戦場の理がどうのとか言っていた、私を好きにしていいとか言っていた。だが手を出してしまったら、なんか自由が抹消される気がする。
 とりあえずこれは問題だ、もしかすると今後を左右するかもしれない大問題だ。ここ最近の先生に丸投げ……相談しよう。アレクは端末を取り出し、急ぎ通信を繋いだ。

「姐さん、凄い事件臭を感じます。至急現場に来てくださぁい!」
『どうしたの? 明日に回した説教を今から受ける気にでもなった?』


◆ ◇ ◆


「……なるほどね」

 アレクに呼び出されたティアナは、アインハルトが居る理由を聞き終わると重い呟きを漏らした。共にきたスバルとノーヴェも良い顔をしてなかった。

 アインハルトは対戦中の発言に従い来た、だけだったらまだ良かった。問題は身元整理をある程度済ませてしまっている、という事だ。
 元々真面目な性格の上、王の記憶を持つアインハルトは発言に対する責任感を知っていた。なので、単に家出ではなく、家族に公認された出家で此処に居るのだ。
 真面目なのは好ましいが、行き過ぎれば問題である。少しはアレクを見習う……のは危険だから僅か程度で参考にしてほしい。
 とりあえず、アインハルトは家に帰すべきだろう。と考えていると、一緒に来たスバルが口を開いた。

「お父さんとお母さんは何も言わなかったの?」
「彼等にとって、覇王の資質を持つ私は恐怖の対象でもありましたから……」

 ふと、以前チームを組んでいた少女が浮かぶ。彼女は真竜と契約した事により一族を追放された。
 過去を耳にした時は彼女の事にしか目が行かなかったが、産んだ者は果たしてどのような心境だったのか。想像でしか出来ないが、あまり良い感情が出てこない。
 祖先たる王の記憶を持つ子を産んだ者はどうだろうか。アインハルトも両親を彼等と称した事から、一般家庭の印象が浮かばない。冷遇こそ無いようだが、このまま帰していいものか。

 修羅王の子孫であるアレクはどう思ったかとティアナは視線を横に向ける……が、全く関係無い他人事にようにして聞いてやがった!

「アレク」
「なんすか?」
「勉強の復習よ」
「へいぃっ!?」

 頭をガッチリ掴まれ横に向けられたアレクは、眼前のティアナの冷視線にスパルタ勉強会を思い出し、冷汗が出始めた。
 ティアナが勉強の復習という言葉を出すと、唐突に所構わず問題を突き付けられる。それは問題集と睨めっこしてる時でも変わらない。

「ベルカ戦争時代、勝敗の決した後に敗者が投降した場合、勝者は敗者に対し多数の扱い方を得ます。その内容を答えなさい」
「えーと、戦時中は敗者に人権無しだったから……処刑とか、人質とか、他国との交渉材料とか、奴隷とか?」
「では、ベルカ戦争時代で例えた場合、勝敗のついたアレクとアインハルトの、い・ま・の! 状態を答えなさい」
「えーと、えーと……アインハルトの奴隷化カウントダウン?」
「不正解。まだアインハルトの身の振りが決まってない。アレクに投降して判決を待っている状態。アインハルトの今後を左右しかねない所なのよ。だから他人事のように聞くな! それと強調したのに引っ掛けに引っ掛かるな!」
「すんませんしたっ!」

 敬礼したアレクにティアナは頷くと、何事も無かったように前を向かせた。
 ここでもやるか、とノーヴェは苦笑いしながらアインハルトを見ると、目を白黒させていた。

「あ~……とりあえずアインハルト、覇王の悲願はもういいのか? 覇王流もやめるのか?」
「え、あ、はい……それは……」

 ノーヴェの問いで我に返ったアインハルトは答えようとするが、言葉が続かない。
 ただ、苦悶する様子は内心をよく表していて、ノーヴェは勿論こと、アレクでさえ分かってしまい、漸く出た言葉は諦めとも未練とも受け取れた。

「私は……私は、敗者です」

 そう言ったアインハルトの視線を受けるアレクは、他三人の視線も集めている事に気付き、頬が引き攣った。
 スバルはなんとかしてほしそうな顔。ノーヴェはスバル程に露骨に表して無いが、同様の様子。ティアナは意外にもただ見ているといった感じだが、何を考えているのか全く分からないので逆に怖い。
 そして、アインハルトは不安やら何やらが籠もる上目使いで、泣く事も出来ない子猫のよう……。

「ちょちょちょいタイムッ!」

 アレクは背を向け、四つん這いで部屋の端に逃げて行く。視界に入らなければ視線に流される事も、アインハルトのギャップにやられる事も無い。
 先ず、自由が良い。だから王の事や、ついでに周りも自分に関わらないようにしたい。
 よってアインハルトは、周りを妨害する壁役が最適。よし、これで行こう――

「アレク。何を考えてるか知らないけど、警防署や管理局に出頭しないようにしなさい?」

 ――と思ったけど、下手すれば人権迫害扱いな上にアインハルトが何かやらかしたら共犯者扱いなので即却下。
 此処には執務官が居るのだ。それも人のキー盗んで複製した事をものともせず自由を迫害する危険ランクSオーバーの執務官が、だ。下手な事言えばお縄になる。……正直、もう執務官が居るってだけで詰んでる気がするけど。
 でも、せめて王の事だけでも、追い駆けられるような事態は避けたい。これくらいは大丈夫……な筈。
 不安度合が増えた視線の中、アレクはまた四つん這いで戻って行く。

「決まったかしら?」
「……アレディ・ナアシュとか言って、どこぞの王様と見做して追っ掛けて来なければもう好きにしていいっす」

 アレクは窺うように見渡すと重圧を感じる様な視線は無くなったが、ティアナは及第点気味である。
 何か不味かったか、とアレクが首を傾げていると、ポツリとティアナは言った。

「アインハルトを此処に置いても良いのね?」
「あ」

 完全に忘れていた。ついでに、度重なる襲撃に加え未だ物を把握しきれてないので、此処が自分の部屋という事も忘れていた。なので、勝手に入られる事も、荷物を持っている事すらも大して疑問に思わなかった。
 アレクは慌てて取り繕うとするが、こんな時にフェルヴィスの一言が頭を過ぎる。男に二言無し、と。
 うがががが、と顎をガクガク奇怪に揺らすアレクをティアナは視界から外し、アインハルトの方を向く。

「アインハルトは家事とかできる?」
「料理は極簡単な物しか作れませんが、他は一応……」
「なるほど」

 これは丁度いいかもしれない、とティアナは頷いた。
 アインハルトは勉強も出来るので、アレクの勉強を見る事も期待できる。アインハルトは家事が出来ると言うので、洗濯しか出来ないアレクを補う事が出来る。もうアレクから修羅王のフィルターが外れているので、襲い掛かる事は無いだろう。
 問題はアレクの自制が効くかという所だが、そこは法を出せば抑えられる。叔父が警防署勤めな事が関係しているのか、アレクは割と法に知識がある。なので手を出したらどうなるかは、法を踏まえ如何に不味いかと伝えればどうにかなる。ついでに我慢も覚えさせることもできる。
 ただまあ、二人足して二で割ったら丁度良いとか、一箇所に留めて置いた方が楽とかの考えもあるが。
 そんなティアナの考えを余所に、ノーヴェとスバルが口を開く。

「なあアインハルト、あたしの家に来てもいいんだぞ?」
「そうだね、ちょうどあたしの部屋が空いてるし。それかあたしのとこでもいいよ。ね、ティア?」
「……そうね」

 ナカジマ家は大人数いるので、どんな時でも誰かしらアインハルトに構う事は出来るだろう。ただ騒がしいウェンディがどんな影響を与えるか少し心配であるが、居候先としては理想的だろう。
 だが、アレクが一人に成る。そして、勉強や家事とは別に一つの疑惑があるので、ティアナには賛同しきれない。此処に一人、お目付け役が欲しかった。
 ただ当のアインハルトはどうなのか。先ずはどうしたいか訊いてから、と考えを一端保留した。

「アインハルトはどうしたいの?」
「皆さんのお誘いは有り難いのですが……此処に置いていただければ、と。その、世継ぎの事もありますので……」
「そう、じゃあ仕方な……い?」

 申し訳なさそうに頭を下げるアインハルトにティアナは頷きかけたが、どうにも聞き逃せない単語が耳に入った。
 聞き間違いだろうか。スバルとノーヴェを見ると、驚きと動揺が浮かんでいる。アレクはポカーンと間抜け面をしているが、幸いにも事態を理解しているようだ、勉強させた甲斐があった。
 まあなんにせよ、耳にした単語は間違いでは無いということだ。

「アインハルト、世継ぎって、どういう事、なのかしら?」
「あの、世継ぎとは子供を作る事で……この場合、アレクさんの子種を私が受けて……」
「違う、そういう事を訊いてるんじゃない!」
「っ!?」

 質問を取り違えて顔を真っ赤にして明後日の事を語り出すアインハルトに、ティアナはデコピンを飛ばす。
 何を考えているんだこの子は、この年で子供を作る気か。覇王の直系だから血を絶やさないようにとの事かもしれないが、色々と早すぎる。
 だが、今の法関係ではアレクよりアインハルトの方が疎く、覇王の事を天秤に掛ければ、傾く方など予想は容易い。でなければストリートファイトなど毎晩やるものか。
 とりあえず、アレクを抑えてもアインハルトがカモン状態では話にならない。幸い根は真面目であるから、根掘り葉彫り訊けば全容を曝してくれよう。
 もうティアナの中で、アインハルトもアレク同格の問題児に昇格認定されていた。

「とりあえず、今日の所はうちで引き取るわ」
「うん、そうしよ」
「それがいいな」
「スバル、ノーヴェ、荷物持ってくれる?」
「おっけー」
「おう、任せろ」

 呆けているアレク以外から即賛同を頂いたティアナは、涙目で額を押さえているアインハルトに向き直る。

「さあ行くわよ、アインハルト」
「え、あの……」

 何か不味い事を言っただろうか、と事態を把握しきれてないアインハルトは困惑しながらも連れて往かれる。ただ、腕を掴むティアナの雰囲気が猛禽類のようでかなり怖い。連れて行かれたら、戻って来れなさそうな気配すらある。

「アレク、早急に対処しないといけない事が出来たから失礼するわ」
「へい、事件が早期解決して飛び火が無い事を願ってやす」
「アレク、ご飯まだだったら冷蔵庫の作り置き、温めて食べてね」
「へい、未だレンジの使い方が八割方不明ですが頑張って頂きやす」
「アレク、明日また来ると思うから……たぶん大人しくしといた方が良いと思う」
「へい、自殺願望は無いんで大人しくしてやす」

 アレクは慌ただしく席を立って行く面々を敬礼付きで見送る。
 そして、猛禽類に掴まった哀れな子猫と目が合うと、未だ嘗て無い優しい視線と共にエールを送る。

「さようなら、君の事は忘れない。僕がずっと、憶えていてあげるから……」
「そ、それはどういう意味で――」

 パタン。物静かだが、心に残るドアの音。
 バタン。重々しく閉ざされた、外を隔てるドアの音。
 ガチャン! 南京錠でも掛けられたような、終末の鍵の音。
 ピーピー! そして、何故か鳴り始める通信端末。
 ご同類誕生の瞬間に立ち合えて感無量なアレクだったが、鳴り出した端末により気持ちが吹き飛ばされた。
 取り出した通信端末に表示された名前は高町ヴィヴィオ。
 昼間に取次した囚人子猫……ではなくアインハルトの現状でも訊きたいのだろうか。ならば他に訊けばいいのに、と思いつつ通信を受ける。

『こんばんわ、アレクさん! ヴィヴィオです!』
「へい、こんばんわ。試合の事なら他を当たるといいよ。んじゃ、さようならでお休みなされ」
『あっ、待って下さい! 試合の事じゃありません。アレクさんに訊きたい事があるんです。だから切らないでくださーい!」

 はて、何か訊きたがる事でもしただろうか。アレクはヴィヴィオの興味を引きそうな事を頭に思い浮かべていくが、どれも当たってそうな外れのようなで特定出来なかった。
 だが、アレクはアインハルトとの事で、面倒臭がると余計に面倒臭くなると学んだので、渋々遮断ボタンから指を放す。

「……なんぞ?」
『あのアレクさんって、諸王時代の王様の子孫なんですよね。確か、アレディ・ナアシュって人の』
「ファッ!?」
『にゃっ!?』

 ヴィヴィオは突然奇声を上げたアレクに驚き、鳴き声を上げた。
 だが、アレクにとってはどうでもいい。
 今し方王の事が片付いた所で、また王の事。面倒な事が片付いたと思ったら、また面倒そうな事。しかも、アインハルトと同じく直球。アレクの脳内では王関連と面倒がイコールで結ばれているので、頭がどうにかなりそうだった。

「な、な、ななななん、何の事かな? しし、知らないなぁ。おおぉ俺一般市民だし?」
『え~と、凄い動揺なのでヴィヴィオには逆に怪しく見えると言いますか、必死に誤魔化してるようにしか見えないと言いますか……』
「はっ、謀ったな!? なんという策士……さては悪魔かお前!?」
『あ、悪魔!? ち、違います! 全部アレクさんの自爆ですよぉ!』

 超必死なヴィヴィオの声は、畏れ慄くアレクに届かない。一歩一歩後ずさって行く。
 ただ、アレクは通信端末を持ったままなので、距離は一向に変わらない。壁まで行き着くと、観念したように尻餅をついた。

「な、何が望みだ? か、金は無いぞ。い……命か!?」
『だ、だからぁ! わたしは悪魔じゃないですよっ!! ただ訊きたい事があるだけ、なんですよぅ……』

 ヴィヴィオは声を張り上げるが、パニックを起こしたアレクはガタガタと本気で震えるだけなので、次第に勢いが無くなっていく。流石に震えての悪魔呼ばわりは効いたらしい。
 そして本気で落ち込み始めたので、今度はアレクが慌て始めた。ヴィヴィオは周りから可愛がられているので、何かしでかしたら姐鬼の鉄拳が降ってくる。

「いやちょっと待て泣くの無し、泣くのは無し! 悪かった、俺が悪かった、気が動揺動転大回転してた。もう冷静だ。今の俺にはちゃんと見えるしちゃんと聞ける」
『……ほんとですか?』
「本当だ、パーフェクトだ。君は可愛い可愛い天使さん、二つのお下げが羽のようだ。ほら、ちゃんと見えている。何も問題無い」
『えへへ、ありがとうございます』
「どうにか致しまして」

 どうにかヴィヴィオの機嫌が回復したので、アレクは成し遂げた笑みを漏らす。
 ただ、頭に浮かんだ言葉を片っ端から述べていたので何言ったか覚えてないが。なんにせよ、鉄拳制裁は免れた。
 最後の最後で本音が混ざったが、気付いてないようだし。アレクはこれ幸いと話を戻そうとして……何を話していたか全く思い出せなかった。

「で、ヴィヴィお嬢のご用事は何でした?」
『あ、はい。えっと……あれ? あれれ?』

 思い出せないのはヴィヴィオも同じようで、頻りに頭を捻っていた。だが、隣に浮いている愛機クリスの身振り手振りで、次第に思い出していった様子。

『あ、アレクさんのご先祖様の事だったね。ありがとクリス』

 ヴィヴィオの礼にクリスは頭を下げる……が、アレクには頷いてるのかお辞儀なのかも判らない。先程の動きも奇妙な踊りにしか見えなかった。

『アレクさん、ご先祖様の事なんですけど……どうしました?』
「ん? いや……よく分かるな、と」
『何がですか?』
「そのクリスっていうインテリデバイス? が何言ってるかよく分かるな、と。念話かね?」
『念話じゃないんですけど……なんとなく分かるんですよ。あ、紹介がまだでしたね。クリスは愛称で、正式名称セイクリッド・ハートっていうんです』

 ヴィヴィオの手で自慢げに前へ出されたクリスは一度大きく頷いたが、アレクにはやはり分からない。

「今の頷きは……ヴィヴィお嬢の肯定したのかね?」
『いえ、アレクさんに宜しくって言ってます』
「……ダメだ、サッパリ分からん」
『今のは分かりやすかったと思うんですけど……。あ、じゃあわたし抜きで少しお話ししてみませんか?』
「それ、間違い無くお互い一方通行にしかなんねえような?」
『でも分かってくると楽しいですよ。わたしも最初は全部分かった訳じゃないですし、ちょっと試してみません?』
「じゃあ……クリスは男性型のインテリデバイス、でいいんだよな?」

 とりあえずアレクはヴィヴィオのご機嫌斜めを避ける為、乗せられた形でクリスに問う。
 流石にYesかNoで訊けば分かるだろ、と思いアレクは質問するが、クリスは首を傾げ、次いで困った様に考え込んでしまう。
 その様を十秒ほど凝視したアレクは、やっぱり分からんと匙を投げた。

「ヴィヴィお嬢、ギブ。通訳お願いしやす」
『えっと、……分からないみたいです』
「は? インテリってそういうの決まってんじゃねえの?」
『決まってないタイプもありますよ。でも、アレクさんはどうしてクリスが男性型だって思ったんですか?』
「蝶ネクタイは大概男がしてるもんだから、かね。ちなみにヴィヴィお嬢はクリスを男女で見るならどっち?」
『ん~……わたしは女性型ですね。こんな可愛いですし』
「ウサギの外見って雄も雌もそう変わらん気がしたぞ」
『えぇ~。じゃあ、もうクリスに決めてもらいましょう。ねえクリス、どっちが良い?』

 クリスは二人の視線に、困った様にうろうろふらふら飛び回る。デバイス名利尽きるならヴィヴィオの一択なのだが、此処は平等選択で、尚且つアレクの意見の方が正しいような気も。だがヴィヴィオの方を選びたい。そんな思考が行ったり来たりしているので一向に決まらない。
 そんなクリスを待つ二人だが、既になんの為に通信しているかは頭に無い。
 なので結局この日、ヴィヴィオは目的を果たせず通信を終えるのだった。

 
 

 
後書き
もう終われ、ってことで章〆です。

ヴィヴィとアレクだけだと話しがマジ進まんのです。
でも会話中に出た話題に食い付いて話がコロコロ変わって行く事ってありますよね? 
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