美しき異形達
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四話 第二の怪人その三
その彼が出て来てだ、二人に微笑んで言ってきた。
「ようこそ」
「あれっ、先輩かよ」
「それもすぐに出て来られましたね」
二人はこの二つのことに意外といった顔で返した。
「執事さんでもメイドさんでもなくて」
「しかもチャイム鳴らしてすぐだったのに」
「たまたま玄関の近くにいたからね」
だからだとだ、智和はその微笑みのまま二人に話す。
「だから僕が出たんだ」
「それでかよ」
「先輩がすぐに出て来られたんですか」
「そうだよ、あと家のチャイムはね」
それの話をだ、智和ははじめた。そうしながら二人を屋敷の中に入れる。屋敷は完全な洋風で入るとすぐにホテルのロビーそのままの木造のロビーがあった。そこから螺旋階段で吹き抜けの二階に昇る様になっている。奥行もかなりの屋敷だ。
「家全体にね。お客様が来たって放送がかかるんだ」
「鳴らしたらか」
「そうなるんですね」
「そうなんだ、広い家だからね」
それ故にというのだ。
「そうなるんだ」
「それはまた凄いな」
「実際に凄く広いお家ですね」
「というか下手な学校より広いよな」
ここでこうも言った薊だった。
「このお屋敷って」
「そうよね。凄いわよね」
「祖父がたくさんの特許を取ってね」
こうした話をしつつだ、二人を一階の奥に案内する智和だった。ロビーはそのまま通り過ぎる形になった。
「それで八条グループの企業の幾つかの株の配当もあって」
「ああ、先輩の家って株主でもあるんだな」
「そちらの収入もあるんですね」
「そうなんだ、その他にも収入があるから」
「だからか」
「これだけのお屋敷が建ったんですね」
「そうだよ。よくこの家にはね」
廊下を歩いていく、廊下は赤絨毯で壁はしっかりとしたブラウンの木である。全体的にくすんだ感じの色彩の家だ。
「皆も来てくれるんだ」
「先輩のお友達がか」
「来られるんですね」
「そうなんだ、僕が呼ぶんだ」
この家にだというのだ。
「実は寂しがり屋でね」
「それでか」
「お友達を呼んで、ですか」
「話をしたり勉強会をしたりするんだ」
そうしたものを開くというのだ。
「お茶も出してね」
「というか先輩って寂しがりかよ」
「それは意外ですね」
「広い家にいるとね。執事さんやメイドさん達はいてくれても」
それでもだというのだ。
「部屋だと一人でいることが多いから」
「だからか」
「お友達をお呼びすることも多いんですね」
「そうなんだ、昔から寂しく感じることが多いから」
それでだというのだ。
「そうしているんだ」
「それであたし達もか」
「お家に呼んでくれたんですね」
「そうなんだ、それじゃあね」
それでだと話してだ、そのうえで。
智和は二人を一階の奥の部屋に案内した。そこは応接間だった。黒檀のテーブルに見事なペルシャ風の大きなソファーが二つある、部屋の絨毯はダークパープルで壁に絵が飾られている。裕香はその絵を見て言った。
「あれっ、この絵は」
「マグリットだよ」
「ルネ=マグリットですよね」
「そうなんだ、描いてもらったんだ」
「凄いですね」
目を丸くさせてだ、驚きの言葉を出す裕香だった。
「マグリットなんて」
「まあね、うちの家にあるものでも特に高価なものだよ」
「いや、これは」
「マグリットって誰だよ」
薊はマグリットと聞いても目を瞬かせるだけだった、そのうえで裕香に尋ねた。
「一体」
「あれっ、学校の授業で習わなかった?」
「そうだったっけ」
「ええ、美術の授業でね」
「そういえばそうだったかな」
今度は首を傾げさせる薊だった。
「画家だよな」
「ええ、ベルギーの新現実主義のね」
「へえ、そういえば」
ここで薊はそのマグリットの絵を見た、それで言うのだった。
ページ上へ戻る