少年少女の戦極時代Ⅱ
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番外編
その1 変身を練習してみた ver.紘汰
紘汰は咲と一緒に野外劇場にいた。
今までにあれこれあって、紘汰が入手したロックシードの量は結構なものになっていた。それらを試し、サガラが語った「オーバーロード」を探す力になるものはないかを実験しようとしていた。
しかし、人に見られず、しかも何度も変身するとなると場所が限られる。
そこで紘汰は咲たちリトルスターマインに頼み、彼女たちの野外劇場をお試し場所に使わせてもらうことにしたのだ。
――リトルスターマインのメンバーの鑑賞付きで。
「んじゃ、さっそく試してみっか」
わー、とヘキサとモン太が拍手した。拍手はないが、ナッツとトモとチューやんもうずうずという感じで待っている。こそばゆいが、悪い気分ではない紘汰である。
(ヒーローショーに出るスーツアクターってこんな気分かも)
「えーと」
「はいこれ」
咲が、貸していたコアスロットルとピーチエナジーロックシードを、紘汰に差し出した。紘汰は礼を言ってそれらを受け取った。
(言葉なしで通じ合うって、なんか熟年夫婦みたい……ってコラコラ! 相手は小学生だぞ、しっかりしろ血迷うな葛葉紘汰!)
「どしたの?」
「な、何でもないっ。――よーし、やるぞ! あ、咲ちゃんは離れてなよ。何が起きるか分かんねえから」
「ん、りょーかい」
ぱたぱた、ぴょこん。軽い足音を立てて咲がステージから飛び降り、仲間たちに混じって客席のヘキサの隣に座った。
それを確かめ、紘汰は腹に戦極ドライバーを装着し、インジケータを外してコアスロットルを宛がった。
エナジーロックシードを開錠する。
《 ピーチエナジー 》
いつもと同じように頭上にクラックが開き、オレンジと、桃色の鎧が現れ、交ざり合った。
「変身っ」
二つの錠前をロックし、カッティングブレードを下ろした。
《 ピーチエナジーアームズ 》
紺のライドウェアと果物の鎧が紘汰を装甲した。今度の陣羽織には桃の意匠が刻まれている。
「おー! 葛葉のにーさん、カッケー!!」
『そ、そうかな?』
「はいっ。もっとハデだと思ってましたけど、意外とシブくてステキですっ」
「……シック」
『へへ、ありがとな』
鎧武は自身の全身を見渡す。
(外見はレモンとかチェリーとあんま変わんねえな。パワーとかスピードって感じじゃない。ん……?)
わん、と頭の中――正確には耳の奥で何かが鳴り渡った。
『わ、わわ!? 何だコレ!』
「こ、紘汰くん?」
離れているはずなのに、咲の呼び声はまるで耳元で叫ばれたかのような大音量で聴こえた。
咲の声だけではない。野外劇場の外を歩く児童の声さえはっきりと聴こえる。世界が音で溢れ返っている。
『うわ、すげー! 何だこれ、超聴こえる~!』
紘汰は急いで変身を解いた。
「どうしたのっ? どっか痛い?」
咲が心配そうにステージに登り、走り寄ってきた。
「咲ちゃん! これ、耳! 耳がすっげえ聴こえるようになるんだよ!」
「何だぁ。何かフクサヨウ的なのがあったのかと思ったじゃん。心配させないでよぉ」
「ご、ごめん。でも、すごいんだって! 咲ちゃんも」
試してみなよ、と言いかけ、紘汰は先日の事件を思い出した。
トッキュウジャーと名乗る5人組が沢芽市に来た時のことだ。自分はちょうどピーチエナジーロックシードを咲に貸してはいなかったか。
「――あのさ、咲ちゃん。ちょっと確認していいかな?」
「なぁに?」
咲は愛らしく小首を傾げる。平時ならうっかりときめきかけないこともないが、今はそれより重要な案件がある。
「舞が捕まった時って、咲ちゃん、通気口の中にいたんだよな」
「いたよ」
「てことは俺と舞のあの時の割と赤裸々な会話も」
「ばっちぐぅ」
「何だこの新手の公開処刑~~~~!!」
紘汰は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
後書き
タイトルを覚えてくださっている方にはお分かりでしょうが、これ、第1期の番外編の変則タイトルだったりします。
この後、ヘキサが鎧武ジンバーピーチを写メして光実に送ったことで光実が来て、例のケンカっぽいやり取りになるのですが、シリアスなのでカットです。
ここからはブチさんもジェットコースター下りに入るはずなので、息抜き回です。
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