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乱世の確率事象改変

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麒麟と鳳凰、仁君と伏竜

 日の出は東から、全ての大地を照らして昇りくる。
 城壁の上から目を細めて見ていた秋斗はほうとため息をついた。
 遥か遠く、地平も山々も越え、海を越えた後に……自分の暮らしていた土地の昔の姿があるのだと想いを馳せて。
 そういえばと思い出すのは古き偉人の話。

「日出る国の天子と日没する国の天子とかなんとか。日の出も日没もどっちも綺麗だからそれでいいけどなぁ。まあどの王だって自分の国が沈むような事を言われたら怒るか」

 言葉の言い回しってのはめんどくさくて難しいモノだ、と零してから大きく伸びをした。
 白蓮が逃げて来てから幾日。彼は桃香がいない間、その仕事のほとんどを行っていた。
 白蓮の政務能力は高いのだが、さすがに直ぐ手伝ってもらうと城の文官達にも申し訳ないので断っていた。しかしすることが無いと愚痴を零していたので馬の状態を整えるように言い渡し、今は白馬義従を平地で調練をさせている。
 雛里は朱里の代わり、月と詠は侍女仕事にと忙しく過ごし、ここ数日は一緒に昼食を食べる程度。
 あの慟哭の夜の次の日、雛里と詠は彼に声を掛けたのだが、自然な姿で対応する秋斗にほっと息を付いていた。
 そんなこんなで少し忙しいながらも戦の無い日々を満喫している彼らであった。
 朝日の眩しい日差しを浴びながら彼は歩く。行く先々で、早朝だというのに起き出している人々に挨拶を交わしながら。
 城まで辿り着き警備の兵に声を掛けてから、廊下を抜けて桃香が使っていた執務室に向かうと、既に早起きの文官が運んできてくれた書簡は積まれていた。
 これだけすれば終わればいいな、なんて考えながら筆を取って幾刻。バタバタと掛ける足音が聴こえて眉を顰めた。
 勢いよく扉が開かれて入ってきたのは一人の斥候であった。髪は乱れ、息も絶え絶え、蒼褪めた顔からはどれだけ重大な事態かが見て取れた。

「どうした?」
「それが……袁紹軍が……徐州に向けて行軍を開始しました!」

 彼の思考は真っ白になった。後に、ガラガラと積み上げてきたモノが崩れる音が聞こえた気がした。
 それは本当か、などと聞くはずも無く、彼はそのまましばらく動けずにいた。

「見てきた時は青洲に差し掛かったあたりでした、その数は五万近いと思われます。主だった将は文醜と張コウ、郭図に田豊の旗も……じょ、徐晃様?」

 続けて説明を行うも、秋斗が何も言わない事を不振に思った斥候に呼びかけられて漸く、彼の頭は回り出した。

「……そうか。他に大きな情報はあるか?」
「いえ、敵将の旗と数だけしか、今の所は……」
「分かった。ご苦労だったな。お前さんはゆっくり休んでくれ」

 一つ言って斥候が下がるのを待ち、彼は椅子から立ち上がり足早に執務室から出て行った。途中で入り口に構える兵に雛里と白蓮を集めるようにと伝えて。
 廊下を歩きながらも積み上げ直す思考。その中で、夕が洛陽で自身に勧誘を掛けてきた時の出来事を記憶から引っ張り出していた。

――夕め。あれは朱里と雛里に俺が勧誘の話を言う事も見越して、ここに攻め入る事は無いと思わせる為の策か。袁家二分は嘘、本当の目的は徐州攻略と……用済みの孫策を袁家総出で仕留める事くらいか。しかし幽州の掌握も終わるはずの無いこの時機で、一番恐れているはずの曹操に対してノーガードとは……ぶっ飛び過ぎだろうに。いや、あいつなら対策くらい余裕で考えていそうだ。

 ただ、気になるのは勧誘をしてきた時の瞳。嘘を言っている訳でも無く、真実を向けているわけても無く、感情の綯い交ぜになっただけの瞳。救いを求めるように、か細い光が光っていた瞳。

「邪魔をするなら……潰すだけか」

 ふるふると頭を振って追い遣り、彼は廊下を進む。ここからどうすればいいかの思考を積み上げながら。
 彼の心に憎しみは無かった。牡丹を殺した相手だとしても、白蓮から大切なモノを奪った相手であっても、自責の念が大きすぎる為に秋斗は他人を憎めない。というよりも、数多くの人を殺し、最効率の戦場を作るために決死の化け物部隊を作り、慕ってくれている部下を切り捨て続けている秋斗には、もう憎しみという感情を他人に向ける事が出来なくなっていた。
 今、湧いて出てくるのは多数の不安と疑念。
 世界の流れが、大局が大きく変わった。自分が関わった事によってか、それともこれが正常な流れであるのか。答えのない迷路へと脚を踏み入れそうになる。
 先が読めなくなるというのはこれほど不安なのだと、イレギュラーな事態はこれほど絶望を運んでくるのだと……思考が焦りに染まっていく。
 舌打ちを一つ。
 茹る頭を落ち着かせ、いつも通り数学の証明のように、自分が辿り着きたい結果へと、己に与えられた札を並べて道筋を組み立てて行く。
 この世界に来てから圧倒的に長い時間をそれに費やしてきたからか、瞬時に幾つか組み上がり……過程を見て、もしかしたらと思うモノに至った後、自嘲から口元が引き裂かれた。

「クク、世界ってのに意思があるのなら俺が……いや、徐公明が劉備軍にいるのが気に食わない……そんな所か」

 一人ごちて廊下を歩く。何度も何度も、淡々と思考を積み上げながら。
 自分の思い通りに動けないという事に、大きなもどかしさを感じる心を抑え付けながら。
 将であるが故に、桃香の部下であるが故に、桃香の成長を待っているが故に、全ての手段が限定されてしまう。首輪付きは誰であるのか。
 しかしそれが有利に働く事もあるのだと自分に言い聞かせ、ギシリと拳を握りしめて歩く事幾分、彼はやっと着いた軍議室の扉を開いた。




「――というわけだ。ああ、それと火急を要する事だから桃香達には指示を仰ぐ伝令を送ったぞ」

 秋斗からその情報を聞いて、白蓮は顔を苦悶に歪める。
 ことさら憎悪が深くにじみ出ており、今にもここから飛び出して戦に向かおうかという程であった。俯き、ぎゅっと唇を噛みしめて耐えようとしたが、あまりに強く噛み過ぎてすっと血が一筋顎に伝う。
 その様相を見て、秋斗はすっと目を細めて白蓮を見つめた。

――どれだけ白蓮を苦しめやがる。せっかく安定し始めていたというのに……これじゃあ早い段階で戦に向かわせる事も出来ないか。

 対して雛里は一瞬驚いた後に静かに目を瞑って黒羽扇をきゅっと握りしめた。現状把握と自軍の行うべき行動、如何にして秋斗の考える展開まで行き着かせるか、彼女の頭の中では目まぐるしい速さで計算が行われていた。

「とりあえず桃香達からの指示があるまで防衛の準備をと思うんだが――」
「私も戦わせてくれるんだよな?」

 秋斗の言葉を遮って凛とした声が室内に響き、二人の視線が白蓮へと向かう。瞳に燃える深く昏い憎悪の炎を見て、秋斗はため息を一つついた。

「ダメだ。袁紹軍との戦で、本城の防衛役は俺だけでいい」
「……なんでだよ」

 秋斗の返答が意外だったのか、白蓮は眉を顰めて、感情を抑えながら見据える。秋斗はゆっくりと大きな手を身体の前に開き、直ぐに三本の指だけを残した。

「一つ、憎しみは力になるが思考を縛って視野を狭める。
 一つ、お前の部隊は騎馬隊だから防衛に向かないし、こんな所で少しでも失うのは勿体ない。
 一つ、本城にいる兵はお前のも合わせて一万に満たず、物資も少なく、準備期間も足りないので五倍以上の相手には敗北必至。ただの時間稼ぎ程度の意味合いしかないからお前が居た所で焼け石に水」

 指を一つ一つ折りながら淡々と事実を述べられて、白蓮は苦い顔で俯いた。雛里はその心の内を予想して少しの哀しみを瞳に乗せ、秋斗に視線を向ける。

――雛里ならば、俺と同じ事を考えてくれているだろう。

 信頼の籠った微笑みを返した秋斗は話してごらんというようにコクリと頷いた。

「白蓮さん、何も問題はありません。秋斗さんだけがここで防衛を行う事はほぼ無いですよ」
「へ?」

 間の抜けた声。秋斗と雛里を交互に見て、白蓮の疑問だらけの頭では考え付く事も無く、どういう事だと二人に答えを求めた。

「私達劉備軍の取る事の出来る選択肢は幾つかありますが、大きな三つを話します。
 一つは秋斗さんを囮として袁紹軍を本城に引き寄せ、劉備軍本隊との挟撃で無理やりにでも大打撃を与えて迅速に撤退させてから、袁術軍と孫策軍に対して徹底抗戦。その後、ある程度で降る、もしくは逃げる事になるでしょう。袁家に降る場合は大徳に対する期待が地に堕ちてしまい再起はほぼ不可能ですので孫策軍に降伏するのがよろしいかと。ただし、桃香様は降ったとしても立場上殺される可能性が高いです。逃げるとしたら……兵は三分の一以下に、将は半数以上を失うのが予想されるのでおススメでは無いです。曹操さんの元に身を寄せるなら別ですが。それともし、孫策軍に袁術打倒の意思があるのならこの展開で時間を稼ぐのも一つの手かと。
 一つは曹操軍を引き込む形で徐州を乱戦の場とし、五つの軍が入り乱れる大戦を作り出す事。この場合、如何に曹操軍と上手く交渉するかが問題となってきます。両袁家、孫策軍を追い返した後、曹操軍に莫大な借りが出来てしまい徐州に縛り付けられてしまうのも危ういです。曹操さんの野心は大きく、必ずや私達を取り込もうとしてくるはずですから。ですので、桃香様の理想を叶える為でしたらなんらかの方策をとって袁紹軍と曹操軍がぶつかっている間に徐州を離脱するのが最善でしょうね。
 一つは孫策軍、袁術軍を無理やり抜いて同家である劉表さんの治める荊州まで抜ける事。兵の半数の消失は確定的で、幾人かの将を失うかもしれない危うい賭けとなりますが、早い内から別の地で再起を計る事が出来るのは先の二つに比べて大きな強みです」

 つらつらと並べられた三つの事柄を聞いて、驚愕の表情に変わった白蓮は慌てて口を開いた。

「お、おい。それって……桃香の理想を叶える為には徐州を捨てるしかないって事か!?」

 それを聞いた秋斗は涼しい顔で白蓮を見つめ、

「曹操がどんな奴かは……知ってるな?」

 己が提案した密盟を行ったかどうかを確かめた。苦い表情に変わった白蓮を見て、それが失敗したのだと確信し、秋斗は続ける。

「あれに従わないと言うのなら、俺達が乱世で生き残る為には現状の徐州に居座り続ける事は不可能だ。これからの大陸の情勢を予測するのなら、最低でも益州を手中に収める必要がある」
「え、益州だと? ……ああ、そうか。あそこはずっと内部がぐちゃぐちゃだからなぁ。南蛮の防衛も粗雑で、民の被害が増える一方らしいし……あの場所を手に入れて力を付けないと乱世を乗り切る事は出来ない、か」

 呆れたように大きなため息をついた白蓮の表情。そこには少しの安堵と諦めが映っている。それを見て、瞳に冷たい輝きが宿ったのは秋斗と雛里、どちらもであった。
 義の為ならば、侵略を是と出来るのが白蓮なのだと理解して。善良なモノでも幽州の為ならば踏み台にする事を厭わないというのも連合参加で知っている。
 秋斗は己から突きつけずとも、勝手に起こった袋小路に少しだけ感謝した。
 ただ……彼は見誤っていた。理想は恐ろしく甘いモノだという事を。

「益州で力を付けて賛同者を増やし、曹操を止めて幽州を取り返せばいいんだな」

 二人ともが反応出来なかった。辛うじて、思考を繋いだのは雛里。俯いて言葉を紡いだ白蓮を茫然と見ている秋斗に少し目を向けてから、

「……弱ってしまった漢を復興して、ですか」

 向かっている思考のずれは、今ならば修正が効くのだと信じて返した。
 はっきりとした天下統一という形では無く、現状の漢のままで全てをうやむやにする事は出来る。三国が成り立とうとも帝の名の元に抑え込み、桃香や朱里が中央の権力を得て領地の区別なくそれぞれ治める太守を変える等を行って済ませられれば。
 盤上の遊戯のように領地を取り合うでは無く、漢という虫の息で生命を維持している大国の元に、今の帝の元で、皆が協力しあって平和な世界を作る事が出来る……ある意味で三国同盟、ある意味で天下統一と言える。
 秋斗にとって一番なって欲しくない未来であり、桃香と白蓮の望みをそのまま叶える事の出来る未来。
 噛み合わない歯車は軋みを上げる。目指すモノのズレは既に取り返しがつかない程に大きかった。
 秋斗も雛里も月も詠も、既に漢を見限っており、壊してから作る事が目指す世界であると信じている。
 しかし白蓮は、否、桃香も朱里も愛紗も鈴々も星も……目の前に吊るされた平和の継続をこそ、彼女達の優しい善性から信じている。
 秋斗達にとってことさら問題だったのは桃香が劉備である、という事だった。劉姓は漢の希望。なら、それが大きな力を持てばどうなるか。それがずっと、秋斗と雛里、二人の思考から抜けていた。己が描く世界を優先するあまりに。雛里は秋斗が言う天下統一を目指してしまったが為に。秋斗は桃香が無理な場合を考えていたが為に。
 秋斗の描く道筋も、白蓮や桃香が選ぶであろう道筋も、どちらも同じように先の世に平穏を作る事が出来るが、従えると協力するでは後々に天と地程も差が出てくる。未来の事は誰にも分からないのはその通り。やり方が違うだけであり、どちらが最善であるのかは治めてみなければ分からないのも正しい。ただ一つ、人間の辿ってきた歴史をこの世界の誰よりも知る秋斗がいなければ。
 雛里の否定的に取れる言葉に若干首を傾げ、白蓮は顔を上げた。

「だってそれを目指して戦ってるんだろ?」

 鳳雛とまで呼ばれる天才少女は、異質な価値観を持つ秋斗の思考を今までずっと吸収してきた。だから、現在の白蓮が描く未来に否定的。
 どちらも最終的に理不尽の無い同じ世界を目指していると分かっていても、それでは足りないのだと、雛里が返そうとする前に、ガチャリと金属音が秋斗の方から響いて二人ともが視線を向けた。

「すまない、最近鞘を付ける紐が緩くてな」

 わざと落とした……と気付き、雛里は秋斗の思惑を理解して平常心に落ち着いていった。戦前の不和や対立は必要ない、論議をするのなら桃香と一緒でなければ意味が無いのだと言い聞かせて。

「うん、漢が復興されれば平和になるもんな。一度乱れてしまったおかげで不穏分子の見極めが出来たんだから後は排除すればいいだけだろうし」

 皮肉を込めた言い回しである事に、白蓮は気付かない。友としての信頼は大きかった。
 いつも通り、ゆらゆらとギリギリのラインで保たれる線引き。それを聞いて雛里は顔を伏せた。秋斗が白蓮と戦う覚悟を持っている事を理解してしまった。

「とりあえず……白蓮は益州へ向かう事について賛成でいいわけだ」
「……ああ、確実に幽州を取り戻す事が一番だから。与えられるカタチじゃあ意味が無いんだ。私が、私達が取り戻してこそなんだ」
「袁家に仇討ちは出来ないかもしれないがそれはいいのか?」
「牡丹の望み、そして死んでいった奴等の望み、生きている皆の望みは私が幽州を取り戻して治める事だ。だからそのくらい……個人の感情くらい抑え付けるさ」

 ぎゅっと机の上で拳を握った白蓮は堪えるように引き絞った声で言い切った。

「ありがとう。さて雛里、朱里はお前と同じ選択肢を思いつくと思うか?」
「必ず。桃香様によって大陸が平和に導かれる事を望む朱里ちゃんが提示するのなら……二つ目か三つ目でしょう」

 雛里の予測ならばほぼ確実と見て、秋斗は次の話に移る。

「じゃあ次だ。白蓮、お前は先に桃香達の元に行け。本隊の数が行軍出来る程の道は一つしかないからな」

 ばっと顔を上げた白蓮は何かを言おうとして、すぐにやめた。秋斗の冷たい瞳、有無を言わさないその眼差しに、彼なりの考えがあるのだと分かって。
 ゆっくりと、秋斗の思惑を看破している雛里が続ける。

「二つ目でも三つ目でも、一度集まる必要があります。どのように動くとしても劉備軍本隊の方が最優先ですので白蓮さんにはその補佐をお願いしたいんです、それに、徐晃隊は少し特殊な隊なのでいろいろと袁紹軍に対して独自の策を仕掛けられるのも一つかと。桃香様達からの伝令を待っている間の事ですので、心配は要りませんよ。伝令が届き次第、私達も直ぐにそちらに向かいますから。一つ目であっても、本隊の到着を待つ時間は余裕ですし」

 小さく微笑んだ雛里。白蓮は彼女程の才女が言うならばと抑え込んだ。秋斗が無茶に走る事は以前もあったが、雛里がそれを咎めた事を聞いていたのもある。

「分かった。迅速さが不可欠な事態だし、直ぐに準備するよ」

 大きくため息を吐いて立ち上がった白蓮に、秋斗が申し訳なさそうに声を掛ける。

「すまないな白蓮。もうちょっとゆっくりしてから酒でも飲みたかったんだが……」
「ふふ、この戦を無事に切り抜けられたら三人で、としておこうか。じゃあ行ってくる」

 笑顔を一つ、後にクイと杯を傾ける仕草を示して、秋斗が笑顔で返したのを見てから白蓮は背を向けて軍議室を後にした。
 残った二人を包むのは静寂。最後の緩い空気は瞬時に切り替わった。重苦しく、悲哀と絶望が包んでいる。
 ふと、隣の席に座る秋斗を見た雛里は絶句する。絶望の渦巻く、深い闇色の瞳。彼女に目を向けずに、秋斗はゆっくりと言葉を吐き出した。

「さすがにこの事態は想定してなかった。夕……田豊が上手だったな。俺個人を使ってまで思考の束縛を固めてくるとは……見事」

 悔しがる様子も無く、ただ敵の策を見事だと褒めた彼はどこかの覇王のよう。ぎゅっと自身の小さな手を握りしめて、雛里は悔しさに身を震わせた。
 自身が足りていれば、予測出来ていれば、こんな事態にはならなかったのにと。
 いくら天才と言われようと、愛しい人の心も身体も、簡単に窮地に追い詰めさせてしまっているではないかと。
 ふいにポンと帽子を抑えられて、後悔に堕ちる思考が中断された。

「なに、いつも通りだ。ここを乗り越えたら、きっと全てが上手く行く。クク、桃香の事も含めてな」

 少しの嬉しさを含んだ言葉に雛里は疑問が浮かぶ。

「で、でも白蓮さんも桃香様も……私達のようには……」
「桃香の性格上、この先の展開は一つにしか成り得ないだろう。そして俺の代わりに……覇王が叩き潰してくれるから大丈夫さ」

 目を向けられた瞬間、雛里は恐怖に心が凍りついた。自分に見えていなかった事柄も、秋斗には見えているのだと理解して。同時に沸き立つのは敬愛と信頼。

――ああ、この人はやっぱり……ここにいるべきじゃない。桃香様が理想を選んだなら……私がこの人の――

 僅かな言葉から予測出来た事は一つ。桃香がこの先で強いられる大きな選択。
 秋斗は……次の選択で桃香が理想と現実のどちらを取るか迫られ、そして現実を必ず選ぶと信じていた。
 雛里は桃香が理想を選ぶ事もあると理解している。その場合、自分が彼に選ばせる選択を幾つも頭に浮かべて行く。

「予測の共有は思考を縛っちまう事が田豊の件で分かった。だからそれぞれで考えよう。桃香が三つの中から選んだ答えを聞いてから答え合わせをしようか」

 窮地に追い詰められているというのに楽しそうな声で、彼は言葉を紡ぐ。
 空元気であるのか、それとももう壊れる寸前なのか、雛里には分からなかった。
 締め付けられる胸を押さえながら、雛里は……冷たく心を凍らせる。軍師の自分を作り出して。

「では……防衛、いえ、袁紹軍攻略の準備を始めましょうか」

――どうか、彼が壊れる事無く、全てが上手くいきますように。

 優しい笑みをくれた彼に微笑み返した。胸の内で涙を流して。
 そうしてまた、彼女は黒麒麟と並び立つ。




 †




 袁術軍の本隊は着々と兵力を集め、その数は既にこちらの倍を有していた。
 鈴々ちゃんと愛紗さん、星さんの部隊に奇襲を仕掛けて貰い、どうにか攪乱する事が出来るだろうと考えていた時の事。

「はふぅ」
「お疲れ様、朱里ちゃん。お茶をどうぞ」

 陣内にて報告を待ち、これからの展開を考えていると、桃香様が天幕に来てくれて暖かいお茶を差し出してくれた。

「ありがとうございます。あ、魔法瓶も持ってきていたんですか」

 秋斗さんが愛用している温度をある程度保つ容器。どこでも暖かいお茶が飲めるので私達の軍でも結構重宝している。

「うん♪ これ凄いよねー。秋斗さんって何個か不思議なモノを作ってるけど、便利なのばっかりで助かるよー」

 実は、私と雛里ちゃんは軍用になる絡繰りを聞いていたりもする。
 攻城戦を安易にする巨大な杭を撃ち出すモノ、大きな石を遠くまで飛ばすモノ、煙を発生させる草を詰めた球、暗闇を一瞬だけ眩く照らす球、高く大きな音を鳴らす矢、他にも幾つか。
 技術者がいないので未だ制作には取り掛かっていないが、これらは後々大きな戦力となる事が予想された。
 ただ、強い兵器は他国に技術が盗まれるとそのまま転用されてしまいこちらも危うくなるので使い処が難しい。ここ一番の戦でのみ使うべきだろう。
 大陸の戦の常識を覆すモノも知っているがそれだけは教えないとも言っていた。来るべき治世の継続の為に残しておくとも。
 確かに行き過ぎた兵器は人を余計に滅ぼし乱世を伸ばす。大きすぎる力は、それがあったから勝てたのだと周りに思わせ、誰もがそれを手に入れたら勝てると希望を持ってしまう。欲の張った者がそれを手に入れたらと思うとぞっとする。
 彼の知識は乱世でも、平穏な治世でも大きすぎる。
 例えば……学校というモノ。治世になれば一番作りたいモノらしく、その制度は素晴らしいモノだった。幼いころから識字率を引き上げ、思考能力を着け、民の誰しもに機会を与えるモノ。
 末端に余計な知恵を与えると反乱を誘発するが、それを抑え切れる秩序を作り出せば可能だろう。
 考えて……私に学校の話と共に言ってくれた言葉を思い出す。

『朱里がいたら作り出す事が出来るさ。人生全てを賭けてこの大陸に悠久の平穏を。次の子供達や孫達が理不尽な目に合わず、笑って暮らせる優しい世界をな』

 ドクンと胸が跳ねて頬が熱くなった。

――ああ、こんな乱世早く終わらせて世の中を良くしたい。出来るなら、一生彼の隣で。

「あ、朱里ちゃん。秋斗さんの事考えてるでしょー?」
「はわわっ」

 ふいに桃香様から掛けられた一言に思考が止まる。
 楽しそうに笑う桃香様は美しく、されどもいつものようにふんわりとしていた。

「ふふ、秋斗さんって優しいもんね。好きになっちゃうのも分かるなぁ」

 言いながら、桃香様は遠い目をした。桃香様は……どうなんだろうか。

「その……いつから?」
「うーん……洛陽から帰って来てから結構目で追ってたよね? 雛里ちゃんみたいだったからそうなのかなーって」

 聞くのが怖くて違う事を聞くと説明してくれる。私はそんなに分かり易かったのか。
 苦笑した桃香様の瞳には不思議な色が見て取れた。雛里ちゃんのような甘い色では無く、少し昏い影を落としている。

「桃香様は秋斗さんをどう思っているんですか?」

 堪らず聞いた。彼の事を考えているのは分かるけど、どうしてそんな色になるのか分からずに。
 桃香様は一瞬驚いて、少し大きく深呼吸をして口を開く。

「私は……正直あの人が少し怖いよ。優しいのは知ってるし、人を助けたくて仕方ないのも知ってる。でも、やっぱり怖い。新しく入った兵の人達の話を聞いてから特に、ね」

 心の底から来る怯えの色……だったのか。
 報告にあった先の袁術軍や孫権軍との戦。確かにあれには私も恐怖した。でも……軍師としての私は歓喜していた。特に黒い獣がうるさく喚いていた。
 効率的に戦を終わらせるために自分の部隊を常時死兵と為す。徐晃隊の訓練は他の部隊からしても異常なのは知っていたけれど、まさかそこまでなるとは思っていなかった。
 きっと兵達は彼の為に全てを捧げている。その命すらも。
 兵が軍師の思い通りに動く事は無い。それを覆したのが徐晃隊。人の命を数として扱うモノ。盤上の遊戯のような戦は……軍師達が一番望むモノなのだから。
 桃香様が怯えているのは他にもある。
 袁術軍の捕虜をそのまま戦に駆り立てて軍に取り込んだ事。
 鈴々ちゃんは、

『降ってくれた皆は鈴々達の為に戦ってくれるって。お兄ちゃんはやっぱり凄いのだ』

 なんて言っていたけどそれはおかしい。
 降って直ぐ、それも当日に所属していた軍を攻撃させるなんて正気の沙汰では無い。だが、鈴々ちゃんの発言は的を得ているので責める事は出来ない。
 言うならば兵に対する離間計。特殊な武将である彼しかそんな事は出来はしないだろう。
 ぶるりと身体が震えあがる。占める感情は歓喜と畏怖。
 あの人がこの軍に所属しているだけでどれほど安心感があるのか。桃香様には彼の事を認めて貰わないとダメだ。怖くても、やっている事は間違いなく私達の軍の為になる事しかないのだから。

「ですが秋斗さんの使った策は有用です。袁術軍は無理やり徴兵されたモノも多いので、私達の元で戦いたいと思ってくれたんだと思います」

 初めのそれが彼への恐怖であっても、とは言わない。今はもう、心の底から私達の元で戦いたいと言ってくれているのだから。

「……間違ってるなんて言わないよ。たださ、やっぱり哀しい。ちょっと前まで味方だった人を殺させるなんてさ」

 前までの桃香様ならきっと否定してただろう。でも、国を治める王として、劉備軍の兵という自国の民の多くを守れるから、今の桃香様はそれを呑みこんでくれる。
 私は桃香様に言葉を紡ごうとした。だけど……出来なかった。
 長い静寂が訪れる。思い出したように桃香様がお茶を飲む音だけが天幕に響いていた。
 そんな折、一人の兵が足早に私達の元に駆けてきた。

「りゅ、劉備様。公孫賛様が到着なされました!」
「ええっ!? なんで白蓮ちゃんがここに!?」

 為された報告に疑問が浮かぶ。
 本城に何かあったのか、雛里ちゃんが何か考えたのか、それとも……秋斗さんに支えて貰ったから星さんのように早く戦に出たくなったのか。

「直ぐお連れしてください」

 一つ言うと兵は全速力で駆けて行った。その背を見送り、桃香様が私に首を傾げて問いかける。

「何かあったのかな?」
「分かりません。雛里ちゃんと秋斗さんがいるので何か考えての事だと思うのですが……」

 思考を巡らせていろいろと考えていると、白蓮さんが天幕に到着した。

「久しぶり、と言ってもちょっとだけどな」

 城を出る時につけていた髪留めでは無く、幽州での姿で現れた白蓮さんは雰囲気が変わっていた。否、戻っていた。それは洛陽で最後に見たモノ。
 張りつめていた感じは無くなり、穏やかで優しい……これこそが白蓮さんだと言えるような人に。

「白蓮ちゃんちょっと変わった?」
「さすがに分かるか? ちょっといろいろあってな。秋斗に怒られたんだ。私は私のままでいいって。焦ってたんだ、きっと」

 やっぱり彼は凄い。桃香様でさえ見抜けなかった事を容易く見抜いて変えた。
 緩い雰囲気が天幕を包み始めたが、今はそれよりも……大事な事を聞かないと。

「白蓮さん、本城で何かありましたか? いえ、雛里ちゃんからどのような指示が……」
「いや、私の方が聞きたいんだけどな。桃香は袁紹軍に対してどう動くつもりなんだ?」

 一瞬何を言っているのか分からなかった。

「え、袁紹さん? 私達が戦をしてるのは袁術さんだよ?」
「……バカな、伝令は……そうか、あの時と同じかっ!」

 空白、後に白蓮さんが慌てだし、漸く私の思考が正常に回り出す。

「まさか……袁紹さんが攻めてきたんですか!?」
「そのまさかだ! 伝令は殺されたんだろう、私の時もそれがあったからな! くそっ、教えてなかった私の失態だ!」
「でも、袁紹さんは間違いなく曹操さんを攻めるだろうって! それにいくらなんでも速すぎるよ! 白蓮ちゃんが逃げて来てまだ半月も経ってないんだよ!?」
「来たものは来たんだ! ……っと、お茶を飲もう。落ち着かないと始まらない」

 ふいに視線を魔法瓶に向けて、空いていた湯飲みにお茶を入れ始めた。
 秋斗さんがいつもしている事。そうだ、落ち着いて思考を回さなければいい案なんて浮かばない。一口お茶を飲んで思考を巡らせる。
 私達と彼らを分断する事が狙いだったのか。白蓮さんを送ってくれた事でしっかりと情報が入った。これで私達は動くことが出来る。
 この窮地をどう乗り越えるか。
 確実に袁術軍にも情報が入っているだろうから総攻撃を仕掛けてくるのは必至。秋斗さんと雛里ちゃんを呼び戻して対応しても徐州は袁紹軍の手に落ちる。
 そこで、私の頭の中で一人の女の子がにやりと笑った。黒い髪を片方だけ耳の上で括って、平坦な話し方をする彼女の笑みに不快感が込み上げてくる。

――まさか……これは田豊さんの策略!? 彼に勧誘を掛けたのも、全てはこの時を狙っての事!

 思い至れば早い。袁家二分は欺瞞分裂。私達は圧倒的な兵数に挟撃されてそこで終わる事になる。
 込み上げてくる悔しさに歯を噛みしめた。私は彼女にまた負けた。いいように掌の上で転がされていたんだ。

――でも……ここからは負けない。負けてたまるもんか!

 心の内で強く呟いて思考を回しながら白蓮さんを見つめる。

「何時、城を出ましたか? 兵数と敵将は?」
「……二日前だ。兵数は五万、敵将は文醜、張コウ。軍師に郭図と田豊だ」
「分かりました。桃香様、皆で話し合う時間は残されていません。袁紹軍は既に国境付近にまで到達している事でしょう。降伏しないのならば、これからの私達の動き方を三つ上げますのでそれから選んでください」

 桃香様に目を向けると、ゴクリと喉を鳴らし、力強い信頼の瞳を向けてくれた。田豊さんの策を打ち破る為には私達だけでは不可能。現状では絶望的だから……

「一つ、本城の秋斗さん達を囮として私達が救援に向かい、袁紹軍を全力で叩く事。時間との勝負となりますので膨大な犠牲を伴うのは確定的であり、最後まで勝ちの目を信じて本城で立てこもって戦います。
 一つ、曹操さんに同盟を求める事。その場合、対価として首輪を付けられる事も覚悟してください。
 一つ、袁術軍と孫策軍を無理やり抜いて荊州まで逃げる事。兵の半数は脱落確定、将も幾人か失う可能性が高いです」

 言い切ると、ほうと白蓮さんが息を付いた。悩み始めた桃香様から目を切って視線を向けると、

「秋斗と雛里の言った通りだな。あっちもその三つを考えていた」

 二人が私と同じ展開を考えてくれていた事にほっと安堵の息が漏れ出た。同時に、白蓮さんをここに送った理由も納得する。
 どの選択をするにしろ全軍の集結は絶対に必要だろう。きっとその先の展開まで予測してくれている。

「他には何か言ってませんでしたか?」
「二番目のについて、雛里は曹操を巻き込んで五つの軍で大戦を築くと言っていた」

――同盟では無く巻き込む……そうか、そういう事か。さすがは雛里ちゃん。確かに同盟は無理だ。巻き込んで見せよう。

「なら二番目でも徐州を離れるつもりという事でしょう」
「えっ?」

 茫然と、桃香様が呆気にとられていた。
 これは私の失態。朧げに考えていただけで、この先どうしようかという事を話していなかったのだから。
 机に置いてあった白羽扇を手に取って胸の前に掲げる。桃香様に選択を促す彼みたくなれるように。

「桃香様、徐州は戦略上手放すしかないんです。桃香様の理想を叶える為には力を付ける場所が必要、となれば……密偵と元直ちゃんからの情報にあった益州、為政者が非道な行いをしていると聞くそこを手に入れます」

 手に入れる。私はそう言った。他国にこちらの事情で押しかけると。その地を奪い取ると。
 反董卓連合の決断を思い出して、彼はこんな気持ちだったのかと理解が深まった。

「じょ、徐州の人達はどうなるの?」
「一番目と三番目の策では袁家の手に落ちるので確実に今より生活が危うくなります。二番目の選択なら……曹操さんに売り渡す形となりますがそこまで酷くは無いでしょう」
「違うよ! せっかく皆……軌道に乗り始めたのに! ここの皆を見捨てろって言うの!?」

 悲痛な叫びに心が痛む。徐州の生活水準は私達の政策で前よりも上がりつつあった。
 何を於いても民の為。桃香様には……耐えられるわけがない。
 それでも選んでもらわなくてはならない。桃香様が理想を叶える為ならば。私は何にでもなろう。

「その通りです。民を見捨て、国を見捨て、身一つで理想を作り出す為に耐え忍ぶ事」
「そ、曹操さんだって悪い人じゃないんだよ!? あの人も平和な世界を願ってる! ここを離れなくても手を繋げるよ!」

 分かってる。桃香様がそう言う事は。
 そこで白蓮さんが大きくため息をついた。

「桃香、曹操は無理だ」
「どうして白蓮ちゃんまで――」
「私は! 私達は袁紹軍から攻められる前、曹操に密盟を依頼していた。だけど断られたんだよ。これから侵略するから、という意思表示なんだよ、あれは」

 絶句。強く遮られて桃香様は言葉を失い、だらりと胸の前に上げていた両手を下げた。
 前例を示された事によってより強固に絶望を突きつけられただろう。

「なんで……皆仲良く出来ないの? 平和を望んでるなら……皆が協力すれば簡単なのに」

 震える声は今にも泣きだすかのよう。どれだけ、この優しい人に絶望を突きつけるのか。耐えきれず私は俯いた。白蓮さんも俯いていた。
 これが乱世。他を食べないと生き残れない。力を示さないと納得されない。理想を掲げようとも、力が無ければ話も聞いて貰えない。

「ねぇ、朱里ちゃん。一番被害が抑えられるのはどれなの?」

 暫らくの静寂の後、震える声が響いて、桃香様は拳を握って私と目を合わせる。哀しみと覚悟が揺れる瞳に胸が締め付けられた。

「二番目ならば……被害は一番少ないです」
「じゃあ二番目の、策にしよう。それに一回だけ、機会が欲しい。曹操さんと話してみたいの。それでダメなら……何度だって話を聞いて貰う為に……此処を……出る、から……」
「分かりました。雛里ちゃん達に直ぐに合流地点の伝令を幾人か送ります」

 そのまま、桃香様は俯いた。一つ二つと涙が零れて行く。
 桃香様は決めた。此処の民を見捨てる事を。
 理想を叶える為に、現実を選んだ。

 そして私は言わない。これは言わないでいい。桃香様がそれを選べば全員で生き残る事が出来るから。きっと選んでくれるだろう。

 交渉の席を設けるのは私だから、絶対に成功させる。

 曹操さんは絶対に話に応じてくれはしない。というより、対価に何を求められるか予想出来てしまった。洛陽で探りを入れてきたのを思い出して。

 あの人は……アレを求める。

 私達の大切なモノを。

 絶対に渡さない。渡してたまるもんか。

 私達の元にいないとダメなんだ。

 少しでも機会を与えたら奪われてしまう。

 だからあの人は……秋斗さんだけは……絶対に渡さない。 
 

 
後書き
読んで頂きありがとうございます。


はい。
魏ルートのあれです。
この物語の桃香さんは国をほっぽりだして軍だけそのまま抜けるなんて責任放棄を思いつきません。
仁君が簡単に民や国を見捨てるわけがないです。
成長してる桃香さんを感じて頂けたら幸いです。

個人的に
盛 り 上 が っ て 参 り ま し た!
って気分です。

次は両袁家のお話。

ではまた 
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