魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep12戦天凍らすは涙こぼす天使~Ghost of Princess~
(魔導砲をチャージしている・・・。そう、あくまで邪魔をするんですね)
“ヴォルフラム”の砲門に強大な魔力が生まれるのを確認したトパーシオ。フードの中で小さく溜息を吐き、自身の持つ戦力を使用することにした。
「(力を貸して、メノリア)・・・来たれ、悲哀の天使メノリア」
トパーシオの足元、“スキーズブラズニル4番艦”の甲板にアイスグリーンの召喚魔法陣が展開される。一瞬の発光の後、白コートを纏ったトパーシオの背後に、妖精の持つような光翼を四対と生やした美しい女性が浮遊していた。
女性は身長160cmくらいあるだろう。虹色に輝くウェーブのかかったロングヘア、何故か涙を瞳は伏せられている。
纏う服装は、戦場においては場違いな純白のウェディングドレス。ドレスラインはAラインと呼ばれるもので、ネックラインはスクエア、袖なし、長いトレーンが目立つ。頭上に浮かぶ黄金の環が回る度にミドルヴェールをなびかせ、開かれたまぶたの奥にある虹色に輝く双眸を露わにさせる。
「来てくれてありがとう、メノリア」
悲哀の天使の二つ名を持つメノリアはコクリと頷いた。トパーシオは“4番艦”を自動操縦にして、3隊との合流地点である崖へと降下させていく。
「それじゃあ行こう」
甲板を蹴って“4番艦”から空へと舞い上がる。それと同時にトパーシオの背中にピタリとついていくメノリアの背にある四対の光翼が羽ばたいた。どうやらメノリアがトパーシオの代わりに飛行を行っているようだ。
「まずは初撃、これで確かめてみよう。メノリア、お願い」
――冷徹なる極雪の凍波――
メノリアは両手を突き出し、両手の平から蒼い吹雪の砲撃を放った。
・―・―・―・―・―・
なのはとフェイトが対峙するのは、シグナムとヴィータとセレスを撃墜したカルド隊の1人、カルド・イスキエルド。そんな彼は、トパーシオからの指示で“特務六課”との戦闘を避けなければならなかった。
「お前たちと戦うわけにもいかなくなった。このまま退却させてもらおう」
「それを黙って見過ごすわけにはいきません。大人しく武装解除して投降しなさい」
なのはがエクシードモードとなっている“レイジングハート”を向けつつ投降を促す。フェイトも同様にライオットブレイド形態の“バルディッシュ”を一切の油断抜きで構える。2人は始めから全力で戦う気でいた。何せ相手は神秘を有するかもしれない敵。しかしそうであっても逃がすわけにはいかなかった。
「俺なんかより、お前たちの艦の方を心配したらどうなんだ?」
イスキエルドが大剣をゆっくりとはるか上空で待機している“ヴォルフラム”へと向けた。それと同時に上空から響いてきたのは何かが砕け散る音。その音になのはとフェイトは思わず“ヴォルフラム”へと視線を移す。
“ヴォルフラム”を視界に入れたなのはとフェイトは絶句した。ここ地上からでもハッキリと判るほどに“ヴォルフラム”は襲われていた。襲っている相手は“4番艦”ではない。すでに“4番艦”はグラナード隊・アマティスタ隊・アグアマリナ隊を回収するために降下を始めていた。“ヴォルフラム”へと攻撃を続けている閃光。なのは達はそれが何か判った。
「あの女の子・・・!」
「艦が撃沈される前に助けに行った方が賢明だと思うぞ」
なのはとフェイトはハッとして、急いでカルド・イスキエルドへと戻したが、「逃げられた・・・!」ようだ。フェイトが悔しげに周囲を見渡すが、もうどこにも彼の姿が無かった。なのははすぐに意識を切り替え、フェイトに「助けに行かないと!」と焦り気味に告げた。もちろんフェイトもそれに「うん!」と強く頷いた。そしてなのはとフェイトは、トパーシオに襲われている“ヴォルフラム”へと全力で向かった。
・―・―・―・―・―・
「さて、と。エルジア紛争も何とか鎮圧できたことだし、オレらもこれで帰らせてもらわ」
グラナードは背伸びをしながら、少し離れた場所のエリオとフリードリヒに跨るキャロへとそう告げる。もちろんそれを許すわけもないエリオは、第二形態・デューゼンフォルムとなっている“ストラーダ”の矛先をグラナードへと向ける。
「協力はここまでです。テスタメント幹部グラナード。あなたを逮捕します」
「・・・本作戦のリーダーであるトパーシオから、こう指示を受けてんだ。“帰還を妨害された場合のみ特務六課との交戦を許可する”って・・・さ!!」
グラナードが両腕を広げたのを合図としたのか、彼の背後にラギオンが舞い降りる。中央部の円環が徐々に回転していき、キンコンと美しい音色のようなものが周囲に流れ始める。
『キャロ、僕がグラナードを倒す。キャロとフリードにはラギオンを押さえてもらいたいんだ』
『うん、判った。八神司令の言っていた対抗策だね』
ここに来る直前の会議ではやてが言っていたことを実践することを選んだエリオとキャロ。グラナードとラギオンを引き離せば勝てるかもしれない、という作戦だ。フリードリヒに跨ったキャロが上昇するのを見たグラナードは、エリオから視線を逸らすことなく警戒する。
「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士、駆け抜ける力を。猛きその身に、力を与える祈りの光を・・!」
≪Boost Up. Acceleration. Boost Up. Strike Power≫
「ツインブースト、スピード&ストライク!」
キャロが速力強化と打撃力強化の魔法をエリオと“ストラーダ”に付与させる。グラナードのフードに隠れた瞳が細められ、「事前情報通りだな」と小さく囁いて笑みを浮かべた。
「ストラーダ!」
≪Speer angriff≫
“ストラーダ”のヘッドブースターと石突のリアブースターから、彼の魔力光である黄色の魔力が噴射される。軌道の読める一直線の突撃だが、それを圧倒的な速度でほぼ回避不可の一撃と成した。
グラナードは思考を巡らせることも出来ずに、ただ回避するという本能のみで横に跳んだ。しかし間に合わない。このままでは直撃を受けることとなる。だがそれを覆すのがグラナードの相棒ラギオンだった。
――煌々たる天蓋の天満月――
フリードリヒを駆るキャロへと放たれる白の円環。フリードリヒの瞬発速度では回避できないほどの速さ。エリオは強引に両足で地面を蹴って軌道を上空のラギオンへと変更した。グラナードはエリオの咄嗟の判断に「ほう」と感嘆の声を上げる。
「させるかぁぁぁぁぁ!」
“ストラーダ”がキャロに向かって放たれていたラギオンの攻撃に向かって振るわれる。そして衝突。円環の迎撃を行ったエリオが大きく弾き飛ばされた。
「エリオ君!」
エリオのおかげで円環を受けずに済んだフリードリヒが、落下し始めたエリオを救うべく空を翔ける。そしてキャロはなんとかエリオを抱き留めることに成功。
「痛たた。なんて威力なんだ・・・」
「大丈夫エリオ君!?」
「大丈夫、問題な――っ!」
エリオがキャロに答えている最中にフリードリヒから飛び出し、接近して来ていたラギオンへ向かって“ストラーダ”を振るう。中央へと吸い込まれるように斬撃が振るわれ、直撃。ガキイィィィンッ!という金属音が鳴り響く。
エリオは手応えの無さからすぐさまラギオンから離脱し、空中で再度“ストラーダ”のブースターを点火させ、当初の予定通りにグラナードへと突撃した。本来の標的であるグラナードを倒すことで、ラギオンの動きを制止させようと判断して。
「動きは良かったが、今のままじゃラギオンは落とせねぇよ」
グラナードは振り上げた右腕を勢いよく下ろし、ラギオンへと砲撃命令を出した。ラギオンはエリオの一撃などなんてことは無いと示すように中央部を発光させる。
「フリード、ブラストレイ!」
キャロの指示と共にフリードリヒが火炎砲撃を放つ。砲撃が放つ前にフリードリヒの一撃を受けたラギオンがよろめく。
「チッ。(さすがに格が落ちているとはいえ竜の一撃。元が“同族”の攻撃には、現役のラギオンでも受けちまうか)やりやがったな」
エリオもキャロもそのラギオンの様子に呆然としてしまっていた。威力としては明らかに先程のエリオの一撃の方が上だった。それなのにフリードリヒの一撃でラギオンは確かによろめいた。
「いけるかもしれない『キャロ、そのままフリードで攻撃を!』」
「『うん!』フリード、お願い!」
――ブラストレイ――
フリードリヒがラギオンへ向け攻撃を開始する。エリオもグラナードへと接近、槍騎士としての接近戦を挑んだ。
「はぁぁぁぁぁぁッ!!」
――ルフトメッサー――
まずエリオは“ストラーダ”を振るって空気の刃を複数放った。グラナードはそれを難なく回避し、ラギオンの方をチラッと見る。キャロの駆るフリードリヒの機動力に若干翻弄されつつあるラギオンがそこにいた。
(ラギオンと、竜と竜使いじゃ相性が少し悪いか・・・)
「この状況でよそ見なんてしていていいんですか・・・!」
自慢の速力で一気に距離を詰めてきたエリオが、一瞬とはいえラギオンへと意識を逸らしていたグラナードへとそう忠告した。
――シュピーア・シュナイデン――
そのまま“ストラーダ”の斬撃を横一線に放つ。グラナードはギリギリで直撃を免れるも白コートの胸部を斬り裂かれた。
「ラギオン!」
――蹂躙する白光の流星――
グラナードが叫ぶと同時にエリオへと接近。エリオは、無手だというのに接近してきたグラナードに警戒しながらも再度斬撃を放つ。それを左腕で受け止めたグラナードは、「ぅぐ」と苦悶の声を漏らしつつ、右手でエリオの顔を鷲掴みにし、地面へ向かって後頭部から叩きつけた。
「こいつはどうだ?」
それと同時に上空が光り、グラナードがその場から離脱した瞬間、ラギオンは上空へと砲撃を放った。それが光の雨となってエリオとフリードリヒを駆るキョロに降り注いだ。
「っ! ケリュケイオン!」
――ホイールプロテクション・プロテクション――
キャロは自身とフリードリヒにホイールプロテクションを、エリオにプロテクションを使用する。直後、2つの桃色のバリアに降り注ぐ白き光の雨。強烈な発光と爆発が起き、周囲一帯が爆煙に包まれる。
「やり過ぎたか・・・?」
煙の中で佇んでいるグラナードが心配そうに声を出す。だが、すぐさま警戒へと意識を切り替えた。煙を利用しての奇襲戦法を取ってくるかもしれないからだ。
「・・・っ!」
グラナードは視界の片隅の煙が判りやすく動いたのを見た。それゆえに馬鹿正直にそこを襲撃しない。
――天睨む反逆の光牙――
その対角線に位置する地点へと、上空に居たラギオンに白き砲撃を撃たせた。砲撃が着弾地点周囲の煙幕を一瞬で吹き飛ばす。晴れたそこには何も無かった。グラナードの読みは外れ、すぐさま先程動きのあった場所へと身体を反転させようとした。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
――紫電一閃――
額から血を流し、雷撃を纏った“ストラーダ”を振り上げたエリオが突撃してきていた。グラナードは再度ラギオンへと砲撃を撃たせようとする。しかしラギオンは、エリオと同様に額から血を流しているキャロの召喚魔法の1つ、アルケミックチェーンで捕縛されていた。さすがのグラナードもその光景には驚愕し、迫るエリオの一撃を回避しそこなった。両腕をクロスさせて防御。かなりのダメージと共に白コートの両腕部分が焼き消えていた。
「(ダメだ、倒しきれてない!!)このぉぉぉぉぉぉッ!」
≪Explosion≫
尚も立つグラナードへと再度攻撃を入れるために、エリオは“ストラーダ”のカートリッジをロードする。エリオは雷撃を纏わせた“ストラーダ”で連撃を放つ。グラナードは紙一重で回避しつつラギオンへと視線を一瞬だけ移した。
ラギオンは、ボロボロになったフリードリヒの連続火炎砲の直撃を至近距離で受け、ゴィィィィンと鐘が鳴ったかのような音を立て沈んだ。フードに隠れたグラナードの表情が完全に驚愕へと変わる。
「紫電・・・一閃!」
「しまっ――ぐおおっ!」
グラナードもついにエリオの一撃の直撃を受け、両膝をついた。雷撃の一撃だったためか白コートが完全に破れており、その素顔を晒していた。若い男――二十代半ばの青年とも言える。黒の短髪。前髪が紫色の目を隠す程ある。そして彼の服装はどう見ても、管理局武装隊の共通バリアジャケットのインナースーツだった。
「武装隊の!? あなたは管理局員なんですか!?」
「ハハ・・・くそ、やるじゃねぇか」
グラナードは、悔しげというよりは膝をつかされたことに喜びを感じている風だ。驚愕しているエリオの質問には答えようとはせずに、ただ笑みを浮かべるだけだ。
「・・・とにかく、僕たちの勝ちです。大人しく投降してください。そしてあなたのことやテスタメントのことを全て話してもらいます。『キャロ、大丈夫? フリードも』」
エリオはここでグラナードから話を聞けないと判断し、事情聴取を後回しにする。そして左腕で額から流れる血を拭い、少し離れたところに居るキャロとフリードリヒの状態を尋ねた。
『わたしもフリードも大丈夫。エリオ君は?』
『僕も何とか。キャロのプロテクションのおかげだよ』
ボロボロになって吹き飛んでいた帽子を拾いながらキャロがそう返し、エリオは護ってくれたことへの礼を言う。キャロは四重のリングバインドでグラナードの両手両足・胴体を捕縛する。体勢を崩しドサッと倒れ伏すグラナードは、それでも余裕の笑みを消そうとしない。
「・・・ガキ、とはもう言えねぇな。騎士エリオと竜召喚士キャロ。ラギオンは確かに負けたが、それでオレも負けたと思うのは早計だぜ?」
バインドで捕えられながらもすっくと平然そうに立ち上がったグラナード。エリオは驚愕しながら“ストラーダ”を向け、キャロもすかさず魔法をいつでも発動できるようにする。
「騎士エリオ、局員とか関係なくこういう実戦の場合は先攻しないと負けるぞ? 来たれ、黒鎧の毒精フォヴニス・・・!」
横たわっていたラギオンが黄緑色の召喚魔法陣の中に消え、グラナードの後方に別の召喚魔法陣が展開される。かなり巨大な魔法陣だ。直径は50mと少しはあるだろう。その魔法陣の発光量が次第に強まっていき、エリオとキャロは堪らず視界を閉ざす。
「「っ!?」」
次に2人が目を開けてその視界に入れたモノは、ラギオン以上に強烈な異形をしていた。まず全体が黒。その全長が約45m弱ほどある。鏡の様な巨躯に炎が映り、オレンジ色に染まっていた。その姿を見て、人はまずそれが何かこう答えるはずだ。
「さ・・・サソリ・・・!?」
エリオが震えた声で新たに現れた存在を見てそう慄いた。サソリ。正しくその通りの姿。ハサミがあり、毒針のある尾もちゃんとある。しかし全体的に余すところ無く鎧を纏ったようなその姿。関節や鎧の隙間から翠色の光が漏れている。サソリという生物よりはサソリ型の鎧を纏った光といった方がしっくりくる。
「こいつの名は黒鎧の毒精フォヴニス。オレのもうひとつの相棒だ」
グラナードの姿が靄のように掻き消え、一瞬でフォヴニスの頭部の上へと移動。しかも新品同様に修復された白コートを纏っていた。もちろんキャロのバインドもすでに無かった。
「予想外に楽しませてもらった礼だ。しっかりと受け取れ!!」
グラナードは天を仰ぎ、両腕を仰々しく広げ叫んだ。それを合図として、フォヴニスが血に飢えた獣のような咆哮を上げる。エリオとキャロは、その頭部を覆い隠す鎧の隙間から光る翠色の眼に身が竦み、死の恐怖に囚われた。
フォヴニスの両のハサミが開き、中央部から翠色の光が漏れ始める。砲撃。エリオは直感的にそう判断し、死の恐怖に震えたその身体を、キャロを護るという想いだけで動かす。
「キャロぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
――穿たれし風雅なる双爪――
・―・―・―・―・―・
「シールド出力最大! 一撃でももらったらアカンよッ!」
はやてが艦長席のひじ掛けにしがみ付きながら指示を飛ばす。先程から“ヴォルフラム”は、S+~SSS、時にはそれ以上の測定不能ランクと大きく変動する魔力攻撃を受け続けていた。
普通の魔力ならその程度では揺るがない艦載シールド。しかし幹部たちにはある秘密があった。その秘密によって“ヴォルフラム”が撃沈の危機に陥っていた。そう、神秘と呼ばれる超常的な“力”によって。
『航行不能、最悪撃沈されたくなければ退いてください』
ブリッジの中央モニターに映るのは白コートの少女トパーシオ。彼女の背後に浮遊する女性メノリアの両手の平が再び光を集めていく。
「っ! また攻撃来るよ! スターズ1とライトニング1は!?」
「ダメです! ジャミングと思われるモノが働いていて繋がりません!!」
はやては歯がみし両拳を強く握りしめる。応援を呼ぼうとしても通信や念話を妨害され、自らが出ようとするも、その際には一度シールドを解除しなければならない。もちろんそんな隙を見逃すはずもないトパーシオは、おそらく良い機会だと攻撃を行うだろう。はやての打てる手が全て封じられ、“ヴォルフラム”は防御に徹するしかなくなっていた。
『次弾、いきます。八神二佐、降参するのもまた勇気ですよ?』
どういうわけか唯一繋がることを許されているトパーシオからの通信。はやては悔しげにその攻撃宣告を聞くしかなかった。メノリアは、白のサテングローブをはめた右手を一度掲げた後、勢いよく振り下ろし“ヴォルフラム”へと指差す。
――吹き抜ける氷界の北風――
指先から放たれた蒼い衝撃波は一直線に“ヴォルフラム”へと進み、展開されている魔導障壁に衝突した。ブリッジに居る隊員たちの悲鳴が響く。激しく艦体が揺れ、隊員たちが踏ん張りきれずに転倒していく。
「シールドが突破されました!」
「左舷に直撃!」
「駆動炉出力61%まで低下!」
「シールド出力、尚も低下中!!」
次々と上がる“ヴォルフラム”が被ったダメージ報告。はやては降参することも視野に入れた。このままでは撃沈される。それだけは何としても避けねばならなかった。
『次の一撃で航行不能にできます。さらにもう一撃で撃沈です。八神二佐、わたしはそこまでしたくありません。だから、退いてください』
トパーシオからの最後通牒がブリッジに流れる。身体を起こした隊員たちは、これにはやてがどう答えるか固唾を飲んで見守る。しばらくの沈黙。リインフォースⅡとアギトが心配そうにはやてを見つめる。
「ヴォルフラムは・・・」
――エクセリオンバスター――
とそこで、桜色の砲撃が下方から放たれ、“ヴォルフラム”とトパーシオの間を通り過ぎた。ブリッジに居るはやて達は、待ち望んだ応援の到着に緊張していた表情を少し和らげた。
『こち・・ら・・・ターズ1・・・援護・・ます・・』
『ラ・・・ング1・・・えん・・・します・・・』
ノイズが雑じりながらもブリッジに流れるなのはとフェイトの声。これで2対1の戦況となる。しかしはやては気が気ではない。相手はSSSランクの魔力に、その上の魔力と神秘を有しているかもしれない敵。下手をすれば、なのはとフェイトの2人がかりですら負けるかもしれない。
「ヴォルフラムはこのままスキーズブラズニル4番艦を撃沈する」
はやての指示に隊員たちは一瞬戸惑うが、それはなのはとフェイトを助けることにも意味することを察し、「了解!」と応えていく。
トパーシオの護るべき“4番艦”を撃沈さえすればそれで終わる。はやてはそう考えた。移動手段である艦を撃沈すれば逃げれないだろうと。幹部たちは転移能力を持っているが、“レジスタンス”はそうはいかないからだ。
「スキーズブラズニル4番艦を、レジスタンスと合流するまでに撃沈するよ! スターズ1とライトニング1! ごめんやけど少しの間、その子を足止めしてくれやんか!?」
『スターズ1了解!』
『ライトニング1了解!』
はやてはノイズで上手く伝わらないと思いながらも指示を出したが、どういうわけかジャミングは無くなっており、なのはとフェイトからきちんと返答を貰った。
なのはとフェイトが、ヴェールの向こう側で涙を流すメノリアを背に従えたトパーシオと対峙する。トパーシオは、なのはとフェイトの姿をジッと見つめたあと、その小さな口を開いた。
「エースオブエース・高町なのはと、執務官フェイト・T・ハラオウン。大人しくしていてください。わたし達の帰還を邪魔さえしなければ、こうして無駄に戦うことは無いんです」
自分たちを見逃すように言うトパーシオだったが、なのはとフェイトは管理局員として、“テスタメント”を逮捕するために編成された“特務六課”の一員として、それには頷けなかった。
「あなた、名前は・・・?」
「??・・・トパーシオ。テスタメント・ナンバー3、トパーシオ」
少し怪訝な表情を見せたトパーシオだったが、名乗りも必要かな?と考え、組織内での序列とコードネームであるトパーシオを口にした。
「トパーシオ。あなた達の目的は何? 管理局に何か不満があるの?」
「ディアマンテの声明通り。このままじゃ管理局はダメな組織になる。わたしや、他の幹部たちのような犠牲者はもう出させない。それに以前に管理局には闇がある。わたし達は、その闇を晴らす、それだけ・・・!」
「犠牲者・・・?」
“ヴォルフラム”が“4番艦”へと向かうのを見たトパーシオは、なのはとフェイトが時間稼ぎのために残ったのだと判断。そう簡単に撃沈されることもないと思いながらも、トパーシオはなのはとフェイトを撃墜して、“4番艦”の操舵に戻ろうと考えた。
「わたしに対しての妨害行動として、あなた達を撃墜します。メノリア」
――吹き抜ける氷界の北風――
なのはとフェイトに向け放たれる蒼い衝撃波。2人はその衝撃波が“ヴォルフラム”のシールドを突破したのを見ているため、防御ではなく回避を選択する。
「(仕方ない。どこまでいけるか判らないけど・・・)いくよ、フェイトちゃん」
「うん、なのは。(やれるところまでやってみせる)」
≪Photon Smasher≫
先手はなのは。“レイジングハート“から放たれる桜色の高速砲。構えから発射までの速さに、トパーシオは防御か回避、どちらにするか迷いたじろぐ。そんな彼女を護るのがメノリアだった。背後から抱きつくように前屈みになり、綺麗な瑞々しい桃色の唇を開いた。
――我の愛すべき主に触れるな――
声にならない言霊を告げる。なのはの放った砲撃が見えない壁に防がれる。
≪Sonic Move≫
フェイトが一瞬でトパーシオの真下に移動し、ライオットブレイド形態の“バルディッシュ”を横一線に薙ぐ。トパーシオより先にメノリアがそれに気付き、黄金の刃を止めるために右腕を伸ばす。
「メノリア!?」
「素手で受け止めた!?」
“バルディッシュ”を右手でしっかりと受け止めているメノリアの手からバチバチッと激しい火花が散る。しかしそれでも涼しい表情をヴェールの奥で浮かべ続ける。フェイトは素手で止められたことに驚愕するが退こうとはしない。親友の攻撃が来るまでは。
だが少しずつライオットブレイドの刀身にヒビが入る。フェイトも必死に耐えるが、メノリアの力は異様に強く、次第に押され始める。
トパーシオがフェイトへと右手を翳す。彼女自身の有する攻撃の前兆だ。フェイトの目が見開かれる。この至近距離での直撃は、即撃墜に繋がると感じ取っているからだ。
「『フェイトちゃん!!』エクセリオン・・・バスタァァァーーーーッ!!」
待ち望んだなのはからの合図。フェイトは安堵を顔には出さずに“バルディッシュ”のライオットブレイドを消し、メノリアからすぐさま離れる。掴んでいた魔力剣ライオットブレイドを突然失ったメノリアは体勢を崩してしまうもすぐさま体を起こし、トパーシオへと迫る砲撃に対応する。
「メノリア! 防御!!」
――我の愛すべき主に触れるな――
ギリギリで防御に間に合う。起こる爆風でメノリアのヴェールが吹き飛ぶ。トパーシオもまた爆風で体勢を崩し、脱げそうになるフードを押さえる。
≪Restrict Lock≫
≪Ring Bind≫
「っく!」
それを最大の隙として、なのはは自身の誇る最高の強度を持つ拘束魔法、レストリクトロックをトパーシオに掛ける。そしてフェイトはメノリアへとリングバインドを仕掛けたが、どういうわけか拘束できない。疑問の表情を浮かべるなのはとフェイトだが、すぐさま緊張の面持ちへと変化する。
「この程度で・・・! メノリア!!」
トパーシオが叫ぶと、メノリアが拘束魔法へと手を伸ばし引き千切ろうとする。何の抵抗もせずに引き千切られていく拘束魔法を見て、なのはとフェイトは拘束不可能と判断して、仕方なく撃墜を決意する。
――ストライク・スターズ――
なのはの特大砲撃が放たれる。砲撃に追随していく複数の誘導弾による多弾攻撃。トパーシオのフードに隠れた目が見開かれ、「メノリア!」と再び叫ぶ。
――我の愛すべき主に触れるな――
メノリアが再び攻撃を無効化する力を使う。
――トライデントスマッシャー――
なのはとは反対となる位置から、フェイトが間を開けずに砲撃を放つ。メノリアの展開した不可視の2つの壁に、桜色の砲撃と黄金の雷光が衝突する。そして、がら空きとなっているトパーシオへと複数の誘導弾が迫り・・・
「っ!!」
全弾直撃した。それと同時にメノリアの不可視障壁も消え、砲撃の行く手を塞いでいたものが無くなったことで、砲撃が一直線にトパーシオへ吸い込まれ・・・着弾した。巻き起こる大爆発。濛々と上がる爆煙に覆われるトパーシオとメノリア。
なのはとフェイトは爆煙の下方に注意する。アレだけの砲撃の直撃を受けたトパーシオとメノリアが気を失っていると思っているからだ。気絶していれば飛行できずに落下するしか無い。それを助けるために、2人は注意する。だが強烈な魔力の波を感じるなのはとフェイト。
――衝雹爆雨――
「「っ!!?」」
≪Flash move≫ ≪Sonic Move≫
なのはとフェイトはそれぞれ高速移動魔法を発動し、頭上から降り注ぐ大粒の雹を回避していく。直撃を受けて気絶している、と思ったのは間違いだったと2人は思う。
晴れていく煙の向こう。そこには、白コートは無く、素顔を晒している1人の少女が居た。明らかに先天的な色ではない虹色に輝くストレートのセミロング、何故か涙を流す両の瞳もまた虹色に輝いている。
その虹色の髪と瞳は、彼女の最大戦力たる“悲哀の天使メノリア武装”の影響だ。
纏う服装はメノリアの物と全く同じ、戦場においては場違いな純白のウェディングドレス。そして彼女の背からは、メノリアとは違うアイスグリーンに輝く高さ4m・幅が15mはある幾何学模様の翼が広げられていた。
「「ユニゾン!?」」
なのはとフェイトが驚愕する。しかしそれはユニゾンではない。カルド隊の“業火の眷属ゼルファーダ武装”と同じものだ。“テスタメント”の一部の幹部たちが使役する最大戦力。それが“武装形態”。
「事前情報以上の戦力・・・。甘く見過ぎてた」
トパーシオの涙を流す虹色の双眸が、なのはとフェイトに向けられる。正直、2人は今のトパーシオを相手に真正面から戦って勝てるとは思えなかった。ヒシヒシと感じる魔力と敵意と威圧感。ウェディングドレスを纏った可愛らしく背伸びしたような少女だが、それは所詮外見だけ。
「メノリア、術式バックアップ」
トパーシオの足元に、半径10mはある巨大な魔法陣が展開される。そのデザインは、昨日ルシリオンが散弾砲を使用したときに現れたものと同じだ。正四角形の中に雪結晶、4方の角から伸びるひし形の模様、それを囲む2重の六角形のライン。
――咲きし福音――
六角形のラインに沿って、縦長の巨大な氷壁が6方に展開される。魔法陣の中央に居るトパーシオが右腕を大きく横に振るった。それと同時に6方に展開された氷壁が炸裂したかのように6方へと広がっていく。
まず平行に一層が放たれ、斜め上方の二層、斜め下方の三層、ループして平行の四層、斜め上方の五層、斜め下方の六層、最後に平行の七層と、周囲に次々と氷壁が放たれていく。
「「っぐ・・・!!」」
――アクセルフィン――
――ソニックムーブ――
なのはとフェイトは高速移動魔法で迫る巨大な氷壁を回避する。ゴォォォォォ!!と轟音を立てながら高速で脇を通り過ぎていく氷壁に2人は恐怖した。直撃していれば間違いなく押し潰され、圧死していたかもしれない。
――氷柱弾雨――
3人の頭上に巨大な六角形の氷柱が幾つも現れる。
≪Sonic Move≫ ≪Accel Fin≫
2人が回避行動を取った瞬間、氷柱は高速で落下してきた。ブォン!と空気を圧していく轟音を立てながら地上へと落下し、突き刺さっていく。
≪Accel Shooter≫
≪Plasma Barret≫
“レイジングハート”と“バルディッシュ”は何十発という魔力弾を次々と放っていく。迫る魔力弾を見てもトパーシオは慌てることなく、何かを払い除けるように右腕を振るった。
――雪風の鉄壁――
巻き起こるのは、トパーシオを覆い隠す球体状の吹雪。彼女へと迫ってきていた桜色と金色の魔力弾を飲み込んでいく。なのはとフェイトは魔力弾がどうなったのかを確認する前に次の行動へと移る。
「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」
2人は愛機のカートリッジを数発ロードし、一撃必倒のコンビネーションに賭ける。なのはが第一波の砲撃を担当し、その初撃によって撃墜できれば儲けもの。撃墜できなくともトパーシオの行動を制限させれば成功となる。そしてフェイトが、防御もしくは回避行動を取ったトパーシオの動きを瞬時に判断し、ライオットブレイドの一撃を直接たたき込むという戦法となる。
砲撃を撃つタイミングは、吹雪の防御壁に囲まれたトパーシオの姿が一瞬でも視認できて、吹雪が完全にとは言わずとも治まったとき。次第に吹雪が治まっていくのを確認した2人は、目を凝らしトパーシオの姿を探す。
「(いた!)エクセリオン・・・バス――っ!?」
――悪魔の角――
「っ!? な、なのはッ!!」
なのはが砲撃を撃とうとした瞬間、彼女と“レイジングハート”を襲った一撃。“レイジングハート”のコアは無傷だが、杖の中央付近を大きく粉砕されて、空に破片が舞い散る。激痛に歪んだ表情のなのはの両肩には、細く螺旋を描いた氷の杭が突き刺さっていた。
バリアジャケットの袖が鮮血の赤に染まっていく。フェイトは叫び、痛みに耐えるなのはの元へと急ぎ、その身体を支える。フェイトはなのはの現状を信じられず、トパーシオのことをつい意識外へと追いやってしまった。
「エースオブエース。管理局に入ってからの任務中に於いて撃墜された回数は僅か1回。無敵のエース、無敗のエース、不死身のエース。すごいですね、わたしとは大違い。ですが、不死身のエースというのは、戦場に長く居過ぎた人の過信に過ぎません。あなたのことを言っているのですよ、エースオブエース」
治まった吹雪の中から姿を現すトパーシオはなのはのことを称賛し、また否定する。対するなのはは、フェイトに支えられながら“レイジングハート”のリカバリーを行っている。なのははフェイトに「ごめん」と苦しげに告げ、フェイトは謝らないでという意味を込め、首を横に振った。
「これ以上の妨害となれば、撃墜された回数が今日で2回目になりますよ、高町なのは一尉」
――悪魔の角――
それはトパーシオがなのはを撃墜するという宣告だ。それと同時に、なのはの両肩を貫く螺旋状の氷の杭と同じモノが7発、なのはとフェイトの視界に入らない位置に展開された。
(どうする・・・? なのはを庇いながらだとあの子の攻撃に対処しきれない・・・!)
フェイトは必死に思考を巡らす。トパーシオからの攻撃は見えなかった。そして現状戦えるのはフェイト唯ひとり。なのはは両肩を負傷しまともに戦えない。圧倒的な魔力。見えない程に速い攻撃。神秘を有するかもしれない敵。速さでどうにか出来る相手なのか、とフェイトは少し弱気になってしまう。
「私は大丈夫だから。だからフェイトちゃん、もう少し頑張ろう」
「なのは!? ダメだよ! かなりの深手なんだよ!」
今もなおなのはの両肩に刺さる氷の杭を見て、フェイトはなのはの無茶を止めようとする。なのははまた「大丈夫」と言うが、失血の所為か両腕が震えている。
それ以前に刺さっているのが“氷”の杭というのにも原因がある。体内が直接冷やされ、筋肉や血管などの細胞にダメージを負わせていく状態。フェイトは、これ以上なのはを治療せずに放っておくのは危険だと判断した。
「トパーシオ。私たちの負けで良い。だから、だからなのはを治療に行かせて」
「フェイトちゃん!?」
「・・・いいですよ。元より戦うつもりもなかったのですから。早く治癒魔法が使える人の所に連れて行ってあげてください」
トパーシオの作りだした氷の杭が、なのはとフェイトの周囲から消える。そして彼女は、なのはとフェイトに興味無いとでも言うように“4番艦”へと視線を移す。“ヴォルフラム”の主砲を受けながらも、それでも撃沈することなく停泊しているその姿に、彼女は満足そうに頷いた。
・―・―・―・―・―・
「特務六課です。止まりなさい」
シャマルが若干怯えながら、カルド・イスキエルドへと告げる。
「風の癒し手シャマルと蒼き狼ザフィーラ・・・!」
3隊を率いて“4番艦”へと帰艦する最中、復讐者とその復讐対象が出遭った。イスキエルドは手にしている大剣を構えたが、「くそっ!」と悪態をついて大剣を下ろした。
「お前たちは先に行け。もうそこまでスキーズブラズニルが来ているはずだ」
シャマルとザフィーラの前に立ち塞がり、3隊を先に帰艦するように促す。グラナード隊の2が指揮を受け継ぎ、3隊はイスキエルドを置いて先へと向かった。
「・・・それで? 俺の前に出て来るなんて正気か? これでも俺は、お前たち2人を相手にしても勝てるだけの力を持っていると自負している」
イスキエルドの言葉は事実だった。補助と防御に長けるが、その反面攻撃面が弱いシャマルとザフィーラではイスキエルドに決定打すら与えることは出来ない。
「あなたは、私たちが殺めた方の遺族なんですか?」
「それを聞いてどうする? まさか謝りに行くのか?」
フルフェイスの兜の中から聞こえる苛立ちの含まれた声に、シャマルは足が竦みそうになったが負けじと話しを続けようとする。
「あの、私たちは――」
「やめろ。そんなことで許されると思うのか。お前たちが許される時は、俺たちカルド隊によって裁かれたときだけだ」
「シャマル!」
「待ってザフィーラ! ・・・いいの」
イスキエルドは大剣をシャマルへと突きつける。自分の胸に触れる大剣の堅く鋭く、そして何より冷たい感触に、シャマルは今までにない死の恐怖を感じた。いや、違う。死などではない。感じている恐怖は、自身の死ではなく愛しき家族との永遠の別れだ。
「お前たちが手に掛けた者たちの顔と名を憶えているか?」
「「・・・」」
2人は答えられない。
「そうだよな。所詮は闇の書のページを埋めるためだけの贄としか見ていないのだから」
「違う! 違います! 私たちは! 私たちは・・・!」
シャマルが嗚咽も漏らしながらも必死に否定する。イスキエルドは空いている左手で、フルフェイスの兜を脱ぐ。現れた顔はまだ青年と言えるほどに若かった。赤色がかった茶色の短髪に黒色の瞳をした青年。兜から手を離し、地面へと落ちた瞬間に兜は闇色の炎となって消滅した。
「・・・ジータ・アルテッツァ、ガウェイン・クルーガー、ジョシュア・エルグランド」
「え?」
いきなり名前が並べられ、シャマルの心は疑問に満ちた。イスキエルドは、シャマルに突きつけていた大剣をそっと離す。そのまま踵を返し、シャマルとザフィーラに背を向ける。
「あの!」
「来るな! これ以上は耐えられない・・・!」
追い駆けてこようとしたシャマルへと怒鳴るイスキエルド。シャマルはビクッとし、足を止める。ザフィーラはシャマルを護るように2人の間に割って入った。
「次に会ったとき、我々カルド隊は、必ずお前たちヴォルケンリッターに復讐の鉄槌を下す。だがもし、このまま俺を追ってくるというのであれば、今殺される覚悟で来い」
イスキエルドの身体が薄れて消えた。シャマルはその場にペタリと座り込んで、両手で顔を覆った。決して消えることのない罪。たとえ当時の主の命令とはいえ、その手で刈り取ってきた幾つもの命。それらが今、守護騎士たちを責める罪の杭として追い詰めていく。
「ねぇザフィーラ。私たちは、どうすれば・・・どうすれば死ぬこと以外で、彼らに許して・・・もらえるの・・・?」
「・・・我らの罪は決して消えぬ。この身が終焉を迎えるその時まで、犯した罪と奪った命を背負って生きていくしかないのだ、シャマル。セインテストのように。逃げ出さずに、ずっと命が続く限り・・・」
ザフィーラが座り込んで泣き続けるシャマルへとそっと寄り添った。
『シャマル先生! なのはを・・・なのはを助けてください!』
シャマルとザフィーラの目の前に展開されたモニターには、顔を青くして気を失っているなのはを支えたフェイトが映っていた。
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